久々の部屋
フレイが部屋から飛び出して、数分ほど時間が経った。
そして、外の方から凄い騒がしい複数の足音が聞えてきた。
随分と速いな、あまり時間が経ってないって言うのにさ。
「リオ! 本当だ! リオだ!」
「わー! リオちゃーん! 会いたかったよぉ!」
「ちょっと待て! ウィング! 待て! 抱きつこうとするなぁ!」
俺は急いで飛びかかってきたウィングの顔を手で押えて
こっちに飛びつくのを止めた。
「はふはぁ!」
「う、つぅ、やっぱり力を入れるのは厳しい」
「どうしたの?」
「あぁ、そうだった、言ってなかったね、リオちゃん
皆にも見せた方が良いと思うよ」
「そうだな、見せた方が良いだろう、だからウィング、離れてくれ」
「分かったよ」
俺の言葉を聞いてくれて、ウィングは大人しく下がってくれた。
そして、俺はフレイに見せた様に服をめくり、自分の状況を見せた。
「…うっぷ、どうして、こんな」
「酷い、何があったの!?」
「思いっきり蹴られてな、そのせいでこのザマだ」
「なんでリオちゃんがこんな目に遭わないと!」
「危険な事をしてたからな、まぁ、生きてただけ儲けものだ」
普通なら死んでもおかしくない程の状態だったからな
これが軽症とは言えないが
この程度の怪我で助かった訳だし、運が良かったとしよう。
「どうして、そんなにケロッとしてられるの? 普通、もっと」
「この程度の怪我で大きな物が守れたし、良いかなって思って」
「もう! リオちゃんは自分を大切にした方が良いってば!
先生によく言われてたじゃん!」
「そうだっけ? 覚えてないんだけど」
「私達を庇って良く怪我してたしさ」
「えっと、ほら、自己犠牲って格好いいじゃん?」
「自己犠牲が格好いいって思わない方が良いですわよ?
むしろ、かっこ悪いですわ」
シルバー達が部屋にゆっくりと入ってきた、そうか、今追いついたのか。
だとすると、こいつらは相当急いで帰ってきてたんだな。
「シルバ-、いつの間に」
「自己犠牲が格好いいと言ってた時ですわ
自己犠牲が格好いいなんて浅はかですわよ」
「いや、自己犠牲って格好いいじゃん、響きとか、生き方とか逝き方とか」
「…あなたが怪我をして、心配する人も居るのですわよ
あなたはもう少し自分の存在がどれだけ大きな物か自覚してくださいまし」
でも、一応仲間には影響がないように頑張ってるんだがな。
「そうだよ、そもそも君はまだ子供、本来は守られる立場なんだからね
甘えても良いんだから、辛いときはしっかりと甘えるべきだって」
「メルト、でも、子供でも軍人だし」
「そうですよ、もっと甘えてください
後、私達の言葉に耳を貸してください」
うーん、よく分からないけど、俺ってこれだけの人数に心配掛けてるのか?
でもなぁ、自己犠牲的な生き方って俺がやってみたい生き様なんだよな。
どうせ死んで、あまりここに未練も無いなら
自分がやりたい生き方で生きようと思ってるし。
「そうですよ、皆さんは私達に甘えてくれても良いんですよ? リオさん」
「…シルバー達に甘えるのはまだしも
アルル、テメェに甘えるのだけは絶対に嫌だ」
「相変わらず私に対しては手厳しいですね、まぁ、反論はしませんが」
あまりアルルが暴走しないな、やっぱり人数いると暴走しないのかも知れない。
仕事の時とこう言う複数人いるときは困難だし
スイッチの切り替えが上手いんだろうな。
「ねぇ、リオちゃん、どうせならマナ達にも見せた方が良いんじゃないの?」
「見せるって、何を? あ、腹の怪我か、いや、見せる必要ないだろう
お前らと違って抱きついたりするわけじゃ無いんだし」
「でも、訓練とかの時に参考になるかも」
「あー、そうだな、それに包帯も巻き直して貰わないといけないし」
他のメンバーに包帯を巻いて貰えば良いな、アルルだと暴走しそうだし。
とりあえず俺は自分の服をもう一度めくる事にした。
「それじゃあ、お前らにも怪我の具合を見せるよ」
「怪我をしたのですか!? どれ程の怪我を!?」
「それを今見せる、ちょっと待てよ……っと、こんな感じだ」
俺はゆっくりと自分の服をめくった。
「…酷い」
「ここまで酷かったんですか!? よく今まで動けてましたね」
「意識があるのが不思議なくらいに酷い痣だね、これは」
「どうしてこのような姿に? 何があったのですの?」
やはり俺のこの状況を見た奴は、口々に酷いというな。
うん、それは自分でも分かるくらいだが。
「腹を思いっきり蹴られたんだ、少しだけ口から血も出てたんだぞ?
