上陸、ファストゲージ国
小さな戦士達、初代指揮官の帰還。
その報は瞬く間にミストラル王国全土に広がる。
これは新しい戦争の始まりを呼ぶ報。
俺が報を受けた立場なら、きっと喜ぶことはない。
だが、なんというか、国民全土は何故か歓喜する。
特にケイさんが率いているサンズ地方での盛り上がりは群を抜いていた。
「やれやれ、俺が帰ってくるって事は面倒事の幕開けだってのに
随分とまぁ、のんきなもんだな、こいつらは」
「リオさんはミストラル王国の英雄ですからね
その英雄様が帰還となれば、喜びますよ」
「英雄なんていねぇ方が良いだろうに。
英雄の帰還は戦争の幕開けでしかねぇ
英雄様に全部任せてたら、その英雄が裏切ったときどうするんだよ」
「そりゃあ、別の英雄が止めるんでしょ?
ヒーロー物対決とかそんな感じで」
「自分達は何もしないのかよとツッコみたいな」
「守られるだけの被害者様は何処まで行っても被害者のままよ
少なくともそれに満足してるような連中はね
1度家族でも死ねば、復讐の鬼になるかも知れないけど
それでも変わらない奴はお終いね、色んな意味で」
「お前、身も蓋もない事言うよな」
「あなたに言われたくないわ」
結構そう言うのを題材にしたゲーム多いからな。
意識して無くても、そんな考えになっちまう。
戦争で名を轟かせた英雄は戦争無き世に必要無い。
必要として欲しいから、その英雄が反乱を起し
戦争の火種を撒く、そんな作品だってあるしな。
ま、俺は馬鹿共のお陰で居場所を無くそうとしても無くならなかったが。
本当、奇妙なもんだよ、毛嫌いしてた奴らのお陰で今があるとはね。
「まぁ、とりあえず私達は先行調査…だったかしら?」
「あぁ、少数精鋭での先行調査だ、状況把握が必要だからな」
「大人数で動けば動きを察知される、少数で動くのが良いとは言え
まさか私達3人とこのお姫様の4人だけで行くとは思いませんでしたけどね」
「いきなり結構な人数の子供が来たってなると違和感しか無いからな。
まぁ、無難な人選だろう、なんで親役でアルルが選ばれるかは知らないが」
「親じゃありません、お姉ちゃん役です! うへへ、私は幸せです!」
「何でだよ!」
「だって! リオさんにお姉ちゃんって呼んで貰えるのですから!」
「呼ばねぇぞ!」
「残念だけど呼ぶしか無いのよね、姉に対してこんな小さい子がお前とか言えないし」
「く、くぅ!」
「うふふ~、もうすでにリオさんに退路など無いのです!」
「でも、私達2人の関係はどうなるの? まぁ、大体予想は付くけどね」
「……あーっと」
「勿論、リオさんが1番の末っ子って事ですね」
「クソ! 何で俺が1番下なんだよ!」
「チビだからよ」
「ドストレートに言うな! 分かってたけど!」
うぅ…背は小さいからな、俺…メンバーの中で唯一身長3桁行ってないしな。
身長も全く伸びないし、畜生め…伸びないのは皆同じだが。
「まぁ、リオさんが小さいのはリオさんの友達想いの現れですし」
「何の事だよ…俺はそんなに優しい奴じゃ無いぞ」
「素直じゃありませんね」
「何度か言ったがあれだ、俺は少食なんだ」
「ちゃんと食べられるときはすごく食べるのにですか~?」
「う、うっさい!」
うぅ…クソ、何だかすごく恥ずかしい…
「これから追い込まれている国に向おうって言うのに、随分とのんきな会話ね」
「まぁ、追い込まれた国の戦況をひっくり返すなんてなれてますし」
「…おかしくない?」
「おかしくないだろ」
「もう良いわ」
窮地の国家を2回くらい打破したからな、まぁ、慣れてる言えば慣れてるかな。
まぁ、慣れたくないような状況だけども。
「で、そろそろか」
「えぇ…攻められては…いないようね」
「ふーん、状況は絶望的って、訳じゃ無いのか
