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取引

「…正直驚いたよ」

「俺もだ、まさかまだここにいたとは意外だね」


城の中を駆け上がり、最上階の扉を開いた。

その扉の向こうは玉座…何となくここかと思ったが

なる程、予想通りだな。

それにしても、まだここにいたとは…とっくに逃げてると思ってたがな。


「あの2人を倒すなんて……それで? もう1人の女の子はどうしたの?

 まさか、もう1人の子を見捨ててここに来た…って、訳じゃ無いんでしょ?」

「そんなクズ野郎に見えるか? 失礼だな」

「そうだね、君はそんな人じゃない、それ位は分かる」


彼女は玉座から降り、ゆっくりと階段を下ってきた。


「あそこまで誰かに信頼されるような人が

 仲間を見捨てるなんて考えられないからね。

 あのケミーも君には少し憧れた様だからね。

 ここに来たって事は、あの子から色々と聞いたんだろう?

 自分の魔法の事を…経験さえコピーするコピー魔法の事を」

「そうだな、あの化け物魔法、出来ればもう戦いたくないな。

 と言っても、もう一度やり合う約束しちまったし、対策を考えねぇとな」

「…つまり、あの子は殺していないと?」

「あんなガキ…殺せるかよ」

「これは驚いた、まさかあの子を無力化する事で倒したのか。

 はは、これは素直に称賛するよ、流石だね」


このガキ…本当に子供かって疑いたくなる位饒舌に喋るな。

謎の威厳がある…そうか、こう言うのがカリスマって奴かな。

レギンス軍団長とは違う威厳…子供が持てるような物じゃないだろうに。


「まぁ、そんな君に敬意を称して…少しだけ君が知りたがっていたことを教えよう。

 そうだなぁ、最初に出会ったときに私が言った言葉。あの意味を教えてあげよう

 偶然に生まれた魔法使いと私達じゃね、って言葉の意味を」


あの言葉の意味…確かに気になっていた。

魔法使いは偶然に生まれる物じゃ無いのか?


「私達が所属していた国家、アルタール国…この国は魔法の研究を続けていた。

 確か…他国の子供達も引っ張り出しての研究だったはずだよ。

 その研究の結果、彼らは意図した魔法使いを強化する方法を見付けた」

「…何」

「その方法は非常に残酷で、強化をしようとすればその魔法使いは死ぬんだ」

「おい、それじゃあ、強化もクソもないだろ」

「…生まれるんだよ、その後に…更に能力が強化された魔法使いが。

 あいつらからして見れば、私達は道具でしかない」

「……」

「まぁ、この話はこれでお終い、決着が先だね」

「気になるところで切るなよ! 話すなら最後まで」

「…それは無理だね」

「ち…でだ、もうひとつ気になることがある」

「何かな?」

「あの人形達は? あの人形達を操作してる魔法使いがこの場にはいなかった。

 お前とあの2人以外にこの城の中に魔法使いの姿は無かったぞ」

「あの子達は別の場所だよ、アルタール国の首都にいる」


…操作距離の限界が分からないが、かなり距離があっても効果があるって事か。

結構強力だな…ま、それなら安全地帯で保護しておくのが当然か。


「まぁ、この話はお終い、さっさと勝負をしよう…と、言いたいところだけど

 残念ながら私は戦闘向きの魔法は扱えないんだ」

「なら、大人しく捕まれ」

「待った待った、ここは取引しようよ」

「取引だと?」

「あ、先に言っておくけど、私は捕虜としての効果は無いと思うよ

 それともうひとつ、私を拘留するのは困難だと思うよ」

「どうしてだ?」

「私の魔法は転移魔法だからね。

 例え拘留されても転移することで容易に逃げる事が出来る。

 他にも防御魔法で攻撃を防ぐことも出来るし、拷問も無駄だよ」

「…おい、何でお前は2つの魔法を扱える?」

「おっと、これは失言、はは、聞かなかったことにしてくれるかな?」

「ふざけてる場合か? おい」

「私がそう言う体質だから…って、感じかな? 私の場合は」

「…やっぱりお前は引っ捕まえて尋問する方が」

「嫌だなぁ、それが嫌だから取引をしようっていったんじゃ無いか

 私はいつでも逃げれるけど、私としてはあの2人を失いたくは無いんだ。

 ここで君と戦って負けたり、逃走した場合、私はあの2人を失う。

 それは嫌なんだ、だから私は君に取引を持ちかけたんだよ?」


…よく分からないな、こいつ…子供にしては妙に達観してるというか

性格も子供とは思えない。

普通、ただの子供が取引なんて持ちかけてくるか?

