戦況の壊し屋達
「さぁ、派手に行くぞ!」
ミロルから貰った2挺のベレッタを構え、人形達へ攻撃する。
「そこ!」
完全に包囲されようと、頼れる仲間がいればどうとでもなる。
この場には俺達全員が揃ってる。
戦況が不利でも状況は容易に覆せるさ。
戦況は壊す物、例え不利でもぶっ壊してやるよ!
「しかし背中合わせね、さっきまではアルルとだったが」
「どっちが頼り甲斐がある?」
「言うまでも無くお前だな」
「ぐは!」
俺の言葉が聞こえたのかアルルが激しいダメージを受けた。
「ま、まぁ…流石に分かりますけどね…即答ってのはキツいです」
「気をしっかり持ってくださいアルルさん…相性の問題だと思いますわ」
「いえ、分かってます。分かってますよ? 分かってますけどね…」
流石のアルルもこの言葉にはダメージを受けたようだった。
「こんな状況でもブレないの凄いわね、あなた達」
「お前も話をしながら周りを排除してるんだし同じもんだろ」
「そりゃそうよ、相手はただの人形。手加減が不要なら楽なもんよ」
「手加減が必要かどうかってのは重要要素だな」
相手は人形だ、人形相手なら手加減は一切必要無い。
人が相手なら流石にまだ多少は躊躇うが、人形なら躊躇いなんて一切ない。
「っと」
「ふふ」
俺はミロルの背後から飛びかかってきた人形を撃ち落とす。
ミロルは俺の背後に飛びかかってきた人形を撃った。
良いね、こう言うの、憧れてたんだ!
「は! 面白いもんだな!」
「こう言うの憧れてたわ」
「同じく!」
お互いの背中をお互いが守り周りを排除していく殲滅戦。
こう言うのは本当に憧れていた。
しかも2挺拳銃だ、余計にグットだ!
「嬉しいわ、相手が人形で。相手がもし人だったら」
「こんなにもハイテンションにゃならなかっただろうよ!」
数々の敵を薙ぎ倒す主人公とそのパートナー。
どっちが主人公でどっちがパートナーかな?
まぁ、俺からして見りゃミロルがパートナーで俺が主人公。
ミロルからしてみりゃ、俺がパートナーで自分が主人公だろうよ。
「リロード!」
「分かったわ!」
俺は弾が切れたベレッタを投げる。
同時に自分の手元には新しいベレッタ。
ミロルの召喚魔法をフルに使えばリロードに時間は掛からない。
「私から離れたらこの手は出来ないから、離れたら駄目よ?」
「分かってるよ、最初からな!」
「全く、こんなに最高の気分はないわ!」
「人形ってのが裏目に出たな」
「えぇ、人形が相手じゃ無けりゃ、ここまで暴れたりは出来なかったからね!」
周囲を軽く見ただけで人形というのが大失敗だというのは間違いない。
フレイは容赦なく人形を粉々に吹き飛ばすことが出来るし
トラとウィングも一切の情けなしに敵を屠れる。
俺達からして見れば、こいつらはただの動く的でしかない。
そりゃあ、大人の図体だとこの相手は苦労するが
子供からして見りゃ、この図体はむしろ好都合だ。
「ほらほら! 全くもって手応えがないわね!」
「雑魚を揃えても俺達には届かねぇよ!」
ただの人形相手にこのメンバーが揃って負ける訳がない。
状況はいとも容易く覆り始めていた。
さっきまで優勢だったはずの人形部隊が激しく動揺を始めた。
そりゃあ、これほどの数を揃えてでの襲撃。
更には夜襲だぞ? それなのに仲間はドンドン倒されていく。
こんな状況、動揺しないはずもない。
「さて、状況はこっちが優勢になって来たな」
「そうね、造作ないわ」
「いやぁ、こう見てみるとリオさんが倒してきた勢力がどれ程か分かりますね」
「アルル、どういうことだよ」
「だって、ミロルさんもメルさんもリオさんが倒したような物ですよ?