運が良いな、総指揮官不在で攻められてたらヤバかったろう」
「えぇ、最高戦力も動かしてたし…運が良いわ」
攻められていたら、最悪俺達が協力しても状況打破は厳しい。
打破が出来なければ協力するメリットが無くデメリットしか生じない。
俺達からしても幸運だったと言えるだろう。
「じゃ、早速状況把握に努めようか」
今の状況を把握するというのは大事な事だ。
少数精鋭だからこそ、色々と確認することも出来る。
「まぁ、お前は城に戻れ」
「わ、分かったわ」
「因みに反乱とかはしようとは思わない事ね
言っておくけど私達、2人だけでも弱った国1つくらいなら潰せるわ」
「わ、分かってるわよ、反乱なんてしないわ…身に染みたもの」
「あれ? 私の存在意義は…?」
「お前は一般人枠だし」
「お2人に比べれば確かにその通りですはい」
「少しは反論しろよ」
「事実は受入れる姿勢で生きてますから」
「じゃあ、お前がキモいという事実も受入れろ」
「勿論受入れてますとも! しかし私は変わらない!」
「受入れる位なら同時に変わる努力をしろよ!」
「だって、変わっても意味ないですし」
「少なくともリオの評価は上がると想うのだけど」
「ぐ…ですが! 上っ面で得た評価など不要なのです!
やはりオープンな私を見て素敵! 抱いて! って言わせるのです!」
「ぜってぇ言わねぇよ! 現実見ろよ!」
「現実は打ち砕く物なのです!」
「受入れろやぁ!」
「……大丈夫なのかしら、この人達……」
「まぁ、こんなんでも英雄だから」
「こんなんでもは余計だ! 確かに見た目チビだが!」
「ま、いざと言うときにはまず間違いなく頼りになるわ
リオは勿論、あそこの変態もね、保証してあげる」
「いざと言うときは来ない方が良いがな」
「避けようのない一本道よ、いざと言うときは必ず来るわ」
「その通りだがな」
俺達はこれから追い込まれている国に協力しようとしているんだ。
当然、協力するとなれば戦争は避けようが無い。
戦争が始まった時、それがいざと言う時なんだろう。
「じゃあ、そのいざとい時が来た時に、少しでも対処が出来るように情報収集だ」
「はい!」
「集合場所はここだ、時間は3日後の朝5時きっかりだ」
「3日間も滞在するの?」
「ふらっときてすぐに帰るのは違和感しか無いだろう?」
「お前もそうだ、一旦帰ってきて、すぐに戻るのはおかしいだろう。
公務の不安があるから、一時戦線離脱して戻ってきたと言う事にしとけ
で、3日間の内に可能な限りの公務を終わらせ、再び戦線に戻ると
そんな感じでやれば違和感はあまり無いだろう?
あぁ、そうそう、その間に協力者となる人物を用意しておいてくれ。
条件は絶対的な信頼を置ける人物…スパイじゃ無いと確信できる人物だ。
お前は3日間で公務をこなしながら、その人物を見付け
俺達ミストラル王国の兵士達が入ってきても違和感が無いように仕向けろ」
「私の仕事、多くない?」
「最高権力者が最も多忙なのは当然のことだ、特に何かを変えようとした時はな
お前は今から国を変える、国の変化に国民が耐えれるようにしなくてはいけない。
それも敵にバレず、水面下で行なう必要があるんだ
これはお前の判断が招いた結果、決断を下したならその責務から逃げるな
命を賭けてやり遂げろ、お前の行動1つが国を滅ぼすか生かすかを決めるんだ」
「……わ、分かったわよ…じゃあ、あんたらもヘマしないでね…
で、宿はどうするの? 3日間の滞在となるとね」
「そこなんだよな」
「…はぁ、ま、しょうが無いわね、ほら」
スティールは自分の胸元に手を突っ込み、大きめの巾着袋を取り出し
アルルに向けて投げた。
「おっと、おや? これは?」
「ファストゲージの通貨よ、一応持ってたから。
そうね、それだけあれば3日間所か1ヶ月は持つでしょう」