自分の能力を正確に理解できるか?

…間違いなく、こいつはただの子供じゃない。


「まぁ、最初に取引の内容を話そう。

 まず私達3人を見逃して欲しいんだ、それは話の流れで理解できてるよね?

 お互い指揮官って立場の子供だしね」

「俺が指揮官だってよく分かったな」

「それ位分かるよ」


そんなに変な雰囲気出てるのか? …もしくはケミーに教えて貰ったか。

だが、どのタイミングで? 俺達が入った直後か?

いや、それは違うと思うが…もしかしたら、まだ隠していることがあるのか?


「まぁ、取引だからこっちも条件を啓示しないとね。

 もしも私達を見逃してくれると言うならば君の質問に3つ、何でも答えてあげるよ。

 どう? 悪くない条件でしょ? 拷問をする必要も無い

 戦闘をする必要も無い。お互い、時間はあまりないでしょ?

 その傷、君も結構無茶をしているはず。

 私はこう見えても粘り強いからね、防御魔法だからさ」

「発動する前に潰せば問題無いが?」

「一応、防御って念の為にする物だよ? 

 君と対談する前に防御魔法は発動してるよ

 これでも警戒心はあるつもりだからさ」

「あっそ」


まぁ、当然と言えば当然か、敵と対談しようってんだ

そりゃあ、警戒もしないとやってられないだろうよ。


「まぁ、お互い悪くない取引だと思うよ?

 君の大事な友人…あまり長い間放置なんてしたくないでしょ?」

「……それもそうだな」

「あはは、敵の指揮官を目の前にして友人の方を取るんだね」

「お前はどっちが良いんだ? とっ捕まるか、このまま逃げるか」

「逃げる方だね」

「じゃあ、くだらない挑発なんぞするなよ」

「ははは、ごめんよ…でもまぁ、英雄様にあるまじき怠慢だと思ってね」

「英雄様だと? 俺はそんなんじゃねぇよ、俺はただの我が儘なガキだ

 自分の居場所さえ護れれば…それで良いんだ」

「…あぁ、そう、で? 英雄様と私が言ったことには何も言わないんだ」

「どうせあれだろ? それが1つ目の質問だね、って返してくるんだろ?」

「あはは、流石、良い勘してるね」


意外とずる賢いな…ったく、まぁ良いけど。


「…その条件は呑んだ、じゃあ、早速だが質問しよう」

「どうぞ?」

「俺達は魔法使いが短命だという情報を得た。

 お前は妙に魔法について詳しいよな? 

