無意識に救った命
こいつが俺の事をああいった理由か…正直想像も出来ないんだよな。
こいつの生い立ちの事を俺はよく知らないからな。
「…今まで話したことは無かったと思うけど、私がゲームをしてる理由」
「ん? 楽しいからじゃないのか?」
「あなたと出会ってからはね」
「どういうことだ? 本当よく分からないな」
何度もネットを通して一緒に遊んだことはある。
だが、直接あったことが無いからよく知ってるという訳ではない。
会ってみたいとは思っていたが、すんでる場所が遠すぎたからな。
それに、お互い引きこもりだったからな。
「…実は、あなたと出会う前は…ストレス発散のためにやってただけなの」
「ストレス発散?」
「えぇ、憎たらしい人間をゲーム内だけど殺せるからね」
「しれっと怖いことを言うな」
「ゲームだから、まぁ、そんなこんなでひたすらにやり込んでたのよ
そしたら、いつの間にか神プレイヤーとか言われてね」
へぇ、そんな感じであそこまで実力をつけた訳か。
「と言っても、嬉しくはなかったわ、だってストレス発散してただけだし」
「普通は喜ぶと思うけどな」
何であれ、神とか言われたら気分は良いからな。
まぁ、ネット世界は神のバーゲンセールだけどな。
神プレイヤーとか言われる人間の数は凄まじいし。
世界を合わせると異常な程に多いだろうし。
「で、まぁ、私はあなたに出会ったのよ
私が勝つことが出来ない相手、何だかんだで始めて会ったわ」
「完全に偶然野良でぶつかったっけ、初めては」
「えぇ、あなたの能力はヤバかったわ、跳弾使ってくるし
接近してもヘットショット食らうし、身の程が分かったわ」
「あぁ、それでフレンド要請してきたのか」
「まぁ、意地でも戦いたかったからね、1対1を申し込む為にも
フレンド要請はしないといけなかった、タイマンなら勝てると思ったわ
でも、結果は惨敗、野良で戦うよりも圧倒的な実力差だったわ」
まぁ、俺も同じ様にただ大暴れしたかったからFPSをやってたからな。
でも、神プレイヤーとか言われるようになって、テンション上がって極めたんだっけ。
で、最凶何度のINWに出会って、意地でも攻略するためにやってたんだよな。
それからだ、FPSが楽しいと感じ始めたのは。
高難度を攻略する楽しみをようやく得たからな。
「それで、あなたを絶対に越えるために初めて努力したわ
自分の悪いところを見直して、どう立ち回れば勝てるか考えた。
だけど、結局敗北、何度やっても負け負け負け。
でも、不思議と気分は良かった、今まで何もやる気になれなかった
私が初めて抱くことが出来たやる気、たかがゲームにマジになってどうするとか
言われることもあったけど、たかがゲームで私の心は変わったわ。
一般人はくだらないとか言うかも知れないけど、私には全てだったわ」
実際ゲームやアニメで命が救われたり、生き方が変わる人も多いからな。
一般人は否定ばかりするが、それは所詮受入れる事が出来てないだけなんだろう。
それをやってないのに否定する奴は本当に馬鹿だと思うね。
「それからよ、私が本気で何かに全力で挑みたいと思ったのは。
あなたに勝ちたいと言う目標を初めて抱いた……最高の気分だった。
それから、ゲームが楽しいと、上手くなりたいとそう思ったわ
そして、自分の生き方を変えたいと思ったのもそれが切っ掛けだった」
…俺に出会った事でそこまで変わったのか。
嬉しいな、俺の影響で1人の一生が変わるとはな。
だが、ここにいると言うことは死んじまったと言う事だ。
「INWも楽しめたわ、結局クリア出来なかったけどね
でも、あなたがクリアしたという報告を聞いたとき
私は悔しさじゃなくて、喜びを抱いて極めようと思ったわ
本当に楽しかった、最高だったわ、目標を抱くことが
ここまで楽しい事だったなんて思わなかった」
「…そうか、俺も案外そうなんだよな、お前に越えられないように
必死に能力を上げたよ、本当に楽しかった」
「やっぱりライバルって言うのは良い物ね、越えられなくても
越えようと必死に努力する、その間も本当に楽しいわ」
越えられないように必死に鍛える、越えるために必死に鍛える。
仮に越えられたとしても、今度は越えるために鍛える。
切磋琢磨という奴か、スポーツマンみたいな爽やかな感じじゃないかも知れないが
それでも本人同士は最高に楽しい物だ。
やっぱりそういう関係は周りからそう思われることよりも
自分達がそう思うことが大事なんだろう、本当にそう思うよ。
こう言うのはやっぱり本人同士でしか分からないんだろうがな。
「…でもよ、なんでお前は…ここにいるんだ?」
「……死んだからよ」
「…なん…いや、何でも無い」
死んだ理由は分からないが、聞かれたくないだろうなぁ。
俺だって聞かれたくないし、死んだ理由とかさ。
いや、だってよ、犬に追いかけ回されて転けて死んだとか
は、恥ずかしすぎて言えねぇ! 何のドラマもないし!
ロマンチックでもない!
