断罪
あいつは俺達も排除しようとしているようだ。
だが、その行動はただの自殺行為!
確実に! 確実に殺す! ぶっ殺してやる!
「……リオ」
「んだよ!」
「……私があいつを引きずり落とす」
「ランチャーでも使うのか? そいつは駄目だ!
あいつは俺が!」
「いいえ、あのヘリは私の魔法よ」
そう言ってミロルは指を鳴らす、するとあのヘリは消滅。
「何だ!?」
中に乗っていたクソキングは無様にジタバタと暴れた後、地面に落下した。
こちらに攻撃を仕掛けようとして、高度が低かったからか
落下したが辛うじて怪我程度で済んだようだな。
こいつは好都合だ、全く持ってよ。
「う、ぐぅ…」
「はん、無様だな」
国王は地面に落下、足を怪我したらしく逃げることは出来ない。
それに高貴そうな服は情けなく汚れ
無様に地べたに這いつくばって、本当に情けないな。
本当、王とは思えないほどの無様な姿だ。
「ひぃ!」
「は」
俺達がある程度近付くと、王は情けなく怯え、後ずさり。
無様無様、笑えてくるくらいに情けない。
「本当、王とは思えない姿ね、国王様」
「み、ミロル!」
「は! お前にはその姿が一番似合うな! 自己中の独裁者さんよ!」
こいつが全ての元凶だ! こいつのせいで何人もの人間が殺された!
あの子の両親だって、直接的な原因は聖人ぶったゲスだが
根本的な原因はこいつだ! こいつがあいつを放置したからこうなった!
当然、こいつだってあのクソ野郎の行動は把握してただろう。
それなのに放置した! それが原因だ…こいつが原因だ!
「何だと!?」
「ゴミのくせにプライドだけはあるんだな」
俺は今すぐに引き金を引きたい衝動を抑えながらも
ゆっくりとセキュリティシックスをこの馬鹿に向けた。
「や、止めろ! わ、私を殺す気か!?」
「勿論だとも、お前は全ての原因だ…同情も何も出来ない
ただの自己中心的な行動しか出来ないゲス。
そんなお前を殺すのに、俺が躊躇うと?」
「た、頼む! い、命だけは助けてくれ! この通りだ!」
本当に惨めったらしい無様すぎる姿だな。
笑えてくるくらいに滑稽だ。
「唯一のプライドすら捨てた訳か、無様すぎて笑えてくるな」
「く、くぅ! み、ミロル! こ、こいつを!」
「その言葉で私が動くとでも? もう、私はあなたの指示には従わない
こうやって、あなたが地べたに這いつくばってるのが何よりの証拠
そして、これが私があなたを絶対に許さないという意思の表れ」
そう言って、ミロルもゆっくりとコルト・パイソンをカスに向けた。
あのカスはそれを見てガクガクと震え始め、ゴキブリの様に
かさかさと這いつくばって移動を始めた。
「ふん」
「ぐがぁ!」
カスの両足に風穴が1つあいた、俺とミロルが同時にぶっ放したんだろう。
カスは叫び声を上げ、両足を押さえてジタバタとその場で転げ回った。
「…一撃で仕留めてやりたい、そう思ってはいたんだが、少し気が変わった
お前は痛めつけて殺す…お前が国民や兵に与えた痛みに比べれば
大した痛みじゃないだろう? そうだな、お前の痛みなんて
蚊に噛まれた程度の痛み以下ないんじゃ無いのか?」
「ふざけるな! 私が国民や兵に与えた痛み!? それが何だ!
あいつらは私のどう、がぁああ!!」
今度は両腕……こいつだけは絶対に楽には死なさん!
苦しめて殺してやる…こいつには死すら生ぬるいがな!
「お前1人がどうなろうと、国民には何も関係ないだろうな
お前みたいなクソみたいな国王がくたばっても痛くもない」
「そ、そんなはず無いだろう、私は…国王…だぞ!」
「いや、痛くも痒くもないわね、誰1人として
誰1人として、あなたなんて尊敬もしてないわ、下に付きたいとも思わない
ゴミの下には付きたくないでしょうしね、殺戮者さん」
「誰が殺戮者だ! それは貴様らだ! 貴様らがそうだ!