 どうすれば魔法を捨てる事が出来る? 俺は長生きしたいんだ」

「…悪いけど、私もその方法は知らないよ。

 必死に探してる筈なんだけど、見付からないんだ」

「…そうか」

「大した答えじゃ無かったし、何なら今のノーカウントで良いよ?」

「いんや、別に1つの質問として取ってくれて構わない。

 もしも情報を得たとき、俺達にも知らせてくれるって事でな」

「はは、抜け目ないね、良いよ、約束は守ろう。

 しかし、最初の質問がそれねぇ、何処まで友達が大事なのかな?」

「俺は自分本位なんだ、探してる理由は自分が長生きしたいからだ」

「素直じゃないねぇ、まぁ良いけど」

「…それじゃあ、2つ目の質問だ、お前らの目的は何だ?」

「強いて言えば復讐だね…復讐…って言って良いのか分からないけどね」


復讐ねぇ、何があったか知らねぇが、また随分と大変な負い立ちだな。


「そうかい…じゃあ3つ目だ、お前の名前を教えてくれ」

「こりゃまた随分と酔狂な質問だね、意味あるの?」

「他2人は名前を知ってるのに、お前の名前を知らないってのはな

 どうせその内どっかで会うんだ、名前くらい知りたいと思うだろ?」

「そんなの、この場での質問以外でも答えるよ…自己紹介ってのは得意じゃ無いけど

 そうだなぁ、私の名前はフェミーだよ、名字まで答えろというなら答えるけど

 その場合は3つ目の質問って事でカウントするよ?」

「…3つ目の質問でカウントしないのか? これは」

「大した情報を掲示してないのに3つ目、なんて言わないさ

 私はフェアな関係が好きなんだよ」

「そうかい、じゃあ、改めて3つ目と行こうか」

「どうぞ」

「お前らは…俺達と敵対するつもりは無いのか?」

「場合によっては敵対するよ。まぁ、借りは返そうかなって思ってるから

 すぐに敵になるって事は無いけどね」


すぐに敵対関係にはならないと、それはありがたいと言えばありがたいな。

まぁ、敵になる可能性は十分あるから安心は出来ないんだけどな。


「これが3つか。奇妙だね、魔法を強化する方法を教えて欲しいって聞かれるかと」

「仲間を殺す行為を知っても意味は無いだろ?」

「あぁ、そうだったね」


仲間を殺すような手段を知っても、何の意味も無い。


「…それじゃあ、これで3つだね…私は約束を守ったんだ、君も約束は守ってくれるよね?」

「あぁ、追いかけたりはしねぇよ、約束は守るさ」

「ありがとう」


フェミーはゆっくりと玉座から降りてきて、俺の横を通っていった。


「お前の仲間は一番下だ、ケースは玄関近く。

 ケミーは奥の廊下だ、怪我の具合だが、ケミーの方が酷いぞ。

 一応、止血はしたが、しばらくは動けないだろうな。

 片足と両肩を撃ち抜いたんだ、抵抗されたら厄介だからな」

「別に攻めないよ、死ななきゃ安いからさ」

「そうだな…ケースの怪我の具合は良く分からないが

 あっちも相当な怪我だ、そこまで派手な出血はしてないがな」

「…ありがとうね、そんな細かく」

「死なれちゃ夢見が悪いからな、分かったらさっさと消えろ」

「分かったよ」


フェミーが扉を開け、外に出て行ったのが分かった。

…これで良かったのか? ここで捕まえていれば…

いや、でも…やっぱりこれが1番だったかも知れない。

あいつの言うとおり、このまま戦ってたら…俺もヤバいだろう。

一応止血はしているとは言え、結構キツいからな。

でだ、戦闘なんてしてたら多分ケミーは死んでいるだろう。

何処までの長期戦になるかは分からないが、防御が相手なら

結構な時間がかかりそうだからな…

お互いの為にもここは取引にした方が良かっただろう。


「……フレイ」


俺は少しだけ間を開け、フレイが眠ってる場所に移動した。

フレイはまだ気絶している。

呼吸はしてるし脈もある…まだ大丈夫か。

長期戦になってたらどうなってたか…なんて、考えたくないな。


「……もう消えたんだな」


上に行く前にケースが倒れていた場所を見てみたが、瓦礫は転がっているが

ケールの姿は無い。

と言う事は、もうすでにケミーの方も逃がしたって所か。

多分転移魔法だろう……じゃあ、扉を開けるか。


「リオさん! その怪我は!?」

「あぁ、アルル…何でドアの前に?」

「リオさん達を探してたんですよ! 城の中を探しても

 リオさん達の姿は無いし、敵兵の姿もありませんでした。

 …だから、何処に行ったのかと必死に探してたんです。

 そうしたら、リオさんが扉から出て来て…何処にいたんですか?」

「あぁ、ちょっと隠し扉があってな、そこに敵がいたんだ。

 でもまぁ、トラップがそこそこあってこのザマだ。

 あいつらも逃がすし…ったく、最悪だな」

「そうなんですか…逃がしたのは残念ですけど、無事で良かったです!」

「まぁ、俺は大丈夫なんだが…ちょっとフレイが…

 俺を庇って食らっちまって、急いでフレイの手当をして欲しいんだ」

「分かりました! お任せください!」


…はぁ、これで良いか、何とかなって良かったぜ。


「…ありゃ?」


やっぱりこの出血はキツかったか、は、足に力が入んねぇや。

取引の方を選んで正解だったな…こんなザマじゃ、勝てる分けねぇや。


「リオさん!」

「あー、大丈夫だ、これ位はよくある…それよりもフレイだ。

 あいつ、俺よりも重傷だ…骨折してるんだ…早く頼む」

「…分かりました」


……何とか助ける事が出来て嬉しいよ。

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