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価値はあるか

アルルの両親がこの場にいるという明らかな違和感。

あり得ないこの状況…しかし、その状況は現に目の前で起っている。

この3人の会話からして、本当なのは間違いない。

いきなり見ず知らずの人が出会って、俺達2人を騙そうなんて出来ないし

アルルには多少の利があったとしても、赤の他人2人には何の利も無い。

だが、この3人は異常な程に親しく話し、まさに家族という感じだった。


「あ、確かにそうですね、なんで2人がここに?」

「あぁ、それは話すも涙、聞くも涙の物語が」

「どうでも言い前置きは良いから早く教えてよ」

「全く、ノリが悪いな、まぁ、そうだな、簡単に言うと

 全国制覇したけど、何か物足りないから海を渡った」

「いやいや! おかしいだろ! そんな簡単に渡れるもんじゃないぞ!?」

「海を渡れるんじゃ無いかって思って、水に浮く道具を作ってみたの

 そしたら、道中に嵐に遭って、難破して、気付いたらここに流れ着いてたの」

「あはは! いやぁ、死ぬかと思った、あれは本当に!」


普通は死ぬと心の中で強く思ったが…何か口に出すのもアホらしく感じた。

何か、流石はアルルの両親。

発想とか行動力とかが並じゃ無い…人間なのかという位に

突拍子も無い発想力と行動力…そして何より、異常なくらいにタフだ。

普通さ、難破したら死ぬだろ、なのに何でケロッとしてるんだ?

何で死の淵を彷徨った経験をこんなさらっと言えるんだ?

もう、何もかもが規格外で訳が分からない。


「本当…良く生きてたね」

「まぁな、それでまぁ、ここに流れ着いたわけだけど

 正直、お金も違うから色々と働いててな、ある程度の身銭も貯まったし

 そろそろ別の場所に行こうかなって思ってたんだけど」

「それで、何でここに?」

「ムラムラしたから」

「1発抜いてやったわ」

「……りょ、両親がアルルの何千倍もどぎついんだけど…」

「まぁ、1発じゃ済まなかったがな!」

「いやぁ、ハッスルしすぎでしょ、あ、そうだアルル

 多分、来年辺り、あなたに妹が出来るわよ」

「へ!? い、妹!?」

「私の堪だけど、多分女の子よ、お父さんの家庭、女の子ばかりだからね

 お父さんだけが唯一の男の子らしいのよ、すごいわよね」

「じゃあ、家に帰って休んでたほうが」

「何言ってんのよ! ここまで来たのよ? そりゃあ、冒険するでしょ!」

「子供に何かあったらどうするの!?」

「大丈夫、お前が腹にいるときも冒険したけど無事生まれたし」

「旅先で生まれたわ、頑丈な子が生まれてきて嬉しかったわ」

「そもそも腹にいる状態で十分頑丈だったけどな

 盛大に転けても無事だったし、崖から滑り落ちても無事だったし」

「私生まれる前に生死の境目そんなに行ったり来たりしてたの!?」

「まぁ、お母さんの家庭もお父さんの家庭も、皆頑丈な子供を生んでたみたいだし」


が、頑丈の次元…通り越してるだろ…いや、待て、落ち着け俺。

アルルのアホは確かにタフだが、ダメージは何度も受けている。

つまりだ、ヤバいのは子供じゃ無く、この母親の腹なんじゃねぇか?

そう言えば、なんと無く腹筋割れてる気がするし…ぼ、冒険家ぱねぇ…


「で、お前は何でここに来たんだ? お前も船が難破したか?」

「いや、普通に目的があってきたんだけど…」

「ランデブー?」

「あ、それも良いかも! ね、リオさん!」

「……」

「あ、ありゃ?」


何か呆然とするな…色々と訳が分からない。


「り、リオ…えっと、あっと…何これ」

「お、俺に…聞かないで欲しい…」

「うーん、何だか今日のリオさんは調子が悪いみたい

 普段ならこの後、強烈なのが来るんだけど…」

「まんざらでも無いんじゃないか?」

「そんな表情? 呆然としてるように見えるけど…」

「何に呆然とする必要があるの?」


お前らの存在その物だよ! 規格外過ぎるだろ!


「ちょ、ちょっと頭が痛くなってきた…」

「奇遇ね…私もよ…」

「んー?」


何でこの3人は自分達の異常性に気が付いていない!

