勝利後の問題
戦争に勝利したという報告を、俺達はレギンス軍団長に行なう。
レギンス軍団長は一安心という表情の後、全体に対して
演説、本拠地は勝利を喜ぶ兵士達の歓喜の声で包まれた。
その後、すぐに国へ戻り、勝利の一方を国民全体に告げる。
国は全員、歓喜の声に溢れ、俺達は自分達が勝利したと言う事を
少しずつだが実感するようになった。
これが勝利の味、何度も味わった気がするが。
ここまで達成感に溢れる勝利は初めてかも知れない。
当然だ…これで、戦争は終わったのだから。
本来なら、俺はこの後姿を消そうと思っていた。
殺人鬼も消え、戦争の負の存在が消え失せて
何処か人知れない所で、自らの命を絶つ、そう思ってた。
「あはは! 何だか嬉しいよ!」
「うん!」
だがまぁ、こいつらの面を見てたら、どうもその気も失せた。
そもそも、カナン先生と約束もしてたしな。
命を絶つという選択はそもそも愚手でしかなかったんだ。
ミロルにあんな事を言う位だからな。
「…私はこの歓喜の中に居て良いのかしら、元凶は私なのに」
「良いんだよ、全ての元凶は国王だ」
「でも、国王が変わったのも…きっと私のせいよ」
「強すぎる力を手にし、暴走したと言う感じだろうが
そもそもまとも王なら強い力を手にしても変わらない物さ。
戦争をするとなっても、その理由は国民の為とか
平和を掴むためとか、そういう動機で動いてただろう」
あの国王は完全に自分の為にミロルの力を行使した。
己の自己満足のために他人を利用し、陥れた。
そんな行動を、まともな奴が取るわけが無い。
だから、あの国王は最初からクソ野郎だったと言う事だ。
ただ力がなかったから、今までは行動出来なかっただけ。
「……そうかしら」
「そうだ、俺が言うんだから信じろ」
「…ふふ、そうね」
過去の事をぼやいてても仕方ない、今は勝利を喜ぶ。
この長い戦争がついに終わり、勝利をつかみ取った。
それだけで良い、今は次のステップを考えよう。
「皆! 聞いてくれ!」
俺がそんな事を考えていると、国王、軍団長、姫達、王子達の演説が始まる。
勝利をした国のトップが勝利を国民全体に告げる。
国全体が一体化するような喜びとなるだろう。
「此度! 我々はついにリ・アース国を制圧した! これはただの勝利ではない!
全ての統一! 完全なる勝利だ! これで! この世界から戦争はなくなった!
皆! よく頑張ってくれた! 勝利することが出来たのは
兵士達だけではなく! 国民、全員の協力があったからこそだ!
これからは、この平和を謳歌しよう! 共に手を取り合い!
世界を発展させ! 何不自由ない生活が出来る国家にしようと思っている!
その為には私達王族の力のみでは足りぬ! 皆が協力してくれなければ!
この夢は叶わない! 皆! 同じ夢を見よう! 誰1人として
不自由なく! 平等な国家! その国家を作るために!」
「オォーー!!!」
国民全体から歓喜の声が上がった、同じ夢か。
良い事言うじゃ無いか、国王様。
だが、平等な国家は無理だろうな。
どれだけ平等平等と言おうとも、生まれた地点で不平等だし。
ある子供は裕福な家庭に生まれ、ある子供は貧困な家に。
どう言おうと、貧富の差は出て来てしまうし、能力の差も出てくる。
裕福な家庭に生まれた子供は上等な教育を受け
知識も身体能力も鍛えあげられるかも知れないが
貧困な家に生まれた子供はろくな教育も受けられず
単純な知識や身体能力は裕福な人間には敵わない。
かといって、完全に平等にしてしまうと働く者と働かない者が出て来て
真面目に働いてる人もやる気を無くし、生産性は死に、国家は破綻
資本主義では貧富の差が生まれ、社会主義では国家が破綻する。
この完全なる平等という物は俺達の世界だろうと完成できない理想でしかない。
表面上は平等を歌おうとも、結局は不平等、完全な平等は不可能だろう。
でも…この異世界なら…もしかしたら…なんて淡い期待を抱いる。
その後、姫と王子様の演説も終った。
終了後も国民達は歓喜の渦に包まれている。
「いやぁ、良い演説でしたね」
「そうだな」
俺達がそんな会話をしながら移動すると、国王に声を掛けられた。
「え? どうしたんですか?」
「うむ、実は君達に相談したいことがあってな」
「俺達に? 残念ながら自分達は戦争しか知らない子供です
俺達に協力できるような事等、もうありませんよ」
「何を言っている? 謙遜するな」
「いや、謙遜じゃあ…ですが、まぁ、聞く事くらいは出来ると思いますが」
「では、来てくれ」
俺達は国王に案内されて、会議室に移動した。
何で会議室なんだ? ここで何をするつもりだ?
