ちょっとした暴走
ふぃ、最後の1日はやっぱりここだよな。
俺達が兵士を止めてしばらくの間、家として過ごしてたこの場所。
あまり時間も経ってないからか、埃は全くなかった。
「あまり時間が経ってないとは言え、ここまで綺麗とは」
「まぁ、掃除してましたからね」
「誰がだよ」
「ノエさんです、あの子、かなり気が利きますし」
「…そう言えば、ここの掃除は殆どあいつがしてたっけ」
「えぇ、ノエさんはお掃除スキルが高いですからね」
「ふーん、お前は料理、ノエは掃除、シルバーは万能
マナとメルは教育、結構な面子だな」
「まぁ、一応私達って国の元で重点的に鍛えられてた兵士ですし
分類的にはエリートって感じ…いや、ちょっと違いますね。
エリートと言うよりは抜擢された選ばれた兵士達と言いますか」
「とりあえず特別扱いなんだな」
「まぁ、将来有望な魔法使いたちの護衛を任せられるほどですし
信頼は結構あるんじゃないかなーと」
「今は完全にトラさん達の指揮下ですがね」
「ふーん、とりあえず特別に成績がよかった連中が選ばれたんだな
俺は初対面の時は変人集団だと思ってたがな」
「それはどう言う!」
「7割はアルルのせいだ」
「いやまぁ、私は確かにこのメンバーではずば抜けて変人ですからね」
「だから認めんなよ!」
「変人は褒め言葉なのですよ! 一般人に見えた、よりはマシでしょう!」
「駄目だろうが!」
やっぱりこいつは今でも変人だな…もう慣れたけど。
「アルル先輩達は特待組の中でも歴代最強の秀才揃いです」
「……そうは見えないが」
「私だけを見て言うんですね」
「特にアルル先輩とシルバー先輩の成績は史上初と言っても良い程の成績です」
「シルバーは言い意味で、アルルは悪い意味でだな」
「何だか私に対して辛辣すぎますね、いやまぁ、慣れてますけどね?」
「いえ、お2人とも上位陣です。
アルル先輩の医学に関する成績は全て満点だったのです」
「……マジで?」
「マジです。こう見えても私天才なんですよ! 褒めてください!」
「絶対やだね」
「シルバー先輩は全体を通しても好成績、オールラウンダーという奴でした」
「1つの事に秀でている方が良いと私は思いますわ」
「マナ先輩は格闘術の天才で、史上最年少で先生を倒したお方です」
「う、運がよかっただけです」
「メル先輩は剣術、槍術、武具に関する格闘術は素晴らしく高く
全ての武術で首席でした」
「格闘技術に関してはマナに劣るけどね」
「…こう聞いてみると、お前らってやっぱ凄いんだな」
普段はあまりそんな風には思わないが、こう言う話を聞くと
やっぱりこいつらってかなりの手練れなんだなって思う。
「アルル先輩は新薬まで作っちゃいますし、かなりの天才ですよ」
「あくどい事に利用するつもりだな!」
「しません! するつもりならもうしてます!」
「誰を毒殺する気だ!」
「いえ、リオさんを悩殺します!」
「麻薬か!?」
「媚薬です!」
「ふっざけんな!」
「まぁ、麻薬も作ってますけどね、麻酔薬ですけど。
リオさんはすぐに怪我しますから、こう言うのを用意してないと
大怪我をしたときとか大変でしょう? あ、安心してください。
薬品の適性利用量も完璧に把握しています。
自分で作った薬ですからね、完璧ですよ」
「お前、なんで兵士に何てなったんだよ」
「リオさんに出会うためです!」
「ドヤ顔で答えるな、腹立つ」
何でこんな変態が新薬をしれっと作れる天才なんだ?
