仕事
「料理が完成いたしました」
あの説教の後、メイルはすぐに料理に取りかかり
少しの時間経過の後、俺達の元に食事が運ばれてくる。
運んできたのはメイルで、全ての席に同じ量の食事を置く。
正し、俺の所に運ばれた料理は結構少なかった。
明らかに嫌がらせだな…
「メイル、これはどういうことよ」
俺の隣に座っているのはスティールだった。
理由としてはだ、俺は設定上では王族だからな。
それも現状ではスティールの次に地位の高い王族だ。
国王は確か病に伏していて、后はいない。
この席にいる最も位が高い人物が設定上は俺とスティールだからな。
「いえ、リオ様は少食だと聞いた物で」
とか言いながら、メイルはこちらに向けて少し嫌な笑みを見せる。
何か、随分と嫌われた物だな。
「えぇ、構いません、スティールお姉様、私は確かに少食な物で」
スティールと相談した結果、俺はスティールの事をお姉様と呼ぶことになった。
何だかんだで無難な呼び方だと思ってる、俺の見た目も小っちゃいしな。
「そ、そう、なら良いわ、そうよね、まだ小さいあなたにこの量は食べきれないか」
大人が食べる分を、まだまだ小さい俺が食べきれるわけが無いからな。
まぁ、俺は結構食べるから、これ位はいけるけど、僅かでも問題は無い。
普段はアルルの料理を食べてるが、こんな物だからな。
「では、いただきます」
「えぇ、そうしましょうか」
ある程度の挨拶を終わらせ、俺は目の前の料理に手を付けてみた。
確かに味は良い、材料の味もかなり上品な味だ。
当然か、これは王族が食べる料理、俺達兵士が食べてた料理とは違うか。
でも、何でだろうな、味は確かにこっちの方が美味いんだ。
素材も上質だし、美味しいのはまず間違いない筈なんだけど。
何だろう…アルルが作った料理の方が美味いと感じる。
あいつが作る料理に使われている材料は安物ばかりだ。
高級品を買ってきて、俺達に振る舞うことは無い。
でも…美味しいんだよな、高級素材を使ったこの料理の何倍も。
…もしかしたら、あいつらと一緒に食ってないからかも知れない。
いつもなら馬鹿話をして、食事をするのにも時間がかかって
俺の好きな物を横取りされたり、フレイが汁をぶちまけたり
そんな賑やかな食事だったが、この場はどうもお淑やかすぎる。
皆静かで口を開いても料理の感想ばかり…あぁ、改めて理解したよ。
俺にこんな上品な食事は似合わないって。
「…あまり楽しく無さそうね」
「……少し、このような食事は慣れず、申し訳ありません」
「そう」
その後、俺はその息苦しい食事を終える事が出来た。
特に俺の異変に気が付いたような士官達はいなかったようだ。
一応、テーブルマナーは理解しているからな。
姫に成り代わったときも叩き込まれたし
シルバーにも多少は教わったからな、意外と役に立つもんだ。
ま、シルバーの教えも虚しく、テーブルマナーを理解したのは
俺とトラの2人だけだったけど。
フレイは寝てたし、ウィングはさっぱり理解できてなかったからな。
「…リオ」
「ん?」
「ああ言う食事、慣れないの?」
食事が終わった後、一緒に部屋に入ったとき、スティールが質問をしてきた。
あの時の言葉か、わざわざ聞いてくるとは、律儀なもんだ。
「そうだな、ああいう食事は慣れない、堅苦しいのは苦手だ」
「じゃあ、普段はどんな食事を?」
「何故そんな事を聞く? 下々の者の食事なんてお姫様には関係ないだろ?」
「何も知らないから興味があるのよ、私はあんな食事しかしてきてないからね
あの食事を楽しいと感じないって事は、あなたの食事はすごく楽しいんでしょ?」
「聞いても面白い話じゃ無いと思うが、まぁ、知りたいというなら教えよう
そうだな、俺達の食事には…マナーがまず無い」
「え!? そうなの!?」
「あぁ、そんな物、擦ることすら無い、一切マナーは無い」
だからまぁ、いつも食事の度に無秩序な状態になるんだけどな。
「マナーが無い…」
「あぁ、ある奴は短い間に飯を平らげるし、人のおかずも取ってくる。
頼んでもいないのに俺に飯を食わせようとする奴だっているし
嫌いな物を無理矢理食べさせようとする奴もいる、カボチャは嫌いだ」
「カボチャ、駄目なのね」
「好きじゃ無い、まぁ、出て来たら食べるけど、好んでは食べたくないな。
んで、暴走する奴をいさめる奴らがいたり、便乗して暴走する奴もいる。
そりゃあ、静かに食事なんて出来やしないし、大騒ぎしすぎてしんどいくらいだ。
それでも、その食卓にはいっつも馬鹿みたいな笑顔が溢れててな
会話も絶えないんだ、因みに料理の細かい感想も殆ど無い。
あるのは美味いという言葉とこれ食べてみてとかって言う言葉。
後は日常会話だな、忙しい忙しい、食事に集中なんて出来やしないよ。
ま、それでも料理は美味いと感じるし…何より、楽しいと感じる」
「楽しい…ね、そんな風に感じた事は1度も無いわ」
「姫なんて言う立場だ、楽しむ余裕は無いだろうな、あんな場では。
何ならその内、俺達の騒がしい食事に参加してみるか?
