幾多の傷痕
「今日は凄い訓練した気がする!」
「そ、そうだな…」
「あなただけボロボロね」
「フレイの相手になるの、俺くらいしかいねぇし…」
はぁ、やっぱりフレイ相手に接近戦は無理があるっての。
でもまぁ、こいつのお陰で接近戦闘はそこそこ戦えるようになっている。
こいつとやり合うのに生半可な技術じゃ手も足も出ねぇし。
「私も少しだけ挑んだんだけど…全く勝てなかったよ」
ウィングも一応フレイの相手をしてくれたが、フランほどでは無いにせよ
すぐに倒れた…まぁ、1分も持てば良い方だと思う。
フランなんて5秒くらいでやられたからな。
「フレイに戦いを挑むのは間違えてると思うけどね」
「そう言うお前も挑んだろ?」
「あはは…30秒位でやられたけど」
「フランは5秒だから大丈夫だ」
「…接近戦は苦手」
「なら喧嘩を売るなよ」
「お、お姉ちゃんとして…あ、痛い」
やっぱりフレイの相手が務まるのは俺くらいか。
「こう聞くと、リオさんの30分の記録がどれだけ凄いか分かりますね」
「こいつにしごかれてるしな…後は何処かの変態の相手してるし」
「うーん、体格差がかなりある筈なのに的確ですからね
でも、力は昔とあまり変わりませんよね。
いやまぁ、怪力のリオさんとか想像できませんけど」
「何でだよ」
「体格がね」
「チビで悪かったな! そもそも体格をネタにするならお前もだろうが!」
「私の何処が」
「胸」
「ふぁ!」
一応少しはあるみたいだが、小っちゃいからな。
「…む、胸の何処が…」
「知りたいのか?」
「いや! 止めてください! 気にしてるんですから!」
「そっちだって気にしてることネタにしてるだろ? だから俺もネタにしてやる」
「待ってください! もう言いません! そもそもネタにはしてませんけど。
小さい体格だけどワイルドな幼女…ありだと思います!」
「うっせぇなペチャパイ!」
「がは!」
普段精神的ダメージは殆ど無いアルルだが、どうやら胸の話には弱いらしい。
だってあからさまにダメージを受けてたからな。
「く…そ、その内大きく…」
「お前はもうほぼ20だろ? 成長しきってるよ」
「がふぁ!」
「多分こいつらが成長したら皆お前よりもデカくなるだろ」
「ぐ、ぐにゅぅ…しかし! 私の予想ではフレイさんは小さいままです!」
「ん? 何が?」
「いや、案外こう言う奴がデカくなったり」
「う、運動が出来る人は胸が小さいという法則が!」
「シルバーがその法則に当てはまってないが?」
「ぐぬぬぬぬ!」
「アルルさん、胸は飾りだと前」
「くぅうぅ!」
でも気にしてるんだな、ふ、いやぁ、いじり甲斐がある。
普段は散々やられてるからな、反撃できる内に反撃しないとな。
「胸ですか、必要無いと思いますがね」
「お前が言うと説得力あるな鬼畜メイド」
「一応言っておきますが、そこの変人と違って私は胸とか気にしてません」
「しれっと変人って言っちゃうんですね。
いやまぁ、言われ慣れてますから否定はしませんが」
「言われ慣れてる? え? あ、はい…え? 事実なんですか?」
「事実です」
「…自分で言っちゃうんです?」
「何か問題でも?」
「……えっと、何と言いますか…あ、いえ、何でも無いですはい
え? えっと、この人普段からこんな感じなんですか?」
「普段はもっと酷いぞ」
「そんな化け物を見るような目で見ないでくださいよ」
「…さっきの会話、冗談ですよね? リオ様としてた会話」
「冗談? いえ、本気ですよ、ワイルド系幼女、可愛いと思いません?」
「…リオ様」
「あぁ?」
「同情します」
「鬼畜メイドも同情するんだな」
「やっぱり同情はしません」
「簡単に意見変えるんだな、まぁどうでも良いが」
しかし、こいつも動揺なんてするんだな。
それだけアルルの存在は異様だって事なのかも知れない。
「後、あなたも結構タフなんですね、予想外です
見た目通り貧弱で貧相で根性の欠片も無いひ弱なガキなのかと」
「お前、そんな奴が今まで生き残ってると思ってるのか?」
「少なくとも根性は異常なくらいありますよ、リオさんは」
「何度も死に掛けてるからね、体の傷を見れば分ると思うけど」
「体の傷? 気になりますね」
「そんなに酷くは無いと思うが」
とりあえず着ている軍服を少しだけたくし上げて腹の怪我を見せてみた。
何発も弾丸を受けてたりするからか、傷痕が割と残ってるな。
で、今日の訓練のせいなのか少しだけ痣も残ってる。
「…これは」
「リオさんのお腹、見たいです! 見せてください!」
「お前には見せん!」
「ごふぁ! な、何ででふか! 私とリオさんの仲じゃないですか!
