不安要素
……長く続いた戦争、その戦争に終わりが近付いてきている。
リ・アース国に残る領地はリ・アース国、本国のみ。
向こうの戦力はガタガタ、俺達が回復した今
ミストラル王国は一気に勝負を決めるため、兵力を最前線に集中させた。
この戦いで勝負を着けるつもりなんだろう。
俺達もその部隊に召集され、最前線にまで移動をしている。
だが、俺にはどうしても気がかりなことがある。
それは兵力を動員しすぎていることだ、流石にこの動員は無理がある。
国王直々の指令だから逆らえないが、この動員は本当にあり得ない。
国王の護衛は近衛部隊と一部の防衛部隊のみが行なう事になっている。
流石に手薄すぎる…内通者がいる可能性がある状況でこれは無茶だ。
「明日でこの戦いを終わらせるんだ!」
「おー!!」
「……」
「リオさん?」
俺の不安な表情を察知したのか、アルルが俺の方を不安そうな表情で覗いてきた。
「どうしたんですか?」
「…いや、不安要素が多くてな」
「え?」
国王、何であれだけの防衛で自身が大丈夫だと考えたんだろうか。
仮にミロルの部隊が動けば、近衛部隊では太刀打ちできない。
いや、その可能性は薄いとは俺も思っているけどな。
ミロルはあの後から動きが無い、偵察を何度かしても、あいつは動いてないからだ。
だが、やはり内通者が気がかりで仕方ない。
長い間、国の中に居て、調査でも見付かってないと言う事はかなり周到な奴だ。
相当用意周到で無ければ、流石にバレてしまうからな。
主に部下から、だが、部下からのたれ込みも無いと言う事は
内通者は相当カリスマがあるのか、人心掌握に長けていると言う事になる。
そうなればあいつの息がかかってる人員は殆どそいつに付いていると言う事になる。
1人であるという可能性はあるかも知れないが、その可能性は低い。
1人で変な行動をしていればバレるからだ、1人しか行動しないのだから
変な行動を連続することになり目立つ、だからバレてしまう、特に伝達となればな。
長期間同じ奴がその場に居ないことがあれば目立ってしょうが無い。
だが、内通者は伝達をバレないように行なっていると言う事から
個人では無く、複数人で行なってる、となると指揮官である可能性が高い。
「やはり内通者ですか?」
「あぁ、俺の推測では指揮官相当で結構な規模の部隊を率いている
人心掌握にも長けており、きっと国からの信頼もそれなりにある人物だ」
信頼が無いと指揮官にはなってないからな、だから、推測としては
長期間国にいた指揮官が現状を不満に感じ、敵国に寝返った、そんな感じかな。
もしくはリ・アース国とは関係なく、旗揚げをしようとしている奴か。
リ・アース国と関係なくても、向こうに情報をリークすることにより
こちらと向こうの戦力を減らし、一気に取ることも出来るだろう。
で、恐らくだがそいつは俺達が邪魔なんだろう。
だから、俺達を何とかリ・アース国に殺させようとしてリークしたか。
あくまで推測でしか無いが、可能性はあると思う。
「内通者では無い可能性もある、その可能性が正しければ
敵が行動を起すのは明日の攻撃時、攻撃すると同時に反旗を翻し
ミストラル王国の本国を制圧、その後、疲弊した俺達を仕留める様に動く」
「んな!?」
「可能性でしか無いが、俺の考えが当たっているならこれしかあり得ないだろう」
少なくとも、俺がその裏切り者の立場にいたらそうするだろうな。
本国から最前線までの伝達には結構な時間がかかる。
その間に制圧してしまえば、自分達の勝利は固いのだから。
準備をする前に殺す事も出来る、伝令を出さないように制圧が出来れば
招き入れてからの一網打尽も可能だ、長距離を凱旋してくるわけだからな。
上手く行けば、その裏切り者が世界を統一した国王になる。
