合同格闘訓練
「うぅ…まだ痛い」
「よっぽど強烈だったのね」
「お前も食えよ! 1口で死ぬわボケ!」
「いやほら、私はもう食べたし。汁までは飲んでないし飲まされてないけど」
「俺は汁まで飲まされたんだが!? 半分食わされた!」
「お粗末様です」
「誰もくれと言ってないがな!」
うぅ…あの後も何度か食わされたし、本当に死ぬかと思った。
と言うか、殺しに来てるだろあれ。
激辛とかそこら辺のレベルじゃない…殺人的だろ。
「えっと…大丈夫ですの?」
「大丈夫じゃない」
「こ、これから合同訓練をしますけど…出来ます?」
「それ位なら出来る」
まぁ、口が未だに辛いから、ちょっと派手に動くのは難しいが
合同訓練程度なら出来るだろう。
「で、どんな訓練内容なんだ?」
「はい、えっと、アルルさん達と話をした結果、今回の合同訓練は
近距離格闘戦闘に重きを置いた内容となっています。
ですので、今回はこちらの国で最も実力があるというメイルさんに来て貰いました」
「それでいたのか、この鬼畜メイド」
「沢山可愛がってあげますので、そんなに喧嘩腰にならないでくださいませ」
こいつが可愛がるとか…完全にしごき倒すって意味だろ。
この言葉をもしアルルが言ってた場合、絶対別の意味だろう。
やっぱり言葉って誰が言ったかって事が大事なんだな。
「一応、私は格闘術には精通していますわ
格闘術のみならず、剣術、槍術、棒術等の武器関連の技術も完璧にこなせます
最近出て来ている銃でしたか、あの獲物を使った接近戦闘も出来ますよ」
「いや、基本的にあれは格闘に使う道具じゃ…」
「銃先にナイフを付ければ相当使いやすいと思いますわ」
「銃剣はあるにはあるが、あれは扱ったこと無いし」
「あなたの魔法なら狙撃銃の先端に剣を付けることくらい出来そうだけど?」
「接近されたらほぼ負けなんだよ。先端に剣なんぞ付けたら動きにくいだろうが」
「極めれば接近戦に強そうだけど、と言うか、接近戦で私に勝ったくせに何を」
「あれ、接近戦で勝ったっているのか?」
接近された場合は圧倒的に不利だからな、俺の場合。
だから接近されたときの対策としてアルルがいるんだ。
あいつは俺よりも接近格闘術には秀でているし、最悪は任せるつもりだ。
お互いの得意分野で立ち回るのが一番重要だからな。
弱点の克服って奴も重要と言えば重要だけど。
「接近戦が苦手だというなら克服は必須だと思います
まぁ、あなたみたいな虚弱体質の子供にどれだけ技を仕込んだところで
いざと言う時に使えないで負けるのは目に見えてますがね」
「虚弱体質なのは前までだよ! 今は多少はマシになってる!」
「ふ、前は今以上に貧弱だったとは、よほど環境が最悪だったのですね。同情しますわ」
「この! 言わせておけば! お前よか何倍もマシな環境だったっての!」
「その様な虚弱体質に育ったのにですか?」
「お前よりは恵まれてらぁ! 友達1人しかいねぇだろ」
「ぐ!」
お、応えた! はは、やっぱり気にしてるんだな友達がスティールしかいないこと!
「お前みたいな鬼畜メイドと友達になれる奴はスティールくらいの聖人様くらいだぜ」
「ぐぬぬぅう! と、友達など不要! 必要なのは守るべき相手のみ!」
「つまりお前的にはスティールは守るべき相手って事だな、じゃあ、友達じゃねぇな」
「くぅううう!」
「リオ、その貶し言葉…私にも結構応えるんだけど」
「…えっと、ごめん、何か自分にもダメージ入ってる気がする」
こっち来る前…友達、いなかったし…か、関係ないし!