いや、死因なんて大体ドラマもロマンもないだろうけどさ。
「…私の死因は…事故よ」
「事故?」
「…私はその時…人に裏切られた」
「……え?」
「いや、まぁ、これ以上の事は言わないけどね
だから、私はこっちに来たとき、今まで以上に人を憎んでた
こっちの世界じゃ、人を殺せば殺すほど賞讃される。
憎い憎い人間を殺せば殺すほど、賞讃される世界
楽園だと思った、嫌いな人間を好きなだけ殺せる世界。
でも、魔法を扱って、最初に出た道具
それがあなたに渡したセキュリティシックス。
初めて召喚できた物がそれで…私は殺戮者にならなかったの
あなたと切磋琢磨して強くなった記憶を思い出してね」
……その気になれば、もっとエグい道具も出せただろうに
それをしなかったのは、そう言う事か。
何せ、本気を出せば核弾頭とか召喚できただろうからな。
だが、それをしてないのはそういう事か。
「お陰で私は殺戮者にはならなかったわ、まぁ…何人も殺してるけど」
「……それは、俺もだ」
「戦争がそういう物だと言う事は知っているけど…やっぱり辛くも感じるわ
……何人殺したかしらね、私は結局私の為に殺したからね
自分を信じてくれてる国民の為に、私は戦争に参加した。
それなのに…私の魔法は…」
「それは国王が原因だろう、お前は知らなかったんだから」
「知らないからで妥協できるわけがないわ…
私がいなかったら、あの人達は死ななかったんだから」
「ミロル……」
「……篠田 曉美、それが私の名前」
「…松岡 光輝、ここで自己紹介とは思わなかったがな」
「折角出会って、自分の全部を話したんだし、本名を伝えたくてね
お互い知らなかったし…でも、私はこの世界じゃミロル、あなたはリオ」
「あぁ、俺はこっちの名前も好きだ、大事な人に付けてもらった、大事な名前だ」
「…良いわね、そんな人と、この世界で出会えて」
「お前は違うのか?」
「そうね、特に覚えてないわ、気が付いたら私はミロルだったのよ」
「…そうか」
そこが俺とこいつの違う所なんだろうな。
俺はこの世界で大事な人に出会えた、だから…今みたいな生き方が出来てる。
幸運だった、死んだくせに幸運というのも妙な話だがな。
「…でも、嫌いじゃない、この名前を誰がつけてくれたかは覚えて無くてもね」
「……名前ってのは、何だかんだで大事な意味がある事があるからなっと」
俺は痛む足をこらえながら、木にもたれながら立ち上がった。
「リオ? 何処に行くの?」
「…俺はまだやらなきゃいけないことがあってな
このクソ長い戦争を終わらせに行かないと、あいつらに任せっきりはちょっとな」
この長い戦い、その戦いに決着を着ける為にも。
「…なら、私も行くわ、私も国王と決着をつけないといけないから」
「おいおい、そのなりでか?」
「あなたに言われたくないわ、死にかけの死神さん」
「お前も相当だろう? 死にかけの破壊神」
「あはは、破壊神ね、全く私には不釣り合いね
私に相応しいのは精々殺人鬼よ」
「それを言ったら俺もだな、まぁ、殺戮者を止める為なら殺人鬼にでも
死神でも何でもなってやるよ」
「そう」
「まぁ、お前は休んでろよ」
「断るわ、あなたが何をしようとも、私は意地でも付いていく」
「それは駄目だ、お前は」
俺がそこまで言うと、国の方から凄まじい爆音が響いた。
何で爆発!? 何が爆発した! 何があったって言うんだ!
「何!?」
「クソ! どうなってる!? 何だ!? 何が起こった!?」
「何が爆発するって言うの!? 私はもう爆弾なんて!」
「じょ、状況をハッキリさせたい! とにかく森を抜けるぞ!}
「え、えぇ!」
クソ! 状況がまるで分からない! 何だ!? 何が爆発したんだよ!
クソ! 何だよ、このクソみたいな嫌な予感は!
頼むぞ、外れてくれ!
「あ…」
「……な、なん」
森を抜けた俺達が見た光景はリ・アース国の城が吹っ飛んでる光景だった。
火も出てる、そんな…馬鹿な!
「…くぅ! 何で!」
「…り、リオ、あ、あれ…」
「あぁ!? あ、あれは」
ミロルが指を刺した場所にはゆっくりと空を飛んでいるヘリがあった。
「…あのヘリは、国王の!」
「…あいつか、あいつがやりやがったのか!? ふっざけんなよ!
おい! あの城には…あいつらも…じ、自分の兵士もいただろうが!」
「…何で、もしかして、け、消し忘れてた爆弾でもあったって言うの!?」
「か、可能性は…あるな、あの野郎は前にお前に黙って国を爆撃した。
お前に隠して、自分の城に爆弾を配置していても不思議じゃない…
ミロル、時限爆弾とか作らされた記憶は無いか?」
「……あ! わ、忘れてた! そう言えば、かなり前に!」
やっぱりそう言う事か! 畜生!
「……また、私の魔法を、あの男に利用されたって言うの…
私の…う、うぅ…何で…私はまた、信用して裏切られた」
「絶対に…仕留めてやる! 絶対に!」
俺はあのクソ野郎を仕留めようと狙撃銃で狙いを定めた。
「見て! こっちに来てる!」
「…何だよ、自分から殺されに来たか…確実に殺す!」
あの野郎は…絶対に許さない! 意地でも! 意地でも殺す!
あのクソ野郎は、生きてちゃ行けない奴だ! 確実に仕留める!




