最後の攻城戦
少しだけ時間が経過して、メンバー全員が最前線に到着した。
準備は出来た、俺達は道中で子供達と合流し
その子供達を指揮下に入れて戦えば良いらしい。
しかし、特徴も何も知らない子供達を最終決戦で
いきなり指揮とはね、結構難しい気もするが、やるしか無いか。
最低でも自身の能力くらいは教えてくれないとキツい。
「リオちゃん、何処に行くの?」
「今、戦況は正面の門を攻撃している状態らしい
相手の城壁も相当堅いらしくて、突破は難しいみたいだな
流石は敵本国の防衛、一筋縄ではいかないのだろう」
まぁ、反乱の制圧にかかった時間は大したことなかったからな。
精々2時間程度だな、戦力もそれなりに多かったが
がたがたの連携、個々の実力も異常に高かったわけでも無いし
1人1人の目的意識も薄かった、戦意を奪うのは簡単だ。
だが、今回は違う、向こうは防衛という立場だし
戦力もさっきの反乱とは比じゃ無いだろう。
向こうには魔法を扱う子供と言う戦力もあるし
最終防衛ラインと言う事もあり戦意も十分だろう。
他の辺境の地で戦っていた兵士達は戦意はあまり無かったが
ここは本国、戦うための意思はきっと十分ある。
そして何よりミロルの存在、これがあまりにも大きすぎる。
「ひとまず速攻で城門を落とす、多分城門はフレイの怪力で一撃だ
戦車もぶっ壊すくらいの破壊力だからな、城壁くらいは余裕だろう」
「うん! 任せてよ!」
「問題はどうやってフレイを近寄らせるか、そして、ミロルがどう動くかだな」
ミロルには後から対処するしか無い、あいつの行動は読めないからな。
何せ、今、この状態で動かないというのも少々不安な部分だ。
普通なら動いている、普通ならもうすでに攻撃部隊への攻撃を行ない
攻撃部隊は撤退している筈だろう。
あいつは防衛側、城壁の上からならいくらでも攻撃が可能だ。
だが、攻撃部隊はまだ攻撃をしている、という事は動いていないと言うことだ。
攻撃部隊の指揮官であるハルさんは馬鹿じゃ無い
城壁の上からの攻撃を受けて対処できないと判断すれば
すぐに撤退を指示することだろう、だが、未だに攻撃部隊は攻めている。
となると、まだミロルは動いていないと予想できる。
「ミロルの奴、何を考えてるのか分からないな」
案外城壁をこじ開けると、そこに戦車が待機していて攻撃! とか
戦闘ヘリを扱い、上空から背後を突く作戦…いや、それは無いか。
向こうは俺がいると思っているんだろうからヘリは愚手だと考えるかな。
なら、やはり門をこじ開けたとき、戦車がお出迎えの可能性が高いか。
その方が確実ではある、城壁の上から自分が攻撃をした場合
俺がいるとすれば見えない距離からの狙撃の可能性がある。
だから城壁からの攻撃は無し…とかな。
さっきの考察、俺は自分の存在を考えに入れてなかったな。
「城壁の向こう側に戦車という可能性が高いな」
「そうなの?」
「あぁ、そうだ…さて、どうするかな」
そうだと考えるなら、正面突破は危険ではあるな。
正面をぶっ壊すと、そのタイミングに砲撃
そうなると相当危険だ、対処のしようが無いからな。
だったら、城壁の上に登って上から攻撃を仕掛ける。
砲塔が何処まで動くか知らないが、多分上部は狙えないはず。
それに城壁の上なら城壁が邪魔になって攻撃が難しい可能性が高い。
あの門の向こう側に戦車が待機しているとすれば、その手が1番だな。
「でも、城壁の上…どうやって行くか」
城壁の上に登る手段が無い…いや、待てよ? あるかも知れないな。
問題は上からの攻撃と威力の問題だな、大丈夫だと良いけど。
「どうするの?」
「あぁ、手は考えたんだが…問題は城壁の上だな」
「手どんな手段ですか?」
「そうだな、今は2つ手段がある、1つはフランの能力だ。
フランの能力で城壁上の1人を催眠術で操り城を開けさせる。
だが、これは正直現実的では無いだろう。
流石に向こうも催眠術対策は流石に取ってるはず。
変な動きをすれば、その1人を容赦なく殺してくることだろう」
何度も催眠術によって苦労させられてる敵軍が
この最終決戦で催眠術の対抗策を考えていないわけが無い。
そう考えると、この手は結構な愚手となるだろう。
いや、大した痛手にはならないだろうが、失敗時のデメリットは
向こうにこちらの存在が気付かれると言う事だが
まぁ、それは別に問題じゃ無いか、どうせバレるし。
最悪の場合、この催眠術の手で城壁の上に居る兵士を操り
1人1人を殺し、殺させると言う手を取ることも出来るが
残念ながらそれは俺の信条に反するからな。
ウィンに誇れる姉として生きるためにもこれは駄目だ。