アルル! お前は気付けよ! 両親の異常性に気付いてくれよ!


「あ、あー、えっと、あなた達は人間ですか?」

「人間よ、あ、でも、野獣でも良いかもね!」

「え?」


あっと…母親と思われる方に抱き上げられたんだけど…


「くぅ! こう見ると可愛いわね!」

「むがぁ!」


いきなり抱きしめないで欲しい!


「ぬいぐるみみたいね!」

「そうでしょ!? リオさんはぬいぐるみ以上に可愛いの!

 でも、こんな感じでも格好いいから最高!」

「かっこ可愛いとか最高ね!」

「離せぇ!」

「はいっと」


うわぁ! 投げやがった! ボール投でも投げるように雑に投げやがった!


「キャッチ!」


こ、今度はアルルにキャッチされた…落下するよりはマシだが、何かやだ。


「いやぁ、面白い子ね!」

「小さいのに随分と乱暴な喋り方だな」

「そこが魅力! ワイルド系かっこ可愛い女神幼女!」

「うっさい! てか! あんたら何なんだよ! 訳がわからねぇんだよこちとら!

 理解させろ! ここに来た理由を俺達にも理解できるように説明しやがれ!」

「そうね、ここに来た理由は散歩よ」

「ふっざけんな! 海を渡る散歩とかあってたまるか!」

「何でも簡単にやるように行動した方が気が楽なんだ

 まぁ、子供にはまだ分からないかも知れないけど」

「私は全力で行動するタイプだから、私にも分からないよ」

「私だって愛には全力疾走よ!」

「あぁ! 愛は常に全力全開だ!」

「も、もう良い…」


何かもう…訳が分からない、理解出来ない、理解できるわけが無い。


「まぁ、アルル、茨の道になるかも知れないが

 愛する者を失わないようにしろよ」

「大丈夫、私は愛する者を一生守ると決めてるから」

「告白よ、喜びなさい」

「粉微塵も嬉しくない告白だな」


と言うか、こう言うセリフはむしろ男が言いそうな物だが…

いや、男に言われても一切嬉しくないけど。

どっちかと言えば女に言われる方がまぁ、うん、良いか。

でも、こいつに言われるのは絶対にいやだ。


「それじゃあ、私達はもう行くわ、気を付けてね」

「うん! お母さんお父さん、私の妹を殺したりしたら許さないからね!」

「安心しなさい、守るわ」

「全く信用ならないセリフだな…」

「あなたもそう思う? 私もそう思うわ」


だって…腹にアルルがいるときも冒険して崖から落ちたんだろ?

