朝一からの特異な出会い
「スティール様より、あなた様のお世話を任されました
メイル・D・スレイと申します」
「……あ、そ、そうですか」
次の日、目を覚ました俺の前に立っていたのはメイドさんだった。
何かメイドさんと言えば白い髪の毛が最初に出てくる俺だが
この人の髪の毛は紫色のポニーテールだ。
メイドさんだしロングかショートかと思ったが意外だ。
目の色は金色、目の色は紫色じゃ無いんだな。
髪の毛が紫色は珍しい気がするが、瞳が紫色は結構あると思うが金色なのか。
で、服装は当然メイド服なんだけど、違和感があるのはスカートだった。
メイドのスカートと言えばロングスカートだな。
メイドの仕事は奉仕、動くことはあまり無いからロングスカートだ。
ミストラル王国で見るメイドは皆ロングスカートだからな。
でも、こいつは違う。ミニスカートだ、膝丈くらいしか無い。
「おや、私の衣服に違和感がございますか?」
「あ、あぁ…えっと、なんでスカートの丈が短いんだ?」
「あぁ、それはですね」
そう言い、彼女が両手を広げると、手元に小型のナイフを持っていた。
他にも小型の爆弾も出て来た。
「…私はただのメイドでは無いからですよ」
「……」
「私はあなたの世話役兼護衛役…兼、監視役です」
「俺が変な行動をしたら」
「えぇ、早急に排除させていただきます、理解できますよね?
あなたは私達ファストゲージ国の客人ではありますが敵でもあります
その敵を監視役も無く野ざらしにするのは些か不安ですからね、ご理解ください」
「お前1人に…俺を止められると?」
「少なくともこの距離ならば」
まぁ、確かにこの至近距離なら俺は殺されるだろうな。
俺の狙撃魔法は本来なら遠距離特化魔法。
至近距離で立ち回る事も出来ると言えば出来るが発動を考えるとな。
「魔法の発動には時間がかかるでしょう、ですから、この距離なら問題はありません
スティール様はあなた様の事を評価しております。
だからこそ、私をあなたの監視役として抜擢した。
自分で言うのも何ですが
私は近距離戦闘に置いてはファストゲージで最も実力があると自負しております」
「そうだろうな」
武器を出すまで動きの素早さとキレ、近距離なら最強レベルなのは間違いない。
多分…いや、間違いなくフレイでも勝利は厳しいだろう。
あいつは攻撃力に富んではいるが、格闘技術は未熟。
だから、前にあのクソ野郎とやり合ったときは圧倒されていた。
歴戦の実力者相手じゃ、フレイは近距離だろうと無力だ。
一撃を食らわせる事が出来るなら話は別だがな。
「まぁ、あなたが下手な行動をしなければ良いだけです。
あなたは私達に取っては大事な客人で大事な戦力。
失うわけには行きませんからね」
メイルは目を伏せ、少し微笑みながら手に持っていた武器を納めた。
「…まぁ、お前の実力は分かった、だが、分からない事が1つある」
「何でしょう?」
「なんでお前みたいな奴がミストラル王国への攻撃時に船に居なかった」
「スティール様のご指示です。自分が不在の間、留守を頼むようにと」
「そこまで信頼されているのか、普段は何をしてるんだ?」
「スティール様のお世話を」
側近中の側近と言った方がしっくりくるかな。
見た目はメイドだが、実力、スティールからの信用はメイドのそれとは格が違う。
まさか国の指揮を任せるほどに信用されているメイドだとは。
そして、そのメイドを俺の監視に抜擢…いや、多分監視じゃ無いな。
俺をそこまで注意深く監視する必要性はあまり無いはずだ。
俺には戦う理由がある。そもそも俺が生き残るにはこの国を守るしか無い。
この国が滅べば俺も死ぬし、下手な事をして信用を失えば
いざと言う時、俺は満足に動けずに死ぬ。
ちょっと考えれば俺に反乱の余地など無いことくらい分かる筈だ。
それが分からない程、スティールは馬鹿じゃ無いと考える。
だから、こいつを俺に差し向けた理由は監視じゃ無い…護衛だ。
俺に何かあったら困るから、自分の優秀な護衛を俺に付けた。
恐らくこのメイドにもその事は分かっているはずだ。
だが、さっきの様に脅迫した、恐らく反乱の可能性を完全に潰すためだな。
「さて、このお話はここまでとしましょう」