少しだけだけど
まぁ、今は外から強い衝撃が来なかったり
大声で怒鳴らなかったりすれば大丈夫だ」
「よく、そんな状態で狙撃できてましたよね、絶対に痛かったでしょう?」
「集中してたからか、腹の痛みは無かったな」
やっぱり極限まで集中していると、怪我とかの痛みは軽くなるんだろうな。
あの時、確実に反動があったのに殆ど痛みに気が付かなかったし
狙撃が終わった後では腕の血と痛みに意識が行ってたから腹は気にしてなかったし。
「少しだけ、触ってもいいかな?」
「良いけど、優しくだぞ? 強く押えたら俺が激痛で悶えるからな」
「分かってるよ、それじゃあ、ソーッと」
メルトが俺の腹に優しく触り、少しだけ腹をさすってくれた。
それから不思議そうな顔、と言うより同情しているような表情で俺を見た。
「…痩せすぎじゃ無いかな?」
「え? そこ? 腹の怪我が酷いとかじゃ無くて?」
「やっぱり打撲を触っただけで判断は無理だと分かった」
あぁ、やっぱり触っただけだと打撲の後なんてわからないのか
あまり打撲なんてした事無いから分からないが。
「あぁ、そうかい」
「それにしても痩せてるね、どうして?」
そんな事言われてもな、俺は孤児院育ちで貧困な状況で育った訳だし。
あそこはかなり貧困だった。
まぁ、俺達が軍に入ったから、いくらか金を渡されてたがな。
残った奴らはこれで結構良い生活してると良いんだが。
「…さぁな」
「ん?」
でも、ここで言う訳にはいかないしな、フレイ達が気にしてるかも知れない。
「…それは、リオちゃんが私達にご飯をくれてたから」
「あ! おま!」
うぅ、気にしてるかも知れないから黙てったのに、フレイの奴め。
「どういうこと?」
「私達は孤児院育ちで、あまり沢山ご飯を食べられなかったの
お金も無かったし、でも、私達はいつもお腹空いたって言ってたから」
「だ、だから、俺はあまり腹は減らないんだよ、食べられないから渡してただけだし」
「私達の近くでお腹を鳴らしてたのによく言うよ」
「うぐぅ」
でも、俺は元々精神的には高校生だし、お腹なんて空いても我慢できるからな。
体の方は年相応だったらしいが。
「ま、まぁ、とにかく俺は腹が減らないたちだったから
お前たちに渡してただけだ」
「うぅ、リオさん、そんな過去がやっぱり格好いいですねぇ」
「いや! だから、お腹が減ってなかったから渡してただけなんだよぉ!」
畜生、妙に恥ずかしい…やっぱり直接褒められるのはなれてない。
「だからそんなに痩せてたのか、格好いい物だよ」
「う、うるさい」
「そうですわね、格好いいですわ、その話を聞いて
リオさんが軽く背が低い理由も理解できましたわ」
「それは、あれだ、純粋に背が低いだけだ、うん」
そんな事で身長が低くなるわけ無いし
きっとあれだ、俺の宿命みたいな物だろう。
ここに来る前から身長低かったし、絶対そうだし。
「とにかく痩せてるのはあれだ、俺が少食だったからだ」
「認めませんね、まぁ、そこも格好いいところですけどね」
「う、うるさい!」
「うふふ~」
「やっはり、リオさんの前では少し態度が変わりますわよね、アルルさん」
やだやだ、全くさ、痩せてるのはあれだし
俺がそう言う体質だったてだけだし。
「それにしても、リオさんって本当に茨の道を進んでますよね」
「どうしてそう思うんだ?」
「孤児院で育って、あまり物を食べれなくて、軍に入って、指揮官になって戦って
お姫様を助けるためにこうやって大怪我をして、困難ばかりじゃ無いですか」
「馬鹿言え、孤児院で育たなきゃ先生にも会えてないし、こいつらにだって会えてない
軍に入ったお陰で先生たちを守るための力もある
怪我はあれだ、名誉の負傷とかそう言う奴だ
どんな物でも、考え1つで大きく変わる
幸福と不幸の違いはそれ位の差しか無いんだよ」
「リオちゃん、格好いい!」
「あれ? 軍に入って私達に会ったとかは無いんですか?」
「おいおい、冗談よせ
俺達がお前らに会って、まだ3日程度しか経ってないんだぞ?」
「3日? あ、そ、そう言えば」
本当に今考え直すと3日とは思いがたいくらい濃いよな、体験。
軍に入って、指揮官になって最初の戦闘して
部屋に案内されて暴走して気絶、これで1日目
2日目は目が覚めて訓練して意識を失い
目が覚めたら夜で、シルバーと風呂入って気絶、これで2日目
3日目は目を覚まして即戦闘
終わって会議でいきなり身代わりに選出して大怪我、これで3日目。
で、5日間意識不明の状態で、目を覚ましてまた戦闘。で、今に至ると。
なんか、軍に入って起きている時間よりも
気絶している時間の方が多いと言うね。
「思い出して思った、俺、気絶してばっかじゃん」
「そうですね」
と言うか、俺は軍に入って3日で軍団長に目を付けられたのか
出世街道まっしぐらだな
俺の能力が高いのか、それだけこの国が切羽詰まってるかのどちらかだな。
「あれですよね、3日だけで2回も戦闘が起こるって凄いですよね」
「そうだな、で、軍に入って3日でこの大怪我か
これ、俺は1ヵ月後には死んでるんじゃ無いか?」
これだけ短い間に色々あったら
どうしてもそうなるんじゃ無いかと思ってしまうな。
「恐ろしい事を何食わぬ顔で言わないでくださいよ、リオさん」
「とにかくだ、3日間一緒に居ただけで
お前らに会えて良かったなんて断言できない。
俺がお前らに会えたから軍に入って良かった等と断定することは出来ない。
それ相応の事が無いとな」
「うふふ、リオさんに認められるほどとなると
かなり難しそうですわ、ですが、認めて貰いますわよ」
「そうですよ、やはり私に会えて良かったと!
