影の指揮者
この攻撃の目的は足止め、つまり、プレッシャーを与えれば良い。
プレッシャーの与え方は色々ある、多数の敵がいると誤解させる方法。
だが、残念ながら俺の魔法でそれは困難だ。
もうひとつは敵の指揮官を潰す方法。
だが、相手は人形、指揮官はいないだろうし
仮にいるとしたら、それは人形を操ってる魔法使いの誰か。
その場合、この攻撃は無意味になる。
となるともうひとつ、強烈な攻撃を叩き込み戦意を削ぐ方法。
この方法はかなり非人道的だ、グロテスクな殺し方をするのだから。
人相手ならとてもじゃないが出来ない方法、だが、相手は人形だ。
非人道的もクソも無く、ただ物を破壊するだけ。
向こうはこの場にいなくても、視界はあるだろう。
その視界を通し、操ってる奴全員にプレッシャーを与える。
「さてと、ぶっ飛ばすか」
俺は自分の手元にバレットM95を召喚した。
やっぱり高火力狙撃銃はボルトアクションだよな!
ボルトを引き、次弾を装弾するときに出てくる馬鹿でかい薬莢。
まぁ、セミでも出てくるが、やっぱり自分で装弾したと感じる方が気分良い。
「おら!」
「な!」
引き金を引き、周囲に響く銃声、同時に見えたバラバラになった人形。
その衝撃を至近距離で見てしまえば、相手が子供なら、恐怖するだろう。
「な、なんて大きな音…でも、これは銃声?」
「俺の魔法は狙撃魔法、分かりやすく言えば銃を召喚する魔法
狙撃銃、分かりやすく言えば遠距離用の銃限定だがな」
「遠距離用の銃、と言うのは分かりました、しかし、この距離で当ると?
銃器など信用に値しない程に乱雑に弾が飛ぶというのに」
「その内、精度が高い銃が出来るだろ、いや、作らないと駄目だろうな
この状況だし、精密な銃を作るのは最優先項目になるだろう。
ま、俺の銃は精密を通り越してるけど、魔法だし」
「魔法ですか、何というか反則ですね」
「その代わり、反動もデカいがな…俺は良いんだけど」
俺達ほどに適性がある魔法使いの寿命は短い。
精神的には18歳しか生きる事が出来ないと。
どうせなら、子供の状態で…いや、どっちにしろ駄目だな。
やっぱり方法を模索しないと、まずはアルトール国から情報を集めないとな。
「まぁ良い、とりあえず攻撃再開しないとな、時間は待ってはくれないし
と言っても、俺がやることはもうあまりなさそうだが」
俺の予想通り、俺の狙撃による精神的ダメージは結構大きかったようだ。
敵の人形達が動きを止めた、目の前で仲間がバラバラになったら動揺する。
ガキってのは無邪気な物だ、未知に恐怖することも殆ど無いし
理解不能が目の前に生じても、理解しようとしないから怯える事も少ない。
そんな連中に意味の分からない死となるただの狙撃は効果が薄い。
だから、どうしても恐怖を感じる攻撃である、派手な攻撃を仕掛けた。
結果、予想通りに効果的だった。
さて、じゃあ、ここに追い打ちという物を掛けてやろう。
だめ押しってのが無いと、決定打は生じにくいからな。
「2発目だ、受け取れよ」
2発目の弾丸は一体の人形をバラバラにすること無く、ドデカい風穴を開けた。
これが人間なら、中身から内蔵が飛び出してるだろうな。
ぶち破られた胴体から、こう、腸が漏れ出してとか…
いや、狙撃した箇所からして、心臓の方が飛び出すかも、あるいは木っ端微塵か。
どちらにせよ、想像するだけでグロいな、アニメでもあまり無い描写だろう。
「よし」
狙い通り、人形達の動きに激しい混乱が生じる。
混乱が生じたのは俺が攻撃した別動部隊のみではない。
正面から攻めてきている敵本隊も動揺に混乱を始めた。
この事から分かることは、この人形を操ってる魔法使いは
複数体を操っていると言うことだろう、分かってたことだが、これで確定だな。
確かにだ、本隊を使って敵を誘導し、バレない様に別働隊を動かすには
自身もその現場を見ている方が、立ち回るのも楽だろう。
だがその結果、本隊も別働隊も混乱してしまった。
策士策に溺れるとはこういうことかも知れない。
「別動部隊も今は混乱状態だ、本隊もだろ? 畳みかけろ」
(言われなくてもやってるわ! 全員! 一斉攻撃!)