俺がそいつの立場ならそうする、仮にリ・アース国の内通者だったとしても
潰れかけている国の為に敵国を制圧するよりも、自分の新勢力を作り
まとめて倒し、天下を取るだろう、人間は欲望に忠実なんだ。
俺は世界を統一した国家のお偉いさんとか面倒くさくて嫌だけどな。
「…ウィン」
「何?」
こう考えていると、不安が増えて行く、俺はウィンを呼び
本国を見張ることが出来るポイントに移動することにした。
「俺達が死にかけた山あるじゃん」
「あ、思い出の山…お姉ちゃんが、私を妹だって信じてくれた場所だね」
「あぁ、そこだよ…そこに行けるか?」
「うん、いけると思うよ」
「じゃあ、頼む」
俺はウィンに頼んで、あの山に飛ぶ事にした。
ここならまず見付かることはない筈だ、そもそもだ
向こうは俺がこの場所にいるとは想定していないはず。
大事が起きる前に対策をしないとな。
「アルルさんも呼んでくるね」
「あぁ、頼んだ」
その後、ウィンはアルルを連れてこの場所に帰還してきた。
「リオさん、レギンス軍団長には伝えてきました」
「あぁ、前線にいたからな、で、どう言ってた?」
「はい、可能性に対策するのは必須だ、こちらはしばらくの間なら大丈夫だ
襲撃が無い場合はすぐに帰還を、襲撃があった場合はすぐに報告を頼む
とのことでした」
「やっぱり話が分かるな、流石は軍団長」
「リオさんはかなりの実績がありますし
リオさんの意見に賛同するのは当然ではありますけどね」
「そうか? ま、確かにそうかもな」
それなりに実績は残してるからな、こう言うとき実績があると便利だよな。
嫌な予感がしたときに意見が通らないとか嫌だしな。
さてと、とりあえずこのまま待機だな、多分俺の推測では
敵がもし攻撃をするとすれば、最前線の攻撃部隊が動いたときだ。
その時間に合わせてきっと向こうも動く…その時まで待機だ。
「……そろそろだな、変な動きはあるか?」
「はい、防衛部隊の動きが少々慌ただしくなりました」
「そうか…ウィン、フレイ達を連れてきてくれ」
「分かった」
可能性が高くなってきたから、俺達は小さな戦士達を召集した。
ウィンの魔法のお陰で、集合はすぐに完了。
小さな戦士達は全員山上に待機することが出来た。
「ふわぁ…本国の攻撃とかあり得るの?」
「あぁ、可能性は十分だ、早速だがお前らはひまわりに行ってくれ」
「何で?」
「ひまわりは俺達、最大の急所だ、それはきっと向こうも分かっている
だから、向こうはひまわりを攻撃する可能性があるんだ」
「そんな!」
「だから、ゆっくりとバレないように移動しろ、慎重にな」
「う、うん」
はぁ、こんな事になるんだったら、ウィンをひまわりで寝かせれば良かった。
そうすれば、わざわざこそこそ行けと言わずにすんだのに。
でも、移動にはフレイが心配なくらいで、マルもいるし、トラもいる。
シルバー達にも移動の補助を頼んだから大丈夫だろう。
「……さぁ、いつ動く? 動かないならその方が良いが」
しかし、俺の願いは届かなかったようで、防衛部隊が動き出した。
不自然に剣を掲げ、城の方に移動して居る。
そして、一部の部隊はひまわりがある場所に移動を始めた。
嫌な予感は的中、やはりあいつらはひまわりを人質に取るつもりらしい。
きっと俺達が帰ってきた時用の人質だろう。
リ・アース国もそうだが、俺達は大分警戒されてるみたいだからな。
だが、その考えはあった、だからこそ対策はした。
「だりゃぁ!」
「な! フレイだ! 小さな戦士達の破壊者、フレイだ!」
「あはは! 破壊者だって! へんなのー!」
フレイの2つ名ってそんな感じなのか、まぁ、確かに破壊者だが。
「この場所には入らせない、この場所は、私達の大事な場所!
