ようやく気が付いたこと
暗い空間から女の人に救い出されて、俺は複数の子供達と過すことになった。
どうやら、ここは孤児院と言うところらしい…
どうにもここら辺の街並みはかなり寂しく殆どの家がボロボロだった
この孤児院もそうだ、今にも壊れそうな天井、軋む床。
食事は貧相で、小魚ですらごちそうらしい
まぁ、状況は未だによく分かっては居ないのだが。
俺は赤ん坊の姿になってしまったようだ、異世界転生という奴なのだろう
ミルクを差し出されるし。
はぁ、なんでこんな事に…犬に殺されて最悪な気分の時に
現われた自称神様に暴言を吐いたら異世界にってさ。
最新のFPSをやることが出来なかったという最悪の虚無感よりも
訳分からん状態の今のがヤバい。
それから、俺が3歳頃になった時だ
一緒に育った子供達がはしゃぎだした頃だった。
俺はようやくもうひとつの超重大な問題に気が付いた。
トイレに行ったときだ、今までは運んで貰っていたから気にもしなかったが
トイレに自主的に行った時だ。
「な、なんじゃこりゃぁぁ!!」
俺にはあれが付いていなかった、スゲースッキリしてる。
いや、あり得ない! 待て待て、そんなはずはない! とりあえずトイレだ!
いや、どうやってすんの? と、とりあえず便座に座るか!
便座というかおまるなんだし座るしかない。
とりあえず、この状態で解放すれば良いんだよな? 後で鏡を見よう
うー…よし、便所終わった
あ! なんか思いっきり濡れてる! 小便で濡れてる!
どうすんのこれ!? どうすりゃいいの!?
と、とりあえず拭くか…や、やりにくい
凄くやりにくい…今まで適当に振れば良かったのに
これからは拭かなきゃならないの!?
そして何より抵抗しかない! 紙でとは言え触れるのは抵抗しかない!
だって俺、意識的には男だもの! 体は知らんが意識は男だからな!
だが、拭かなきゃ便所から出る事も出来ないんだ! や、やるしか無い!
大丈夫! これは俺の体…信じたくないが! 俺の体だ!
「……あぁ」
トイレを終わらせて便所から出て来たとき
俺は今までに無いほど疲れてしまった。
いや、それよりもだ! 今はさっさと鏡を!
「鏡! は!」
今まで気が付かなかったが、俺の容姿はどう見ても日本人ではない。
いや、うん、ここが日本では無いのは分かってたが
自分は容姿日本人なのかなと思ってた。
しかしそんな事は無く、かなり明確な茶色の髪の毛
目の色はかなり紅い色をしている、赤よりも紅だ……
くそう! 受入れられない事実は沢山あったがこれが1番だ!
「なんで幼女なんだよぉぉぉ!!!」
俺はかなり大きな声で、鏡の前で叫んでしまった。
するとすぐにその声を聞きつけたのか、この孤児院の先生が走ってやって来た。
「どうしたのですか!?」
「あ、先生……いや、何でも無いです、はい…」
「はぁ、そうですか、ところで、何故少し泣いているんですか?」
「あ、いや、大丈夫です、その誇りを失っただけですから…」
「ほ、誇りですか?」
「いえ、気にしないでください」
……男の最大の誇りを失ってしまうなんて…
畜生! あのテカテカツルツル禿げがぁ!!
なんてことをしてくれてるんだよ! 何で女にしやがった! 叶えてねぇじゃん!
これじゃあ、女の子とイチャイチャして死ねねぇじゃん!
くそう! 神様とかいってたくせに嘘とかマジあり得ねぇ!!
「うぐぐぅ、あの禿げめぇ…」
「赤ちゃんの時からそうでしたけど、リオちゃんは感情表現豊かですよね」
「そ、そうですか? あ、そうだ、聞きたいことがあったんだ
先生、なんで俺の名前…じゃなかった、私の名前はリオなんですか?」
「何故いきなり? えっと、それは、あなたのお母様が付けた名前ですよ、はい」
「いや、そう言う嘘は良いです、自分が捨てられたのは知ってますよ」
「え?」
「ですから知ってます、先生が拾ってくれたのも
だから聞きたいんです、その名前に込められた意味」
「…あなたは、本当に子供ですか? 普通、名前の意味なんて」
「あぁ、すみません、意味じゃありませんね、願いですか? 教えてください」
「…3歳で敬語が扱えるだけでも凄いのに、そんな事まで」
名前には意味や願いがある、母さんが言っていた言葉だ。
くたばる前の名前に込められた意味は聞いている、他人と比べないでも良いから
自分流に最高に光り輝いて欲しいという願いだと聞いた。
だから、今の自分の名前の意味も知っておきたい。
「分からないかも知れませんが、川の様に常に流れ続け
1つの場所に留まらず、自分の道を進んで欲しいと言う意味です」
「あぁ、なる程、先生の願いが分かりました、ありがとうございます」
そうだよな、ここは孤児院だ、で、先生はその孤児院の先生。
ここに来た子供達が、ずっとここに留まっては欲しくないよな。
「安心してください、大人になったら出て行きます」
「違います! そう言う意味ではありません!