今更遅いが、最後の一線は越えちゃならないからな。
だから、もう一方の手、少々危険ではあるが…
「で、もう1つの手段だが…こっちは危険だ」
「危険?」
「あぁ、フレイ、トラ、ウィングの力を使う」
「おぉ!? 私達の出番!?」
「あぁ、この手はお前ら3人の力が必要だからな。
ウィングの武器をいくつも同時に召喚する力
フレイの身体能力と怪力、トラの精密な狙いだ」
「どうするの?」
「ウィングが召喚した武器をフレイの怪力でぶっ飛ばして城壁にぶっさす」
「ほえ!?」
結構強引で無茶苦茶な手段ではあるが、城壁の上に登る良い手だ。
まずはウィングの召喚魔法でいくつもの武器を同時に召喚する。
その後、トラの力で剣を浮かせ、城壁に刺さって階段になる様に狙いを定める。
その後、可能であればウィングに筒を召喚して貰い、剣を覆わせる。
後はその剣をフレイの怪力で、柄を殴らせ、射出させる。
普通の剣であれば壁に当たればへし折れるだろうが、あの剣は魔法だ。
召喚系の魔法が思い込みとかで頑丈さや性質、癖、構造その物を変えると考えると
子供のウィングが剣がどれ程で折れるかは分からないはずだろう。
で、信頼してる俺が堂々とそれが可能だと言えば
きっと出来るとウィングも考えてくれるはず。
でも、どうかな…自分の評価がどうなってるかは正確には分からないし。
これはある種の賭けかな。
「とんでもない勢いで射出されれば、剣も城壁に突き刺さるだろう
で、柄の部分を長くして、その柄を足場にして登るんだ」
「折れたりしないの?」
「折れないだろうよ、魔法で出来た剣だぞ? 折れるわけが無い」
「そ、そうなの? でも、リオちゃんがそう言うならそうなんだよね!」
「あぁ、大丈夫だって」
「う、うん!」
「うん、考えは分かった…でもそれ、私いらないんじゃ?」
「トラは狙いを付ける役だ、フレイはノーコンだからな」
フレイは怪力なんだが、正確に狙って投げる技術は無いはずだからな。
「狙いを付ける役?」
「あぁ、お前の物体を浮遊させる力、それを使って
剣が城壁に刺さった時、階段状になるように狙いを定めて貰う。
その後、可能ならウィングに筒を出して貰い、柄だけを出して剣を覆う。
後はフレイが剣の柄を掌で全力で殴り、剣を射出する。
城壁に刺さった武器は折れないから、細い道ではあるが
そこを足場にして登っていけば城壁の上にたどり着ける。
結構面倒だが、まぁ、アルルとかなら剣を足場にして登れるだろ?
アルルが出来るんだし、大概の兵士なら出来るんじゃねーの?」
「あの、それって私の事過小評価してます? 私の能力、一応平均以上ですよ?」
「医療技術と観察能力は大した物だが、それ位なんじゃねーの?」
「いや、まぁ、大体合ってますけど」
認めるんだ、せめて否定して欲しかったんだけどな。
「まぁ、階段にする剣を2本、3本と横広にすれば大丈夫だろう」
「そうすれば登りやすいかもね!」
「登れるだろう、思いっきり突き刺さるだろうから、安定はするだろうしな。
あ、分かってるだろうけど一応言うが、剣は横だ、縦にすると
刃の部分が上に来て切れるかも知れないし、大丈夫だろうけど」
「分かってる、横の方が足場も広がるし」
「あぁ、で、どうする? やってくれるか?」
「任せてよ!」
「うん!」
「やるだけやってみる」
俺の頼みを聞いてくれた3人は俺が言った通りに行動を起してくれた。
ウィングが何本もの剣をいくつも召喚し、トラが狙いを正確に定めた。
その後、ウィングは俺の指示で丁度剣が収まり、柄部分が飛び出しており
射出する際に障害物にならない構造をした筒を召喚してくれた。
後はフレイがその剣の柄を全力ではじき飛ばせば良いだけだ。
「いっくよ! てりゃぁ!」
フレイが柄を全力で殴ると、俺の予想通り剣は異常な速度で射出。
城壁に当たると、折れること無く無事に城壁に突き刺さった。
そもそもフレイの怪力に耐えられるだけの剣を召喚できるくらいだし
城壁に刺さる時に折れるとかの心配はいらなかっただろうな。
「よし!」
最悪剣が折れたとしても、城壁の壁は抉れるだろう。
その抉れた部分に手を掛けて登る、と言う手も考えていたからな。
失敗したときの対策…結構強引だが、それも一応は出来ていた。
「このまま射出だ! やれ!」
「うん! だっしゃぁ!」
フレイは俺の指示通り、いくつもの剣をはじき飛ばした。
狙い通りに全部の剣はことごとく城壁に刺さり
安定した足場がゆっくりと出来上がってきている。
と言うか、この方法を使えば城壁壊せるんじゃね?
もしくは適当に投げれば階段になったか?