それでもアルルが生まれたわけだが、守ると言うよりも

勝手に耐えたと言う方がそれっぽいし…

それでも崖から落ちたのに腹の子供が無事ってのは訳分からないが。

普通なら落ちた方も死ぬだろうに。

流石アルルの両親、色々と規格外だ、娘が無駄に頑丈な理由が分かったよ。


「頑張りなさいよ~」


アルルの両親が俺達に手を振り、ラブホから出て行った。

何か…圧倒されてただけだったな、あの両親に。


「いやぁ、久し振りに会いましたけど、変わってないようで安心しました」

「昔からあんな感じか…はぁ、ま、お前がこんな性格だからな」

「愛には常に全力全開なのですよ!」

「はいはい、ま、そんな事よりもさっさと調査を始めよう」

「はい!」


そもそも俺達がここに来た理由は調査だからな。

とりあえず現状の戦力と国民達の生活とかを見定めないと。

そこでファストゲージ国が俺達ミストラル王国が力を貸すに値する

国家なのかどうかを判断させて貰おう。

場合によっては同盟を考えてみるのもありだろう。


「いらっしゃい、いらっしゃい!」

「ふーむ」


こんな絶望的な状況だというのに、随分と活気があるな。

ここまで追い込まれていれば、普通はもっと寂れた感じだろうに。

しかも社会主義国家、本来なら気張って店をやる奴も少ないはず。


「すみません」

「はいはい、何でしょう?」

「えっと…すごく元気ですよね、こんな状況なのに」


アルルが店の人に声を掛けた、まぁ、声を掛けない限り意見は聞けない。

話し掛ければ意見は聞けるが、その代わり、そこそこ大きな危険性を孕む。

それは、違和感を感じさせてしまうことだ。

そうなると噂が広がり、上手く動けなくなっちまうからな。

まぁ、ここはアルルに任せよう。そこら辺は十分理解しているはずだからな。


「あぁ、国が追い込まれてるからですか? 大丈夫ですよ

 きっと問題ありません、それに、国民である私達が不安そうに暮らしていたら

 国王様達や兵士達が満足に戦えませんからね、お互い、気合い入れて行きましょう」

「…そうですね、兵士の皆様なら、きっと何とかしてくれますよね!」

「はい! あ、そうだ、これ食べます? 気合いを入れるためにも」


そう言って、お店の人は梨の様に見える果実をアルルに渡した。


「え? でも」

「あ、お代はいりません、後ろで見てる妹さん達と食べてください

 子供は国の宝ですからね、ちゃんと元気に育つように」

「…はい!」

「あ、そうだ、折角だし切ってあげます、刃物とか無いでしょ?

 後、今すぐ食べた方が美味しいでしょうからね、少しお待ちを」

「あ、ありがとうございます!」


お店の人は店の奥に入った。


「…国民性は問題無いのか?」

「ここの人だけかも知れないわよ、梨を頂いた後も調査しないとね」

「そうですね」


そんな会話の後、店の人が切った梨を皿に入れて持ってきてくれた。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます! ほら、一緒に食べましょ?」

「う、うん」

「はい、あーん!」

「ひ、1人で食べられるから!」

「駄目、手が汚いでしょ?」

「大丈夫だから!」

「ほらほら」

「止めてって!」

「もぅ、強情なんだから」


く、クソ…好き放題しやがって! 

この状況で俺が変な事を出来ないって分かってるからだな。

そりゃあ、店の人が見てる前で乱暴な口調では喋れないし

こいつに攻撃することも出来ない、嫌がる事しか出来ないだろ。

それを見て楽しんでやがるな!


「…じゃあ、お姉ちゃん、私に」

「え?」

「な」


ミロル! 何考えてやがる! 何で口開けてんの!?


「じゃあ、はい」

「あん…美味しい!」

「え? あ、え?」


ちょっと待て…何でこっち向いてんの? 何でこっち向いて笑ってんの!?


「ほら、リオも、あーん」

「いや、だか」

「ほら、美味しいよ? リオも食べた方が良いよ」


そうか! そう言う事か! 謀ったなミロル!

一応、姉であるポジションのミロルが食べたのに

俺が食べないのは何か違和感がある!

流石にこんな小さな子供がもう1人の姉が食べたのに

自分は同じ様に食べないのはおかしい!

だって、食べようとしない理由は大体恥ずかしいからだ。

しかし、1つ上の姉であるミロルが同じ様に食べたのに

自分は食べないって事はきっと無い!

それでも食べないってのもおかしい…

それでも必死に食べ様としなかったら

それは梨が気に入らなかったって感じてしまうかも知れない。

そうなると、梨をくれた人に申し訳ない!

完全に…逃げ道を塞がれた!


「うふふ…」

「く、く…」

「ほら、お店の人が見てるわよ?」

「ミロル…お、覚えてろよ…あむ」

「むふ!」


くぅうぅうう!! ふざけやがってぇ!

なんて屈辱だ! クソッタレ!


