しばらくの休養
さて、色々あったが、とりあえず軍団長に今回の事を伝えないといけないな。
「なぁ、軍団長にこの事を伝えに行きたいんだが」
「あ、そうですよね、結構重要ですし」
「そうだろ、だから、これから軍団長の部屋に行くぞ」
「はい、分かりました」
そう言って、アルルは何故かその場で体勢を低くして、俺に背中を見せた。
え? 何? 何で背中見せるわけ?
「お前、なんで背中を見せてるんだ?」
「え? 背負って欲しいって意味じゃ無いんですか? お腹痛いらしいですし」
「いや、そんな事は無い、この程度なら歩けるし、さっきのは付いて来いって意味だ」
「いや、無理しないで良いんですよ? お腹痛いんですよね? なら遠慮せずに私の背中に!」
「動けるのにお前に背負って貰う訳ないだろ? 信頼できない」
「酷い! 私何もしてないじゃないですか!」
「どの口がほざく、この変態女」
「おぅ! ありがとうございます!」
・・・・もうヤダ、なんで俺の部下はこいつなんだよ、選んだの俺だけどさ。
初対面の姿を見てこいつが変態女とは誰も思わないだろうよ!
「はぁ、大人しく付いて来いよ、背負わないで良いから!」
「うぅ、仕方ありませんね、あ、キツくなったら言ってくださいね?」
「分かってるよ」
まぁ、中途半端に痛いだけだし、動けないわけも無い。
この程度で動けないとか嘆いてたら死ぬっての。
「それじゃあ、行くぞ」
「はい」
俺達はゆっくりと移動して軍団長の部屋までやって来た。
扉は大きく、頑丈そうな木製だ、流石は軍団長の部屋だ。
「なんだ、貴様らは」
「狙撃偵察部隊の部隊長、リオです、レギンス軍団長に伝えたい事があるのですが」
「狙撃偵察部隊・・・・あぁ、あの新設の部隊か、しかし、レギンス軍団長は忙しく
君の話を聞く余裕など無いと思うが」
「どうした? 何があった?」
そんな話をしていると、部屋から軍団長が出て来た。
「レギンス軍団長! その、ここにいるリオという者が軍団長に伝えたいことがあると」
「そうか、ではリオを部屋に入れろ」
「しかし、その様な時間は、それに、裏切り者の可能性も」
「彼女達は大丈夫だ、さぁ、入れてやってくれ」
「はぁ、分かりました、では」
軍団長の言葉を聞き、門番をしていた兵士が道を空けてくれた。
「レギンス軍団長に失礼の無いように」
「分かりました」
「失礼します」
やはり軍団長の部屋は凄いな、岩で出来た柱がわんさかあって、レットカーペットが通路に敷いてある。
1つの柱に1つ松明が付いて、奥の方に石で出来た机に木製の椅子、最奥には細長い窓がある。
机には大量の書類が置いてあり、真ん中に赤い敷物が敷かれ、その隣に羽ペンが置いてある感じだな。
本当に古風な城の部屋みたいな感じだ。
「それで、私に伝えたいこととは?」
「えっとですね、ハッキリと分かっているわけでは無いのですが、俺達が拘束した敵兵の話では
今回の敵軍の攻撃、あれは彼らの国が制圧され、一か八かの勝負に出た結果だそうです」
「そうなのか、確かに違和感のある攻めだったが、信憑性は?」
「信頼は出来ると思います、嘘を言える状況ではありませんでしたし
小さな女の子があそこまで迫真の演技が出来るとも思えませんし」
天才子役とか、そう言うかなり訓練している子供なら、まだ可能性はあるが
あの子はそう言うのは出来そうに無いしな、そもそも、そんな嘘を付いても得はない。
それに、アルルが適当に連れてきた女の子だ、そんな子が偶然そういう風に仕込まれた子とは思えない。
「なる程、可能性はありそうだが、その程度の情報を鵜呑みにするわけにはいかないな」
「しかし、偵察をした方が良いのでは? 本当なら情報を集めて戦い方を変えないといけませんし
それに、もう一つの情報では新しく敵対する可能性のある国には魔道兵に