いやいや、安定してない足場なんて登りにくいし
城壁が壊れるほど剣は長くないし、壊れることも無いだろう。
だからきっと、この手が1番登りやすい筈だ。
「順調!」
最終的に城壁には登りやすい剣の階段が出来上がった。
柄も長く出来ているから、かなり安定して登ることが出来る。
この状態なら盾を構えて上に登ることも出来るだろうから
上からの弓矢の攻撃とかを防ぐことも出来るだろうしな。
後、安定している足場だから城壁の上に攻撃して登ることも出来る。
上に登る足場を作る時、作ろうとする度に壊されて落とされるという危険性も
もうすでに完成して、手出しが難しい距離、辛うじて手が届く1番上の足場も
城壁にめり込んでいて、引き抜こうとしても引き抜けない。
そもそもあの場所から剣を引き抜こうとすると非常に力が入りにくい体勢になる。
だから、そこまで強くめり込んでいなくても引き抜くのは難しいだろうな。
「さぁ、足場は出来たぞ、一気に登れ!
最初は不安で兵士達は登れないだろうが、俺達の内誰かが登れば
兵士達も安全だと認識して登るはずだ、だから、先駆けは俺達が!」
「あ、リオさんあれ!」
「ん? あれは」
アルルが指差す場所を見てみると、速攻であの足場を登る影があった。
その動きはかなり速く、ただの兵士では無いと言う事はすぐに分かった。
「あれは多分クリークさんです!」
「あいつか、良くこの距離で認識出来るな」
「私、観察能力にはかなりの自信がありますから」
まぁ、こいつの視力はかなりヤバいしな、正直化け物だろう。
とにかく俺もあいつの援護を…いや、必要ないか?
「はん! 脆いな!」
スコープでクリークの方を見てみると、奴は単体で圧倒的な力で
城壁の上で待機していた兵士達をいとも容易く薙ぎ倒していく。
まるで子供とプロ格闘家の戦いだ、敵兵が可哀想になってくるレベルだ。
やはりあいつの接近能力は群を抜いている。
「と、止めろ! あいつを止めろ!」
「もう少し骨のある奴はいないのか? ったく、テメェらなんぞよりも
こっちのガキ共の方が断然強ぇな、歯ごたえがなさ過ぎてつまらねぇぞ」
「弓矢だ! 弓矢を使って攻撃しろ!」
「しかし! この状態では仲間に当たる可能性も!」
「このままでは全滅だ! なら、やるしか無いだろ!
もう俺達には勝利しか許されない! いかなる犠牲を払おうと勝利するんだ!」
「は、はい! 撃て!」
「あぁ?」
自分に向けて飛ばされてきたいくつもの矢
クリークはその矢を当たり前の様に叩き落とし、傷1つ付いていない。
「う、嘘…だろ…」
「はぁ、ちんけな真似しやがってよ、くだらねぇ攻撃が俺に当たると思ってんのか?」
「く!」
しかし、クリークの奴、足下に敵兵が倒れているのに盾にはしないんだな。
俺がぶつかってきた奴らなら、結構そういう手を取りそうなんだが
こいつはその手を使ったりはしないのか…そこは悪くないな。
まぁ、やることは全部無茶苦茶なんだけど。
「う、撃て! 撃てぇ!」
「しゃらくせぇな」
「クリーク殿に続け!」
「撃て!」
「ち、何でテメェらは俺の邪魔をするんだ?」
クリークに付いていこうとした兵士達が城壁を登りきると同時に
敵兵達は攻撃を開始した、クリークは少しだけ呆れながら
飛んできた弓矢を叩き落とす。
「うぅ…あ、あれ?」
「おい、無能共、ちっとは考えて動きやがれ」
「く、クリーク殿が…俺達を?」
……2年前は結構当たり前の様に兵士を見捨ててたあいつが?
それに前だってあいつに付き従ってた兵士は全滅したはず。
それなのに今回は仲間を守った?
と言うか、あいつが仲間を守るようなタイプなら、なんで前、全滅した?
「正直よ、今、テメェらがくたばるのは怠くてな、時間が無駄になるだろ?
ほら、お前らは門でも開けてろ」
「は、はい!」
いや、なんで門を開ける? わざわざ階段を作って上部を制圧しようとしたのは
城門の向こう側にいるであろう戦車を破壊するため…あいつも戦車の力は知ってるはず。
戦車の形態も知っているはず…まさか、脳筋だったりするのか!?
「不味い! これじゃあ、上部を制圧した理由が!」
俺の焦りなど無視して、城門はゆっくりと開かれた。
俺はバレットM95を召喚し、戦車を1台でも破壊し、被害を減らそうとした。
「え?」
しかし、城壁の向こう側に戦車など無かった…城壁の向こう側にいたのは
ただの兵士達だけ…そんな馬鹿な! 何で戦車が無いんだ!?
ミロルの奴は何を考えているんだ!? 分からない……
だが、これは嬉しい誤算だ、城門を突破した際の被害は無かったんだから。
……しかし、不安が消えることは無い…不安は変わらず大きいままだ。
ミロルの考えが分からない…あいつは何を考えているんだ?
……ち、今の状態じゃどれだけ考えても無意味か。
今は進むしか無い、さっさと子供達とも合流しないといけないからな。