「どう? 美味しい?」

「う、うん…」


なんてこった…何か精神的にキツい。


「喜んでくれたなら良かったです、お互いに頑張りましょうね!」

「はい!」


それから方々を探ってみたが、どの国民に話し掛けても

誰も意気消沈なんてしてなかった、どの国民達も

国の勝利を信じ、国の邪魔にならないようにと力強く振る舞っていた。

国の為に必死に振る舞ってるのか…健気なもんだ。

でもまぁ、現実なら敗北してそのまま奴隷ルートかな。

多分だけど、戦場に出たスティールが捕まって公で殺されるかもな

別の可能性はあるかも知れないけど、多分無いだろう。

そして、3日後、俺達は予定通りの場所に来ていた。


「…やることはやったわ」


約束の場所へ来ると、最初とは雰囲気が違うスティールがやって来た。

ここに来る前は赤髪のツインテールだった気がするが

お姫様やってるときは赤髪ロングなんだな。

服装も戦場にいたときは赤い胸当てと、白い和服の様な物だったが

今は白いブラウスに白のロングスカートか。

胸も戦場で見たときは小さい様に見えたが、一応あるんだな。

アクセサリーも増えてるのか、首元には青のネックレスがある。

戦場だと黒いリボンを髪の毛に付けてるくらいだったのにな。

まぁ、お姫様状態と戦闘状態だと違うんだろう。

あれだな、姫騎士って奴だな、大変な事になるタイプだ。

お姫様が戦うとか本来あり得ないからな。

あり得ないにはあり得ない妄想が付きまとう物だ。


「じゃあ、今回3日間調査した結果を話すか

 正確には俺達がどうするかをお前に告げよう」

「た、助けてくれるんじゃ無かったの!?」

「国民性によっては見限る可能性はありました」

「どういうことよ!」

「救う価値が無い国なら捨てようとしてただけよ

 私達も慈善団体じゃ無いんだから」

「く……それで、どうだった」


スティールは悔しそうな表情を浮かべ、必死に何かを押さえつけ

小さな声で俺達に結果を聞いてきた。


「……結論から言おう、この国は救う価値がある」

「え?」

「私達がこの国を探って、得た答えです、この国は救う価値がある」

「全くね、正直、ここまで国民に愛されてる国があるなんてね」

「後は、そうだな、このまま放置してたら、ろくでもない結果になりそうだ」

「私も思ったわ、多分だけど国民皆殺しの可能性あるわね」

「何でよ!」

「そりゃあ、あそこまで国に尽くしてる民なんてよ

 制圧した側からして見りゃ、邪魔でしか無いからな

 反乱を起されると面倒だし」

「そんなの、相手側に分かると?」

「なんで俺達がお前に秘密裏に動けと言ったか分かるだろ?」

「……」

「ほぼ確実にこの国には諜報員の1人や2人はいる。

 やることは調査だ、脆い部分を探すか、でも、勝利がほぼ確定なら別を見る

 この国を制圧した後にどう統一するか。

 調べた結果、俺ならこの国の民は排除することを選ぶ

 反乱なんてされたらたまったもんじゃない、ましてやここまでの国民なら

 まず間違いなく従わない、だったら、排除するしか無いだろうな」

「……何で、何でよ! あの人達が何をしたってのよ!」

「俺に聞くな、俺達が何の為にここに来たと思ってる?

 最悪の事態を喋りはするが、理由なんぞ考えちゃい無いし興味が無い

 何せ、その事態を潰すつもりなんだからな」

「……本当に協力してくれるのよね?」

「最初に言っただろ?」

「……ありがとう」

「じゃあ、さっさと帰ろう。

 信頼できる人物は集めたよな?」

「え、えぇ、何とか、ここには連れてきてないけど」

「よし、じゃあ、そいつらに指示を出せ、秘密裏に俺達を受入れる準備をしろと

 俺達は一旦国に戻って、兵力を整えてくる。

 信頼なら無いって言うなら、俺達の内、誰か1人をここに置いていこう。

 俺達がもし裏切ったと言うなら、そいつを煮るなり焼くなり好きにしろ」

「……じゃあ、ミストラル王国の英雄であるあなたを」

「良いぞ、ならアルル、ミロル、兵力調達を頼む」

「即決なのね…」

「信頼してるだけだ、最悪の場合は俺を好きにしろ、殺そうが構わない」

「……」

「分かりました! リオさん、お待ちくださいね」

「あぁ、頼む、裏切るなよ?」

「裏切るわけ無いでしょ? 今更くだらない」

「そりゃそうだ」


ミロル達は船を召喚し、ミストラル王国へ向い、出航した。


「さて、それで? 残った俺をどうする? 牢獄にでもぶち込むか?」

「まさか、あなたには働いて貰うわ、暇なのはいやでしょ?」

「まぁな、何をするか分からねぇが、こんなガキに何をさせる気だ?」

「ガキ? まぁ、見た目はそうでも、理解してるわ、あなたの優秀さは。

 ただのガキが国1つの英雄になれるはずも無いし、

 部下にあそこまで信頼されるとも思えない。

 あなたはただの子供じゃ無い」

「ま、何をするか知らねぇが、完全に文字や言葉が一緒とは思えないし

 まずはそこら辺を教えて貰わねぇと書類仕事とか出来ないぞ?

 殆ど一緒だから良かったが」

「大丈夫よ、教えてあげるわ」


あいつらが合流するまで、俺はここで動くことになるか。

存在を感付かれない様に上手く動かないと不味いかな。

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