就寝
「し、死ぬかと思った…」
「あはは! 楽しかったね!」
「俺はめっちゃ疲れた…もう寝る」
はぁ…あと少しで窒息するところだった。
なんか今日はいつもの何倍も疲れた気がする。
いやだってさ…合同訓練って面倒極まりないし。
まぁ、部屋でのんびりと過ごして気を落ち着かせるかな。
「……あ」
ヤベ、気を落ち着かせようとこっちの世界の小説に手を出してみたが
ちょっと夢中になりすぎてスゲー夜遅くになってしまった。
もうフレイ達は寝てるし…そう言えばシルバーが寝ないのか聞いてきた気がする。
フレイ達は暗いと眠れないから部屋の明かりは付いたままだ。
そのせいか時間の間隔がとち狂ったというか…
しかし、まさか小説に夢中になるとは思わなかった。
正確には小説に書いてある言語が読めないから解読してたら遅くなったわけだが。
そのせいで本の内容はまるで覚えてない、解読の方が楽しくなってしまった。
ああでも無いこうでも無いと色々と考えてようやく文が出来た時の喜びは凄かった。
一応書類にも目を通して多少は教えて貰ってたからな、言語。
発声言語は同じなのになんで書く方は違うのか…面倒だよなぁ。
まぁ、あの書類を読んだお陰で色々と分かって今楽しめたわけだけど。
「…どうすっかな」
今は深夜3時、寝るか寝まいか…いっその事徹夜してみるか?
徹夜なんて結構久し振りな気がするしな、毎度毎度周りからは早く寝ろと言われてたし。
今回はなんで言われなかったんだろうか…いや、言われたけどガン無視しただけかな。
もしくはシルバー達も疲れてたから、すぐに寝ちまったのか。
「…便所に行って寝るか」
確か明日も訓練するって言ってたきがするし、やっぱり寝た方が良いだろう。
問題は便所だな…何処だっけか、部屋に常設されてないのはちょっと面倒だな。
「全く、城なんだから一部屋一部屋便所があれば良いのに」
扉を開け、外に出てみるとまぁ真っ暗だ。
当然か、こんな時間だし…とりあえず明かりが欲しいな。
そう言うときの手段は大体魔法だ、っと、アタッチメントにライト付けて。
つうか狙撃銃を懐中電灯の代わりにするって色々とヤバいよな。
「お姉ちゃん」
「うぉ!」
部屋から出て少し歩くと後ろから触られたと思うとウィンの声が聞こえた。
「な、なんだよ、暗闇で後ろから触れるとかちょっと驚いただろ?」
「ご、ごめんなさい」
「謝ることはないって、ちょっとビックリしただけだ。
まぁ、今度からは先に声を掛けた方が良いぞ?」
「う、うん…」
「で、どうしたんだ? 良い子はもう寝る時間だろ?」
「…えっと、私、トイレに行きたくて目が覚めたんだけど…
へ、部屋から出たら暗くて恐くて…皆を起すのは悪いし
お姉ちゃんも本をずっと読んでるから声を掛けられなくて…それで…」
「なんだ、お前も便所か」
「も、もう漏れそうなの…」
「はぁ!? ちょ! 我慢しろ! すぐ探すから!」
「ま、待って! 走らないで! こ、恐いから! 後、漏れそうになる!」
「あ、わ、悪かったな」
「ね、ねぇ」
「ん?」
「手を繋いでも良い? 暗いから恐くて…」
「まぁ、別に良いぞ」
ウィンもまだ小さいからな、やっぱり恐いんだろう。
俺は別に暗いのは問題ないんだけどな、暗闇は最高の迷彩だ。
潜入する場合は暗闇ってのは本当に便利だしな。
だから、その気になれば暗闇でも色々と見れる。
今はアタッチメントを使ってるけどな。
「ったく、何処だよ便所」
「うぅ…」
「んー? あ、あった!」
「ほ、本当!?」
「ったく、迷路かっての」
ようやく見付けたトイレ…しかし、なんか不気味な雰囲気だな。
「…ほ、本当にトイレなの?」
「おかしいな、城のトイレには見えないが…」
汚すぎるだろ…城の便所なんだから少しくらいは手入れをしても良いだろう。
「なんか気味悪いな、別の所行くか」
「ま、待って…も、もう我慢できない!」
「だぁ! 分かった! 仕方ないな」
はぁ…まさかこんな便所に入る事になろうとは…なんか臭いし。
「うぅ…」
「こりゃ汚いな」
「1人は恐いから…一緒に…」
「分かったって、外で待ってるから」
「駄目! 一緒に!!」
「…わ、分かったよ」
なんで個室に2人で入らないといけ無いんだ?