「よし、それでは会議を始めよう」
……まさか軍団長、最高幹部全員、王家全員集合とはな。
何というか、本当に場違いな感じだよ。
まぁ、一応俺は最高幹部の一角ではあるが
所詮戦争の時だけだったし、それがまさかな。
「国王様、戦争はもう終わったというのに会議とは一体何を?」
「あぁ、我々ミストラル王国は勝利し、戦争に終止符を打った
だが、その後はまだ考えていなかったからな。
この後、我々が何をするかという会議をする為に集まって貰った」
…難しそうな話をするというのに、俺みたいな子供を呼んだのか。
「では、リオを連れてきたのは? 彼女は確かに優秀ではありますが
まだ子供、流石に政策まで理解は出来ていないのでは?」
「リオは十分と言って良いほどに政策にも精通していますわ
現に彼女の考案でトロピカル地方は盛り上がりましたわ」
「…まぁ、何だかんだでこのガキは能力高いからな」
「ほう、マーギル、貴様が彼女を褒めるとはどういう風の吹き回しだ?」
「はん、心境の変化って奴だ」
マーギルも大分変わったな、前まで俺の事目の敵にしてたのに。
少しだけだが、嬉しい気分になったよ。
「彼女は子供の代表としての意見を聞こうと思ってな
我が国家は知っての通り、子供の兵士の数が多い。
平和な国家を作るためには子供を犠牲にしてはならない。
だが、他の子供は知っての通り政策など分からぬだろう。
だから、子供達の中で最も能力も知能も高い彼女を呼んだのだ」
「じゃあ、自分は子供達の代表、と言う事ですか?」
「そう言う事だ」
ふーん、まぁ、考えてみればそうかな。
子供達では政策などよく分からないだろうし。
でも、俺は一応中身は高校生、まぁ、この異世界での年月をカウントするなら
もう20歳越えてるが、高校生で死んでるから、そのカウントは無しだろう。
だって、教育受けてないし、社会経験もしてないし。
それで大人というのは無理がある、今は見た目も子供だからな。
「なる程」
「では、1人1人意見を述べて貰うとしよう、まずはリオからだ
これから平和な国家を作るためには何をすれば良いと思う?」
「そうですね、まずは教育だと思います、子供達に教育を受けさせましょう
知っての通り、ミストラル王国は戦争のことばかりで教育が疎かになっていました。
教育のために割く人材も少なく、前までは戦争に子供を進ませるための教育をしてた
国家の為に戦えるのは立派なことだと、自分もそう教わってきましたし」
前まで、子供にしていた教育は魔法に覚醒して徴兵されるのは立派なこと
そんな事をよく言っていた気がする、先生も複雑そうな表情で言ってたし。
「確かにその通りだな、国家が安定した後でも教育など見ていなかった」
「子供には自由な発想がある、ですが、多少なりとも知識がなければ
その発想は発想のままでしょう、これから国が発展していくためにも
子供達の才能を潰さぬよう、基本を教える必要があると思います。
しかし、強制は良くないと思いますね、大人達の考えを押し付ける
それは場合によっては子供の才能を潰す。
あくまで基本的な知識を与え、後は子供が知りたいことを教える
その様な教育が必要だと自分は思います」
学校に行ってたとき、基本的に先生達は答えしか教えない。
1つだけの答えしか教えないんだ、考え方を変えていけば
別の答えに行きついた場合の事を先生とかに言っても
その答えは先生の中では答えではないからなのか不正解となる事もある。
そうなると子供達は自由な発想が死んでいき、大人達と同じ発想しか出来ない。
これでは発展が難しいだろう、発展のために必要なのは
自由な発想、型枠に囚われないような発想、それが必要だ。
確かに状況を維持するためならば発想を強制した方が良いのかも知れない。
だが、それは得策ではない、やはり自由な発想こそ子供の凄いところであり
その発想を強制すると言う事は、1人の天才を殺すと言うことに他ならない。
「ふむ、強制は良くない、何となくは分かるが細かい理由はなんだ?」
「単純に才能が潰れるからです、強制は自由な発想を制限してしまう。
制限された発想では出てくる考えも同じ様な事になる。
過ちを正すのなら良いんですよ、必要ですからね。
でも、間違っていない発想を否定するのはよくない。
可能性の塊である子供の可能性を殺す事になります
ですが、先ほども言いましたが多少の知識は必要でしょう。
基本が出来ていない場合、ただの適当になりますからね」
基本が出来てないプロスポーツ選手はいないだろう。
斬新な事をするプロも中に入るが、それは基本が出来てこそだ。
基本が出来てなければ応用は利かず、ただ無茶苦茶してるだけになる。
それでは何の意味も成さないし、何も形にならないからな。
だから、自由な発想を形にするためにも基本は必要だ。
「ふむ、確かに自由な発想というのは重要だな。
では、その方針で学び舎を作ってみよう」
「ありがとうございます」
