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小さい胸に大きな決意を

…戦闘後の夜、俺は病室を抜け出し、フレイが休んでいる部屋に移動した。

あいつがどうなったか…心配だった、やっぱり自分の目で確かめたい。

多分眠ってるんだろうが…まぁ、安否さえ分かればそれで良い。


「いつ…ち」


ぶん殴られた腹が痛む…やっぱりあの一撃は強烈だった。

未だに痛むか、弾丸よりも痛むってのはよっぽどだな。

まぁ、アルル曰く大丈夫だとのことだ。


「はぁ…しかし、下腹部を殴ってくるとは思わなかった」


アルルが言うには子宮付近を殴られたとか…いや、俺に子宮なんて…

はぁ…そろそろ認めた方が良いかな、体は女だし。

最近じゃ見慣れなかったはずのあそこも見慣れちまったよ。

逆に見慣れてた物が見慣れなくなったわけだが…あはは。


「っと、ここだったかな」


そんな事を考えながら歩いていると、もうフレイの部屋前に付いていた。

俺は眠っているであろうフレイを起さないように物音を立てないように扉を開けた。


「マナ?」

「なんだフレイ、お前起きてたのか」

「あ、その声はリオちゃんだね、大丈夫?」


自分の方が重傷だってのに俺の心配を最初にするのか。

お人好しだな。


「大丈夫じゃ無けりゃ、ここには来ねぇよ…まぁ、お前も無事みたいで良かった」

「リオちゃんのお陰で…ねぇ、リオちゃん」

「何…だ?」

「リオちゃん、ごめんね」

「は?」


何でいきなり謝るんだ?


「私、またリオちゃんの足を…引っ張っちゃったみたいで」

「何言ってるんだよ、お前のお陰で助かった」

「でも…私がもっと強かったら、リオちゃんはそんな怪我をしなかった」

「大丈夫だ、お前は強いよ。それにまぁ、怪我はなれてる」

「ねぇ、リオちゃん…リオちゃんは私のことを守ってくれるって言ったよね?」

「あぁ、当然だろう?」

「…たまに思うの…リオちゃんの事は誰が守ってくれるのかなって

 リオちゃんは皆をいつも守ってくれる、どんな時も私達を守ろうとしてくれる。

 だけど、私達は…リオちゃんを守れてない」

「何言ってるんだ? お前らがいなけりゃ、俺は」

「あの時…あの酷い男の人と戦ったとき…私は手も足も出なかった」


あいつか…確かにあの屑は強かった、接近戦闘も相当だった。

だが、あいつが強い理由は屑だったからだ。


「手も足も出ないで負けて…リオちゃんも酷い怪我をして。

 だから…あの時思ったの。私がもっと強かったら…

 リオちゃんがあんなに酷い怪我をする事は無かったんじゃ無いかって」

「……いや、あれは」

「だから、私は決めたの…リオちゃんを…皆を護れるくらい強くなるって。

 このままじゃ、リオちゃんが死んじゃうから…それは嫌だから」


…そうか、あの日以降、フレイが妙に訓練に励んでたと思ったら、そう言う。


「だから、マナに一杯お願いして、色々と教えて貰ったんだ」


やっぱりそう言うことか…そんなに気負いしなくても良いのに。


「それとね、今日、リオちゃんに頼って貰って…私、凄く嬉しかったの。

 だけど、結局あんなにボロボロになって、最後の最後でリオちゃんを

 助ける事が出来なかった…」

「何言ってるんだよ、あいつを倒してくれたことは本当に嬉しかった」


生き残ってくれたことの方が嬉しかったがな。

でもまぁ、そんな事言うのは恥ずかしいが。


「それでも…私はまだまだ弱い。だけど…だけどリオちゃん!

 私は絶対に…これからももっと一杯訓練して、もっともっと強くなって!

 皆を護れるくらいに強くなってみせるから…だから!

