3チームに分かれて
「さて、これでベット決めはお終い」
長いくじ引きも終り、俺達の空気は平常に戻りつつあった。
約1名を除き。
「だけど、良い機会かもね」
「何が?」
「ほら、私達って基本同じ組み合わせで動いてるじゃない」
「まぁ、そうだな」
「そこでよ、折角こんなに盛り上がったんだし」
「くじ引きで決まった3チームに分かれて行動するか?」
「その通り!」
その計画、俺としては非常に賛同したいところだな。
まぁ、俺達5人はあまりいつもと面子が変わったってわけじゃ無いが。
しかしだ、その計画に乗るとすれば、約1名が悲惨なことになりそうだな。
「待ってくださいミロルさん! そんな事になったら私は!」
「アルル、あなた、本当にリオ、リオ、リオって、たまにはね
そう言う、違う刺激にふれあうべきだと私は思うわよ」
「俺もそう思う」
「案外、あなたの推しが変わるかもだし」
「変わるわけ無いでしょ!? 私はリオさん一筋!」
「キモい」
「ありがとうごさいます!」
「…まぁ、推しが変わらないとしても、別のメンバーと交流を持つのも
大事だと私は思うわよ、うん、正直言うとね
私、あなたが暴走してる姿しか見てないから
リオが絡まない時のあなたに興味があるのよ」
「はぁ、確かに暴走してる姿しか見せてないような…」
自覚あったんだな、あの状態が暴走してるって言う自覚が。
だったら直せよと言っても直らないのは分かりきってるが。
「そうよ、だから今回はそれを知りたいのもあるわね。
だって、今のアルルを見てても、何で周りがそこまで
あなたみたいな変態女に対して信頼を寄せているのか分からないし」
「私は変態じゃありませんよ! 仮に変態だとしても変態と言う名の淑女です!」
「変態紳士やら淑女は紳士でも淑女でもねぇ、ただのド変態だ!」
「それでも私は淑女です!」
「…やっぱり、こんな姿ばかり見てると信頼できるようには思えないわね」
「一応、リオさんが絡まなければまともですから…」
「リオが絡んでる姿しか見てないのよね、べったりだし
まぁ良いわ、こう言うのは多数決が1番よ、どう? やりたい人」
ミロルの合図で手が上がった人数は12人、フランとアルルは乗り気ではないみたいだ。
「よし、じゃあ、民主主義に則った結果、この行動を可決としましょう」
「どうでも良いけど、民主主義って正しい答えが出るのか?
想像力に乏しい奴が大半だった場合、民主主義なんてしても
正しい結果には行き着かないで、泥船みたいに沈む気がするが」
「ちゃんと説明すれば通るでしょ」
「政治家って説明不足なのか?」
「そもそも第1段階で戯れ言しか言わない政治家ばかりだし」
「何の話です?」
「あ、何でも無い、気にするな」
死ぬ前にテレビでたまーに選挙とかしてるの見てて思ったことだ。
基本、両親に言ってもあしらわれてただけだったしな。
ま、折角思い出したし、ちょっと聞いてみようと考えたが
やっぱりこいつとは話が合う気がするな。
「政治の事に関してなら、私が、確かに民主主義、もとい多数決という手段は
その場に居る物が愚なる物ばかりだと、誤った方向に向うことが多いですわ
しかし、それはそもそも説明をする者に問題があるのです。
素晴らしい発想はあっても、そこに行き着くビジョンが見えてない人が悪いのですの
ビジョンが見えてなければ、意思は通りませんからね。
意思が1本通って無いと、周りには伝わりませんもの」
「…やっぱり、貴族だな」
「政治は家柄で密接に関係していましたからね」
「大体貴族って傲慢でイラつく金持ち野郎ってイメージしかなかったわ」
「長きに渡る家なら確かにその様な人物が出てくることは否定しませんわ。
ですが、歴史の浅い貴族は貴族までのし上がった人物が健在な為
意外とそう言った人物が出て来ないのですわ」
「で、1度消えたが、再びのし上がった貴族も相当だろうな」
「私は運が良かっただけですわ」
その運を掴むことが出来るのが実力なんだけどな。
「イメージ変わるわね、やっぱり」
「恐悦至極でございますわ」
シルバーはスカートの裾を僅かにあげ、小さくお辞儀をする。
何というか、立ち振る舞いがまさに淑女だな、流石貴族。
それなのに、自称淑女は本当に全く。
「そんな感じで、私としても皆のイメージを変えてみたいのよね
主にアルルね、変態要素しか見てないし、普段がどんな物か実に興味深いわ」
「うぅ…多数決で出てしまった以上は従いますよぅ…」
「そう言うところは意外と素直なのね」
「皆さんの総意に反旗を翻すはずがありませんよ」
「案外律儀っと、まぁ、そこは重要要素ね」
「メモ帳なんて何処から出したし」
「魔法」
「便利だよな、お前の魔法」
「召喚出来るだけよ、私の魔法は」
何でも召喚出来るって所が便利なんだけどな。
しかも、思い込んだ物をそのままってのが更にインチキ臭い。
だって、あれだろ? コンピューター何たらとかが実現してると考えてたら
あの道具も出せるって事だろ? 実際、結構化け物じみてるよな。
俺達のメンバーで最高レベルの魔法だろう。
その次にフラン、次にウィン、次にメル、で、ようやく俺?