そう言って、メイルは部屋から一旦出ていき、何枚かのドレスを持ってきた。
「先日、スティール様から聞かれたとは思いますが」
「……いや、俺はこれから二度寝するから」
「王族の者がこのような時間に眠るなどあってはなりません」
「いや! でも!」
「食事の用意ももうそろそろ出来ますから、大人しく着てください」
「嫌だね!」
「わがままは駄目ですよ」
「うわ! 離せ!」
「大人しく着てください」
「止め! おい! 無理矢理、うあぁ!」
「抵抗は無駄です、力では私の方が上ですから」
「止めろ! 止め、あ、あぁあ!」
て、抵抗虚しく、俺はすぐに衣服を全て剥ぎ取られてしまった。
「く、くぅ…この…お前無理矢理過ぎるだろ! 服が破れたらどうするんだよ!」
「失礼、ですが、衣服を完全に奪えば
あなたはドレスを着るしか選択肢が無くなりますので」
「お前容赦なさ過ぎるだろ!」
「抵抗しなければここまではしませんでしたが」
「誰だろうと抵抗するわボケ!」
「でも、感謝してほしいものです、無理矢理破る事も出来たのに
それをせず、普通に脱がしてあげたのですから」
「誰が感謝するか!」
「そうですか、では、この服を今破きましょう」
「止めろぉ!」
「では、大人しくしてくださいね」
クソ…まさか服が人質に…いや、服質? いやまぁ、どっちでも良いけど
そう言う状況になってしまった、ふざけやがって。
その服、お気に入りなんだぞ? お気に入りというか大事な服だ。
先生が俺にくれた大事な服…まさか、それをこんな…
「はい、出来ました」
「ち、畜生…」
結局、服を盾に取られ、抵抗することも出来ずにドレスに着替えさせらた。
何回目だよ、ドレスとか…絶対俺に似合うわけ無いだろ。
「しかし、よく似合いますね」
「何処がだよ!」
「お姫様の様です」
「まぁ、俺の見た目はミストラル王国のお姫様と瓜二つらしいからな」
ま、今は全然違うが、主に身長がな。
5歳の時は俺と同じくらいに小っちゃかったのに、今じゃ結構でかいし。
「ほぅ、そんな事があるのですね」
「はぁ…何でドレスなんて何度も着ないといけないんだよ」
「このドレスはファストゲージ国で最も質の良い衣服ですよ」
「本来ならもっと喜べか? 馬鹿言え、俺は軍人だ」
「小さな女の子でしょう?」
「見た目は重要じゃねぇ、そもそもただの女がこんな口調か?」
「確かに口調が女の子とは思えませんね、矯正しましょう」
「誰がするか! まぁ安心しろ、公の場でこんな風にゃ喋らねぇよ
こう見えても演技は得意なんだ、お姫様を経験した事があるからな」
「お姫様を?」
「さっき言ったミストラル王国の姫様だよ、あいつの代理で姫やってたことがある」
「ほぅ、それはまた奇異な経験をお持ちですね」
確かにかなり奇異な経験だな、普通ならあり得ない。
そもそもこんな子供が軍人やってるだけで十分異常なんだがな。
「同じような経験を今してるがな、ほら、服返せ」
「何故?」
「良いから」
俺はメイルから服を奪い、服に収納していた
セキュリティシックスと無線機を取り出した。
これが無いとあいつらが戻ってきたときに合流出来ないからな。
「その2つはこの部屋に置いていてください」
「何でだよ! 大事なもんだぞ!?」
「違和感しか無いからですよ、黄色のドレスに黒い道具なんて」
「いや、隠すから」
「駄目です」
「……大事な道具だぞ!?」
「駄目です、従わない場合は」
「分かった! 分かったから! ったく、厳しいんだから
多少は融通を利かせて欲しいもんだよ、石頭」
「主の命は絶対です」
「はぁ、恐いメイドさんだ」
何かメイドさんってのは何処か恐ろしいイメージが強いが
どうやらここでもそのイメージはあってた様だ。
ここまで融通の利かない石頭の脳筋メイドがいるとはな。
「変な事は考えない方が良いですよ?」
「か、考えちゃいないっての!」
しかも勘も鋭いか…やれやれ、勘弁してくれよ…とほほ。
「あら、来たわね、似合ってるじゃ無いの」
「……嬉しくないが」
「人生損するわよ?」
「損だとかそんな事を考えてる状況か? 随分と能天気だな」
「ぐ、ま、まぁ、確かにそれは」
「スティール様への暴言は」
「ちょっと待ちなさいよメイル! 構わないわよ! それ位!」