貴様らが殺している! 私はやれと言ってるだけだ!」
「あぁ、そう」
「うぐがぁ!」
再び両足に新しい穴が開いた、本当自己中心的な奴だ。
「く、くぅ、ぐぐぅ!」
「本当…正直ここまで屑だったとは思わなかったわ」
「く、くく、まぁ良い…私が殺戮者というのを否定しないでおこう…
だが、ミロル…その殺戮者を生んだのは同じ殺戮者であるお前だ
お前の力は本当に便利だったぞ、貴様の力で私は力を得た
貴様がいなければ、こんな事にはならなかっただろうになぁ」
「……そうね、全くもってその通りよ、私がいなければ
あなたは弱小国の王、今は壊滅寸前の役立たずの王だけどね」
「くく、それはどうかな? ミロル、お前が再び私に力を貸せば
この状況の打破が出来る…お前がリオを殺してくれればな…
もしも、それをしてくれれば、全てが終わった後
君には何不自由ない自由な生活を与えよう…何をしても良いんだ。
欲しい物は奪え、やりたいことは自由に行なえ。
誰もお前には一切の文句は言わない、ど、どうだ?」
……窮地に立たされて思考回路が狂ったか?
この状況でミロルを再び配下にしようとしてるのか?
本当に馬鹿だな…もう少し人を見る能力が無いとよ。
このミロルの目つきを見て、なんで今更懐柔出来ると思ってるんだか。
「そう、面白いわね、じゃあ、早速1つ、あなたの命を奪おうかしら」
「く!」
ミロルは少しだけ苛立ちの表情を見せて、皮肉な返しを冷静に行なった。
「な、なら、リオ…わ、私に手を貸せば、お前に自由な行動を許す!」
「本当、人間って奴は窮地に立たされると訳の分からないことをするよな
何で俺がお前に従うと思ったんだ? このカス」
「く、ぐ、ぐぐ、ぐぅ! うぐぅ!」
今度も両腕…そろそろトドメと行こうか。
「さて…ミロル、どうする?」
「そうね、そろそろ」
「や、止めろ! 頼む! 命だけは!」
国王はガクガク震えながら両腕で頭を隠した。
…本当に情けない…情けない姿だ、なんでこんなカスの為に
罪のない国民が命を落といけなかったんだ?
本当にふざけてる…ふざけすぎてる。
「…何だか、殺すのも馬鹿らしく感じるな」
「そうね、こんな小物の為に…あの人達は…」
俺達はあのカスを背にして、その場から立ち去ろうとした。
こんな小物…殺す価値も無い、どっかでのたれ死んだ方が良いだろう。
どうせあの出血じゃ、生き残る事も出来ないだろうしな。
出血死で苦しみながら死ねば良いさ、クソカス野郎。
「…クソ、クソ…散々言いやがって…クソガキがぁ!」
……大人しく戦意消失して逃げれば良いのに、くだらない。
「がは!」
俺達2人は振り向き様に狙いを定め、引き金を引いた。
国王の横腹に2箇所、風穴があいた。
「あ…かは…」
「……最後のチャンスも無駄なプライドで捨てるか」
「あ…が…」
「……これで終りだ、殺戮者…あの世でテメェが殺した人達に謝罪しろ
と、言いたいところだが、残念ながら無理だろうな。
お前がいくのは地獄、いや、もしかしたらその更に底かもな。
まぁ、どっちにせよ天国にゃ行けねぇだろうよ」
「や、止めろ! 止めろぉ!」
あのカスの眉間に馬鹿でかい風穴があいた、今更止めるわけがない。
…これで本当に最後だ…あぁ、最後だ、これで…最後…
「……」
「リオ」
「……さっさと行くぞ」
「…私は」
「さっさと行くぞ」
……何で、これで全部終わったはず…これで終わったはずなのに。
……クソ、あぁ、クソ!
