表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
204/294

道を外れた母親

トラの母親、ケイさんとグラードの2人を見て

俺はどうしても会いたくなった奴が出来てしまった。

本来なら、完全に無視してさっさと消えちまおうと思っていたけどな。

何だかんだで、俺も何処か…羨ましがってたのかも知れない。


「…よぅ、クソ女」

「クソガキ」


俺が向ったのは、あのクソ女が捕まってる牢屋だった。

あんな事をしたんだ、捕まって当然だろう。

しかし、いい気味だな、無様な物だよ。


「あなたが私に会いに来るなんてまた珍しいわね」

「お前のクソッタレた面を見てやろうと思ってな」


こんなクソ女でも、母親になることが出来るなんてな。

同じ母親でも、トラの母親は自分を犠牲にしてでもトラに尽くした。

ケイさんとグラードさんはきっと何処までも我が子のために努力するだろう。

それなのに、こいつは子供を金を稼ぐ道具として産んだ。

価値が無いと分かれば捨てた…同じ母親でも、ここまで違うなんてな。


「母親が愛しくなったの? 良いわよ、形だけの愛情ならいくらでもくれてやるわ」

「んなもん、いらねぇよ」

「あらそう、じゃああなたはずっと母親の愛を感じる事も無く腐っていけば良いわ」

「お前の腐りきった愛情を浴びてる方がより腐るさ」

「…で、ウィンはどうしたの?」

「テメェと会わせるつもりはない」

「お母さんを独り占めしようとは、随分と酷いお姉ちゃんね」

「テメェなんぞ独り占めしようとは思わねぇし、求めても無い。

 あいつの為だ…ちっとは懲りたかと思って見に来たが

 ぶれちゃいねぇな、相変わらずの屑である意味安心したよ」

「本当は母親を求めたんじゃ無いの? 色々な家族を見て

 少しだけ自分の両親が恋しいと感じたんでしょ。

 だからわざわざここに来た、そうでしょ?」

「違うね」

「少し動揺したわね、図星かしら」


こいつ……


「私はこれでもあなたの母親、それなりに勘は働くのよ。

 ウィンを連れてこなかった理由は…そうね、あの子が私の姿を見て

 トラウマを呼び起こさせないため…って、所かしら。

 そして、私が改心してる様子があれば会わせて見ようかってね」

「知った風な口を」

「私はあなたの母親よ? ふふ、少しくらい予想は出来るわ」


…やっぱり、何だかんだで俺の母親なのかもな。

何だか俺と似て、結構な勘が効く。

まさかここまで的確に言われるとは思わなかった。

俺の心を読んだのかと言いたくなるくらいに正確な言葉だ。


「しかし、可哀想な物よね、姉の勝手な行動で

 妹は母親に会えないなんて、本当に鬼畜よね」

「その程度の挑発で俺があいつを連れてくると思うか?」

「まさか、思わないわ…でも、違和感くらいあるでしょう?

 何で私が裏切った筈の娘とこうやって話をしているのか。

 何で裏切られた筈の娘に会いたがってるのか…」

「……」

「実際反省してるわ、牢屋にぶち込まれて1年も考えてね。

 娘を失って1年…ようやく娘の大切さに気付いたわ。

 今なら、あなたの事も少しくらいは愛してあげられるかもね」

「…お前」

「ごめんなさいね、心の底から反省してるわ」

「……へ、クソ女、そんなちんけな演技で俺をだませると思うか?」


あいつの表情を見ていて、何となく理解できた。

確かに泣いている風には見せているが、何処か裏がある表情。

そもそも、あんな屑がたった1年豚箱にぶち込まれた程度で

改心するわけが無い。

娘の大切さを理解しただと? ふざけやがって。


「……本当よ、本当に反省してるわ。ごめんなさい」


クソ女はその場で土下座をして謝罪をする。

…ここまで誠意を感じない土下座は初めてだ。

何も無くすんなりと土下座をする奴は信用ならない。


「誠意の欠片も感じねぇよ、もう良い…」

「待ちなさい! ここまでしたのにあなたは!」

「テメェがした事が、その程度の事で許されると思うか?