ただ、自分のやりたいことを見付けて
ここから旅立って欲しいという意味ですよ
自分で道を作ってね」
あの妙に長い間は…あぁ、そうか考えてみれば
この世界は戦争がどうのこうのだったな。
「この世界は国が戦い続けるんですよね、戦争ばかりして」
「えぇ、少し前にお勉強しましたね…覚えていましたか」
「で、魔法の適性がある場合は小さかろうと強制的に
徴兵あ、分かってますよ、理由くらい」
「……」
「この国は最も弱い国、でも、その中で1番優しい国なんですよね」
言い方を変えれば、1番甘い国だな
戦争をしている国で1番弱いのがその理由だろう。
だから、力があるなら、国の為にその力を使ってください
少し悲しそうに先生はそう言ってたっけ。
は! その優しさのせいでで子供が命を捨てなきゃならないなんぞ
随分な皮肉だな、優しい国が聞いて呆れるっての。
「分かってますよ、力があったら
この優しい国の為に戦いますよ、あったらね」
「…リオさん、あなたは」
「良いですよ、知ってますから、自分にその才能があるって」
少し前だ、俺は変な違和感を感じた、手のひらが妙に熱くなる感覚だ。
その事を先生に言ったら明らかに動揺した、この先生の様子から分かるのは1つ
それが魔法の才能があると言う予告のような物なのだろう。
「だから、この国の為に戦いますよ」
「どうし……そう、ですか…はい、そうしてください、立派に」
この先生は教えるのは嫌なんだろうが
きっと国の方針でそう教えないといけないんだろう。
そして、5歳の頃だ、魔法の適性があるかどうかの診断の日
ある意味では運命の日か
俺は診断用の道具を付けられた、出て来た診断は適性レベルSSだ
最高レベルらしい、更にこの孤児院の他3人にも適性が出て来た
レベルはSだ、これもかなり高い、俺の他に適性が出た子は
フレイ、ウィング、トラだった。
全員、先生に意味を聞いたときには自分で旅立って欲しいと言う意味らしい。
フレイは飛び立つをもじって、ウィングは翼、トラは旅立つだ。
フレイは活発で顔からもそれっぽい、顔は短く赤い髪の毛に黄金色の瞳
ウィングは控え目な性格で長く黒い髪に緑の瞳、トラはリーダー気質で
虎の顔が付いた髪留めで金髪の髪の毛を後ろで1箇所留めていて、茶色の瞳だ。
全員個性的な髪の色で、個性的な目の色をしている。
だが、服装はほぼ一緒で、ズボンと色々と刺繍され
各々の髪の毛と同じ色の服だ。
それにしても、全員同じ様な意味を込められていながら
同じ様に好きな事を選べなかったようだな…まぁ、文句は言えない
この現実を知って1番辛いのは先生だ。
俺に出来る事は先生にこれ以上悲しみを与えないこと
ここで駄々こねても連れて行かれる姿を見せたくは無い。
だから、喜んでる姿を見せた方が良いだろう
それが自分達がやりたかった事だったってそう思って貰うためにも。
「それでは、彼女達4名を徴兵させていただきます」
「…はい」
「リオちゃん! フレイちゃん! ウィングちゃん! トラちゃん!
頑張ってね! 国の為だよ!」
「うん! 分かってる! 優しいこの国を助けるよ!」
「うん、頑張るよ!」
「私達が守るから!」
「…あー、先生! 俺も守るからな、先生も、皆も」
「リオ…」
「それでは、こちらのお金で経営の助けとしてください」
「しかし、これは!」
「本来は親に渡す物ですが、孤児院ならあなたに渡すのが筋です
残った子達の為に、どうか」
徴兵した場所にある程度の金を渡すのか、まぁ、そうしないとより反感を買う。
それにしてもかなりの金の量だ、渡すのは良いが、あんなに金を渡していたら
当然金のために子供を産む親も増え…あ、もしかして、それが理由か?