「……なぁ、ミロル」
「…何?」
「終わった…筈なんだよな、終わった…筈…」
「……私が」
「……」
ゆっくりと国の方に歩き出す。
「なぁ、ミロル…お前は…ミロル?」
一緒に歩き出したはずのミロルから返事がなかった。
考えていたせいか、足音とかにも気が付かなかった。
もしかしたら、何処かで足を止めて。
「みろ、お、おま!」
後ろを振り向くと、少し距離がある場所でミロルが足を止め
自分の右のこめかみにコルト・パイソンを向けていた。
「お前!」
「……私は殺戮者、えぇ、分かってた事よ、全部ね。
全部あの国王が言うとおり、私がいなかったら
こんな事にはなってなかった、死んだ人も少なかったでしょう。
罪のない国民が命を落とした原因も私。
行動をしたのは国王かも知れないけど、原因は私なんだから」
「止めろ! ミロルお前!」
「…やっぱり私は…消えるべきよ、さようなら、リオ」
「待て! おい!」
「もう2度と会えないでしょうけど…もしも、また奇跡が起きて
こうやって出会えたなら…その時は…また一緒に楽しみましょう」
ミロルの目にはこの距離からでも分かる程の大粒の涙が流れている…
だけど、あの目は本気の目…あいつは本気で!
「止めろ!」
「さようなら…」
静寂を斬り裂く乾いた銃声が周囲に響き渡った。
何の感情も感じない、無機物な叫び声。
その銃声の後に僅かな風が木の葉を揺らし、擦れる音を響かせた。
……そして、何度も嗅いだ硝煙の匂いを感じた。
「はぁ、はぁ」
「…はぁ、ふぅ」
そして、僅かな音しかしない空間に聞こえる、2つの呼吸音。
「……何で」
ミロルは自分の右手を押さえながら少し辛そうに疑問を口にした。
「…死ねると思うなよ?」
ミロルが引き金を引く直前に俺はウィンチェスターで
ミロルが持つコルト・パイソンを撃った。
何故撃てたのか、本来なら撃つことは出来ない一瞬だった。
撃てるわけがない一瞬、だが、俺はそれに間に合わせることが出来た。
理由は簡単、あいつは何処かで生きる事を望んでいたからだ。
「…そもそもだ、ただ死ぬことが償いになると思うなよ?」
「私にはこれ以上の償いはない! 命を奪ってきた私が
のうのうと生きて良いはずが無いの!」
「…俺もそう思ってた、俺だって死のうとした、この戦いが終わった後
俺が償える償いはそれしかないと思ってな…だが
あいつらのせいで考えが変わっちまった。
俺はもう死ぬことで罪を償わない。
どうせそんな事で償えることなんてたかが知れてる。
だから、俺は一生掛けて償おうと思ってな」
「…でも、私はあなたの…仲間も」
「……あ、あいつらは、だ、大丈夫だ、あの程度で…死ぬかよ」
「リオ……」
「後、俺に悪いと思ってるなら…なおさら死なないでくれよ
大丈夫だとは思うが……もしもの場合、お前まで死んだら。
俺は1人じゃないか…また1人になる……それは」
「……」
……正直、1人とかいつもの事だった筈なんだ、こっちに来るまでは
1人でいるのは当たり前だったんだ、当たり前の様に
1人でただひたすらにゲームやって、自己満足で終わってたはずなんだ。
それなのに、こっちに来てから…1人は…辛いと感じる様になった。
今はより……くぅ!
「…泣きそうな顔…しないでよ…」
「な、泣きそうな顔なんてしてない! い、良いから死ぬなよ!
大事な奴が死ぬのは嫌なんだ!」
「……ごめん…なさい…私は…私は!」
ミロルはうつむき、涙を流し、その場で座り込んだ。
……本当、泣くの止めてくれよ…こっちまで涙が出そうじゃ無いか。
「……だから、行くぞ…早く探しに行かないと」
「……分かったわ」
しばらくの沈黙の後、俺達は再び国に向って歩き出した。
街に入ると、外に出たときと変わらず、近辺は瓦礫だらけ。
ミロルとの戦闘で崩落した家も多数ある。
そして、明らかに違うのは城だ。
城があった場所には崩壊し、面影も何もない瓦礫の山になっている。
……クソ、本当に頼むぜ…死んでたりしたら、許さないからな!
テメェら、あんな事言ったくせに自分で守れず死にましたとか許さねぇぞ!