相手を操る魔法を扱う兵士がいる可能性もあります」
「魔道兵に相手を操る魔法? もし真実なら致命的だな・・・・しかし、兵を動かすわけにも」
確かにな、捕虜1人の証言のためだけに多数の兵士を動かすわけにはいかないだろう。
そもそも、確固たる証拠をなんとか確保しないと動けないしな。
「それでは、俺達がその情報を見付けてきもよろしいですか?」
「君達が? 可能なのか?」
「はい、部隊名に偵察と付けるくらい偵察は得意ですよ」
「・・・・そうか、だが、君は今怪我をしている、その状態で動いて失敗しても困るだろう?」
「はい、確かにそうですね、しかし急いだ方が」
「君は少し自分を過大評価しすぎているな、確かに君の魔法と判断能力はかなりの物だ
そこは私も評価している、だが、体は年相応だ、身体強化魔法ではないし
入ってすぐなんだ、鍛えられても無い、それなのに傷だらけで向うなど無謀だ」
確かに正論だ、俺は魔法の能力はある、だが肉体は幼女だ。
と言うか、俺の体はどっちかというとヤワな方なんだよな。
生まれたときから体重も軽く、身長も低い、更には鍛えてすらいない。
そんな状態なのに、今はまだ体はボロボロだ、下手したら動けなくなる可能性もある。
「・・・・確かに、軍団長が仰ることも正しいのですが、あまり時間を置くわけには」
「君達を失うわけにはいかないんだ、リオ、お前はもう少し自分の価値を知れ」
「・・・・俺に価値なんか」
「価値の無い人間がいる物か、全く優秀なのに自分に自信が無いなんておかしな奴だ
とにかくだ、君の傷が完治するまで、偵察の許可はしない、分かったな」
「・・・・はい、分かりました」
反論できないな、軍団長が言っている事もごもっともだ。
この状態で行っても下手したら死ぬ、最悪の場合、アルルまで巻込んでしまう。
それは部隊長として絶対にしてはいけないことだ、仕方ない、我慢するしか無いか。
「しばらくの間、安静にしてくれ、だが、傷が治れば偵察の許可はしよう、だから、休んでいろ」
「はい」
「ありがとうございます、レギンス軍団長、リオさんはすぐに無茶をしようとしますから」
「彼女の行動を抑制するのが君の仕事だろう、今度からは君の方で何とかしてくれ」
「私はリオさんに付いていこうと思ってますから、口を大にして否定できないんですよ」
「彼女に付いていきたいと思っているのなら、意地でも止めることだ
本当に付き従いたいというのなら、その上司が暴走した時に止める覚悟をするべきだ」
「そうですね、本当にすみません、ですけど、ありがとうございます」
「では戻れ、彼女が再び暴走しないように守るのだぞ」
「はい」
こいつに守られるね、何だか屈辱的だな。
しかし、レギンス軍団長ってかなり優秀な上司だな、この人が軍団長で助かった。
「ではリオ、傷が癒えるまで休んでいろ、分かったな」
「はい、分かりました」
全く、この人には頭が上がらないな、仕方ない治るまでは大人しくしておくか。
「止められちゃいましたね、リオさん」
「そうだな、仕方ない、休むしか無いか」
「そうですね、全く無茶はしないで下さいよ? リオさんにもしもの事があったら」
「分かってるよ、休むっての」
「そうして下さいね」
とりあえず、寝室で休むとするかな、あまり動きたくないし。
「それではゆっくり休んで下さいね、お腹が空いたら言ってくださいね、夕ご飯作りますから」
「いや、全員が戻ってくるまでは我慢するさ」
「何でですか?」
「孤児院で育ったとき、いつも一緒に食べてたからな」
「そうですか、習慣なんですね」
「そうだ、毎日だったからな、それに、久々にあいつらと一緒に何かを食いたいし」
「なる程です、じゃあ、待ちますね」
「あぁ、そうしてくれ」
と言っても、こうなると暇なんだよな、てか、この状態で飯って食えるのか?
