最終決戦前
敵兵達はあいつを救出できないと判断し
全員蜘蛛の子を散らすように逃げだした。
本当に無様な物だな、子供相手に全員まるで虫の様に逃げ出すんだからよ。
もう少し根性据わってから裏切りを考えやがれ。
まぁ、どんだけ肝が据わっていたとしても返り討ちにしていたがな。
「き、貴様らぁ!」
「逃げられると思うなよ!」
「くぅ!」
だが、逃げだした兵士達を全員包囲するようにトロピカル地方の兵士達が動く。
結構ボロボロだが、俺達の参加もあり、戦意も取り戻したようだな。
それに相手は全員動揺して撤退を始めたんだ、この時を逃すわけが無いよな。
「く、クソ!」
兵士達は完全に包囲されている、逃げ道は無い。
まぁ、こちらの兵士達は体力的に弱っているから
強行突破をしようとすれば出来るんだろうがな。
だが、冷静さを完全に欠き、戦意喪失の敵兵達にはそんな行動は出来ないだろう。
こちらの兵士達は戦意は向上しており、冷静さを欠いてはいない。
このタイミングに包囲という選択が出来るほどだからな、状態は冷静沈着か。
「奴らを全員確保しろ!」
「おぉ!」
兵士達は一気に距離を詰め、逃げだした兵士達に向けて全員攻撃を行なった。
敵兵達は何とか突破しようと抵抗したが、結局は無意味、完全に制圧されてしまう。
士気というのはこう言う土壇場でかなり効果を発揮してくるからな。
覚悟が出来てない奴は最悪の状態の時、何もかも諦めるものだ。
「……」
結局敵兵の残党は誰1人逃げる事は出来ず、全員捕獲された。
「……セイル、あなたは何故ミストラル王国を裏切った?」
「……」
「答えなさい」
「お、俺の能力を評価しないで、そんなクソガキを最高幹部にするような
無能な国何ぞに仕えられる物か! 最高幹部に俺がいないのはおかしい!」
「……それが裏切った理由?」
「そうだ! 俺の能力を正しく評価出来ない貴様らが悪いんだ!
だから、俺は悪くない! 悪いのはお前らだ! お前らが悪いんだ!」
…はぁ、自己中心的な奴だな、何とも嫌なタイプだ。
まさか自分の能力を正しく評価できないお前らが悪い
だから、自分は悪くない…なんて馬鹿げたことを抜かすなんてな。
「…はぁ、能力を正しく評価できないか、確かにその通りかもな
お前は元々指揮官の器じゃ無かったんだろうな」
「何!? クソガキ如きが!」
「そのクソガキ如きにお前は負けた、つまりお前はクソガキ以下だ」
「ふざけるな! 魔法等と言う意味の分からない能力を使い!
その影響で指揮官になっただけの貴様に!」
「ほう、部下からも見捨てられた負け犬がほざくか」
「それはこいつらが無能だったからだ!」
「それはお前がそいつらの能力を正しく評価できなかったからだ」
「く!」
何だ、ぐうの音も出ないのか、まさか子供に説き伏せられるとはな。
「は、もしもお前が指揮官の器で仲間の能力をしっかりと評価できる様な
有能な指揮官だったら、この戦いはお前らが勝ててたかもな
戦力差も十分あったし、作戦も良い線行ってた
だが、お前が無能だったせいで最後の一手を指し損ねた」
「貴様! 貴様! 貴様ぁ!」
「叫ぶな、わめくな、耳障りだ負け犬、お前がどんなに吠えても
お前が負けたという事実は変わらない
まぁ、お前の作戦をさっき一応は褒めてやったが
所詮お前の行動はただの火事場泥棒、いや、空き巣かな?
そんな手を打っても、結局失敗、無能だな」
「貴様ぁああああ!」
セイルは俺に向って走り出そうとしたが、すぐに転けた。
完全に拘束されている状態でここまで来ることが出来ると思ってたのか?