お腹くらい見せてくれても良いじゃ無いですか! 怪我の手当の度に
傷だらけで血まみれの体を見てたりはしますが
痛々しすぎて全然嬉しくないですし!」
「結局今も痣だらけだが?」
「いやまぁ、大量出血してる姿よりはマシかなーと」
「……失礼、やはりあなたの事を過小評価しすぎていた様ですね」
「お? 反省するのか?」
「流石にそれ程の傷痕を見せられれば…私も兵士としてあなたを評価しますよ」
「怪我は兵士の勲章って言うからね、と言う事は君も傷はかなりあるって感じ?」
「あそこまでは酷くはありません。私は護衛で戦線に出ることも少なかったですし」
「リオさんの傷、そこまで酷いんだね」
「本当、よくそこまでの怪我をして生きていましたね」
「大体この変態のお陰なんだよな、不本意ながら」
「まさか~、マオさんでしょう? 私だけじゃ治せない怪我ばかりでしたし」
「そのマオというのは?」
「同じ魔法使いだ、命の恩人でもあるな」
今はこっちに来てる最中か? あいつが来てくれれば大分楽になるが。
「そんな人も…あなた達の国はどれ程の戦力が?」
「そうだな…魔法使いを揃えるだけでファストゲージ国は潰せるぞ」
「……その発言は」
「分かってるよ、脅迫紛いの事を言って悪かった。
だが事実だ。それ位の戦力は持ち合わせてる」
「……」
「そもそも、それ位の戦力を有してなかったら
お前らと合流してもこの戦況を覆せるとは思えないが?」
「…確かにその通りですね」
ファストゲージ国は現状最悪の戦況だ。
その戦況を覆せる戦力がその戦力と同等じゃ状況は変えられない。
ちょっと寿命が延びるだけだ、それじゃあ何の意味も無い。
「まぁ、戦力の話は置いておこう。
この話をしてもあまり意味は無いだろ? その内分かることなんだから。
ただ1ついっておくが、敵対するつもりはない」
「…そうして貰わないと、どうしようもありませんからね」
「んー、難しい事は分からないけど、とりあえず一緒に戦うんでしょ?