「俺も援護をする、時間との勝負だ、やるぞ!」
さぁ、こっからが正念場だ、動揺をしている間に敵を戦闘不能になるまで削る。
俺の狙撃魔法は殲滅力は低いから、結構キツいかも知れないが
M21ならそこそこの数を削れると思う。
セミオート式だからな、VSSはフルオートだが、今回は距離もあるから
連射するのは効果が薄い。ここはセミオートで素早く正確に潰していく。
ボルトアクションの方がより精密な狙撃が出来るが、今回は速さが優先だ。
「一気に潰してやるよ、腹の方からな」
俺の狙いは敵の中腹部隊だ、中腹部隊を潰せばプレッシャーを与える事が出来る。
後方部隊を狙うことは可能だが、後方部隊を狙う場合の難点がある。
あくまで今回は敵に撤退をさせるための戦いなんだ。
後方部隊を叩いたりしたら、敵が後方からの攻撃だと考えてしまうかも知れない。
そうなると、あいつらは撤退する事が困難と判断し、正面を潰しに掛かるかも。
物量戦では向こうの方が圧倒的有利、一斉に攻撃を食らえば勝ち目が一気に薄くなる。
だが、中腹部隊を攻撃する場合、敵に撤退という選択を残すことが出来る。
中腹なら正面からの攻撃だと考えるだろうし、未知の攻撃だと認知してくれるだろう。
敵がどの様な体制で子供達を使い、人形で攻め込んでいるかは分からないが
恐らく総合の指示を行なう司令官となるポジションが1人はいるはず。
それが大人なら、未知の攻撃に対して撤退という選択を取ってくれるかも知れない。
まぁ、人形をどうやって調達しているのか、製作にどれだけ時間がかかるのか。
そこが分からないからなんとも言えないが、もし調達や製作に時間がかかるなら
資源を失わない様に撤退という選択をする可能性もあるからな。
「お」
その後も手を休めること無く攻撃を続けた結果、敵の部隊は撤退を開始した。
これで俺達の勝利だ…そして、今回の戦利品も結構な物だな。
「なる程な、ここで撤退という選択をしたって事は
あの人形はいくらでも用意できるわけじゃ無いって事か」
この戦いで手に入れた戦利品はこの情報だ。
他にも戦闘中に再起不能になった人形の確保も出来た。
「ふぅ、何とか難は逃れたな」
「あなたは何をしたのですか?」
「精神攻撃だ」
「は? そんな攻撃には何の意味も」
「お前心理戦とか苦手か? 精神攻撃は基本だぞ、戦闘中とかな」
「私はその様な小細工を弄したことなどありませんよ」
「そうかい、全く強い奴ってのは羨ましいよ、ま、俺は弱いんでね
そんな小細工を弄しないとまともに戦えないんだ」
「でも、あなたは敵を撤退まで追い込んだ、弱いってのは自分を貶みすぎよ」
戦闘終了後、俺達はスティールに合流した。
兵士達は皆、例外なくこの勝利に激しく歓喜している。
「随分と騒がしいな」
「私達にとって、初の勝利だからね」
スティールは冷静を装って答えたが、その表情には抑えきれない喜びが浮き出ている。
だが、浮き出ているのは喜びだけで無く、安堵の表情も見えた。
当然だろう、今まで敗北ばかりしていたんだ、それが今日、初めて勝利した。
今までは士気に関わるから表情には出さないように抑えていたのかも知れないが
スティールは国を背負う姫として、常にこの状況に不安を抱いていたことだろう。
今回、初めて勝利を得たことでその不安も少しだけ取れ
今まで抱えていた不安が少しだけ漏れ出したんだろう。
「は、勝利したときくらい喜べ、あるいは泣け」
「な、泣く? な、なんで勝ったのに泣かないとい、いけないのよ!」
「嬉し泣きって奴だ、不安から解放された時、人は大体泣くもんだ」
「ふ、不安なんて感じてなかったし、泣く事なんて無いわよ!
そ、それによ! ま、まだ安心出来る状態じゃ無いし!
私達は…ただ1度だけ、敵の襲撃を防いだだけ…」
「そうかも知れないがな、喜ぶ時は喜んでろ、メリハリは付けてた方が良い
後、警戒は周りに任せておけ、中心は中心の仕事をしてれば良い。
お前が恐い顔のままだったら、国民達も恐い顔したままだぞ?
折角こんなに嬉しいことがあったのに祝えないなんて可哀想だろ?
お前は国民の為にも、素直に喜んでいれば良いんだよ
警戒はお前が最も信頼してる、この駄メイドがしてくれるだろうし」
「くだらない洒落ですね、殺しますよ?」
「おぉ、こわ、ま、否定しないって事は自覚あるんだな」
「あなたみたいなチビにくだらない悪口を言われてキレるとでも?」
「何度もキレてるだろ?」
「待ちなさい! な、なんでそんなに仲が悪いのよ!
こ、こう言うときくらい、お互いに喜んだ方が良いでしょ!?」
「そうだな、一緒に喜ぶか」
「えぇ、そうですね、ですので、スティール様も沢山喜んでください」
「……ま、まさかあんたら」
「勘違いしないでくださいね、私達はただ仲が悪いだけですから」
…ま、今回くらいは協力してやるか、この毒舌メイドに。
「とりあえず、テレビがあるんだ、お前の口から勝利宣言して来いよ
国民達はきっと、お前の言葉を待ってるんだから」
「…そうね、分かったわ、行ってくる」
さてと、じゃ、俺達は俺達のすべき事をしようかな。
とりあえず、この人形だ、この人形を調べよう
俺が分かる事なんてあまり無いかも知れないが、調べないよりはマシだろう。
「ふーん、大した出来だな、この人形」
人形を調べてみた結果、すぐに分かったことは精巧だと言う事だけだった。
手の細部は精巧に出来ており、動きもスムーズ
各関節も引っ掛かること無く、簡単に動く。
だが、それだけだった、動かしても金属の音とかはしない。
人形の腹部を割ってみたりもしたが、特に何か入ってることも無い。
要はこの人形は何の動力源も無く動いていたと言う事だ。
現実世界なら相当ホラーな人形だよな。
緻密に作られた人形が何の動力も無く複数体動いていたんだから。
でもまぁ、この世界では何ら珍しいことでもない。
ただ魔法で動いていただけなんだから。
「やっぱり魔法か、後、生産も難しいって事も分かった。
ここまで緻密に出来た人形なんだ、そう簡単には作れないだろう」
魔法で作ったわけでは無いと言う事は
一般人が作った人形に自分の感覚を乗せて操る魔法。
魔法にどんな系等があるかは知らないから
俺のオリジナルで命名すると憑依魔法って所か
何のひねりもないが、凝った名前よりもストレートな方が伝わりやすいだろう。
ま、どんな感じか理解したところで、対策が取れるわけじゃないんだけどな。