「…はぁ、くだらないな、相手をするのも面倒だ」
「ぐ、ぐぐぅ!」
「ウィン、さっさと向こうに行くぞ、戦闘してる訳だしな」
「あ、う、うん」
「待て! 何処に行くんだ!?」
「お前の相手をする必要は無いからな、貴様にどんな話を聞こうとも
時間の無駄だ、くだらない時間だ、時間は有限なんでね
お前みたいなゴミ屑野郎の相手をしてる暇は無いんだ」
「待て! 待ちやがれ! 訂正しろ! 俺を無能だと! 負け犬だと言ったことを!」
「訂正? そのなりで? 何処から見ても無能な負け犬だ、お前が何をほざこうと
所詮は負け犬だ、上にのし上がる手段を裏切りという行動にした地点で
お前はただの兵士以下の役立たず、ただの害悪にしかならないゴミ屑だ」
「貴様! 待て! 逃げるな!」
くだらない戯れ言を聞き流し、俺はウィンと一緒に最前線にまで戻った。
「む、リオ、ここに来たと言うことは」
「…はい、裏切り者を拘束しました、裏切り者はセイル」
「…奴か」
「はい、動機は自信の能力を正しく評価できない国への反発。
しかし、俺にはただの自己中心的な主張にしか聞こえませんでした」
「奴は能力はある、だが、肝心なときに動けず、強い意志を感じない」
「同感です、現にあいつは、1度臆病風に吹かれて
前線部隊を見捨てて逃げましたからね」
「あぁ…だが、能力は高い、故に指揮官と言う立場に置いてはいたのだ」
ちゃんとあいつの能力を考慮してあの立場だったんだな。
まぁ、最高幹部という立場になった場合、とっさの判断が出来ない
と言うのは致命的だからな、まぁ、それは指揮官でも同じ事だが。
まぁ、指揮官の場合、上の立場の人間がいるから、その人間の判断で行動出来る
だから、最高幹部という立場はすぐにとっさの判断が出来ないといけない。
俺の場合は子供の兵士達全体を指揮するために総指揮官となってるんだろうな。
でも、まだこの土壇場でもその立場が機能はしていない気もするが。
「……そうですか」
「だが、過ぎたことはもう良いか、今は目の前の戦闘だな。
そうだ、今言うのはどうかと思うのだが、リオ、そろそろ
君を子供達の総指揮官を任せようと思っている
今回の戦いの前にようやくその事が決まってな。
本来ならば攻撃直後にその事を告げ、指揮を執って貰おうとしたのだが
君があちらの防衛に向ったため、伝えることが出来なかった」
「あぁ、ついにですか」
「うむ、この最終決戦でようやくと言う事だな」
「そうですね、最終決戦での戦い…この戦いに勝てれば、長い戦争は終わる」
「あぁ、決着を着けよう、これが…最後の戦いだ!」
「はい」
最終決戦…この戦いを制することが出来れば、長い戦いは終わる
沢山の血を流し、続いた戦い、それが終わる…
そして、俺という殺人鬼も不要となる…不要になる筈なんだ。
「お姉ちゃん、皆も連れてくるね」
「あぁ、頼む」
「…それとお姉ちゃん」
「何だ?」
「お姉ちゃん…自分の事を不要とか思わないでね」
「え?」
「お姉ちゃんなら、そう考えるかなと思った…
違ったらごめんなさい、でも…言っておきたかったんだ
お姉ちゃんはとっても大事だから…不要なんて事無いから
私はお姉ちゃんが大好きだから!」
「……大事な妹にそう言われたら、元気が出てくるな」
俺はウィンの肩に手を置いて、少しだけ笑いかけた。
「…ありがとうな、こんな駄目な姉を慕ってくれて」
「お姉ちゃん…」
「背も小さいし、すぐに無理して怪我をして周りに迷惑を掛けて
料理も出来ないし、言葉遣いも荒いし
お前に誇れるような生き方をしてきた訳じゃ無い
良いところを探す方が難しいような駄目な姉…そんな俺を慕ってくれてさ」
「そんな事無いよ、お姉ちゃんは格好いいし、私を助けてくれた
一緒にいると凄く安心出来るし、どんな時も皆のことを考えてる
私のとっても大事なお姉ちゃん……お姉ちゃんが私のお姉ちゃんで良かった