いやまぁ、確かにこんな気味の悪い便所、1人じゃ入りたくないが。
と言うか、電気とか付いてなかったぞ? 一応テレビとかもある筈なのに。
「…何か幽霊でも出て来そうな便所みたいだな」
「かも知れないね…」
「例えばほら、このタイミングで外から足音とか」
……え? なんか聞こえるんだけど、こつこつと聞こえるんだけど。
ちょっと待て、おかしいぞ…この便所の外はカーペット
なんで足音がこんなにも響く? まるで足下が石みたいな。
「あ、足音が聞こえる…」
「なんだ? 何が来てる?」
ぶ、不気味だ…あ? 扉が開くような音が聞こえた?
2つくらい向こうの個室…あ、これはヤバい奴だ。
「……これってもしかして」
扉が閉まった音が聞こえた後…またすぐに扉が開く。
あ、これはヤバい奴だ…ヤバい奴だろこれ…
「隣の扉が閉まった?」
あ、足音がこの個室の前で止まった。
「うぉ!」
と、扉がめっちゃ叩かれてる! ガチャガチャと…まさか無理矢理!?
不味い不味い不味い! これは不味い! い、急いで押さえないと!
「うぐぅうう!」
…しばらく時間が経ち、扉を開けるのを諦めたのか音が止んだ。
はぁ、これで助かった…なんて行かないのが恐い奴だ。
これで…扉の上を見たらそこには幽霊が…
「…あれ? いない」
いない? 幽霊が覗いてるって事は良くあるのに…それが無い?
「……なん」
「……お姉ちゃん」
「あ? な! ウィン…なん」
後ろを振り向き…そこにいたのはウィン…のような何かだった。
目からは血を流し、服はズタズタ…それに…なんでナイフ…を
「あ…」
嘘…ささ…
「うふ…うふふ…あはははは! あはははは! お姉ちゃん…おねえちゃん、オネエチャン」
「あぐ…あ」
何度も何度も何度も何度も…床が…俺の腹から拭きだした血で染まっていく。
は…なんで…うぐぅ…意識が…
「オネエチャン、オネエチャン! おねえちゃん! おねえちゃん! お姉ちゃん!」
「う…んぁ」
視界が真っ暗になった後もその声は聞こえ続ける。
目は開けたくない…あんな姿の…ウィンは見たく無い…
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
う、うぅ…うぐぅうう。
「お姉ちゃん!」
覚悟を決め、目を開けると…そこにはウィンの顔があった。
「のわぁああ!」
「ほえ? ど、どうしてそんなに驚いて…」
「……? ?? !?」
し、心臓がバクバクと…え? あれ? ウィンが普通…
ん? え? んん!? んんん!? 何!? は!? え? は!?
「ど、どうしたの? そんなに青ざめて…」
「え? あ…え? あ、うぃ、ウィンか?」
「え? そうだよ?」
「ゆ、幽霊とか…」
「幽霊!? 何処!?」
……ゆ、夢? 夢だったのかあれ、夢? は? あ、あは、あはは…
な、なんだよ…夢だったのか…多分あれだな。
呼んでた小説の内容がホラーだったから夢に出て来たんだろう。
やっぱり寝る前にホラーなんて見るもんじゃないな。
「ゆ、夢か…」
「夢? 夢ってどんな夢? きっと凄く怖い夢…だったんだよね?」
「あぁ、そうだな…お前がスゲーことになってた」
「ねぇ…それって…こんな感じ?」
…目の前に現われたフレイ達…全員、あの時のウィンと同じ顔だった。
全員血まみれのナイフを手に持ち…俺のからは赤い血が噴き出している。
「う、うわぁあああああ!」
「あだ!」
「いだ!」
い、いてぇ…超痛ぇ…頭が…痛い。
「う、うぐぅ…」
「痛た…あ、大丈夫? お姉ちゃん」
「ぬわぁああ!」
「…え?」
し、心臓が飛び出る…呼吸がめっちゃ荒くなってるのも分かる。
「ど、どうしたの?」
「…こ、今度こそ夢じゃなよな!?」
「え? 何の話し?」
「…い、いや、な、何でも無い…」
「そ、そうなんだ…」
「でも、また随分と暗いな」
「あ、う、うん、実はお姉ちゃんにおトイレに付いてきて欲しくて」
「断る!」
「なんで!?」
「トイレはもうやだ…」
「え? で、でも、私1人で行くの恐いし…」
「ほ、他の奴に頼め!」
「お、お姉ちゃんくらいしか…うぅ…もう我慢の限界で…
さっき当った時にちょっとだけ漏れちゃったけど…」
「ぐ、ぐぅうぅ!」
し、仕方ない…仕方ない…ぬぅううう! 何でまた便所。
しかもさっきと同じ流れじゃねぇか、暗いぞ?
