激しい混乱
ったく、まさかの襲撃か…しかも夜間。
「面倒なタイミングに来るな、そもそも視界が悪いのに」
俺は急いでウィンに全員を起すように指示を出し
自分はさっさと迎撃態勢を取るために城壁へ向う。
「何だ! 何処から襲撃が来たんだ!?」
「い、急いで兵を起せ!」
兵士達の動揺はかなりの物だった、そりゃあ夜襲なんて想定外だろう。
一応念の為になのか見張りを置いていたようだが、そもそも見張りも良く気付けたな。
「…待てよ」
考えてみればだ、見張りがこの暗闇で視認できる距離って…相当!
「城壁が突破寸前!?」
「はぁ!? 何で!」
やっぱりそうだよな、目の前まで来てるだろう。
ち、こりゃかなりヤバい…兵が整うまで時間はあるだろう。
複数の兵士達を動かすんだ、時間がかかるのは当然だ。
どう考えても兵が整った後からでは城壁内に侵入される。
民間人を誘導するために兵を裂くことも難しいだろう。
つうか、見張りの数は知らないが、気づいたのが寸前なら詰みだな。
「これは相当不味いですよ…」
「あぁ、全くもってその通りだ」
戦力差もかなりあるのに状況的優位性もない。
むしろ状況は不利…八方塞がり、普通なら打破の方法も見いだせない。
完全に詰んでる…あぁ、完全にお終いだっただろう。
戦力差、状況の圧倒的不利、この2つだけで敗北は確定だっただろう。
「よし、着いた!」
「どうします? 数はかなり…それにもう城門は突破されてるようですし」
「…やるしか無いだろ」
M21の2挺召喚、本来の運用法とはかなり違うな。
そもそも狙撃銃を持って接近する地点でクレイジーだ。
ましてや狙撃銃の2挺だぞ? 使えたもんじゃねぇ。
形状的にも本来は2挺同時に使うもんじゃないし。
それでも俺の低い殲滅力をカバーするにはこれが1番だ。
VSSを召喚する時間は結構あるし、この場面では召喚は難しい。
だから、比較的早く召喚出来て、かつ多少は殲滅力のある運用法となれば
この方法しか無い…まぁ、1度使ったこともある、扱える!
「さて、こっちに来たぞ…暗がりであまり見えねぇが」
「接近された場合はお任せください」
「アルル、あの人形を倒すには急所を潰すしかない。
頭部か心臓だ…出来るか?」
「愚問ですね」
「じゃあ、頼むぞ!」
俺はM21を構え、こちらに向かってくる人形達の迎撃体勢を整えた。
人形達は迷うことなくこちらに向かってやってくる。
「そら!」
あまり連射は出来ないし狙うのも難しいが、頭部を狙うだけなら簡単だ。
最優先殲滅対象を見いだして、そこから順当に排除していけば問題は無い。
まぁ、大きな問題があるとすればリロードだ。
「くぅ! やっぱり多いな!」
「接近されます!」
「対処しろ!」
「分かりました!」
俺がリロードをする間にアルルが何とか相手を撃破してくれている。
その間にリロードをして、対象の攻撃に移る。
それを何度か繰り返すが、流石にこの数…アルル1人でリロードの間
全て捌ける訳がなかった。
「不味い! リオさん! 抜けました!」
「…ち!」
今はリロード中…クソ!
「この!」
俺は接近してきた人形に向って右手に持っていたM21を投げつけた。
人形には当たり、少しだけ怯むが、すぐにこちらに向かってくる。
このままだと不味い…そ、そう言えば!
「よし!」
俺は納めていたセキュリティシックスを取りだし、人形の眉間を撃ち抜く。
考えてみれば持ってたじゃ無いか、俺は寝るときは外に出して寝るが
今回は恐い夢を見たお陰でセキュリティシックスを持って行ってたんだ。
正直、幽霊相手に銃火器って何の意味があるか分からないがな。
「ふぅ、まさか夢に救われるとは思わなかった」
「リオさん! だいじょう、痛! こ、この!」
「アルル!」
不味い! アルルが攻撃を受けたぞ!? 流石に数が多いか!
「この程度…くぅ…でも、やっぱり数が多すぎます…
急いで出て来たせいで武器も忘れてきましたし!」
「とか言いながら武器を使ってるじゃねぇか」
「相手から奪ったんです、でもやっぱり相棒じゃないとしっくりきません」
「お前の武器って何だっけ? レイピア?」
「それはシルバーさんです、私のは普通の剣ですよ
まぁ、殆ど使いませんけどね」
アルルに向って別の人形が攻撃を仕掛けてきている。
「使わねぇなら必要無いだろ」
俺はリロードをしたM21でアルルに飛びかかった人形を撃ち抜く。
2挺運用したいが、召喚する時間が勿体ない。
「流石にこんな人形相手に格闘術だけじゃ勝てませんしね」
そんな事を言いながら、目の前に来ていた人形の首を跳ね飛ばす。
「はん、普通に大活躍だな、その剣」
「しかし、手応えが木ですね、やっぱり木造なんですね」
「木で出来た人形の首を跳ね飛ばせるって凄いよな」
「細い部分ですから問題はありませんよ」
「それなら棍棒とかでも行けるだろ」
「棍棒は重い分、複数相手には向いてませんって」
確かに…しかしなぁ、まさかアルルと背中合わせで立ち回る事になるとはね。
俺は接近戦に不向きだから、背中合わせで立ち回る事なんてそう無いのに。
「でも、やっぱりリオさんも凄いですね、この距離での立ち回りが上手いです」
「伊達にフレイにしごかれちゃいねぇよ」
人形の剣撃を回避すると同時に腹部をM21で強打、少し怯んだところを
セキュリティシックスで撃ち抜く。
接近戦だとあまり上手く立ち回れないし、力もそこまでないしな。
でも、人形のサイズは結構小さいし、これ位は出来る。
「どうでも良いけど、お前も背が低い人形相手に良くそんなに攻撃出来るな」
「リオさん達と訓練もしますし、小さい相手を攻撃することは出来ます」
「それ、結構重宝されるな、他の兵士達は小さい奴相手に苦労してるぞ」
一応少々の部隊が到着して戦闘を行なっているが、上手く攻撃を当てる事が出来てない。
小さい相手と今までやり合ってきたとは思うが、やっぱり難しいのか。
だからここまで追い込まれたのかも知れないしな。
「しかし、流石にそろそろしんどいですね」
「この程度で音を上げるか? 俺はあのフレイ相手に30分動いたんだぞ?