だったら変に喧嘩したら駄目だよ? 一緒に戦うなら仲良くしないと!」
「あなた以外は本当にただの幼子みたいですね。
そんな子供が命を賭けて戦う…奇妙な世界ですね。
そして何より奇妙なのが、そんな子供が生き残ってる事」
「理由は分かるでしょ?」
「…えぇ、不本意ですが認めますよ」
「ねぇリオちゃん、お腹の怪我見せて」
「あぁ? なんだよいきなり」
「ちょっと気になっちゃって」
「はぁ、ま、良いけど」
なんでもう一度服をたくし上げないといけないのか、面倒だな。
「…り、リオちゃん…こんなに怪我してたんだね」
フレイは俺の怪我に驚き、お腹をさすりながら呟く。
「一緒に風呂入ってるんだ、分かるだろ?」
「一緒にお風呂に入ってるときは…楽しいから気付かなかったんだ。
でも、今は分かる…ねぇ、リオちゃん」
「んぁ?」
「無茶しないでね?」
「無理だな、お前の相手をするのも無茶しねぇとならねぇし」
「うぅ…リオちゃんの意地悪…」
「だったら手加減してくれ」
「ご、ごめん…」
そもそも無茶しねぇと全員護れねぇからな、無茶は何度もしてきたし
今更なんの問題も無いんだけどな。
「…リオ、やっぱりそんな怪我を見ると不安になる」
「何が?」
「その内…本当に死んじゃうんじゃ無いかって、ずっと不安」
「今まで無事だったんだし問題無いだろ」
「でも、やっぱり不安なんだよ…」
「仲がよろしいことで」
「この4人は家族みたいな物ですわ、仲が良いのは当然です」
「でも、こう見ると本当にリオ様は死んでしまいそうですね」
「そうならない為に私がいるんです」
「本気で言ってますね、子供にここまで忠誠を誓えるとは」
「あなたはリオさんに会ってあまり経ってないからそんな風に感じるんでしょうけど
一緒に戦ってると分かってきますよ」
「今現在では全く分かりませんけどね。
周りからはいじられて、散々な目にも遭って。
激辛ラーメンを食べさせられたりと、とても威厳は感じませんが」
「リオさんに威厳ってありませんしね」
「悪かったな!」
「いえいえ、親しみやすいとかそう言う意味です」
「お前なんぞが親しくしてくるのは嫌だね」
「あはは! ありがとうございます!」
「…やはりぶっ飛んでますね」
「もう勘弁してくれ」
まぁ、アルルがこんな感じなのはいつもの事だから今更だな。
それから訓練でかいた汗を流すために風呂に入る事になった。
温泉に行くのかと思ったが、城の風呂場を利用できるらしい。
全員が同時に入浴することが出来る位の大きさだ。
「と言う訳で! 全員で入浴しましょう!」
「やだ」
「何でですか!?」
「お前と風呂に入るとか絶対やなんだけど」
「なぁ! 洗ってあげますよ!? 体の隅々まで!
あんな所やこんな所もごしごしとぴかぴかにしてあげますよ!?」
「ぜってぇやだ!」
「何でですかぁ!? 私、体を流すの得意ですよ?
いやまぁ、得意じゃないんですけど得意です!」
「どう言う事だよそれ!」
「想像の中では超得意ですから!」
「だったら想像の中で風呂入ってろ!」
「良いんですか? 私に想像の中で滅茶苦茶にされても!」
「それは想像の中の俺であって現実の俺じゃないから問題ねぇ!」
「じゃあ滅茶苦茶にしますよ? 今までは背徳感が勝ってたので
想像の中で大変な事はしてませんでしたけど
今回はしますよ!? あんな事やこんな事しますよ!?」
「知らん! 勝手にやってろ! 妄想を現実にしなけりゃ文句は言わん!」
「ねぇ、リオちゃん」
「あぁ!?」
「た、たまにはアルルとも一緒に入ろうよ、いっつもアルルだけ外だし」
「なんでこいつと」
「だって、寂しそうだし…1人でお風呂って寂しいじゃん」
「ふ、フレイさーん!」
「…い、いくらフレイの頼みでもそれは」
「良いじゃんかぁ~」
「わ、私からもお願い、お姉ちゃん」
「なんでお前まで…」
「たまには良いと思う」
「うん」
「…わ、分かったよ! 一緒に入れば良いんだろ!?」
「リオさーん!」
「ぐぐぅ…言っておくがこいつらに免じてって奴だ
良いか? 下手に近寄るなよ? 近寄ったら沈めるぞ!」
「こ、恐いことを…まぁ、大丈夫ですはい!」
だ、大丈夫か? 大丈夫だよな、シルバーとかもいるし…大丈夫だろう。