お前ら見たいな汚い連中が入っていい場所じゃ無い!」
「クソ! 何で小さな戦士達がここにいるんだ! どうなってる!」
「く! だが、もう遅い! やれ! ひまわりを制圧しろ! そうすれば
こいつらは無力化されるんだ! 1人でも良い! 侵入しろ!」
「「絶対に行かせない!」」
フレイ達は攻め入ろうとしている兵士達をことごとく薙ぎ倒す。
接近系の攻撃しか出来ない兵士達だけではこいつらは止められない。
「く、駄目だ…火だ! 火を放てば奴らの戦意は消失するはずだ!」
「了解しました!」
「あ、駄目!」
敵兵達は火矢を用意して、一斉にひまわりに向けて放った。
させるわけが無い、大事な場所、守らないと行けない場所だ。
この大事な場所を守る為に、俺は何人も殺したんだ。
もしも…この場所を守れなけりゃ、俺は本当にただの殺人鬼!
「何! 矢が撃ち落とされ、が!」
「まさか、奴が居るぞ! 死神リオだ! いどい、うぐ!」
「駄目だ! このままでは弓兵が殲滅されてしまう!」
「く! 隠れろ! いそ、ぐ」
「やられた! 何も出来ずに! 何処だ! 何処に゛」
「う、うわぁあ!」
容赦はしない、どうせ非殺傷さ、こいつらを取っ捕まえて吐かせてやる。
こいつらの指揮をしてる裏切り者の正体、絶対に明かしてやる。
「…ウィン」
「何?」
「メルをトロピカル地方へ移動させろ、その後、軍団長に報告を頼む」
「え?」
「案外、ここの防衛は出来そうだ…でも、もう一つの不安要素
トロピカル地方、メルはそっちに、フラン達だけだとキツい気がする
向こうはフラン、ノエ、メルト位だしな」
「分かった!」
まぁ、あのメンバーだけでも対処は出来ると考えている。
だって、向こうには戦車があるんだ、一応サポート全員に操縦方法は教えた。
本来は攻撃に使う予定だったが、ミロルの魔法で出来た戦車だし
ミロルが出て来たら無力化されるのが目に見えてるんで防衛に当てて貰った。
その結果、トロピカル地方の防衛にあの戦車が使える。
「さて、裏切り者に粛清をってね、後悔させてやる」
「絶対に私達で守りましょう」
「お前、何もしねーじゃん」
「うぐ! い、一応敵の場所を教えています! すぽったーです!」
「はいはい、そうだな、じゃ、ちゃんと敵の位置を教えてくれよ?」
「お任せあれ、観察能力には自信がありますんで」
何体もの兵士がひまわりを人質に取ろうとしているが
それをフレイ達が全力で阻む。
だが、流石に2人では限界があるのだろう、たまに抜けられてしまう。
しかし、それは俺が対処、絶対に中には入れない。
だが、俺の能力にも限界があった。
「不味い! 1人入った!」
「これで俺達の勝ちだ!」
ヤバいと思った瞬間にその敵兵は入り口から出て来た。
「はぁ、はぁ、い、行かせないもん!」
敵兵を外に追い出したのはウィングだった。
どうやら、あいつはひまわりの内部で敵兵の侵入を防いでいたようだ。
通りであいつの姿が見えないと思ったよ。
「「「「絶対に守る」」」」
タイミングを合わせたわけでもない、狙った訳でも無いのに
俺達の言葉は同時に出た、俺なんて独り言だ。
まさか、その独り言とあいつらの言葉がハモるとは思わなかった。
良いね、この一体感…意地でも守ってやる、俺達の大事な居場所を
俺達の大事な家族を! 絶対に守る! その為に戦ってきたんだからな!




