本屋さんにて
…ふーむ、子育て講座…どう教育すれば良いとかを見たいけど
この本で大丈夫なんだろうか。
でも、こっちの子供を育てるための心得、ってのも…
しかしなぁ、初めて本なんて物を買おうとしたな。
今までラノベとかも読もうとすらしなかったのに。
漫画とかは読んでたけど…主にアニメだったんだよな。
そんな俺が最初に本気で探し始めた本が子育ての本って…
と言うか、子供である俺が子育ての本ってどうなんだろう。
周りからはどう見えるんだ? お使いに頼まれたように見えるのか?
…何か微妙に周りの視線が気になってしまう。
いや、いやいや、関係ないね! 何でも良いから探す!
「…んー」
少しだけページを開き、中身を見てみた。
親の心得その5、子供にあまり干渉しすぎない。
子供には子供の世界があります。
そこに親が干渉しすぎてしまうと
子供にプライベートの時間が無くなってしまいます。
大人にはプライベートの時間が必要なように、子供にもプライベートな時間は必須です。
あまりにも干渉しすぎてしまうと、子供の自立にも悪影響を生んでしまいます。
自分で考えて行動することが無くなってしまう可能でいがあるので注意しましょう。
「…プライベートな時間ね」
案外、俺にはそんな時間が無い気がするんだよなぁ。
主にアルルが隣に居るし、アルルがいない時が稀にあっても
フレイとかが振り回してくるし…まぁ、嫌いじゃ無いから良いんだけどな。
「しかしなぁ…これだけの文字を読むのはしんどいぞ…」
少しだけページを開けて、ずらっと並んだ文字列を見て
少しだけ頭が痛くなった…これを読むのはしんどい。
あまり長文ってのは苦手なんだよな。
漢字とか滅茶苦茶あるし。
しかも、国によって漢字とかも違うからな。
2つの国をまたいでいると困惑しちまう所もある。
でも、案外理解できるんだよな。
この体の脳みそって、死ぬ前の脳みそよりも出来が良いとか。
……あり得るかも知れないけど、あまり嬉しくないな、それ。
子供の脳みそに負ける男子高校生の脳みそとか…うへぇ。
ま、まぁ、どっちも俺なんだけど…でも、幼女である自分が
自分だと言う事を認めるのは…何だか抵抗があるけども。
「…はぅ」
とりあえず、この本を買ってみよう。
そう言えば、お金持ってたっけ。
あーっと…えーっと…ん、んーっと。
財布とか持ってたっけか…こう言う勘定って大体アルルに任せてたし。
ヤバい、このままじゃこの本買えねぇ!
「お困りのようですね」
「アルル!? お前何処から!」
「大変困っているリオさんに気付き瞬間移動で来ました!」
「…お前が言うと、何かあり得そうとか思うから止めろ」
「あはは、当然冗談ですけどね。
リオさんを探して街に出たら、本屋さんで本を読んでるリオさんを見付けて
ゆっくりと後ろに忍び寄ってました」
「い、いつからそこに」
「リオさんが本を探してるときに」
「最初から!?」
「最初からです! しかし、子育ての本なんてリオさんにはかなり早いですね。
あ、もしかして、私との将来の子供のために!」
「んな訳あるか!」
「まぁ分かってますけどね、ウィンさんの為でしょう?」
「……分かるか?」
「私を誰だと思ってるんですか? リオさんの4年間の相棒ですよ?
リオさんが考えてることは大体理解できます」
「俺は理解できないけどな、お前の考え」
多少は読めるが、理解はしたくないという方が正しい気がするけどな。
変態の思考を理解できるのは変態だけだろう。
俺は変態じゃねぇし…えっと、最初は自分の体が気になってたけど。
だって、女の子の体だぞ? そりゃぁ童貞高校生なら誰でも気になる!
けど、今は気にならない…正確には気にしてない振りをしてるだけだけど。
「あはは、いやぁ手厳しい。
まぁ、この話はここまでとして、その本を買うなら私がお会計しますよ?」
「あぁ、頼む…財布とか持ってないの忘れてた」
「いつも会計は私がしてますからね。
ですから、お買い物する時は呼んでくださいよ? お買い物デートです!」
「いや、今度から財布持ってくるから」
「何でですか!? 小さなお子さんの独り歩きは危険ですよ!?」
「お前と一緒にいる方がよっぽど危険だ」
「酷いですねぇ…」
「事実だ…ほら、さっさと買ってくれよ」
「あ、待ってください、実は私も買いたい本があるのです」
「そうなのか?」
「えぇ、リオさんを付けていてたら思いだしたというか」
「俺を探してたんじゃ無くて、俺を付けてたのかよ…」
「あ…まぁ、今更ですね、そうですストーキングしてました」
「ふっざけんな!」
「いやだってほら、リオさんすぐに危険な目に遭いますし
私が側にいないと、何が起るかも分かりませんし…」
「ち…で、何の本を買うんだよ」
「えぇ! 私が大好きな推理小説の続編が出まして」
「お前、推理小説とか読むのかよ」
何かスゲー意外だな、こいつが本を読んでるところをあまり見ないのに。
「えぇ、読みますよ? 他にもハーレム小説も読みますし
アクションもホラーも読みます。
恋愛小説だって読みますよ?」
「お前のくせに読み物をそんなに読んでたのか…読んでるところ見ないけど?」
「リオさんと一緒にいないときとかは読んでます
後はリオさんが寝た後とかですね。
まぁ、リオさんと一緒にいるときはリオさんばかり見てますけど」
「変態が!」
「はい! 私は変態です!」
「認めるな!」
何か最近、こいつが暴走気味な気がする。
「まぁ、こっちですね」
「はぁ…はいはい」
俺はアルルの後を付いていき、その推理小説とやらがある場所に移動した。
だが、周りを見渡してもイマイチピンと来る物も無く、何だか退屈だ。
「…へ?」
周りを見渡していると、1冊その場に場違いな本が置いてあった。
その表紙には半分はだけてる女の人…え? エロ本? エロ本だと!?
