最悪な宿
…必死に宿を探したが、宿など何処にも無かった。
しかしだ、なんか宿…みたいなところは何カ所かあった。
あぁ、なんでこれだけはあるんだろう。
いやさ、確かに宿屋よりかは需要はあると思うけど
…それでもこれってどうなんだろうか。
「宿…ラブホみたいなところしか無かったわね
他の宿泊施設は潰れてたし」
「いやさ、確かに宿泊施設かも知れないけど…違うだろ」
「まさかリオさんとミロルさんと3人でこんな場所に止まることになろうとは」
何でこんな…全面ガラス張りだし、ラブホなのにゴムは無いが。
ラブホって…てか、なんで泊まれたんだろうか。
一応、宿としても解放してるとは言ってたけどさ。
そんな風に解放してるなら、まともな部屋を用意して欲しい。
「ベット回転してますね」
「眠るとき面倒くさそうだ」
「と言うか、こっちの国はミストラル王国より発達してるわね
電気もあるみたいだし、ほら、テレビだってあるわよ」
「なんでここまで発達してるのに銃は旧式なんだ?」
「戦争とか本来する国じゃ無かったんでしょ?」
「まぁ、そこら辺は3日後にスティールから聞くか、とりあえずテレビ付けよう」
こんな場所でのんびりしているとちょっと変な気分になる。
さっさと寝れば良いのにと自分でも思うが、なんか眠れないし。
後はそうだな、久し振りのテレビだし、テンション上がったのがあるかも。
「……え、えっと」
テレビを付けると同時に聞こえてくる大きな喘ぎ声…あ、あ、えっと…あっと…
え? いや待て、え? 何、え? は? え?
「駄目です!」
「へ? あ、え?」
頭の整理が追いつく前にアルルが瞬く間にテレビを消した。
……あ、あっと…え、えっと…れ、レズ物だった。
「…忘れてたわ、ここ、ラブホなのよね…」
「しかもレズ物って…」
「もしかしてここ…女の人同士が泊まる部屋…とか」
「……ま、まぁ、確かに私達は3人とも女の子ですけど、って! そうじゃありません!
何でお2人ともまだ小さいのにそんな知識があるんですか!?
ふ、不純ですよ! 不埒ですよ! 子供が知って良い知識ではありません!」
「不純の塊が何言ってるんだよ」
「私は小さい子は純粋に生きるべきだと思うのです!
確かにいつか知る知識ではありますが、小さい内は純粋で純白が美しいのです!
小さいのに淫乱とかそんな子は認めませんよ!」
「淫乱って言葉、この世界にもあるのね」
「結構あるからな、今更だろう」
「こうなったら! 早くこの部屋から出ましょう!」
「待て、ここ以外に宿屋とか無かっただろうが」
「仮にあったとしても、正直もう歩きたくないわよ、1時間彷徨って見付けたのに」
「もう寝れば良いだろ? それで良いんだろ?」
「そ、そうですね、まぁ、お風呂には入りましょう」
「こんな場所の風呂って何か嫌だな」
とりあえず風呂場を覗いてみたが…ピンクだ、ただひたすらにピンクだ。
「おや? これは何でしょう、入浴剤ですかね」
「あー? えっと、どれどれ、びや」
「ストップ! これは入浴剤じゃありませんね!」
「…流石ラブホ、何でもありね…でも、媚薬…媚薬ねぇ…ちょっと興味あるわ」
「おい、何言ってるんだよ、お前も変態かよ」
「いやほら、すごく気持ちよくなるとか聞いたし…1度試してみたいなーとか
そんな事を昔思いつつも、相手いないし、虚しくなるだけだろうから止めたのよ」
「そんな恥ずかしい思い出を赤裸々に暴露するな、気まずい」
「でも、実際恐いし、手は出さないわよ、試すならリオに試すわ」
「ふざけんな!」
「ほら、リオの反応を見て、どれだけヤバいのかを実感するとか」
「ふざけんなよ! お前、何か暴走しがちじゃね!? 最近なんかさ!」
「アルルの変態が移ったのかしら」