この国に孤児院が多いのはそんな親が多いから? 俺の親もそれが狙い?
だったら、生まれてすぐに適性があるかないかが分かるのかもな。
で、俺はなかったから捨てられたと……はぁ。
だが、俺達に適性が出たと言う事は、後天性というのもあるのか。
でも、殆どの親は最初に適性がなければ捨てる、育てる金がないのかねぇ。
ま、どちらにしても屑ばかりだ、こんな国を守る為に死ぬのはごめんだな。
…まぁ、そもそも国の為に死のうなんて崇高な精神は持ち合わせちゃいねーが。
「ご安心ください、この子達の命は、私達が必ず」
「…そう言って、いままで何人…いいえ、すみません」
「すみません、我々の力が足りず、しかし、仕方のない事なのです
とにかく受け取ってください、残された子供達の為にも」
「……はい、あの、今度こそ、本当に…守ってください…」
「はい」
…兵士と2人何を話しているのかと思えば、こんな厳しいお話しとはね。
あの口振りから察するに、今まで何人も連れて行かれ
誰1人帰ってきていないんだろう。
…そりゃそうか、戦争だからな、それも徴兵されるのは子供。
能力があっても、戦術とか状況判断とかが出来なければ死ぬだけだしな。
それが分かっていても魔法に適性がある子供を徴兵するのは
それだけこの国がヤバいからだろう。
そんな自分達の置かれてる状況も知らずに、フレイ達は皆と遊んでる。
まぁ、あれが本来の子供だろう、子供が自分が死ぬことを想像できるか。
そもそも、死という概念すら知らないだろうしな。
「それじゃあ、君達、行こうか」
「「「うん!」」」
「…分かりましたよ」
俺達は徴兵に来た兵士の男に連れられ
城の兵士達の施設に連れて行かれた。
そこには俺達の他にも何人かの幼子達が集められているが
その数は少なく、俺達を合わせても7人くらいだ。
「それじゃあ、君達には1から戦い方を学んで貰うよ
まずは適正レベル順に並んで貰おう
そうだなぁ、適正レベルD~Aはここ、SとSSはここだよ」
「はーい!」
「はぁ」
俺は指示されたとおりにSとSSレベルの場所に移動した。
どうやらそのレベルは俺、フレイ、ウィング、トラの4人しか居ないらしい。
「君達がSとSSレベルだな、まさか4人も居るとは…
あっと、とにかく君達には教育が終われば部隊の指揮官になって貰うよ
しっかりと勉強するんだよ、理由は分かってるかな?」
「「「理由?」」」
「部隊の命を預かる事になるからですよね
分かってますよ、早く教えてください」
「そ、その通りだ、君は本当に子供なのか?」
「どう見ても子供ですよ、ほら、早く教えてください
戦術でも戦法でも立ち回りでも良いんで」
「…随分と生意気で愛想のない子供だが、良いだろう
では、勉強を始めよう」
ま、指揮官になれるって言うんなら嬉しいか
先生達を守ると約束した以上、やるしか無いさ。
「では、教科書を配る」
「はい、どうぞ教科書です」
「どうも」
「「「ありがとう!」」」
「では、教科書の3ページを開け」
「「「はーい!」」」
「……」
指示されたとおりに3ページ目を開くと
そこには戦術のイロハという物が書いてあった。
「まずは戦術というのは、そこに書いてある通り
相手の行動を制約したり、大まかな道筋を隊員に伝え
その通りに動かすことである、簡単に言えば流れを作る基盤となる物だ」
「…何て書いてるの?」
「え、えっと…たたかいじゅつ?」
「でも、先生はせんじゅつって…どういうこと?」
「お前ら、とりあえず俺が教えてやるから、ちょっと寄ってこい」
「あ、ありがとうリオちゃん」
もう少し順序という物を考えれば良いのにな
いきなり5歳の子供に難しい漢字が山のようにある本を渡して
自分は1人ペラペラ喋るだけってどうだよ。
なんだ? 大学か? 大学とか行ったこと無いけど友人の話だとこうらしいし。
はぁ、なんで俺がこいつらの先生をしないといけないんだか
やれやれ、色々と大変そうだな。