馬鹿な! ここは小説が置いてある場所! 何故エロ本が!
もしや、誰かがエロ本を持ってここで物を探した時に置いたとかか!?
「リオさん、どうしました?」
「ひゃ! な、何でもにゃい!」
「…あ、もしかしてこの本」
「ち、違う! 違うぞ!」
「はぁ…しかし、なんでこんな所にこんな本が」
「しれっと手にとって中を見るな!」
「異質な物があるとちょっと読んでみたくなる衝動に駆られるたちで」
「堪えろよ!」
「んー、メガネの女の子が襲われる内容でした」
「中身を言うんじゃ無い! 子供に悪影響だろうが!」
「アクション物でしたよ?」
「…え?」
「メガネの女の子が魔物と戦う本でした。
表紙は…戦ったときに傷付いた時って感じですかね。
アクション物も読みますけど、そこまで過激じゃありませんし
これはスルーですかね…そこそこ面白いとは思いますけど
登場キャラに小さな女の子がいないのが致命的です!」
「知らねぇよ! お前の感想なんざ!」
「でも、正直私は現実で可愛い小さな女の子に囲まれてますし
わざわざ小説で幼女ハーレムを読む必要は無いというのが」
「お前にハーレムなんざあるか!」
「ごめふぁ! ふ、メインヒロインはリオさんです…」
「黙れボケ!」
「ツンデレ!」
はぁ、もう面倒くさい…と言うかここは本屋だぞ?
何で本屋なのにこいつは平常運転なんだよ。
騒いだら店員さんに怒られるのに…さっきからスゲー見られてるし。
これ以上やったら絶対に怒られる…。
「ほら、さっさと会計済ませて出るぞ」
「ふぁい…しかしリオさん」
「何だよ」
「リオさんが自分から私の手を握ってくれるなんて、やっぱりツンデレですか!」
「良いから! 黙って歩け!」
「あ、殴らないんですね」
「これ以上暴れたら店員さんに怒られるだろうが」
「そ、そうですね…あはは」
その後、無事に会計を済ませ、店から逃げるように飛び出した。
はぁ…何で店から逃げ出さないといけないんだよ。
「いやぁ、何とか買い物出来ましたね」
「お前のせいだろうが」
「あはは…でも、リオさん」
「何だよ」
「ひょっとして、いやらしいことに興味があったりします?」
「な! 何言ってるんだよ!? 何の!」
「いや、だってあの表紙で勘違いするくらいですし」
「お、俺がそんな変態な訳無いだろ!? 俺は健全だ!」
「…まぁ、そうですね。そもそも女の子に対して欲情はしませんか」
「そ、そうそう…」
…女の子以外に欲情ってする物なのか? 男に欲情するとかあるのか?
いや無いだろ、なんで男に欲情せにゃならない。
それなら、女の子に欲情する方が何千倍も健全だと思うが。
…いやまぁ、外面的には女だし、同性相手に欲情するのはおかしいのか?
でも、内面的には男だから、女の子に欲情するのは健全では?
く! 変な事を考えるとドンドン迷宮に迷い込んでしまう!