今は友達結構いるし! …いや、友達というか妹みたいな物なんだけど。
「と、とにかく! そんな事は良いとして!」
あ、逃げた。まぁ良いかこれ以上は俺にもダメージが入るし。
「おほん。ひとまず、私も近距離格闘術をあなた達にお教えします。
あなた達は気に入りませんが、我々の生命線だと言う事は自覚していますからね。
もしもあなた達に何かあった場合、状況が悪化するのはまず間違いありません。
これも国の為です」
「まぁ、実際その通りだよな、兵士達の運送も時間掛かってるし
最速で到着した俺達に何かあった場合、最悪敵対関係になりかねない」
「正直思うんだけど、その立場を利用すればあなたが悪戯をされる可能性は」
「あのな、状況的に優位に立ってる人間がその地位を利用して相手を押さえるのは
完全に脅迫なんだよ。そんな不平等で非人道的な行動出来るかよ
関係が悪化するのは目に見えてるだろ」
「…まぁ、分かるんだけど、あそこまで散々やられてそれって凄いわね」
「お前も協力してただろうが」
「楽しそうだったし」
「そんな判断基準で俺を地獄に叩き落とすな!」
全く、妙に悪戯するようになりやがって。
「まぁ何にせよ、あなた達の能力が向上するのはこっちとしても利になります
なので、私がここに来た、スティール様が許可を降ろしたのもそう言うことでしょう」
「んや、仲良くして欲しいからだけど?」
「スティール様!? 何故ここに!」
「いや、この時間に視察にくるって言ってたでしょ、忘れっぽいの?」
「あ…リオ様に激辛ラーメンを食べさせるのが楽しくて忘れてました」
「人が苦しむ事をして楽しむな!」
「…はぁ、仲が良いのか悪いのか分からない微妙な距離ね。
えっと、そうね、この子こんな感じだけど真面目だから
ちゃんと仲良くして欲しいわ、私以外とはろくに会話もしないし
あなた達も仲良くなるのは苦労するかも知れないけど
お願いね、根は優しい子なの…後は寂しがり屋さんだから」
「寂しがり屋さんなどではありません!」
「全く強がって、私知ってるのよ? リオ達が来てから
何だか前よりも随分と楽しそうじゃないの」
「そ、それは、遊び甲斐のある玩具が出来たからで」
「おもちゃ言うな!」
「まぁ、この関係がお互いに利になるように頑張りましょう
それじゃあ、私は仕事に戻るわ、怪我しないようにね」
怪我をしない訓練って、訓練なんて呼べるのかね。
ただの遊びだろ…まぁ、怪我をしたら満足に動けなくなるし
怪我をしないように立ち回るのは大事な事だけどな。
「…そう言うことらしい、じゃあ訓練するか。で、どんな内容だ?」
「あ、えっと、そうですね、まずは基本の体術からです
何事もまずは基本から、基本が出来てから大技です」
「はいメイドさん! 基本の技術って奴は何度もやった!」
今まで話しに入ってこなかったフレイが質問をする。
さっきまで話しに付いてくることが出来なかったからだろうな。
と言うか、スゲー楽しそうにしてるな、流石フレイ。
「どれどれ、どのような感じですか? まずは私に仕掛けてみてください」
「分かった!」
「…メイル、怪我するなよ?」
「おや? 子供相手に怪我をするとでも? では、投げを」
「うん!」
フレイはメイルの手を掴み、ひょいっと持ち上げた。
「……んんん!?」
「だりゃぁ!」
「ちょま!」
こんな子供に片手で持ち上げられるとは思っていなかったのだろう。
持ち上げられたメイルは動揺し、抵抗することも無かった。
それが災いし、フレイの投げを思いっきり受けてしまう。
「……大丈夫か?」
「じ、地面に埋まるかと…思いました」
「気絶してないなんて大した物ね、流石接近戦闘最強」
「ちょ、ちょっと待ってください…いや、あれはどう言う…
え? 普通こんな小さな子供が大人を片手で持ち上げます!?
と言うか、この怪力があれば格闘術とか不要では!?」
「駄目だな、フレイは怪力馬鹿だからな
体術はデタラメだし、すぐに相手に動きを読まれる。
一撃が強烈でも相手に一撃を入れる事が出来なければ意味が無い。
だから、接近戦の戦闘はこいつ弱いんだよ、技が出来てないから」
「だから教えて欲しいんだ、私弱いから、いつもリオちゃんが酷い目に遭うの」
「日常生活じゃお前に振り回されて酷い目に遭ってるが」
「…はぁ、ではまぁ、動きを見せて貰いましょうか
誰か、この子と組み手をする子はいませんか?
身長が同じくらいじゃないと動きは見にくいですし」
その言葉に全員が退いた…誰だってこいつと組み手なんてしたくない。
「おや? まぁ…さっきので理由は分かりますが」
「さ、流石にフレイ相手に組み手は…」
「そうですよね、フレイさんと組み手が出来るのはマナさんかリオさんくらいです」
「何でそこで俺の名前が出てくる!? マナは分かるが!」
「いつも訓練ではフレイさんの相手をして居るじゃないですか」
「あれは周りがフレイとやろうとしないから仕方なく!」
「じゃあ、今回もやろうよリオちゃん」
「じょ、冗談じゃ!」
「ねぇ、駄目?」
「う、うぅ…」
なんでこう半泣きで…止めてくれよ畜生!
駄目だ俺! 例えフレイを泣かせようとも断る勇気を!
「くぅ! 良いぞ! やってやらぁ!」
何やってんだよぉ! いつもこんな調子で怪我してるじゃないかぁあ!
「ありがとう! それじゃあ、頑張ろうね!」
「お、お前は頑張らなくても良いぞ、うん」
「でも、頑張らないと練習にならないってリオちゃん」
「……そうだな! 頑張るか! でも、手加減しろよ!?」
「手加減って何?」
「分かってたけどな!」
クソ! どこぞの野菜人みたいな奴め! 手加減も知らないのかよぉ!
