ナナの散歩
まぁ、ナナを飼った以上は責任を持って世話をしないとな。
しかし、こんな複数人で移動するならさ
わざわざ俺がナナの散歩に行かないでも
この中の誰かが行ってくれれば良いのによ。
だって、俺は一緒に来てくれと言ってないし。
そんでもって、何よりもムカッとするのが。
「アルル、お前、わざわざ付いてくるならお前が行ってくれれば良いのに」
こいつ、俺に付いてくるくらいだったらナナの散歩代わりにしてくれれば良いのに。
なんか子供みたいな言い草だが、夏場の暑い時期だとそう感じる。
まだ向こうの世界と比べりゃ過ごしやすいが、暑い物は暑いし。
「私はリオさんの護衛、リオさんが行くと言うなら、私も行きますとも、えぇ」
「だったら」
「もぅ、リオさんが飼うって決めたんですから、ちゃんとお世話して上げてくださいよ」
「俺は飼うなんてつもりは」
「あぅ…」
「う、うぅ…なんだよ、言葉が分かるのかよ、頼むからその物悲しげな目を向けるな」
勘弁して欲しい……はぁ、恩人…いや、でも恩犬だしな。
「あぁ、分かったよ! 世話はしてやるから、頼むからその目は止めてくれ!」
「あん!」
「いやぁ、リオさんって押しに弱い気がしますねぇ」
「リオはあんな風に言ってても優しいから」
「うっせ!」
「たまに私達にも優しさを向けてくれたときは萌え死にそうになりますぅ」
「不本意だけど同意する、リオ可愛い」
「お前らな! 本人の前でそんな馬鹿みたいな会話をするな!」
「私もそう思うよ、リオちゃん怒りっぽいけど優しいし」
「いや、俺は」
「リオ優しい」
「だから」
「リオ、恥ずかしがらないで」
「お姉ちゃんは凄く優しい人です!」
「頼むからお前らまでそう言う事言うなよ!」
やっぱり調子狂う! 複数人で散歩なんか来るんじゃ無かった!
「くぅ…」
「うふふ~、あ、そうだ、リオさん」
「なんだよ」
「日差しが強くなってきましたし、そろそろ帽子かフードを
熱中症とかで倒れたら大変ですし、フードをしていれば問題無いはずです!」
「…そう言えば、俺以外は帽子被ってるな」
「シルバーに言われた」
「私はマナに!」
「私はメルト…」
「…自分で」
「ノアは?」
「買い出しでいなかった」
あぁ、そう言えばノアは晩飯の買い物に行ってたっけ。
「じゃあ、帽子を被るように言わなかったのはお前くらいか?
でも、お前がそう言う事を言わないのは珍しいよな、心配性のくせに」
「ま、まぁ、忘れることくらいあります、と言う事で帽子が無いので」
「はいはい、フードだろ、暑い中でフードは余計に暑くなりそうだが
直接食らってたらぶっ倒れそうだし、丁度良いか」
うん、パーカーのフードなんて結構久し振りに被ったな。
今までパーカーはあまり着なかったしな。
こっちに来る前もフードはあまり被らなかったし。
なんか普段見てるはずなのに新鮮な感じだ。
「しかし、フードはかなり久々に被ったな」
「…リオちゃん、可愛い!」
「は? 何言ってるんだ?」
「そんな服、リオが持ってたのは意外」
「え? 普通に灰色のパーカーだろ」
「面白い!」
「なんだよ! フードを引っ張るな!」
「…まさか、アルル」
「ふ、私は日夜リオさんにどうすれば可愛い服を着て貰えるか
そればかりを考えていました、可愛い系の色合いはまず着ませんし
可愛い感じの動物が大々的に刺繍されている服も絶対に着ません
無理矢理周りを巻き込み、リオさんの説得をして貰えば着てくれますが
そういう状況を作るのは難しく、まず1人では無理。
だったら! リオさんが好みそうな色合いの服装に
目立たない可愛い模様が入った服を渡せば良い!
そう! 目立たない可愛い場所! それはパーカーのフードです!
リオさんはフードに興味は示しません! だからこそ!
そのフードに何か細工がしてあっても気付きにくい!
予想通り私の計画は成功!」
「おい! お前俺のフードに何しやがった!」
「リオさんのフードには猫の顔に猫耳を模した装飾耳が付いてます!」
「はぁあ!? こんの! ふざけやがって! すぐに脱ぐ!」
「駄目だよ! 折角面白いのに!」
「邪魔だフレイ! 離せ!」
「駄目~、絶対に離さないもんね! こんなリオちゃん珍しいし!」
「ふざけるな! そんな馬鹿みたいな格好で歩けるか!」
「可愛いから大丈夫だって!」
「ふざけろ! 離せやぁ!」
「離さないよ-だ、そもそも、リオちゃんじゃ私に勝てないよ!」
「お前! 邪魔すんなよマジで!」
くぅ! ふ、フードが取れない! フレイの奴!