世の中ってのはよく分からないな…やれやれ。
「本当、規格外ばかりだなっと」
俺はそんな会話をしながら、部屋の奥へと入り
久々に俺のベッド…いや、ソファーに座った。
「うへぇ、やっぱりソファー良いな」
「リオさんはかなりソファーが好きですね、何でですか?」
「憧れてたんだ、ソファー」
「そうなんですね」
俺が座ったソファーにはすぐにトラ達が座り一杯になった。
しかしながら、冷蔵庫を漁っていたフレイは座れていない。
「むぅ…アイス無かったよ」
「買ってませんからね」
「うぅ…あ! 良いな! 皆座ってる!」
「遅いお前が悪い」
ソファーの背もたれに大きくもたれ掛かり
後ろで大声を出していたフレイを逆さに見る。
ちょっとだけ首が痛いが、そんなの関係ないね。
これはアニメとかでもチラホラやるし、やりたいことの1つだったんだ。
かなり無理をしてやってるから、楽という感じじゃ無いけど。
アニメのキャラは背が高いからな、だからこんな事が出来るんだろう。
俺の身長だとかなりギリギリだ…と言うか、ほぼ出来てない。
「私も座るの!」
「何処に座るんだよ」
「んー…」
走ってソファーの前へ移動してきたフレイだが
俺達をマジマジと見て、すぐには座らなかった。
多分隙間とかを探しているんだろうけど、殆ど無い。
「…む、むぅ」
「無いって、だから向こうで座れ」
「…よし! ここにする!」
「あ! おま!」
フレイのアホはよりにもよって俺の膝に座りやがった!
前が見えねぇよ!
「アホか! これじゃあ、前が見えない! どけ!」
「どかないもんねー!」
「この!」
「リオさん、しれっとフレイさんのお胸を鷲掴みなんですが」
「あ!? 嘘だろ? そんな感覚は微塵も無いぞ」
「…いやまぁ、フレイさんお胸ありませんし…」
「胸ってここだよね? 何か触ったら駄目な事とかあるの?」
「俺の胸を触るな!」
「おぉ! ちょっと柔らかい!」
「揉むな!」
「あはは! でも、先生の方が柔らかい!」
「そりゃぁ、先生は大きいからな」
「あ、ちょっと硬いところがある」
「っつ!」
「あだ!」
あ、焦った…超焦った、へ、変な感覚が、ナイフで刺されたような感覚が!
「いたた…そんなに怒らないでよ!」
「馬鹿な事をしたお前が悪いんだよ!」
「いやぁ、微笑ましいですねぇ、ですが、揉み合いっこの中には
少しくらい大きな人がいた方が良いと思うのです! と言う事で私も混ぜて」
「お前もまな板だろ?」
「ぐふぁぁああ!」
「あ、アルルさん…気をしっかり持って」
「うぅ…シルバーさんには分かりませんよ、この悲しみは…」
「胸なんて邪魔なだけですわよ?」
「く! それは持っているあなただから言えることなのです!
持って居ない物にしてみれば、お胸は宝石のように輝かしい物で!」
「宝石も手に入れてしまえば、案外何処にでもある様な石に見えると思いますわ」
「何故でしょう、シルバーさんが言うと妙な説得力が…
流石貴族…宝石をただの石と堂々と言えるとは。
これが持つ物と持たない物の差…なんて大きな差でしょう」
どうでも良いけど、胸が大きいのがこの中に入ってきたらヤバい。
主に俺がヤバい…悲惨なことになってしまう。
この場にはミロルだっているんだし…それは不味いというか。
「ねぇ、リオ」
「な、何だよ…」
「さっき少し感じたとか?」
「ん? 何の事だ?」
「さっきフレイに触られたときに」
「ナイフで刺されたような感覚があったけど」
「…やっぱり女の子になってるって事ね」
「はぁ!? んな訳ねぇし! 認めねぇし!」
「官能小説とかなら、この流れで試してみましょうかってなるわね」
「良いぞ! 試してやろう!」
「いや待ちなさい! やけになるのは駄目よ!? 冷静になりなさい!」
「うっせ! 余裕だし! 証明してやるし!」
「冷静になりなさい! その流れだと色々とヤバい展開になるわ!」
「ヤバい展開って何だよ!」
「えっと…まぁ、あれよ、とりあえず冷静にね」
ち…まぁ良い…と言うか、少し冷静になったら確かにそれはヤバい気がする。
ミロルが止めてくれて助かった…すぐに感情的になるのどうにかしないと。
「とりあえずリオさん!」
「んだよ」
「私にもリオさんの僅かにあると言うお胸を揉み揉みさせてください!」
「させるか!」
「ごふぁ! いや、はい、すみません…言った後にそれはヤバいと自覚しました」
「衝動的に行動するな!」
「特大ブーメランね」
「ぐふ!」
み、ミロルって、結構容赦ないところあるよな…いやまぁ、その通りなんだけど。
「私も触ってみたい」
「よるなフラン!」
「良いじゃん! 減るもんじゃないでしょ?」
「お前も悪のりするな! 両手を離せ!」
「うふ、うふ、うふふ…揉み揉み…うふふ…リオの胸を揉み揉み…うふふふふ…」
「馬鹿! そんな表情で近寄ってくるなぁ!」
「あ! ゴキブリ!」
「え!? ゴキブリ!? 何処ですか!?」
「おいフラン! お前が大っ嫌いなゴキブリが出たぞ!?」
「関係ない、揉み揉みする」
「おま! 普段ゴキブリが出たって聞いたら逃げ出すのに!」
「こんなチャンス、ゴキブリ如きに邪魔されてたまるか」
「お姉ちゃん! ゴキブリがお姉ちゃんの体を!」
「うへあぁはえうあいぇ!」
何言ってるか分からないが、相当動揺しているのは分かった。
よ、よし、これで何とか俺も無事に助か。
「ぐぁぬぁあああぁあ! ゴキブリなんぞ知らん!」
「え!?」
「このままリオを揉みしごく!」
「待て! 何でそんなに!」
「苦手なんてクソどうでも良い! このチャンスは逃さない!