その2人が仲間になって、この殲滅能力…凄まじいです」
「そうね、それじゃあ、一気にぶっ潰しましょうか!」
「そうだな!」
俺達の攻撃は続き、人形達は撤退を始めた。
状況は結構不利だったはずだが、俺達の参戦で容易く覆る。
自分で言うのも何だが、俺達は結構強いな。
まさしく戦況の壊し屋。もしくは荒し屋だな。
「ふぃ、さて…これで休める」
「いや、そうは行かないみたいだな」
兵士達が一斉に追撃を始めた、どうやらこのままの勢いで追い込むみたいだ。
「スティール、やる気だな」
「恐らくですが、このままだと不味いと判断したのでしょう」
「何でよ」
「夜襲を受けたんだ、しかも短期間でな。
つまり、向こうは戦力を早急に編成することも出来るし
夜間の間でも動ける能力を有している…と言う事になる。
そんな奴ら相手に防戦ばかりじゃこっちが消耗して負ける。
適切な判断だ、攻め込める内に攻め込んだ方が良い。
流石に向こうもこの短期間で兵力を早急に編成は難しいだろうしな」
せめて1つは落としたい…そう言うことだろう。
「追い込め! 追撃! 長期戦は不利だ!」
「スティール様、私にも追撃の指示を」
「でもあなたは…いや、良いわ、護衛は不要ね、行ってきなさい!」
「承知いたしました」
「追撃を仕掛けるようだな」
「えぇ、あなた達のお陰で状況は優勢になったからね
それに…このままだと」
「理解してる。お前の判断は正しい」
「ありがとう、あなた達も追撃をして欲しいんだけど」
「任せてよ!」
「俺達がいないと負けるだろ?」
「いやまぁ、そうなんだけどね…頼むわよ」
「あぁ!」
俺達も他の兵士達に続き、追撃を始めた。
正直、ちょっと眠いんだけど問題は無いだろう。
「進軍は順調、襲撃が来ても容易に排除できるし
それに何だか向こうの動きが雑になってる気がするわ」
「そりゃあ、相手は子供だ…こんな衝撃的な場面を見れば動揺する。
子供ってのは未知には強いが衝撃には弱いもんだ」
単純だからな、だからこそ衝撃には非常に弱い。
だが、未知は簡単に受入れるから強いんだよな。
「ふーん、まぁ、私達に取って有利なら別にどっちでも良いわ!」
俺達の進軍は続いた、そんでようやく見えてきた敵の前線国。
見張りは全部人形か…まぁ、当然と言えば当然だがな。
「攻め込め!」
今回は正面からの攻撃…何だかんだであまりしなかった手段だ。
基本的に俺達は内側から壊したりがメインだったからな。
今回ばかりは特別だ。
「人形が来たぞ、迎撃!」
「ふん、ただの傀儡が」
メイルが単身で人形の群れへと走り込み、圧倒的な速さで人形を排除した。
「あれは…かなりの手練れ」
「マナが言うって事は相当なんだな」
「うん…あの人と1度だけでも手合わせして貰いたい…」
「俺は勘弁して欲しいが…でも、クリークとどっちが強いんだろうか」
めちゃ強い兵士と兵士…どっちが強いかは気になるよな。
でも、あの攻撃速度は…恐ろしいの一言だ。
「動きがまるで素人…私が前線に出ていればここまで酷くはならなかったはず」
この動きは凄まじいな、正確に素早く敵の攻撃を捌く。
飛びかかってきた人形の攻撃をすぐに流して、瞬時に首を刎ねた。
攻撃の一撃一撃も相当だ、人形の持って居る剣を一撃で弾き飛ばしたり
素早く間合いを詰め、正確に首元を貫く。
相手は背が低いはずなのに、そんな事も関係無しに素早く潰していく。
「まぁ、こいつが戦場に出ていても、戦況は変わってなかったと思うがな」
「何故です? あれほどの動きなら」
「流石にこの数相手に1人で戦況を変えられるわけないだろ。
魔法が使えるならまだしもな」
魔法が使えるなら殲滅能力が高いから覆す事が出来る。
だが、武器だけの戦闘では殲滅力の問題で殲滅より先に体力が尽きるだろう。
「まぁ、この状況ならかなり頼りになるがな」
あいつの圧倒的な戦闘力を眼前にしたら、ただの子供なら震え上がる。
精神攻撃は基本中の基本、戦力差が圧倒的ならなおのことな。
「メイルに続いて突撃! 一気に攻め込む!」
完全に攻勢に移ったな、まぁ、メイルを動かした地点で確定だがな。
今まで密かに動かしていたメイルを大々的に動かす。
それは奥の手を見せるのと同じ事だからな。
「街に突入しました!」
「よし! 一気呵成に攻め上がれ! 状況は我らにあり!