「あれね、何処かのブロッコリーみたいな子ね」
「ブロッコリー?」
「いや、何でも無いわ」
「よーし! 行くよ!」
「た、頼むから少しは」
「でりゃぁ!」
「危なぁ! 顔を狙うなって何度も言ってるだろ!?」
「じゃあ、お腹?」
「あぶあぶ! グーは止めろ! 当ったら痛いじゃ済まないぞ!
と言うか! お前の攻撃! 一撃一撃結構な風圧感じるんだけど!?」
「それ!」
「ふぁ! と、飛び後ろ回し蹴りとかいつ覚えたよ!」
「マナに教えて貰った!」
「1回でマスターしてしまいました、と言うか教える技はことごとく
1回見ただけでマスターしてます、教えたら確実に覚えますし」
「その戦闘センス…本当に恐いよ」
「ありがとう!」
飛び後ろ回し蹴りを回避したと同時にフレイは跳び蹴りを仕掛けてくる。
「笑いながら攻撃するな危ない!」
「それ!」
「あぐ!」
う、くぅ…まさか着地と同時に両掌で俺の腹を突いてくるとは…
けほ、い、一撃が重いな、やっぱり…だからこいつとの組み手はやなんだよ。
「えりゃ!」
「くぅ!」
俺が少し背後に吹き飛ばされたが、フレイはすぐに再び飛びかかる。
今度はグーだろう、動きが大振り…何処を狙うかは何となく分かる。
よし…反撃しない限り勝ち目はないなら、反撃するしかない。
「うらぁ!」
フレイの拳から若干後方に飛び退き距離を取り、フレイの腕を掴む。
「およ?」
そのままフレイの勢いに身を任せ、体を倒れさせる。
同時にフレイの腹に足を置き、蹴り上げると同時に手を離す。
「おぉおぉ!?」
「よし! 巴投げ上手く行った!」
「あぁああ! っと」
しかし、フレイは地面に打ち付けられること無く、すぐに前転し体勢を立て直した。
「あはは! リオちゃんが初めて攻撃してくれた! 何だか嬉しいよ!」
「いや、投げても傷1つ付かないとかどうしようも無いんだが…」
「ねぇ、あれ何? あんなの見たこと無いよ!」
「いや、うん、ただの投げ技なんだけど」
「私にも出来るかな!?」
「余裕だと思うが…お前がやったら相手が最悪死ぬから止めろ」
「むむ! だったらこのままだね! えりゃぁ!」
「だから笑いながら突っ込んでくるな! へぁ!」
「それ! 今度は膝撃ち!」
「ぐ!」
あ、危ない…フレイの膝が腹に入るギリギリで手を間に入れて直は免れた…
け、けど…それでも腹は痛い、いや、本当止めて欲しい。
今の最悪手が折れてたんだけど…フレイの怪力でこれはヤバい。
「あはは!」
「クソ…やっぱりこいつと組み手ってやだな」
「身体強化魔法…恐ろしいですね」
「使ってないよ? そんなの」
「え!?」
「だって、そんなの使ったらリオちゃん死んじゃうじゃん」
「まぁ、戦車を素手で粉砕する攻撃だからな…使われたら絶対死ぬ
一撃でも食らった地点で即死だろ」
「し、身体強化魔法を使ってないのにこんなに強いの?」
「毎日マナに鍛えて貰ってるからね!」
フレイが両手を腰に置き、得意げにしながら答えた。
何か悔しいけどこのドヤ顔はスゲー可愛い。
「可愛いドヤ顔ね」
「ドア顔?」
「得意げな表情の事よ」
「え? 身体強化魔法って奴を使わないで私を持ち上げたと言う事ですか?」
「うん!」
「……うわ、幼女強い」
「と言うか、リオさんも結構避けるの上手いですよね」
「組み手がある度に俺はこいつとペアを組まされてたんだぞ!?
いやでも避けるのは上手くなるっての!」
「えへへ、だから私の相手になってくれるのリオちゃんだけなんだ~」
「そもそも最初は何でだっけ」
「リオさんの頑丈さなら大丈夫かなって」
「いやまぁ、確かにいつも振り回されてたけど」
「よーし、もう一回行こう!」
「いや、流石にそろそろしんど」
「あはは!」
「俺はお前と違って無尽蔵体力じゃねぇんだよぉおぉ!」
「よし、終わった!」
「はぁ、はぁ、はぁ…さ、30分ぶっ通しは…無理だろ…」
「とか言いながら耐えてるじゃ無いの」
「も、もう心臓痛い…後腹痛い」
「5発くらい食らってたしね」
「けほ…し、しばらく休ませてくれ…」
「その…良いでしょう、お休みください」
「め、珍しく、い、意地悪言わないのな…き、鬼畜メイド…」
「流石に顔面蒼白でぜぇはぁ息を荒げてる奴を追い込みませんよ」
「げ、激辛の方が…キツかったが…」
「じゃあやりますか?」
「やらない…休ませてくれ…足とか震えてるんだよ…」
「ゆっくりお休みください」
も、もう立てない…マジで勘弁して欲しい…死ぬっての。