 また…私を頼ってよ! 皆を頼ってよ…リオちゃんが死んじゃったら

 私は…私達は! 生き残っても全然嬉しくなんてないよ!」

「おい、あまり興奮するな」

「…だからリオちゃん、待っててね。

 私は絶対にもっと強くなってみせるから

 こんな怪我くらいでへこたれない位に強くなってみせるから。

 リオちゃんを、皆を守ってあげられるくらいに強くなるから。

 だから…死んじゃ嫌だよ」

「死なねぇよ、お前らが守ってくれるんだろ? なら死にゃしねぇ」

「……私、頑張るから!」


さっきまで暗い表情をしていたフレイがニッコリと笑い大声で答えた。

元気だな、腕の骨が2本くらい逝ってるはずなのに…大した根性だよ。


「分かったよ、だが無茶はすんなよ? 俺もお前も死ぬ事は出来ないんだから」

「大丈夫、私は皆の為なら死ぬ勇気だって!」

「死ぬ勇気はいらない、生き残る勇気を手にしてろ。

 死ぬ勇気がある奴は死を覚悟した瞬間無力になる。

 生きる勇気がある奴は死の瞬間でさえ生き残る術を模索できる。

 死ぬ覚悟は必要ねぇよ、最後まで生き残る覚悟を決めろ」

「…うん!」


死ぬ勇気は必要無い、死の覚悟も不要だ。

生きる勇気こそ戦場では輝くだろう。

だが、プライドをかなぐり捨てるのは駄目だがな。

プライドを持って、負け犬として生き抜くんじゃなく

勝者として生き残る…簡単な事じゃないのは間違いないだろうがな。


「まぁあれだ、お前は敗北を味わったんだ、絶対にもっと強くなれるさ

 最後まで生き残ろうって踏ん張ってりゃ、お前は何処までも化けるさ」

「頑張る! 頑張るよ!」


1度も負けたことのない奴は何かがあれば無力になる。

魔法に頼り切ってて勝ってきた奴なら、魔法の効果が無い相手と当った時

きっと解決策も見いだせないで困惑して死ぬ事だろう。

1度敗北を味わえば、そう言うとき、どうすれば良いかって言う対策も講じれるし

そもそも弱点が露呈するからな、そこをカバーする為の努力も出来るだろう。

だが、戦場での敗北は死に直結するから、学べる奴はそういない。

その分で俺とフレイは幸運だ。敗北を味わってなお生き残ってるんだから。


「あぁ、頑張れよ。まぁ、何か詰ったときは周りに聞け。

 努力してもどっかで詰ることは多分あるだろうから

 そう言うときはやり方が間違ってる可能性がある。

 だから、客観的に見てくれる人に相談しろ、それが大事だ。

 ひたすらに同じ事を繰り返してたら確実に詰るからな」

「分かった! マナにも色々と教わるよ! 明日も頑張らないと!」

「馬鹿かお前! お前はしばらく動けねぇよ!」

「何でぇ!? 私は痛!」

「そんな状態じゃ動けねぇよ! しばらく休んでろ! 頼むか、い!」


くぅ…叫びすぎた…やっぱり腹痛ぇな。


「だ、大丈夫?」

「大丈夫だ…ちょっと痛かっただけだ、それよりお前の方が」

「私は大丈夫だから…」

「そうか、それは安心した…ちゃんと休んでろよ?」

「うん」

「じゃあ、俺もそろそろ寝る。

 病室を抜けてるのをアルルにでも気付かれたら面倒だし」

「そう言うときは大体バレてますよ?」


後ろの方からアルルの声が聞こえてくる。


「げ! あだ!」

「ほらもう! 動いて良い状態じゃないんですから!」

「い、いや、これ位は何の問題も…」

「休んでください! 最悪子供が出来ない体になってる可能性もあるんですから」

「ガキなんざいらねぇよ」

「リオさん! もぅ! お腹を酷く殴られてるんですよ?

 横腹に受けてた銃弾も結構不味いんですから

 あまり派手に動くと内蔵に異常が」

「心配性だなぁ、そんなんだったらこんな平然としてねぇっての」

「リオさんが堪えてる可能性があるでしょ?」

「いや、そもそも我慢できる程度の怪我なら」

「あのですね、我慢できる程度の痛みでも実は重症って事もあるんですから

 大人しく部屋で眠っててください。

 フレイさんが心配なのは分かりますけど自分の事も大事に」

「あーあー、何も聞こえなーい」

「リオさん!」

「うわ! 引っ張るな! 怪我人だぞ!」

「こうでもしないと逃げ出しそうですし! 全くもう」


こいつ、俺が怪我をするとキャラがかなり変わるな。

…それだけ心配してくれてるって事なのか。


「分かったよ、分かったから。

 そもそも、俺も帰ろうと思ってたんだから」

「あ、そうだったんですか、それじゃあ、早く休みましょう。

 もう眠ったりはしませんよ! 絶対に逃がしませんからね!」

「分かったよ、ったく」


俺はアルルに連れられて、自分の病室にまで戻った。

そのままベットで横になると、何だか気分の良い眠気に襲われ

すぐに眠ってしまった。


「……」


夢を見た、フレイ達に助けられる、そんないつもの夢を見た。

あの気持ちいい眠気はきっと…嬉しかったからだろう。

俺はあいつの兄みたいな感覚で一緒に育ってきたんだ。

だから、あいつが成長したという実感は素直に嬉しい。

いつも手が掛かる駄目な妹、そんな妹が成長した姿を見られた。

それは肉体的な成長じゃない、精神的な成長だ。

……あいつはもっと成長する、モタモタしてたら越されるくらいにな。

はは、それは兄としては嫌だね、負けねぇように根性見せねぇと。

だけど…今は休もう。

あいつにああ言った手前、無理は出来ないからな。


「……あ」


はぁ、もう朝か…結構早いな、朝が来るのって。

まぁ、眠っちまえば一瞬だし、長い短いはあまり関係ないがね。


「リオさん、おはようございます」

「おはようさん…で? それは?」

「はい! リンゴを兎の形にして切りました」

「…リンゴなんて誰がくれたんだ?」

「スティールさんとメイルさんです。

 リオさんが眠ってる間にお見舞いに来られました。

 メイルさん、かなり心配してましたよ?」

「あいつが? へ、想像できないな」

「素直じゃないんですよ、リオさんと同じで」

「何言ってるんだよ、俺は超素直だろ」

「ふふ、リオさんはかなりのツンデレさんじゃないですか~」

「誰が! いっつ」

「あ、すみません」

「いや、俺が勝手に傷を痛めただけだ」


さっきは横腹が痛んだな、俺も結構な状態らしい。

まぁ、昨日の今日で傷が癒えるわけないか。


「…しっかし、腹を殴られただけでここまでとは…」

「だって、女の子の大事な部分ですし…」

「まぁ、飯が食えるなら問題は無いけど」

「食事は問題ありませんけどね、あまり動かないでくださいよ? 