敗北の歴史を砕き! 勝利を得るのは今だ! 全軍! 進めぇ!」
「うおぉおおおお!」
スティールの号令で兵士達の士気は盛大に跳ね上がる。
初の土地奪還、敗北はこれでお終いだ!
「俺達も行くぞ!」
「はい!」
俺達も兵士達に合せ、敵国に侵入することに成功した。
街は一般人が多い…つまりだ、避難が出来ていないと言うことか。
対処が遅すぎるな…そもそも人形以外の敵影が見えない。
完全に戦力や軍事力は子供達に任せてるって事か?
もしそうならこの状況も多少は分かる。
子供に冷静な判断が出来るとは思えないしな。
「城よ! 城に攻め込みなさい! 民間人は無視よ! 手は出さないで!」
周囲から攻めてくる人形達を排除しながら、俺達は城に潜入した。
最初に城に突入したのはフレイ、次に俺だった。
「よーし! 一気に倒すよ!」
「先行しすぎだっての!」
「大丈夫! 人形だけなら敵じゃないよ!」
「いや、でもなぁ…ま、後続も来るだろうし…?」
いや、待てよ…背後の扉が閉まった? いや、そんな馬鹿な。
「ありゃ? 何でドア閉めたの?」
「いや、俺じゃ…」
俺達が少し動揺していると、無線機がなる。
「おい、なんで誰も来ない」
(いや! あなた達何処行ったのよ!?)
「はぁ? 城に入ったんだ、フレイと一緒に」
(城に入った途端、あなた達いなくなったわよ!? 何処行ったのよ!)
「は?」
……どういうことだ? 俺達は確かに城に入った…筈なんだけど。
「…まさか奥の手を使う事になるとはね」
「何だ? お前…子供か?」
「どうも、一応状況を教えようか…君達には飛んで貰ったんだ」
「は!?」
「転移魔法と防御魔法、この2つを扉に仕掛けてね
でも、仕掛けるのが遅かった、君達2人は侵入してきたから」
「……じゃあ、お前らを潰せるのは俺達2人だけって事か?」
「そう言うことだね、因みに言うとここは別の空間なんだ
城内に侵入した兵士達はこの場所には入れない。
向こうは城に入っても誰1人敵がいない状況って訳だ」
「全部言うんだな」
「だって、君達を殺せばそれまでだし」
「出来るよ…だって2人だけじゃね」
彼女が指を鳴らすと、小さな女の子が1人と男の子が1人姿を見せた。
「君達の相手はこの2人で十分だ
いや、もしかしたら1人でも事足りるかもね」
「舐められた物だな」
「私達強いよ!」
「…まぁ、見れば分かるよ、君達も魔法が使えるみたいだけどね
…残念だけど、私達には勝てない。
偶然に生まれた魔法使いと私達じゃね」
「おい! それはどういうことだ!?」
「さぁ、どういうことだろうね…私も良くは知らないんだけど
まぁ、もしも私達を倒せるなら、少しくらいはお話ししてあげても良いよ」
そう言い残し、俺達の前に姿を見せた指揮官っぽい少女は何処かへ行った。
「…じゃあ、お前らを仕留めて追いかけるか」
「……ねぇ」
「何だよ」
「私達と一緒に戦わない? そうすれば…きっとあなた達も」
「断るね」
「同じ魔法使いなのに…どうして?」
「お前らが何の為に戦ってるか知らねぇが…邪魔をするなら敵だ」
「……そう、無理矢理は好きじゃないけど…仕方ない」
「ちゃんと死なないように手加減するけど…その、出来れば戦いたくないなぁと」
「それは無理だよ」
子供を相手にするのは何か嫌だな…だが、やるしか無いだろう。