「では、次にマーギル、お前は何を考える?」
「私は国王様の威光を国民全員に見せ付ける必要があるかと。
国王様の威光を知らしめることが出来れば国民達の反乱という
危険性はゼロとなるでしょう」
「具体的にはどのようにして威光を?」
「積極的に国王様は国民の前に姿を見せ、ある程度の指揮を執って貰えたらと。
ここで出た案は全て国王様の案だという事にし、その案で
国が潤えば、国民達に国王様の威光を見せることが出来ましょう」
「…うむ、私の威光を見せると言うのは良いとは思うが
嘘を吐けというのは…」
「威光というのは結果を見せれば問題無いと思うぞ
もしくは国王様の指示の元で政策を進めたとすればよい
現にこの会議は国王様の指示で行なわれた物だからな。
こうすれば嘘を吐いたわけでも無い」
「なる程、それは良い案ですね、流石軍団長」
マーギルは軍団長と国王の指示は素直に従うよな。
きっと軍団長にもかなりの恩があるのだろう。
「うむ、それでは国民にはそう伝え威光を示すとしよう
では、次はジーク、君の考えを聞こう」
「私は装備を充実させる必要性があると思います
可能性は限りなく低いでしょうが、反乱への対策
それに戦争が終わり、すぐに装備の生産を止めるとなれば
今まで装備を製作し稼いでいた国民の職が危ぶまれますから」
「確かにその通りだな、戦争が終わったからと言ってすぐに
装備の購入を止めてしまうのは危険か」
「そうですね、装備を作っていた国民達に不満が募り
反乱が発生という可能性もあります」
完全な平和を作るなら、兵士も武器も必要ないかも知れない。
だが、やっぱりそういう物は必要ではある。
抑止力という物が無くなると、反乱を起しやすくなるからな。
「装備を破棄するのは止めておいた方が良いと言うことだな。
では、次にハル、君はどう考える?」
「そうですね、まずは保育制度を整えた方がよいかと。
子供を預かり施設などがあれば、仕事に従事する
人達が安心して子供を預け、仕事に行くことが出来ます
国家を発展させるには女性も仕事の従事しなければならないと
私は考えています」
「保育制度か、確かに今は子供を預かる施設はないか」
「はい、私は問題無いのですけど」
ハルさんがチラリとこちらを見て呟いた。
まぁ、マルは俺の部隊に所属してるからな。
面倒を見る役も多いし、アルル達もいるからな。
「そうだな、君の活躍を考えると、子供を安心して預ける事が出来る
場所というのは、女性達に取っては重要なのかも知れぬな」
「間違いなく重要です、子供の心配をしていては仕事が手につきません
貧富の差もまだある今の状況では、母親も仕事をしたいと考える。
ですが、子供の面倒を見ないと行けないため、仕事に従事できない。
補助をすればよいのかも知れませんが、貧困な国民に対し
国が与える事が出来る金銭には限りがありますからね
やはり働いて貰い、お金を稼いで貰った方がよいと思います」
「だが、男は家族を養うのが役目、女が仕事へとなると
男達の立場はどうなる? 俺の予想だと萎縮するぞ。
自分の働きが出来てないから嫁が辛い目にあうとな
まぁ、家族に楽をさせるために自分がもっと稼がねばと
考える様になれれば良いが」
「甘いですねマーギルさん、夫婦が共働きとなれば
男も女も早く家に帰れるのですよ? 夫の1人だけでは
家族を養うためと仕事ばかりになり、子供とのコミュニケーションが取れない。
それでは子供が可哀想です、まぁ、預かる施設を作った場合
子供は両親と過ごせない時間が生まれますが
少なくともそうすれば夫が子供から嫌われることも少なくなるかと」
大体子供って父親のことが嫌いって場合多いからな。
深く考えたことは無いが、なる程な、子供の時期に
父親と共に過ごす時間が短いから苦手になると考えることも出来るのか。
「それに、社会貢献したいと考える女性も増えると思いますから
家族の話を抜きにしても、子供を預ける施設は必須かと」
「うむ、そうだな、女性が働きたいと感じることもあるか」
「はい」
「では、保育施設も考えるか、では次、リンダ、君はどう考える?」
「私は医療施設を充実させることが優先だと思います
他にも報道などの国全体へ何があったかを共有する施設もですね」
「医療施設は分かるが報道は何故必要だと?」
「何が起こったかが分からないのは不安ですし
その様な施設がなければ国民が纏まるのが難しいかと思いまして
やはり色々な事を共有する事で国民全体が一体感を覚え
同じ目標へ進むことが出来るのでは? と、考えまして」
「うむ、国民全体が同じ目標へ進むのは必須だな
だが、どうやって共有するのだ?」
「それは後々考えるしか無いでしょう」
テレビとかあれば簡単に出来るんだろうけどな。
…お、そうだ、出来るじゃん!
「そこは自分達が何と化できると思いますよ」
「ほう、どうやって?」
「ミロルの力を借りれば」
ミロルの能力なら何とかすることは可能だろう。