そう言えば、今日は何も食ってない気がするな、と言うか5日間は何も食ってないんじゃ、気絶してたし。
でも、あまり腹は減ってない、もしかしたら食えないんじゃね?
「・・・・うーん」
だが、少しだけ空腹感はある、今まで何も食ってない割には軽い物だが。
「なぁアルル、俺って飯食っても大丈夫なのか?」
「そう言えばそうですね、私、ひとっ走りしてお医者さんに聞いてみますね」
「あぁ、頼む、でも、俺を見てくれたのって多分王族の」
「行ってきます!」
「あ! おい!」
あいつ、俺の話を聞かないで走って行きやがった。
あいつが俺の手当をしてくれたであろう医者に会えるとは思えないんだがな。
俺はメア姫として怪我をした訳だし、その手当をしてくれた人もメア姫のお医者さんだっただろう。
となると、かなり位も高いし、忙しいんじゃ無いか? でも、もう遅いよな。
「会えれば良いんだがな」
そんな風に思っても、もう追いかける気力も無いし、体力も無い。
あいつの足の速さはかなりの物だし、今の状態の俺が追いかけても追いつけない。
大声を出そう物なら腹痛が酷いことに・・・・てか、考えてみれば
俺は5日間も寝て、今日起きたんだよな、普通なら動けそうに無いが
今日だけで奇襲部隊を撃破、起きてすぐに高台に移動、しばらくの間狙撃、尋問に報告と
結構働いてるよな、実は俺の体って結構丈夫なのかも知れない。
「そう言えば、今俺の腹ってどうなってるんだ?」
ずっと包帯だらけで見てないが、実際結構酷い状態だと思う。
だが、やはり自分の怪我の状態は知りたいわけで、少しだけなら良いよな。
とりあえず、少しだけ包帯を取って、状況を見ようかな。
「うわぁ、これは酷い」
包帯を取って、すぐに自分の怪我の状態が酷い事が分かった。
腹にはものすごく痛々しい青い痣が出来ている。
それも、蹴られた場所全てに、ここまで酷いのは予想外だった。
これは少し動くだけでも激痛が走るのも分かるな。
うぅ、ちょっと気持ち悪くなってしまった、見るんじゃなかった。
知らぬが仏ってこういう感じなのかな、あ、ヤバい、傷口を見たせいか余計腹が痛く・・・・
「包帯巻き直そう」
さて、ここで問題が出て来てしまった・・・・俺、包帯の巻き方なんか知らんぞ。
いや、適当にくるくるっと巻けば良いのは分かる、だが、それだと腰を動かさないといけない。
今のこの怪我でそんな事をすれば、とんでもない激痛が俺を襲うことだろう。
傷口を見ようとした結果がこれかよ! やらかした! 興味本位でやったばっかりに!
「ただいま・・・・」
「ん?」
何だかいつもと違い、ものすごく元気の無い声が聞える。
多分、この声はフレイなんだろうけが、ここまで元気の無い声は初めて聞いた。
「あぁ、帰ったか」
「あ、姫さ、あ! ち、違う! リオちゃんだぁ!」
「え!?」
な、なんだ!? さっきまで元気がなかったのに、俺を見た途端急激に元気に!
「な、なんだ!?」
「リオちゃーん! 会いたかったよぉ!」
「うわぁ! やめ! あぐ!」
フレイが俺の腹に飛び込んできた! よりにもよって腹に!
ちょ、超痛い! 凄くいたい! 抉られるように痛む!