あれ? 俺の魔法、案外弱かったりする?
「考えてみたら、俺の魔法、案外弱いな」
「まぁ、一般人がその魔法を使えても大した事は無いかもだけど
その魔法の使い手があなたって事が1番インチキだと思うわ
何よ、私の全力の攻撃をその狙撃銃と私が渡したセキュリティシックスだけで
切り抜けるとか、マジあり得ないわよ、あの時、私はガチで殺る気だったのに」
「マジで言ってるのか? 俺はお前を生かそうとしてたのに」
「それは分かってるわよ、だって、あなたが本気なら
私はあなたと互角に渡り合えちゃいない、それ位分かるわ。
魔法云々よりも、やっぱり本人の技量が段違いよね」
「俺の魔法には超集中状態があるからな、あれは自分でも強いと思う」
「しかも弾道まで見えるんだっけ? やっぱり化け物でしょ」
「いや、それでも魔法はお前のが上だろ」
「実力はあなたの方が上よ」
褒められるのはやっぱり嬉しいが、魔法の便利さではボロ負けなんだよな。
と言うか、ミロルの魔法、応用効きすぎて恐いっての。
テレビも出せるし、戦闘機も出せるし、マジでインチキ魔法だ。
「例え戦闘機を出そうともあなたに狙撃されるだろうし
戦車を出そうとも、あなたに破壊されるのは目に見えてる。
ガトリングで力押しをしようとしても、弾道は外される
その気になれば弾の回避のついでに私を狙撃することも出来るでしょ?
実際、あなたの実力は化け物よ、自覚を持って欲しいものね」
「自覚はしてるさ、してなけりゃ、1人で戦況をひっくり返そうとか思わない」
「いやぁ、お2人の超人会話を聞いていても、私達には理解できませんよ」
「あぁ、お前らの事忘れてたわ」
「さらっと酷いですね」
「それだけ、ミロルさんとの会話が楽しいと言うことですわね」
「そう言うことだ、周りを忘れるくらいにな」
「まぁ、そうね、楽しいわよ、やっぱり」
「……わ、私とはそんなにお話ししてくれないのに…」
「ん? フレイ、何かボソッと言ったけど、もう一度」
「べーだ! リオちゃんなんか知らないもん!
ミロルちゃんとお話ししてれば良いんだ!」
「おい! フレイ! 待てよ!」
フレイの奴、いきなり…てか、足速すぎだろ! 追いつけねぇ!
「フレイ! あぁもう! ったく、世話の焼ける!
お前は城の構造とか知らないだろうがぁ!」
き、聞こえたか分からないが…とにかく探すしかないか。
「フレイ! 何処だよ! 出て来いって!」
「完全にヘソを曲げてますわね」
「…私、少しだけ気持ちが分かる気がする…」
「フレイは本当にすぐに機嫌を損なうから…やっぱり我慢が出来ないかな」
「何で怒ったか分かるのか?」
「自覚が無いようですわね、周りを少し見た方がよろしいかと。
リオさんは戦闘時は周りをよく見るのに、普段は見ませんからね」
「な、何だよ! 理由が分かるなら教えてくれよ!」
「…フレイちゃんは…いや、私達はもう少しだけ、お姉ちゃんに構って欲しいの」
「は?」
「ずっとミロルさんとばかりお話ししていましたからね
それで皆さん、やきもちをやいているのかも知れませんわ
アルルさん見たいな別格なメンタルを持っているわけでもありませんし」
「…構ってやってたじゃないか、ちゃんと」
「素っ気ない返事しかしないのは構ってるとは言わないと思う」
「……でも、そこまで俺にこだわる理由は」
「はぁ、リオさん、皆さんにとって…
特にトラさん、ウィングさん、フレイさん、ウィンさんにとって
リオさんは特別な存在ですわ、それ位、自覚してくださいな」
「分かってる、分かってるけど!」
「…普段なら、こんなことは絶対に言わない、恥ずかしいから。
でも、言わせて貰うと…私は、リオの事が大好き
無茶ばかりするし、私達の為にいつも怪我をする。
私達の為とかいって、私達の代わりに自分が辛い思いをする。
お腹が空いていても、自分よりも私達の事を優先してくれた。
自分が1番やせ細っているのに、それでもお腹が空いたという
私達の為に、自分のご飯をくれたり、一緒に遊んでくれたり。
…多分だけど、フレイはリオの事を…実の姉みたいに慕ってる」
実の姉…姉か、俺達は同い年なんだけどな…