心の底から思って貰うためにも!」
「一応言っておくがアルル、お前は現状マイナスだぞ」
「本当ですか!? これは、急いで挽回せねば!」
こいつに出来るのかねぇ、むしろ増えそうだけどな、汚名の方が。
「出来るのか? お前に? 評価はマイナスにはなりやすいが
プラスにはなりにくい物だぞ?」
「ど、どういう意味ですか?」
「お前がどれだけプラス評価を稼いだとしても
すぐにマイナスになるだろう。
そもそも、このマイナスの感情をプラスに戻せるか?
かなり甚大だぞ? 今の評価は」
「ど、どれ位なんでしょう? 私の評価」
「100点満点中、マイナス80だ」
「凄く低い! ですが!
マイナス100じゃないと言う事は! まだ可能性はあります!」
ポジティブだな、普通はもう戻せ無いと考えるだろうが。
一応そこは好印象だな。
「ちなみにさ、私達の評価はどうなの!? 知りたい!」
「フレイは40、トラは80、ウィングは60位だ」
「あれ? 私の評価低くない?」
「すぐに暴走するし、言う事聞かないし、止めても止まらないし」
「でも、嫌がってないじゃん!」
「あー、そうだなー」
こいつは俺が嫌がっている所に気が付いてないのか。
「私はあんな事したのに、80なんて、どうして?」
「反省できるし、後悔もする、謝ることも出来るし
友達思い、評価が高いのも当たり前だ
まぁ、20点減点なのは、すぐに感情が暴走するからだな
そこが治れば100点だ、ガンバレー」
「うん、頑張るよ!」
トラはぐっと力を込めてそう言ってくれた
やっぱりこういう所が良いな、トラは。
「じゃあ、私が60なのは?」
「そうだな…お前は自分を悪く見過ぎてるからな、でも、良い奴なのは知ってる
その悪い癖が無くなれば、お前の評価はもっと上がるよ」
「そうなんだ、やっぱり何とかしないと駄目なんだね」
「そうだ、自分に自信が無ければ成長出来ないからな」
「では、私たちへの評価はどうなのですか?」
「そうだな、シルバーは今のところ50程、マナとメルトは30位かな
2人のことはあまり知らないから」
「辛口だね、確かにうん、私達は君と行動をしないから」
「そうですね」
2人とも悪い奴には見えないが
行動を共にしてないんだから評価は下せないんだよな。
「因みに、お前たちの俺への評価ってどうなんだ?」
「私は100点!」
「私は90点かな」
「私は100点」
「私はそうですわね、50点ですわ、無茶をしすぎです」
「私は30だね、君が言った理由と同じだよ
私はあなたをあまり知らないから」
「私も知らないから30点」
「当然! 私は100点ですよ! もうね、1000点でも良いです! 無限です!」
100点ね、子供っぽい評価の仕方だ、参考になりそうなのはシルバーの評価かな。
無茶をしすぎか、何も言い返せない、でも、暴言のことは言わないんだな。
「そうか、やっぱり3日くらいしか過してないしそんなもんだろう」
「そうだね、だからこれからも見ておくよ、死なないようにね」
「あぁ、そうしてくれ、で、アルル、俺は飯を食えるのか?」
「あ、はい、食べ過ぎなければ大丈夫だそうです」
「おぉ、そうか! じゃあ飯を作ってくれないか? 腹減ってるから」
「分かりました! やっちゃいますね!」
「じゃあ、今回は私達4人でやりますわ、折角集まっているのですからね」
「それじゃあ、腕によりを掛けて作るとしようかな」
「手伝います」
そう言って4人は一緒に調理部屋に移動していった。
さてと、飯が出来るまでゆっくりするとするかな。