「クソ! アルルめ!」
「私関係ないですけど!?」
はぁ、もうなんか休まらないな…何処にいても休まらない。
何で宿屋が無いんだよ、いや、確かにここで宿屋なんて経営難待ったなしだが。
だって、観光客なんて来ないから、宿屋なんて泊まる人がいない。
国の領土もそんなに広いわけじゃ無いみたいだから、宿屋に泊まるくらいなら
家に帰って休むだろう。
そりゃあ、宿屋の商売あがったりで、店をしまうのは分かる。
ラブホっぽいここが無事な理由は…まぁ、うん、普通は宿として利用じゃ無いしな。
「もう休まらないな、マジで」
「本当そう思うわ」
「お前、自分も原因の一角だって自覚あるか?」
「冗談を真に受けすぎるあなたが悪いのよ」
「え!? 今までの全部冗談だったのか!?」
「当たり前でしょうが! 誰がそんな変態思考に至るかっての!」
「分かりにくいんだよお前の冗談!」
「ふふ、お顔真っ赤で可愛いわね」
「くぅううぅ!! 馬鹿にしやがって!」
で、でもこう、なんて言うのか…悔しい反面、何か安心した。
「はぁ…」
う、うぅ…会話を止めたら、隣からいやな声が聞こえる。
いやうん、いやな声なのか知らないけど、いや、普通ならさ
こう、興奮するのかも知れない、中身男だし。
でも、何故だろう、全然興奮しない…
「……はぁ」
「ま、まぁ、落ち着きましょう…うん」
「落ち着くかよ、こんな場所で…」
「隣の部屋は男女用なんですね、普通は隣も女子用になりそうなのに」
「いやな解説をするな」
「それにしても…うーん、何処かで聞いたような声なんですよね…」
「何言ってんだよ、こんな所に知り合いなんぞ来るわけ無いだろ」
ここは海を1つ隔てた別の国だ、知り合いが来るわけが無いし来られるわけが無い。
来る理由もないし、来る必要も無い、むしろ危険性しか無いだろうに。
「まぁ、そうですよね」
「来てたら恐いっての」
「…とりあえず、今日は寝ましょうか」
「だな」
何というか、落ち着かない空間ではあるが、俺達は一応寝る事にした。
何だかんだでベット自体は結構眠りやすい感じだったな。
まぁ、周りが賑やかすぎて、安らかには眠れなかったが…
いやまぁ、うん、確かにここはラブホだし騒がしいのは分かるが…はぁ。
何か変な夢見そう…
……とか、考えてたら、どうやら本当に変な夢を見てしまったようだ。
まぁ、夢の中でくらい、男には戻りたいんだけどね。
しかしなぁ、なんで相手役がアルルなんだろうか。
相手もクソも無いけど…いつも通りなんだけど。
確かにメンバーの中で欲情しそうな相手は1人もいない。
ミロルの本当の姿は知らないから、出て来たとしても小さい姿だ。
フレイ達も小さいし、そもそもあいつらは兄妹みたいな物だ、欲情はしない。
シルバー達もいるけど、あいつらに欲情するのは何か申し訳ない。
アルルに欲情もした事は無いが…やっぱり一緒に泊まっているからとかか。
でも、こう言う夢で、しかも夢だと理解しているから明晰夢か。
普通ならさ、すごく嬉しい状態だろう…自由に出来るんだし。
だが、やっぱり粉微塵も嬉しくない、だって、相手アルルだし。
「……はぁ」
そんな事を考えていると、目が覚めてしまった。
うーん、なる程なる程、通りで変な夢を見るわけだ。
アルルの奴、俺を抱きしめてやがった、しかも胸元か。
妙に頭が温かいし柔らかいと思ったら、ウザったい。
そんで、ミロルは俺の手を握ってるのか。
嬉しい筈なんだけどな、この状況。
うん、現に嬉しいぞ、ミロルが俺の手を握ってくれているのは。
だが、頭のマシュマロは嬉しくないと言うか…いつも通りというか。
まぁ、いつもよりは眠りやすい気がするな、こんな場所だけど。