「リオさん、フードをしないと熱中症になりますよ~?」
「こんなふざけた格好で街を歩くくらいなら熱中症になった方がマシだ!」
「落ち着いてくださいよ、とにかく散歩を終わらせましょうよ~」
「ふざけんな! せめてこれを取らせろ!」
「駄目です!」
フレイとアルルが同時に駄目だと言いやがった!
何で変な時に息を合わせるなよ! 畜生!
「まぁまぁ、大人しく散歩にしましょうよ~」
「くっそぉ! 覚えてやがれよ!」
「はい! その愛らしい姿、一生覚えてます!」
「そこは忘れやがれ!」
結局フレイに阻止され続け、フードを取ることが出来ずにナナの散歩を終えた。
終始周りの人達が俺の方を見続けてきていたから、異常に恥ずかしかった…
「いやぁ、眼福眼福、これだけで後10年は戦えます」
「何と戦うんだよ…」
「リオさんに可愛い服を着せる戦いですとも!」
「すぐに諦めて戦いを止めろ!」
「止めませんとも! 私の戦いはこれからなのです!
夏場と言えば最高に可愛い服が出回る時期!
水着も出て来ますし! 半袖! 半ズボン! ミニスカ!
サンサンと輝く太陽の光を背に遊び回るリオさん!
そして、飛び散る汗が日の光を反射し、キラキラと輝く!
僅かに日焼けを始めている幼い肌、素晴らしいです!
そして、最終的には小麦色に日焼け!
服を脱いだときに日に焼けた場所と焼けていない
白いお肌の境界線を見て、更に萌えるのです!」
「黙れボケ! 早口すぎてなんて言ってるかあまり理解は出来なかったが
卑猥なことしか言ってないだろ! 絶対!」
「私は夢を語っていただけです、卑猥などではありません!」
「うっせぇ! 殴るぞボケ!」
「どうぞ!」
「どうぞじゃねぇだろ普通!」
「ふ、リオさんの為ならば! 私はドMにもなりますとも!
でも、ドSはちょっと心が痛むので、出来れば嫌です」
「どっちもノーサンキューだよ!」
「ありがとうございます!」
「殴られてお礼を言うな!」
はぁ、はぁ…も、もうやだこいつ…何か一緒に居るだけでスゲー疲れる。
「お帰り、家に帰って早々喧嘩とは、ま、いつもの事だけども」
「ミロル」
「出来れば私も行きたかったんだけど、暑いのは苦手なのよね」
「それは俺もなんだが……まぁ良いか」
ミロルはあの時よりも大分落ち着いてきている。
安心して過ごせる場所が出来たからなのだろう。
服装はグレーのキャミソールって奴と
赤黒のミニスカートで生活している。
髪留め等は一切していない、結構簡単な服装だ。
こいつは俺と違って中身も女だが、まぁ、うん。
同じく引きこもりだしな、ファッションに興味が無いのかもしれない。
どうせもう戦争も無いだろうと考えて、ミロルには色々と教えた。
本来の戦車の構造とかもな、だって、中身があれだと迫力無いし。
でも、実用性はあっちの方がダントツで高いんだが
やっぱり、見た目が大事だからな。
「そう言えば、私が渡したセキュリティシックスの使い心地はどうかしら?」
「お前とやり合って、あの屑やってからは使っちゃ無いぞ?」
「よね、どんな物か聞いてみたかったんだけど」
「と言うか、やっぱりあれは消せないのか?」
「えぇ、どれだけ消そうとしても消えなかったからね、今も消えないと思うわ」
「あぁ、そうか」
やっぱりあのセキュリティシックスは消えないんだな。
もう魔法で出来た武器じゃ無くて、実物見たいな感じなんじゃねぇの?
「正直、リオさんとミロルさんの会話はよく分からない単語が多くて理解できません」
「理解できなくて当然だから安心しろ」
「そうそう、むしろ理解できたら恐いわ」
「むぅ、会話に出てくるアメニ? アニメ? という物を見てみたいんですけど」
「アニメが正しい、そして、それは無理だ」
「じゃあ、漫画って言うのは?」
「無理ね」
「じゃあ、ゲームとやらも?」
「勿論無理」
最後は綺麗にハモった、なんか気分が良いな。
「むぅ…興味があるんですけどねぇ…正直! その3つが分かれば
私もリオさんとお近づきになれそうな気もしますし!」
「あなたはまず性格を直さないと無理だと思うわよ?」
「ふふふ、私は素の私でリオさんとお近づきになるのです!」
「キモいから近付くな変態女」
「ありがとうございます!」
「こりゃ駄目ね」
はぁ、性格が普通なら、相当優秀な奴だと思うんだがなぁ。
「と言うか、戦争が終わったんだし、お前いらなくね?」
「え!?」
俺の言葉でアルルが一瞬のうちに青ざめた。
考えてみれば、アルルを近くに置いていた理由って
スポッターとして優秀だからだったんだよな。
つまり、戦争が無くなった現状、こいつの存在は不要。
もはや俺を付け狙うだけの変態ストーカー女でしか無い。
「戦争が無いからお前の仕事もほぼ無いし、スポッターとして機能しないなら
お前を側に置いておく理由が無い気がする、変態だし、変態だし、変態だし」
「なんで3回も言うんですか!? と言うか、酷いですよ!