逃す物か! 揉み揉みするんだ!」
「唇から血が出てる! 必死に堪えすぎて血が出てる!
そんな根性をここで発動するんじゃねぇよ!」
「揉む!」
「うわぁああ!」
「…あ、柔らかい、うへへうへへ」
「触るなぁああ!」
「お姉ちゃん! ゴキブリがぁ!」
フランの腕にゴキブリが這っているのが見えた。
「……」
「ありゃ? 終り? じゃあ離そう」
フランはそのゴキブリを直視した瞬間、意識を失う。
それで終わったと判断したのか、フレイは俺の両腕を離した。
と言うか、気絶する程って…ど、どんだけ嫌いだったんだ…
まぁ、とりあえずだ、ゴキブリのお陰で俺の貞操の危機は去った。
「ちょっとリオ! ゴキブリが飛んだ! あんたの方に飛んだわ!」
「あぁ?」
俺は飛んできたゴキブリを左手でキャッチする。
「なぁあああああぁあ!」
ゴキブリに怯えて周りに逃げていた全員は顔を真っ青にして叫ぶ。
え? そんなに驚くことなのか?
「とりあえず捕まえたが…」
「どうするの? 結構小さい様に見えたけど」
「ちょっとフレイ! あんたも何で余裕そうなの!?
今のリオの手の中にはゴキブリが! てか! 何で素手で掴んでんの!?」
「ふ、フレイとリオは…ゴキブリ平気というか…対ゴキブリ兵器というか」
「動揺して変な事言ってるわよ!? 大丈夫トラ! あんたそう言うキャラじゃ!」
「トラもウィングもゴキブリ嫌いだからな、何処が嫌いなんだか」
「なんであんたは平気なのよ!? おかしくない!? ねぇ、おかしくない!?」
「リオさん! あなたって前毛虫で怯えてましたよね!?
毛虫を掴むって女の子としてどうかとか私に言ってましたよね!?
何でしれっとゴキブリ鷲掴み!? 何の躊躇いも無く!?」
「…ゴキブリ噛んでこねぇし、刺してもこねぇじゃん」
「いや! ゴキブリですよ!? 女の子なら大っ嫌いな虫ですよ!?」
「私もゴキブリは好きじゃ無いなぁ、逃げ足速いから捕まえにくいし」
「捕まえること前提ってどういうことなんですか!?
虫が嫌いじゃ無いんですか!? フレイさん!」
「あ、蜘蛛は苦手だよ。前退治したらお腹からぶわっと子供が…
お、思い出しただけでゾッとする…でも、ゴキブリはそんな事無いから
全然平気!」
「こいつは素手でゴキブリを潰すぞ?」
「ふぁ!?」
「握り潰す」
「握り潰さないよ! ちゃんと逃がすもん! たまに勢い余って
潰しちゃうことはあるけど、わざとじゃ無いもん!」
「正直、素手で掴むよりもエグいよな。
ゴキブリを潰しちまったときも気持ち悪がらずに手を洗うだけだし」
「気持ち悪いって気持ちよりも、ごめんなさいって気持ちの方が…」
「いやいや! 何なんですかこの2人!? ゴキブリが平気っておかしいですよ!」
「いや、ゴキブリが苦手な方がおかしい」
「真顔で言わないで!」
とりあえず周りが騒がしいから、掴んだゴキブリを外に逃がした。
全く、ゴキブリ1匹で騒ぎすぎなんだよ。
俺なんて後ちょっとでゴキブリとかそう言うレベルじゃ無い
大変な事になってたんだからな。