 その程度で許されると思って行動したなら、罪の重さも理解しちゃいないって事だ」

「私の子供よ、私が何をしようと!」

「何度も言わせるなよ? 子供はテメェの所有物じゃねぇんだよ。

 はん、やっぱり反省もしてなかったな」

「この! 待ちなさい! 私をここから出せ!」

「出すと思うか? そのままそこで腐って行けよ」

「あんた!」

「あぁそうか、お前はもう腐ってるからな、それ以上は腐らねぇな」

「待ちなさい! 出せ! 私をここから出せ!」


少しでも…少しでも期待した自分が馬鹿だった。

こんな無様な母親、あいつには見せられねぇな。


「…お姉ちゃん」

「うぃ、ウィン…」


何で…何でこいつがここに…部屋で待ってろって言ったはずなのに。


「ウィン! 何でここに!」

「…ごめんなさい、私も少しだけ…お母さんに会いたいって思っちゃって。

 でも…でも、もう思って無いよ…」

「出せ! ここから出せ! クソガキがぁ!

 私はあなたの母親なのよ! 恩を仇で返そうっての!?」

「…もう…もう…思って無い…思って無いよ…」


ウィンは涙を必死に堪えながら、絞り出すように何度も繰り返す。

クソ…俺まで涙出て来ちまったじゃねぇか。


「出せ! 出せぇ!」

「黙れ! 騒がしいぞ!」

「あのガキィ!!」

「ウィン……戻ろう」

「…うん」

「出せぇ!」

「黙れと言っただろう!」

「出せぇ! ここから出しなさい! 出しなさいよ!」


……奥から何度も何度も響いてくるあいつの絶叫を背に

俺達は地下牢から出るために歩き出した。


「……リオ様」

「何だよ…」

「……いえ、何でもありません」

「…そうか」

「……お母様のこと…本当に」

「あんな奴、母親じゃねぇよ」


後ろから僅かに響く叫び声を無視して、俺達は地下牢を後にした。


「…リオさん」


部屋を出ると、そこにはアルルが立っていた。

こいつも来てたのか…


「私が言っても説得力もありませんし、最悪、悪口に聞こえるかも知れません。

 それでも言わせて貰います…あなたにはちゃんと家族がいます。

 だから…落ち込まないでください、気をしっかりと持ってください」

「その言葉は俺にじゃなく、こいつに言ってくれ、俺にはそれ位分かってる。

 ただ少し…少しだけ期待して、その期待を裏切られただけだ」

「…私も大丈夫、私にはお姉ちゃんがいるから…もう、お姉ちゃんしかいないから」

「ウィンさん、あなたには確かにリオさんという大事な家族がいます。

 ですけど、リオさんだけしかいない。なんて寂しい事、言わないでください。

 あなたにも私達が付いてますから」


アルルは腰を低くして、俺達の顔をのぞき込みニッコリと笑った。

その笑顔に…悔しいけど救われた気がする。

最初から分かってたことだが…言葉にされるとより安心出来るか。


「まぁ、私はおふたりの家族になれば良いんですけどね!

 リオさんと私が籍を入れれば!

 あ、でもその場合だと私はウィンさんのお姉さんになるのでしょうか?

 年齢的には母親という立場でもチャンスは」

「入れねぇよ! 誰がお前なんかと籍を入れるか!」

「ごふぁ! く、くぅ、きょ、今日はいつにもまして強烈ですね」

「…ふふ」

「おや? ウィンさん笑いました?」

「あ、い、いや…そ、そんな事は…」

「隠さなくても良いんですよ、怒ってるわけじゃありませんから

 やっぱり笑ってる姿が1番素敵ですよ」

「アルルさん…」

「口説き文句みたいに言うな」

「誰かが1番輝いてる姿を見たいと思うのは人の性ですよ」


まぁ、俺としてもウィンが笑ってる姿を見る方が嬉しいからな。

辛い思いをしている姿を見たいと思うわけがない。

大事な妹なんだから。


「…じゃあ、お姉ちゃんが1番輝いてる時っていつ?