落ち着け俺…冷静になれ、深く考えすぎるな。
「まぁ、私は女の子に対して欲情しますけど!」
「断言するな!」
「ふふ…それで、次は何処に行きます?」
「城に帰るんだよ、明後日から向こうだぞ?」
「だからですよ、今のうちに色々と思い出を」
「俺はさっさと帰ってあの本を解読しないと」
俺がそこまで言うと…恥ずかしながら腹の虫が鳴いてしまった。
……いや、確かにもう12時だ、普段なら昼食の時間だけど。
「ご飯食べに行きましょうか!」
「ホクホク顔で言うな! …まぁ、飯は食った方が良いけど」
「では決まりですね! お洒落な場所に行きましょう!」
「近場の牛丼屋さんで良いだろ」
「女の子2人で牛丼は無いでしょ!?」
「納豆美味しいぞ?」
「牛丼食べないんですか!?」
「…牛肉なんて好きじゃねぇし」
「じゃあ何で牛丼屋さん!?」
「納豆あるし」
「牛丼食べましょうよ!」
「あぁ!? 美味しい物を食べるのが普通だろ!」
「牛丼も美味しいですよ?」
「いや、牛肉は好きじゃ無い、俺は鶏の方が好きだ」
「強情ですね…ではリオさん」
「何だよ」
「カボチャと牛肉、どっちが嫌いですか?」
「カボチャ」
「では、牛肉くらいなら問題無いでしょ?」
「…まぁ、カボチャと比べれば何千倍もマシだが…
だが食わないぞ? 美味しい物を食べたいと感じるのは当然だ」
「…ですが、やっぱり女の子2人で牛丼は無いと思います」
「じゃあ何処に行くんだよ」
「…うどん屋さんとか」
「近場にあるのか?」
「えぇ、付いてきてください。穴場があります」
「…分かったよ」
俺はアルルに付いていき、アルルが穴場だといううどん屋さんに着いた。
そこではうどんしか取り扱っていない変わったうどん屋さんだ。
うどん屋さんって結構セットメニューが豊富なイメージがあるが
ここではそんな物は無く、全てうどんのみだ。
「いらっしゃいませ、お、アルルじゃん!」
「久し振り」
「…知り合い?」
「えぇ、私の古い友達です」
「え? 何この子…え? 子供!? あなた結婚したの!?」
「そんな訳無いよ、この人は私の上司で私の将来のお嫁さん! いや、お婿さん!」
「違うっての!」
「…あんたが子供好きなのは知ってたけど、まさかそこまでとは
でも、他人の愛にチャチャを入れるのは間違ってるわね。
アルル、幸せになりなさいね」
「あなたも乗らないでくださいよ!」
「リリスちゃんは結構天然ですから、素で言ってると思います」
「リリス? あぁ、この人の名前か」
「はい、私はリリス・サンよ」
「え? リリスさん?」
「リリス・サンよ」
「…リリスさん」
「フルネームで呼ばなくても」
「え?」
なんて面倒な名字だ! サンって! 敬称で呼んだらフルネームになるじゃん!
「フルネームで呼ばず、リリスと言ってくれても構わないよ
アルルの将来のお婿さんなら何の問題も無い」
「え? いや、そんな事は流石に…大人相手ですし」
「出来の良い子供だね」
「そうでしょ? でも、格好いいときは格好いいんだよ」
「へぇ、想像できないけどアルルが言うならそうなんだろうね」
「アルルの言う事、信用しすぎじゃ無いですか?」
「え? 親友を疑う必要あるの?」
駄目だこの人、詐欺とかに引っ掛かるタイプだ。
「と言うか、親友なんですね、リリスさんとアルルって」
「もぅ、またフルネームで呼んで、リリスで良いよ」
「…は、はい」
「えっと、確かに私とアルルは親友だよ、幼稚園の時からの」
「幼馴染みなんですね」
「うん! 因みにうどん屋さんを始めた理由は
アルルにうどんを振る舞ってみたら美味しいと言われたからさ
私としてはアルルと一緒にうどん屋さんをしたかったんだよ。
アルルの料理は天下一品! 料理屋さんを開けば絶対に繁盛するのに」
確かにアルルの料理は異常なくらいに美味しいからな。
下手に外食するよりもアルルが作った飯を食べた方が美味しいくらいだ。
「私は誰かの為に料理を振る舞いたいから。
不特定多数じゃ無く、大事な人達に」
「アルルが羨ましいよ、そう言う人がいて、私にはもういないから」
「もうって事は前まではいたんですか?」
「あぁ、アルルに料理を作るのが好きだったんだ。
美味しそうに食べてくれてる姿を見るのが大好きで」
「あはは、そう思って貰えてたんだ! 嬉しいよ」
「さて、じゃあ今日は久々にアルルが来たし! 腕によりをかけて作るよ!
で、何が良い?」
「私は月見うどんで」
「じゃあ、俺はざるうどんを」
「了解! 待ってて! すぐに作るから!」
少し時間が空き、リリスさんは俺達へ料理を出してくれた。
「はい! 出来上がり!」
「久々にリリスちゃんのうどんを食べられる!」
「最高の出来だよ!」
「じゃあ、いただきます!」
うどんを汁につけ、口に運ぶ…このうどん腰が凄いな!
汁の味も丁度良い…濃すぎず、薄すぎずの適切な味わい。
ざるの汁は結構うどんの味を隠すことがあるが
この汁はうどんの味を隠すどころか引き立てている!
シンプル故に美味い物を作ることが難しいざるうどん!
そのざるうどんをここまで極上なものに仕上げるとは!
「んー! やっぱりリリスちゃんのうどんは美味しいよ!」
「ありがとね」
「はい! 凄く美味しいです!」
「さいっこうの出来だからね! 美味しかったのならよかったよ!」
うどんはすぐに無くなった、それ程に美味しかった。
こんなに美味いうどんを食えて、俺は満足だ。