一緒に何度も死地をくぐり抜けた仲じゃ無いですかぁ!
よ、4年一緒に居たんですよ!? そんな必要が無くなったらあっさり切り捨てなんて!」
「…ぷふ、いやぁ、マジで反応してるのか? はは! 意外とからかえるもんだな!」
「ほへ?」
「本気ならもうとっくに切ってるよ、ばーか」
「り、リオさーん!」
「おっと近寄るな」
「…はい」
まぁ、たまにはからかうのも悪くないな。
一応こいつは恩人だし、必要無くなったからって切る訳ないだろうに。
まぁ、一緒に居ると大分怠いがな。
「リオも冗談を言うことあるんだ」
「あるっての、いつも真面目ちゃんじゃ面白くねぇって」
「リオちゃんが真面目って時…」
「ま、まぁ、あまり無い気がするが…特に兵士止めてからは」
「ずっと寝てますからね」
「眠いんだからしょうが無いだろ! やること無いし!」
「宿題もすぐに終わらせますしね、やることが無いなら
皆さんと遊べば良いと私は思いますが」
「体を動かすのって、怠いじゃん」
「太りますよ?」
「どうでも言い」
「よくありませんって!」
「背が伸びないよ?」
「……それは、ちょっとな」
う、うん、確かに未だに背が伸びてないからな。
もう9才なのに、体はまだまだ5才児程度だし。
周りはめっちゃ背が高いのに、俺達だけ背は低いしな。
でも、やっぱり背が低いのは俺達なんだよな。
俺だけじゃ無く、フレイ達も背は一切伸びちゃいない。
俺よりも飯食って、俺よりも遊んでるのにな。
流石に寝る分は俺の方が勝ってるけどさ。
「やはり身長…不思議ですよね、一切伸びないなんて」
「あぁ…なんか理由知らない? このままじゃ、場違い感半端ないんだけど」
「こっちなら問題無いけど…向こうならほぼ間違いなくいじめの対象…でしょうね」
「いじめって?」
「仲間外れにすること」
「え? それは酷いんじゃ?」
「お前はそのままで育ってくれよな」
「んー?」
俺とミロルは食らった経験があるから辛さは分かる。
まぁ、俺の場合はゲームばかりしていたからなんだけど。
ミロルの方は相当理不尽だっただろう…詳しくは聞いてないがな。
忘れたい思い出は忘れた方が良いし。
「一応、探してみますね、恐らく病気では無いでしょうが…
でも、私としては小さいままでも」
「俺達が良くない」
「ですよね、しかし、大きくなると自分の手から離れて行ってるって感じで
何だかさみしさを感じるというか」
「お前は親かよ」
「皆さんの母親みたいな物ですし」
「あはは、そうだね! じゃあ、お父さんは誰かな? マナ?」
「アルルは母親と言うよりもシスコンの姉って感じね
母親はどちらかと言えばシルバーでしょう」
「あ、そうかも知れないです」
「シルバーがお母さんならお父さんは誰になるのかな?」
「……レギンスさん?」
「いや、レギンス軍団長はお父さんと言うよりはお爺ちゃんだろう、頑固な」
「じゃあ、誰?」
「……メルト?」
「うるさい姉って雰囲気よ、どちらかと言えば兄寄りかしら」
「やっぱり居ないか、父親ポジション」
「そうね」
やっぱり女しかいねぇから父親は出て来ないな。
でもまぁ、のんびり話をするのも悪くないな。
「さてと、それじゃナナ、飯用意してやるよ」
「あん!」
「あ、バナナありますよ?」
「毎日バナナは流石にな、ドックフードだろ」
「そうですね、好きなものはたまに食べるから美味しいですし」
…多分だけど、この夏休み、殆どナナの世話で潰れるんだろうな。
もしくは、馬鹿共に振り回されてか…意外と自分の時間とか無いかもしれない。
ま、あったとしてもどうせ寝るだけだし、振り回される方が良いかもな。