 今はマオさんもいませんから、すぐに傷を癒やすのは無理ですし」

「マオの魔法って、やっぱり便利なんだな」

「はい、回復魔法ですからね。

 回復魔法はかなり稀少みたいですし」

「そうなのか?」

「えぇ、スティールさん曰くそうらしいですよ。

 アルトール国にも回復の魔法使いは居なかったとか

 今は分からないらしいですけど」

「そこまでレアケースだったのか、回復魔法」

「魔法の事は私もそこまで知りませんけど、レアなのは間違いないです」


通りであそこまで便利なわけだ。

本当、運が良いな…マオが居なけりゃ、俺は何度か死んでただろうし。


「幸運だったんだな」

「そうですね、ですが、今はマオさんが居ないので私がしっかりと手当をします。

 マオさん達を乗せたミストラル王国、先鋒部隊はまだ到着に時間がかかりますし」

「何日くらいだ?」

「正確な日時はまだ…しかし、ミロルさんの予想では後10日らしいです」

「かなりの距離があるんだな、マオだけ引っ張って来られないのか? ウィンの魔法で」

「いやまぁ、可能でしょうけど…あ、えっと勘違いを正しますと時間がかかる理由は

 兵士達の召集にかなり時間ががかるだけで、出発から到着は2日らしいです」

「まぁそんな所か、俺達もここに来るまでそんなに時間掛かってないからな。

 朝に出て夜に到着だったし…やっぱり使う船の問題か」

「まぁ、多数の兵士を乗せるわけだから大きい船だしね

 あぁ、一応先に報告しとくと、準備が完了した場合

 私は一旦ウィンの魔法で戻ってから船を召喚して移動するわ」

「ミロル、お前もしれっとくるな」

「まぁね、それで? 大丈夫? 大事な所に一撃貰ったって聞いたわ」

「俺からして見りゃそこまで大事でも無いがな」

「子供、出来なくなるわよ?」

「興味無いね、子供なんて生むつもりは毛頭無いし

 そもそも誰かと結婚所か付き合うつもりもない」


俺は男だ、何が悲しくて野郎と関係なんぞ持つかよ。


「まぁ、当然そう言うだろうとは思ってたけどね。

 でも、体は女の子だし、そこを殴られたのは相当応えたでしょ?」

「あぁ、今でも痛てぇ」

「みぞおちとか貰ってたらどうなってたのかしら」

「まず確実にこの場にはいないな」


流石にそこにあれだけの強打を受けたら…意識を保てるわけがない。

ここを殴られただけでも、意識を何とか保ったレベルだし。


「そりゃそうか」

「で、来た理由は報告だけか?」

「見舞いもあるわよ、一応ほら、イチゴジュースよ」

「イチゴジュースだと!」

「く、食いつき凄いわね、何? 好きなの?」

「あぁ、あのまろやかな甘みが大好きだ!」

「…意外と女々しいのね」

「おま! あの優しい甘みを男が飲んじゃ駄目って言うルールでもあると!」

「そもそもリオさんは女の子ですよね? 何の問題もありませんよね?」

「…まぁ、そうだな…えっと、ミロル、話は変わるけど良いか?」

「何?」

「さっき、兵士の召集が終わったら一旦帰るって言ってたよな」

「えぇ、そのつもりよ」

「その予定、少し早めてくれ。そうすれば俺達も一旦帰れるし」

「でも、あなた達の怪我が」

「それはマオに治して貰うよ」

「まぁ、それが早いけど…でも、だったらマオを連れてきた方が」

「どうせ戻るんだし、そのついでで良いだろ」

「…何でそこまで帰りたいの?」

「しばらく先生に会ってないからさ、久々に会いたいなってな」

「夏休みに帰れば良かったのに」

「夏休みに一旦戻る予定だったのにこうなったんだよ」

「あぁ、それは仕方ないわね…確かに夏休み入って殆ど経ってない時に来たわね」

「だからそろそろ会いたいと思ってな、多分フレイ達もそうだし」

「ん、良いわよ、じゃあ明後日位かしら」

「分かった、それまでに多少は傷を治しておくよ」

「治そうと思って治せるの?」

「治そうと思わないよりはマシかなって」

「…それもそうね、じゃあ、どれ程傷が癒えるか、楽しみにしておくわ」


…明後日か、久々に先生やあいつらに会えると思うと…何だか楽しみだぜ。

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