因みに今も筋肉痛だ…ちょっと痛いな」
「大丈夫なんですか? 休まなくても」
「休めるか? じゃあ教えてくれよ、この状況…どうすれば休める?」
「失礼しました」
「休めるならとっくに休んでるよ…休めねぇからこうやって戦ってるんだ。
「でも実際、しんどくなってきましたね」
「大丈夫だ…多分そろそろだから」
「リオちゃん! だりゃっしゃぁあ!」
「っと」
俺に飛びかかってくる人形の頭が吹き飛び、体が吹っ飛ばされた。
その後に出て来たのはフレイ…ようやく来たな真打ちが。
「やっときたか、怪力馬鹿」
「お待たせ! ちょっと眠いけど…ふぁぅ…」
「この状況であくびとかのんびりしてるな」
「あはは、ごめん…そう言えばこの敵って皆人形なんだよね?」
「あぁそうだ…だから手加減はいらない」
「分かった! じゃあ、全力全開だねよ!
ねぇ、お人形さん達? 私、あまり本気で戦えないんだ
本気で戦うと相手を殺しちゃうみたいだから…
でも、あなた達なら大丈夫だよね?
だから…本気で遊んじゃうよ? 驚かないでね?」
人形達が少しだけ退いた、どうやらこの言葉はこの人形を操ってるであろう
子供達にもかなり応えた様だ。
そりゃな、正直フレイにこんな事を言われたら…俺だってゾッとするぜ。
「だらっしゃぁ!」
フレイの攻撃は人形の急所なんて狙っちゃいなかった。
腹部を狙っての一撃…しかし、その一撃を喰らった人形は
激しく大破し、バラバラになり周りを巻き込み吹き飛んでいく。
これがフレイの全力…戦車さえ一撃でぶっ壊すほどの破壊力。
そんな化け物みたいな攻撃力を持ってるフレイの攻撃。
そりゃあ、木で出来ただけの人形なら一撃でバラバラだ。
「やり過ぎちゃったかな?」
「相手は人形だ、派手に壊せ、人間じゃねぇんだから」
「分かった! 本気で行くよ!」
もしも人間にこの一撃を喰らわせたら腹に大穴開くな。
そっから腸がドボドボとか…うぇ、グロテスクな。
「はぁ、こりゃ私達が来る必要無かったかもね」
「ミロル」
「元気そうで何よりよ…まぁ、アルルの方は結構酷いけど」
「さほど酷くはないですよ? 2箇所攻撃食らっただけです」
「血が出てるわよ?」
「かすり傷ですよ、この程度」
「意地張るなよ、お前こそ休んでろ」
「あはは! この程度でへばってるようじゃ駄目駄目ですよ!
私はリオさんが負ってきた怪我とかを見てますからね、
その怪我と比べれば本当にかすり傷です」
「俺の致命傷と比べるなよ」
「致命傷じゃなければ軽い物ですよ」
致命傷とか、負えば普通なら死ぬと思うけどな。
「魔道兵!」
そんな事を考えていると、魔道兵の姿、メルだな。
「こう見ると、私達って相当な戦力よね」
「あぁ、人形達の攻撃、全く魔道兵に入ってないし」
人形達は突如現われた魔道兵へ攻撃を仕掛けるが全て効果は無い。
そりゃあな、魔道兵を破壊できるのは相当の規格外だけだろう。
クリークとかフレイとか…普通はそれ位の攻撃力が無きゃ勝てない。
まぁ、トラとシルバーはそんな相手に対し、計略や知識で勝利したわけだがな。
「ウィング!」
「任せて!」
今度はいくつもの武器が上空から降り注ぎ人形達を撃ち抜く。
まるで雨だな、触れたら即死の雨とか嫌すぎるか。
雨が降ろうと槍が降ろう取って言葉があるが
実際に槍なんて降ってきたら、この人形達みたいになるだろう。
「…私、やることが無い」
「まぁ、催眠術だからな、お前の魔法」
「暇…」
「それなら…私も」
「私も」
ウィン、マル、フランの3人は同じく退屈をしていた。
まぁ、ウィンはテレポート、マルは位置把握、フランは催眠術だ。
戦闘で相手をぶっ潰すって感じの役は出来ないが
この3人がいなければ不味い状況はまず間違いなくある。
サポートってのは重要だからな。
「ほら」
「っと、ん? ベレッタを俺に渡してどうするよ」
「私達もやるって事、正直あの4人に任せてれば問題は無いだろうけど
流石に多少は戦わないとね」
「だな、やるか」
「2挺拳銃とかどう?」
「悪くない」
もう1挺のベレッタを貰い、俺達も攻撃を始めることにした。
さて、暴れようか! 状況はいつでもぶっ壊してやるよ!