「ふーん…これがファストゲージの通貨か」
「統合となると、ちょっと面倒くさそうですね」
「作りは同じだし問題は無いだろう」
「それじゃあ、お互いに足が付かないように頑張りましょうか」
「あぁ、ハッキリ言うが俺達よりお前の方が危険だから気を引き締めてくれよ」
「言われなくても分かってるわよ…それじゃあ、お願いね」
「あぁ」
俺達はスティールとは別行動を取り、城下町の方へ足を運んだ。
まだまだ早朝だから歩いている人影なんて殆ど…所か全くない。
時間は確か夜の2時、まだ少しくらいは人が歩いていてもいい時間帯だろう。
「…リオさん、この街…」
「あぁ、一目で分かるな…ボロボロだ」
ファストゲージの家は全てボロボロの状態だった。
だが、俺達が育ったスラム街程じゃ無い。
あっちと比べれば、まだ天国と地獄の差があった。
見た感じ、屋根もちゃんとあるし、壁もヒビがあるだけ。
俺達が世話になってた時のひまわりは屋根ボロボロで所々穴開いてたし
壁もヒビだけじゃ無く、何カ所も穴が開いていたからな。
この状況から分かることと言えば、あの時のミストラル王国よりは追い込まれていない
と言う事になるのかな。
「まだ打破は出来る位か、最初期のミストラル王国と比べればマシっぽいし」
「私の予想だと貧富の差があまりないだけだと思いますけどね。
昔のミストラル王国は貧富の差が激しかったですからね。
裕福な家は非常に裕福でも、貧困な家は酷く貧困。
ファストゲージは全体的に下の上程度の暮らし、と言った感じだと思います」
「なんでそう思う?」
「目立った建物が無いからです」
「暗いのによく分かるな」
「私、目だけは良いんですよ」
「なる程な」
裕福な連中は不思議と家をデカく作りたがる。
だから、貧富の差がハッキリと分かれている場合だと
金持ち様の家が異常なくらいに目立つんだよな。
でも、ここら辺から見ても金持ち様の家は見当たらない。
それが理由で貧富の差が激しくないと予想したのだろう。
「完全に平等な国家ね、社会主義って奴かしら、そりゃ追い込まれるわ」
「どういうことですか?」
「基本、どの国でも採用されているのは資本主義
この資本主義は簡単に言えば努力をすればするほど金が手に入るルール
当然、この場合のメリット、デメリットは発生するけど
簡単に言えば資本主義なら貧富の差が広がるけど、発展しやすいの」
「逆に社会主義は完全なる平等主義だ、企業と言う概念は無くなり
全て国が運営する方式、この場合のメリットとデメリットは簡単だ。
メリットは貧富の差が生じない、全員が同じ水準の生活が出来る」
「デメリットは?」
「誰も真面目に働こうとしなくなる、そりゃそうだろうな。
努力しても貰える金は努力してない奴と同じなんだから。
努力しなくても努力してる奴と同じくらいの金が貰える。
そうなりゃ、誰も真面目に行動しなくなるし、指揮もひたすらに落ちるだけだ。
因みにミストラル王国は資本主義…現状見た感じファストゲージは社会主義だ」
「平等平等と言うのは良いけど、平等という文字しか見えなくなったら終りよね」
「報われねぇ努力は虚しいだけだからな…まぁ、この話はここまでにしておこう
社会主義だとか資本主義だとか俺にはあまり関係ないからな。
俺にとって今、最も関係ある問題はこのままだとファストゲージの住民から
話を聞けないことだ、まぁ、夜だし寝りゃ良いけど」
「宿屋を探してみましょう」
「ん、そうだな、探すか」
と言っても、ろくな宿屋は無いだろうけどな。
だって、宿屋の需要はこの国にはほぼ無いんだから。
でもまぁ、あいつが宿はどうするかと聞いたって事は宿屋はあるんだろう。
そうじゃなけりゃ、金は渡さないだろうしな。
とにかく探すしか無いか、面倒くさいけど。