くぅ…し、仕方ない、念の為にこいつを持っていこう。
意味があるのか分からないけど…お守り的な感じで。
「暗いな…」
「ご、ごめんなさい…こんな時間に起しちゃって」
「…い、いや、まぁ、うん、仕方ないよな」
「トイレ…何処だろう」
「……あ、あれだろ」
「ほ、本当だ!?」
今度見付けたトイレは綺麗なトイレだった、電気も付くし。
「ありがとうお姉ちゃん!」
「あぁ、行ってこい」
「…えっと、一緒に来て欲しいんだけど」
「綺麗だし明るいんだから1人で良いだろ!?」
「で、でも…やっぱり恐いし…」
「いや、ひ、1人で…」
「お、お願い…お姉ちゃん」
ぐ、ぐぬぬぬぬぅうぅう!
「わ、分かったよ! 一緒にはいれば良いんだろ!?」
「ありがとう!」
はぁ…まさかまた一緒に入る事になるなんて。
いや、またって違うだろ、それは夢の話で。
さ、流石に今回は足音なんて聞こえないだろ。
「あ、足音…」
「……」
……自分でも全身から汗が出てくるのが分かった。
な、なんで足音? ちょっと待って、あの夢と同じじゃん!
待て! そ、そんな馬鹿な…そんな馬鹿な!
お、落ち着け…冷静になるんだ…冷静に…
「ノック?」
何でだよ…個室他にもあるじゃん!
「……ね、ねぇ、お姉ちゃん…」
こ、こうなりゃやけだ! 幽霊だろうと何だろうと掛かってこいやぁ!
「あ、開ける!」
「え!? ま!」
「おらっぁあ!」
俺は扉の向こうにいるであろう誰かに攻撃するようにトイレのドアを蹴飛ばす。
「へ? あだぁあ!」
やった! 効果あり! …あ、あれ? いや、これは。
「あ! アルル!?」
「あ、あはは…お、おはようございます」
「なんでお前!」
「いやぁ、部屋から出るお2人を見て、驚かせようかなって悪戯心が」
「殺す!」
「ほえぁ!? 待って待って待ってください! 目がマジなんですけど!?
今までも結構ありましたけどその中でも最上級レベルに目がマジなんですけど!?」
「お前は絶対に処す!」
「いや! 目が! 目が恐いです! ちょっとした悪戯じゃないですか!
可愛いもんでしょ!? 普段に比べるとかなり可愛らしいでしょ!?
そんな本気で怒らなくても! あばぁ!」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ」
「ば、馬鹿な…まさかこの私がリオさん素手の一撃でここまで食らうとは…」
そう言い残し、アルルはその場でグッタリと倒れた。
気絶したな、ちょっとやりすぎた気がする…あ、手が痛い。
「い、いてぇ…」
「殴った方も痛いって…」
「やり過ぎたな…これは」
そんな時、聞きたくないけたたましい音が響いてきた。
この音は…敵襲を告げる鐘!? 何でこんな!
「は! この音は!」
さっきまで気絶していたアルルがすぐに音に反応し、目を開け立ち上がる。
「何でこんな深夜帯に! クソ! 急ぐぞ!」
「はい!」
「ま、待ってお姉ちゃん! 私まだおトイレが済んでない!
まだ大きい方が!」
「だぁ! さっさとしろ! 時間ないんだから!」
「う、うん!」
まさか夜襲を掛けてくるとは…面倒すぎるぞ、こりゃ。