 やっぱり戦ってる時とか?」

「いや、何で俺を出す」

「そうですね、リオさんが戦ってる時はあまり輝いてません。

 確かに鈍く光ってはいますが、純粋な輝きは感じない。

 リオさんが最も輝いてるときは皆さんと一緒にいるときです。

 勿論その場にはウィンさん、あなたの姿もあります」

「やっぱりお姉ちゃんは皆と一緒にいるときが1番素敵なんだね」

「…はん」

「否定、しないんですね」

「…しねぇよ、自覚はあるさ、その時が1番楽しいからな」

「戦争の時に純粋な輝きが無い、と言う部分も合ってます?」

「…まぁ、合ってるよ。戦争を楽しんだりはしていない。

 ま、今回はあいつらと一緒に戦う事を楽しんでたりはするが

 それは相手が人形だからで、強敵でも無いからだ。普段ならあり得ない。

 人殺しを嬉々としてやってたら、ただの狂人だろ」


人形が相手だからな、人が相手なら楽しんだり出来るはずが無い。


「アルルさん、お姉ちゃんの事よく分かってるんだ」

「当然ですとも! 私は将来リオさんと結婚するのですから!」

「しねぇって言ってるだろ!?」

「ねぇ、お姉ちゃん。結婚って女の人同士でも出来るの?」

「え゛!? い、いやまぁ、出来るには出来るだろうけど」

「でしょ! だからしましょう!」

「しねぇよボケ!」

「ねぇ」

「な、何だよ」

「女の人同士で結婚して子供が出来たら、どっちがお父さんでどっちがお母さん?」

「……知らねぇよ! そもそも! 女同士で子供は、むぐ!」


不意にアルルが俺の口を押さえてきた。


「リオさん、そこまでです、それ以上はいけません」

「な、なんだよアルル」

「現実を知るには早いのです…と言うか、リオさんも妙に博識というか

 子供なのに何でそう言う知識があるのですか?」

「今更だな、俺の知識量が子供のそれだと今まで思ってたのか?」

「いやまぁ、確かに子供なのに異常な位に物知りだとは思ってますけど」

「なら、別にそう言う知識があっても問題無いだろ」

「純粋無垢という個性が消えますよ?」

「そんな個性は最初から無い」

「ねぇ、えっと…女の人同士で子供って」

「いえ! こ、コウノトリさんが運んでくれますから問題ありません!」

「キャベツ畑で生まれるんだ」

「え!?」

「あ、これじゃ無いか、じゃあ、キスしたら生まれる」

「へ!?」


みょ、妙な反応をされてしまった…何? これも駄目なの?

と言うか、かわし方ってこの3つしか無いんじゃ無いのか?

やっぱりコウノトリがよかったのか? コウノトリが。


「色んな方法で生まれるんだね、赤ちゃんって」

「そ、そうだよ!」


ちょっとだけ声が裏返った。


「でも、その3つだとキスしたら生まれるって言うのが良いなぁ」

「まぁ、私としてもキスしたら生まれるって方が好ましいですね

 だって、唯一相手の人との共同作業で生まれる手段ですし」

「そうだな、うん…」


普通に子供を作る場合は当たり前だが共同作業だけど。


「じゃあ、私とお姉ちゃんがキスしたら子供が出来るのかな?」

「い、いやほら、子供は大人にならないと出来ないから」

「そ、そうです! 大きくならないと子供は生まれません!

 今の状態でキスをしても、子供は生まれないのですよ!

 なので、私がリオさんとキスをしても生まれないのです!」


地味に追撃があったかも知れない、俺とアルルがキスしたら生まれるのか

って言う質問に対し、先読みして釘を刺したな。

そう言う先読み能力があるのか。


「そうなんだ」

「あ、でも、私のお腹には宿るかも知れません」

「お腹?」

「え、えっと…」

「おい馬鹿、自分で墓穴掘ってどうするよ」

「いやぁ、つい癖で…いや、ですがこれはチャンスです。

 えー、おほん、最初にあった女の人同士だった場合

 どっちがお父さんでどっちがお母さんかって質問に

 続くのですが、キスをしたらお腹に赤ちゃんが宿るのです。

 そして、お腹が大きくなって赤ちゃんが出て来ます。

 赤ちゃんが出て来た方の女の人がお母さんで

 赤ちゃんが出て来てない方がお父さんになるのです!」

「そうなんだ! あ! お腹が大きい人って赤ちゃんがお腹にいるんだね!」

「そ、そうです! まぁ、例外もありますけど…」

「ありがとう! やっと不思議に思ってたことが分かったよ!」


アルルがこちらを向いてウインクをした…

良いのか? これで良いのか? 自分の妹の教育方針はこれで良いのか?

その内知ることになる知識だけど…でも、やっぱりまだ教えない方が良いのか?

い、妹なんて死ぬ前はいなかったから…うぅ、どうすれば良いのか分からんが

まぁ、しっかりしないとな。俺がしっかりしないとウィンが真っ直ぐ育たない。

子供に1番影響を与えるのが親だからな。

本物の親があんなんだから、姉である俺が親の代わりに

こいつに色々と教えていかないと駄目だ。

ちゃんと勉強をしよう…どう教育したら子供は真っ直ぐに育つのかをな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