育ちが良いお嬢様は呆れるかも知れないが」
「興味があるわね、機会があったら是非お願いしたいわ」
「あぁ、遠慮はいらない、あいつらも遠慮はしないからな、ま、後悔すんなよ
悪ガキ共の食事は上品とはかけ離れてるからよ」
「それはそれで楽しみよ、窮屈な上品さには飽きてきてたから」
ま、そんな食事をするとしたら、この窮地を脱した後だろうな。
「とりあえず、楽しみにしているわ、でも今は」
「分かってる、やることはやろう、しかしだな、まさか重要書類を俺に渡すとはね」
「主に軍事関係に関してよ、そこはあなたの方が優れているでしょう?」
「お前、俺を信用しすぎだろう」
「お互いに信用しないとこの状況は打破できない、それ位、理解してるわ」
「それもそうだな、ま、後から後悔すんなよ」
「しないわよ、そうなったら、それは私達の定めよ。
まぁ、ここはプレッシャーを与えるためにもありがとうと言っておくわね」
「先に言うなよ、先に」
「先に言った方が良いプレッシャーになるでしょ? 特にお人好し相手ならね」
「だから、俺はそんな奴じゃ…まぁ良い、どうせ言っても無駄だろう」
「頼むわよ」
「はいはい、任せろ、で、個室で作業するのに何で俺はドレスを着せられたんだ?」
「そりゃあ、新しい仕事とか書類が来たら、士官が入ってくるからよ
あなたは私とこの部屋で作業するんだから、かなり来るわよ」
「なる程…は、面倒くさい」
「まぁ、私の姪って設定なんだから頑張りなさいよ」
「姪なのか?」
「面倒なのは良いのよ、姪の方が言いやすいし分かりやすいでしょ?
家系図って面倒だし、呼び名も面倒だしね、とりあえずいとこか姪って感じよ」
「お姫様が言って良いセリフか? 王族ってのは血縁関係重視だろうに」
「私はそこら辺あまり気にしてないから良いのよ」
ま、確かに面倒くさいからな、こいつが姪で良いって言うなら姪で良いか。
しかし、姪ねぇ、俺にはそんなのはいなかったし、新鮮だな。
と言っても、俺がその姪という立場なんだけど…設定上では。
「とにかく、はいこれ、軍事に関しての資料ね、メイルは来客の対応をお願い」
「承知いたしました…しかし、大丈夫なのですか? そいつは信用なりません
2人だけでの作業は些か危険なのでは…」
「何言ってるのよ、リオは十分信用のおける人物よ」
「すぐに人を信用してたら、その内、足下すくわれるぞ」
「その危険性は十分理解してるわ、アルトール国の件でね
その私が、あなたは信用に値する人物と評価したのよ」
「そうですかい」
ここで下手な事をして、関係を悪化させるのは良くないからな。
お互いに利害が一致している、だからこその信頼。
……信頼にも色々な形があるが、この信頼形態が個人的には1番だと感じる。
だが、こいつの信頼はその信頼とは少し違う気がするがな。
「……スティール様がそう仰るのであれば」
「安心しなさい、ほら、言った通りの事をして」
「は…ただ、1つ言わせてください」
「何?」
「リオ様、スティール様にもしもの事があった場合」
「分かってるよ、そんな事態になったら、お前に殺される覚悟くらいある」
「さようですか、では」
はぁ、本当、何か色々な言動に狂気を感じるというか、何だかなぁ。
ま、良いか、どっちにせよこいつに何かあったら、俺は死ぬんだから。
約束も果たせないし、肉体的にも精神的にも終りだろうな。
「さて、じゃ、さっさと目を通しますか」