…でも、すぐに自分の事を下に見たり、自分の事を考えないで
皆のことばかり考えて無茶ばかりするところは嫌い…だから、お願い
無茶しないで…もしもお姉ちゃんが死んじゃったら
私はお姉ちゃんの事大っ嫌いになるもん!」
…泣くんだな、こんな駄目な姉の為に泣いてくれるのか。
はは、だが、こいつに嫌いになって欲しくは無いな。
「…分かったよ、お前に嫌われたくは無いからな、絶対に死にはしないさ
死んだ後も恨まれてちゃ、安心して眠れねぇし」
「……うぅ!」
俺の言葉を聞いた後、ウィンは俺を抱きしめてきた。
そして、耳元で泣いている…何だよ、まだ始まっちゃいないのに
いかにも俺が死ぬみたいな感じで泣きやがって。
「約束…だよ? 絶対に約束…」
「あぁ、約束するよ…しかし、あれだな
この状態だと本当にどっちが姉か分かりゃしないな」
「ふぇ?」
「身長差も大分あるし、何かと俺を止めようとしてな」
「…そんな事無いよ、お姉ちゃんは私のお姉ちゃん
私だったらさ、一緒にるだけで安心出来るなんて事は無いから」
俺はこいつと一緒にいると安心出来るんだがな。
それに、俺と一緒にいて安心とか出来るのかねぇ?
すぐに無茶して死にかける、俺みたいな奴が近くにいて。
「……お姉ちゃん、ありがとう」
「お?」
「えへへ、やっぱりお姉ちゃんは良い匂いだね」
「そ、そうか?」
髪の毛の手入れとかしてるつもりは無いんだけどな。
それに、さっき戦ってきたばかりだから汗もかいてて泥臭い気もするし。
「やっぱりお姉ちゃんの匂いは落ち着くの…包み込まれるような優しい匂い」
「勘違いだろ」
「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん?」
「全部終わって、平和になったらさ…私、もっと甘えても良いかな?」
「……そうだな、甘えたきゃ甘えろ、でもな、この状況でその質問は不味いぞ?」
「え?」
「いや、何か死にそうだし」
「え?」
いや、最終決戦直前にあんな言葉って、スゲー死亡フラグって感じだしな。
まぁ、あれは物語の中の話だろうが、やっぱり不安な物は不安だなぁ。
「まぁいいや、甘えたきゃ甘えろよ、一応こんななりでも姉だからな」
「えへ、うん! ありがとう! じゃあ、皆を連れてくるね!}
「あぁ、頼んだぞ」
そう言い残した後、ウィンはその場から姿を消した。
「……はぁ、姉か」
姉か、少しだけ複雑な気持ちではある、中身は男だし
死ぬ前は妹に憧れていた節はあった、こう、お兄ちゃん
とか、可愛い世話好きの妹とか、何だか憧れてたんだよなぁ。
俺は一人っ子だったし、いや、一人っ子だったから
自由にゲームとか出来てて、超やり込んでて
その結果が今の状態に繋がってるのかも知れないが。
でも、やっぱりお兄ちゃんとか言われたかったなぁ。
まぁさ、このなりじゃお姉ちゃんなんだけどさ、女の子だし、幼女だし。
……しかし、決戦前にこんな事を考える余裕が出来るとはな。
精神的にもウィンのあの言葉は俺の支えになったかも知れない。
「…良い妹だな、彼女は」
「そうでしょう? 俺の自慢の妹です」
「きっと彼女も、君のことを自慢の姉だと思っている事だろうな」
「そうだと嬉しいんですけどね」
「自信を持て、君は彼女に誇れる程の事をしたのだから」
そんな事は無いと…思ってたんだけど、案外そうじゃ無いのかもな。
…あいつにあんな風に言われて、少しだけ自分に自信が持てた。
大事な自慢の妹にあそこまで言われたんだ、だから、俺は今のまま
あいつに誇れる姉として生きていかないとな。
親もいないあいつの為にも、俺があいつの道しるべにならないとな。
「…よし、絶対に勝ちますよ、この戦い」
「もちろんだ、必ず勝利を…全ての未来のために」
「はい!」
最終決戦、やってやるぞ、絶対にケリを付けてやる!
そしてミロル…今度こそ決着を付けてやる!