でも、そうか…少しだけ、反省した方が良いのかも知れない。
いつも俺は自分が誰かにとって特別な存在になれるはずが無いと考えていた。
そんな事を考えてると、何だかナルシストっぽくて嫌だった。
何だかんだで一匹狼を演じていたかったのかも知れない。
何度も何度もこうやって後悔した思い出もある。
自分は特別な存在だと自覚したことも何度かあった。
それでも根本は変えられなくて…それが自分だともう開き直ってる。
だけど、そのせいであいつらを…周りを泣かせちゃ、意味も無いだろ。
「…フレイ」
「そんなに深刻に考えない方が良いと思いますわ。
フレイさんはただ、構って欲しいけど構って貰えないのが嫌だっただけでしょう」
「…まだやり直せるか?」
「それは無理ですね」
「そこは嘘でも出来るって!」
「だって、やり直すも何も、何一つ壊れていないじゃありませんか」
「は?」
「ちょっとした喧嘩、良くやってる事じゃないですか。
今回は原因がフレイさんにあったわけじゃ無く、リオさんにあっただけ
その程度の違いしかありませんわ。
リオさんはただ、フレイさんを見付けて、いつも通り謝れば良いのですわ」
「……そうだな、正直、この程度で壊れる関係ならもうとっくに壊れてる。
そもそも、家族の絆なんて、1度出来ちまえば壊れやしないか。
壊れたと思っても、どうせ、どっちかが妥協できてないだけだろうし。
そうだな、後悔しないうちに直しておくか、あいつに頭を下げるのは癪だがな」
どうせあいつの事だ、美味い飯の匂いに誘われて、厨房にでも隠れてるんだろう。
「フレイ、ここにいるか?」
「い…いないよ…」
「…そうかそうか、いないのか、じゃあ、喋ったのは誰だ?」
「うぐ!」
「お化けか何かか?」
「そ、そうです、お化けです」
「それは面白い、是非ともお会いして話がしたい物だ」
「お、お化けはお話しはしませんです」
「今話をしてるのに?」
「あ!」
「…フレイ、扉の後ろに居るんだろ?」
「い、いないもん、誰もいないもん…」
「……そうか、じゃ、独り言でも言おうかな…本当、悪い事したな」
「……」
「普段から気に掛けてりゃ良かった、何かあるときだけじゃなくて
のんびりとした平和を生きてる間も、気に掛けてやりゃ良かった」
「……」
「これからは一緒に遊んでやるし、一緒に風呂も入ってやる。
泣いてるときは励ますし、笑ってる時は少し嫌な顔しながら笑ってやろう。
今まで通り、普通に接してやる…だけど、やっぱりこの一言はいるよな」
「あの」
「ごめんな、お前が寂しい思いをしてるのに気付いてやれなくて」
「……リオ…ちゃん」
扉の向こうから、涙ぐんだ声が聞こえてきた。
やっぱり誰かに謝るってのはプライドとかが邪魔で難しいが。
それでも、謝らないと駄目だよな。
「だから、お前も今まで通り、また俺と」
「り、リオちゃん!」
「え? うご!」
と、扉が! 扉が当った! 扉が何かスゲー勢いで開いた!
ちょ、ま、クラクラする…
「リオちゃん! ごめん! ごめんね!」
「あ、あぁ…い、良いんだ…は、はは」
「お、お姉ちゃん! 血! 頭から血が出てる!」
「あ、頭から血? は、そ、そんなの関係ないぜ…
ちょっと痛いだけだ…」
「いやいや! 頭から出血ってちょっとってレベルじゃありませんわ!
い、急いで手当を!」
「い、いや、構わない、俺はこれで」
「リオちゃん! ごめんなさい!」
「そう、なく、う、うぐぉおぉ! 待てフレイ! 力が強す、がは!」
「リオさん! ちょっとリオさん! フレイさんも早く手を離して下さい!
死にますわ! リオさんが死んでしまいますわ!」
「り、リオちゃん! リオちゃーん!」
「お姉ちゃん! 大丈夫!? ねぇ!」
「わ、私はアルルを呼んでくる!」
「リオちゃん! しっかりしてよぉ!」
…な、何だか、こんなやり取りが凄く懐かしく感じる…
あぁ、昔は色々あったな、散々だったが楽しい日々だった…
いや待て、何で過去形に…こ、これからも馬鹿騒ぎして…あ、駄目だ、意識が…
フレイの事を気に掛けてやる事が出来なかった事に対する罰か…
いや、いつもこんな感じだった気がする…け、ど。