「は、承知しました」
「全く、本当に融通が利かないんだから、少しくらい心を広く持ちなさい」
「お言葉ですがスティール様、私の心は空よりも広いです」
「嘘言いなさい、水溜まりくらいでしょうが」
「流石にそこまででは…」
「そうね、言い過ぎたわ、ため池くらいね」
「どっちにせよ狭いな」
「あなたは黙ってください」
「俺には随分とキツく当るな!? 何か悪い事したか!?」
「メイルは私以外に対してはこんな感じなのよ…はぁ」
何か…忠実だよな、忠臣という感じだな、それもかなり極端な。
「信頼もしてるし、実力も認めているんだけどね、この性格だけは評価できないわ」
「申し訳ありません…」
「その内、その性格が仇になって死ぬわよ、早く直しなさい」
「は、努力いたします」
「結局出来なくて自滅する流れだな」
「……」
む、無言で睨まれた、これが1番強烈な気がする…
何かゴミを見る目なんだけど…大丈夫なのかよ、こいつ。
「事実を言われただけよ、それだけの危険性があると理解しなさい」
「しかし、こんな何処の馬の骨かも分からないガキを信用するなんて」
「ドンドン言葉が厳しくなってる気がするのは気のせいか?」
「気のせいじゃありませんわ、豚」
「俺はそっち系の人間じゃ無いから、その言葉は普通に傷付くんだが…
と言うか、豚と言うほど太ってなくね? どっちかというと骨じゃね?」
「リオ、その突っ込みはおかしいわ、動揺してるわね」
「こう言うの、慣れてないんだ…やる方は慣れてるけど」
「なんで慣れてるのよ!」
「大体あの馬鹿のせいだ、あ、大きい方な」
「あぁ、あの人ね…結構強烈だったけど、いつもあんな感じなのか?」
「いやまぁ、俺以外に対しては普通だ…うん」
「は、はぁ…」
「どちらにせよ、あなたは豚です」
「あぁ!? もう良いわ! じゃあお前も動物に例えてやる! この犬!」
「い、犬? わ、私をあんな獣に例えるとは! 許しません! 排除して!」
「だから! 止めなさいって言ってるでしょうがぁぁあ!」
俺達のやり取りにキレたスティールが俺達を部屋に連れ込んだ。
「全く! あなた達は自分達の置かれている状況が分かってるの!?
手を取り合わないと私達に勝ち目は無いし、私達は死ぬんだからね!?」
「は、はい…」
「リオは返事しないの!?」
「うぇ!? あ、あぁ、わ、分かってる」
「自覚あるの!? あなたは国の代表みたいな物でしょ!?
そんなあなたが私の部下であるメイルと喧嘩してて良いと思ってるの!?」
「ほ、本当に申し訳ない…」
「ざまぁ無いですね」
「メイル! あんたもよ!」
「は、はい…」
「あなたは国の代表である私の指示の元動いてるんだから!
もっとお客陣に対し礼儀という物を知りなさい!
いつもいつも私以外の人に強く当って! 皆あなたの事嫌がってるわよ!?
そんなんじゃ、いつか誰かに殺されちゃうわ! 何度も私以外にも
普通に接しろと命じているのに、その命令を違反して!
今回に至ってはお客人に対しての無礼よ!? 普通ならとっくにクビよクビ!」
「そ、それは!」
「クビが嫌なら私以外にも普通に接しなさい! 厳しく当るの禁止よ!
もう一度、改めて命じるわ! 私以外とも仲良く接しなさいと!
特にリオに対しては私と同じくらいの態度で接しなさい!
あなたにはリオの世話を任せているのよ!?
世話をする相手を満足させる、それ位出来ない様じゃメイド失格よ!
改めて肝に銘じなさい!」
「しょ、承知いたしました…」
犬が尻尾を垂らして落ち込んでるように見えるな、ざまぁねぇぜ。
「それじゃあ、今回はここまでにしておいてあげるわ、仲良くしなさいよ!」
「はい」
「リオ! 返事くらいしなさい!」
「わ、分かってるって、こいつがキツく当らないならこっちもキツく当らない」
「よろしい、それじゃあリオ、食事の後に職務を頼むわ、そう言う約束だし」
「分かったよ、で、飯は誰が用意するんだ?」
「メイルよ、この子の腕は天下一よ、きっと病み付きになるわよ」
「……大丈夫なのか? 毒とか入れるなよ」
「あなたが確実に食べる料理になら、毒を入れても構いませんよ」
「だから! 喧嘩するなっての!」