「お願いね」
ファストゲージ国の軍事状況か、結構資材が足りてないようだな。
基本武器は旧式の銃火器、恐らくM1ガーランド位の旧式銃だな。
装備は…ほぅ、剣もあるって事は、銃剣か。
船を渡る技術も持ち合わせているみたいだし、科学力に秀でていたって
言ってたような気がするが、まさにその通りみたいだな。
ミストラル王国は剣での戦闘が主だったからな、技術の差はかなりの物か。
俺達がいない状況で戦闘になってたら、ま、確実に負けてたな。
ただ戦車の様な物は無いと、移動手段も車とかでは無く馬か。
船を渡る技術があるなら、大陸を移動する手段くらい考えれば良いのに
と、思ったが、そうだな、馬でも特に不便は感じなかったんだろう。
大体、不便を感じる物の技術力が増すからな。
海がすぐ後ろにあるのだから、海を渡ってみたいと考えたって所か。
軍服は…普通だな、スティールは和装だったが、他は普通に軍服ね
で、兵士名簿に目を通して分かったが、なる程、階級があるか。
階級はあっちの世界と同じく三等兵やら二等兵やら軍曹という感じか。
だが、大佐以降の階級は無いと。
そもそも大佐にも名前は載ってないし、階級はあるが相応しい兵はいないと。
現状、名簿にある階級で、最も高い階級についている兵士は大尉か。
その大尉にメイルの名前があるが、かっこで原文以外に名は載せないと書いてある。
メイルの存在は機密事項、と言う事か。
確かにその方が、スティールの護衛が確実に出来るだろうな。
名前が割れて、裏切り者や内通者に警戒されていたら
メイルが離れている間にスティールがやられる可能性もあるしな。
で、少尉、中尉に名前は無い。
結構穴が多い階級だな、それに相応しい兵がいないなら仕方ないが。
「ふーん、防衛力に不安があるな、後は統率にも不安がある」
「階級の穴が多い事かしら?」
「あぁ、ちょっと多すぎる気がしてな」
「しょうが無いのよ…階級自体、最近導入した制度だし
そもそも、上に立てそうな兵士はメイルを除いて命を落としている
メイルは格別に強いし、護衛の関係上、後衛にいるからね…
でも、他の兵達は前線…優秀な兵士がいても、どうしても…ね」
「悪循環だ、どっかで裂かなきゃ駄目だな、その為にも防衛強化だ
折角銃器があるんだから、城門に狙撃ポイントを用意すれば良いだろう」
「確かに銃はあるのだけど…上手く扱える兵士が絶望的に不足しててね
精度もまだまだだし、課題が多い武器なの。
だから、銃があっても剣や弓矢による戦闘が多くてね」
「じゃあ、銃器の精度向上を目指せ」
「海を渡る手段は後で良いの?」
「んなの、今はいらない、それよりも銃だろう。
精度を向上させない限り、銃は上手く機能しない。
このままじゃ、銃は飾りで、下に付いてる剣で戦うはめになるぞ」
「そ、そうよね…何とか銃器の性能向上を目指すわ」
「あぁ、まずは単発式での精度向上を目指せ、いきなりセミオートは無理がある」
「セミオート?」
「自動で次の弾を装弾してくれる銃だ、精度も上手く行かない状況で
自動を求めても弾詰まりを起して戦えなくなるだけだ、それよりも精度を求めろ。
確実に精密な一撃を目指せ、連射が効かなくなっても確実に仕留められるなら
連射できる銃よりも多くの敵を倒せるし、弾の節約にも繋がるからな」
「なる程ね、参考にするわ」
さて、次は…敵の情報について軽くまとめられている書類かな。