「けほ! あ、あぐ、あぅ、くぅ、けほ!」
「ど、どうしたの!? か、顔色が!」
「腹は、や、止めてくれ、けほ、抉れるように痛い」
「ご、ごめん!」
俺の言葉でフレイはすぐに俺から離れた。
だが、やっぱりあの衝撃はかなりの物だったようで、離れてくれた後もずっと痛む。
「はぁ、はぁ、ふぅ、はぁ・・・・ふぅ、ふぅ」
「どうしたの? 凄くいたそうだけど」
「あぁ、ちょっと腹を怪我してな、こんな感じだ」
こいつにも俺の状況を教えておかないとな、またダイブされたら困るし。
俺は自分の服をめくり、腹の状態をフレイに見せた。
「え? な、何、これ・・・・どうして、こんな」
「怪我してな、動けるには動けるが、さっきみたいに衝撃が走るととんでもなく痛むんだ」
「そうなんだ、ごめん! 私、そんな事知らなかったから! もうしないよ!」
「あぁ、分かってくれれば良いんだ、所で、お前だけか? トラとウィングは?」
「・・・・トラとウィングは」
え? 何、この深刻な感じ・・・・も、もしかして、あいつらのみに何かあったのか!?
「あいつらに何かあったのか!? うぐぅ!」
ヤバい、声を荒げすぎて腹に激痛が。
いや、そんな事は良い! それよりも、あいつらに何があったかを聞かないと!
「2人は、私が誘ったのにやることがあるって言って一緒に帰ってくれなかったのぉ!」
「・・・・は?」
「もう! 酷いよね! 仕事仕事ってさ! リオちゃんがいなくなってからはずっとそうだしぃ!」
なんだ、あいつらに何かあったわけじゃないのか、一安心だ。
ん? いや、待てよ、俺がいなくなってからずっとだって?
「おい、さっきから流してたが、俺がいなくなってずっとって? 俺はずっといただろう?」
「あはは、馬鹿言わないでよ、もしかして私達がリオちゃんとお姫様を見抜けないとか思ってるの?
そんなわけ無いじゃん、一目で分かっちゃったもんね! 姿や話し方を似せても
私達の目は誤魔化せないよ! マナ達は騙されてけどね」
・・・・こいつら、姫様の変装を一目で見抜いたのか? 嘘だろ!?
かなり姿は似てたぞ? そんな、一目で見抜けるわけが、そう言えば
こいつが俺を見て、俺本人だと気付いた速度も凄かったし。
「ど、どうして分かったんだ? かなり似ていたはずなのに」
「えっとね、なんて言えば良いんだろう、何となくなんだよね」
「何となくって、そんな曖昧な」
「曖昧ってどういう意味?」
「ハッキリしないって事だ」
「そうなんだ、でも、ハッキリしてるよ?」
「どういう意味だ?」
「友達だから!」
「曖昧だな」
友達だからといえど、あそこまで似ているのにすぐに分かるとも思えないしな。
「もう、曖昧でもいいや! あんなに長い間何処行ってたの!?」
「護衛してたんだよ、姫様に変装してさ」
「だったらそう言ってくれれば良いのに! 寂しかったんだよ!? リオちゃんがいなくなってから
皆とっても寂しかったんだから! お姫様も結構上から目線だし、でも、根は良い子だった気がするよ
でも、やっぱり、リオちゃんがいないと、楽しくなかったんだから!」
「そうかい、じゃあ、一応聞くが、姫様は楽しんでたか?」
「うん、顔には見せてなかったけど、楽しそうだったよ」
「そうか」
楽しんでたのか、それは良かったな、姫だと言う事もこいつら意外にはバレてなかったようだし。
結果オーライか、にしても、本当にどうしてこいつらは姫様が俺じゃ無いと分かったんだ?
妙な能力を持ってやがる。
「あ、そうだ、じゃあ皆も呼んでくるね! きっと喜ぶぞぉ! 行ってくるね!」
「あ、あぁ、気を付けてな」
フレイは俺にそう言うと、嵐の様に部屋から去って行った。
相変わらず、騒がしい奴だな。