いつもはフレイが俺の腹を枕みたいにするし
ウィンが抱きついてたり、フランが引っ付いてたり
満足に眠れていた記憶が無いからな。
何か…平和に感じるぞ、この状況が。
「…これで静かならもっと良いんだけどな…」
ラブホになんか泊まるんじゃ無かった…
いや、今まで泊まろうとすら思ったこと無かったけど。
と言うか、隣の奴らまだやってるのかよ、もう早朝の5時くらいなんだけど…
「…もう眠れる気がしない」
こんな時間に起きて2度寝とか出来る訳がないからな。
しっかし、本当勘弁して欲しいんだけど…何か変な汗をかいてる気もするし。
まぁ、暑いからな…密集状態だから、はぁ、何か下がべっちょりして気持ち悪い。
風呂入ろうかな、早朝に風呂とか初めてだけど、仕方ない、気持ち悪いし。
「んー、ん、っと」
風呂の湯を入れて、風呂に入ろうとしたとき、下の気持ち悪い理由が分かった。
勘弁してくれよ…ま、まぁ、風呂に入って正解だったな。
あぅ…そうだよな、俺って童貞だからな、しょうが無いのかも知れないけどさ。
一応、事前知識としては知ってたんだけど、自分が女になるとは思わなかったし。
「……何か、自分が情けない」
そんなこんなで風呂から上がると、丁度2人が目を覚ました。
「あ、おはようございます、今日は早いですね」
「こんなうるさい状況で眠れるお前らが羨ましいよ」
「正直、私もよく眠れたなって思うわ…」
「えっと…さっさとここから出ましょうか」
「…そうだな」
満場一致で俺達はさっさとここから出ていくことを決め
そそくさと準備をし、急いで部屋から出た。
するとだ、隣の部屋も扉が開き、そこから30代後半の男女が姿を見せる。
「…え?」
「お?」
偶然に俺達は鉢合わせし、アルルが何故か急に沈黙した。
向こうも何だかこっちに反応したが…え? 本当に知り合い?
「え? え、えぇ!? な、なんで!」
「おぉ! ははは! 久し振りだな! アルル!」
「…え?」
何でこの男の人、アルルの名前を知ってるんだ?
まさか、本当に知り合い? いや、知り合いという感じじゃ無いぞ。
知り合いだと、正直こんな状況、気まずくなるだけだろう。
「いやぁ、まさかアルルもこっちに来てたとは驚いたわぁ」
女の方もアルルの事を知っているようで、親身に話し掛けた。
「いや、え!?」
「しかしアルル、お前、まさか本当に小さい子に手を出すとはな」
「それも2人って、選ぶなら1人にしなさい」
「は?」
「え? 何これ何これ、は?」
「もう、お父さんお母さん、私はお2人に手は出してないよ!
上司と部下の関係って言うだけで!」
「お、お父さんお母さん!?」
「アルルの部下…じゃないな、むしろこの子達がお前の上司か」
「そうだよ、あ、紹介するね、この人が私直属の上司、リオさん!
私の恋人です」
「おぉ! 玉の輿だな!」
「……」
「あ、あれ? リオさん、どうしました? 普段なら強烈な一撃が」
「……」
「ミロルさんまで、どうしたんですか?」
……いや待て、そんなはずは無い、ここは海1つ隔てた隣国
ミストラル王国は海を渡る術なんて無い筈…それなのに何で
アルルの両親がここにいる? いや、そもそも両親なのか?
た、確かに若干面影はある、眉毛とか母親そっくりだし
輪郭は父親にそっくりだ…両親…いや、いやいやいや! 流石に無いだろ!
何でだ!? 何処行ってたんだこの2人!?
確か大陸を横断するだったか、世界一周だったかをしてたって聞いたが…
あれ? 世界一周だっけ? 大陸横断だっけ? もう分からねぇよ!
でも、どっちにしても1つ、ハッキリ言いたいことは!
「な、なんでここにアルルの両親がいるんだよ!」
俺とミロルは同時に叫び、綺麗に叫び声がシンクロした。




