久しく休み
マオとゆったりと過してから3日後、俺はいつも通り部屋で休んだ。
本当なら訓練とかをしたいのだけど、どうもアルルに
リオさんは少々頑張りすぎですし、しばらくはお休みしましょう。
どんな時でも動けるように体力を回復させる
これも大事な特訓です、特に無理ばかりするリオさんには必須ですよ。
等と言われ、暇な時間を過すことになってしまった。
こう言うときは何をすれば良いか分からない、とりあえず銃の手入れをしよう。
魔法で召還する銃に手入れなど必要なのか知らないけどな。
「ん…お、殆ど召喚した記憶が無いがSVDも出せるな」
SVD別名ドラグノフ、ソビエト連邦が開発したセミオート狙撃銃。
マークスマン用に開発した狙撃銃だったかな。
装弾数は10発、結構連射が出来る、と言っても
俺はこいつのスコープが苦手で、殆ど扱ったことが無いけど。
やっぱりスコープの作りは大事だよな、相性とかあるし。
狙いやすい奴なら凄く狙いやすいのだが、狙いにくい奴は本当に狙えない。
まぁ、INWではちょくちょく使ってたが、あれはスコープのデザイン変えられるし。
でも、セミオートはそこまで得意では無い。
やっぱり一撃必中のボルトアクションが好きだ、一撃外せば
危機的状況に陥るかも知れないが、それこそ狙撃の醍醐味。
一撃で相手を仕留める、外せば後が無い、うん、良いね。
「失礼するぞ」
「お?」
俺がSVDを見ていると、扉がゆっくりと3回叩かれた。
俺はすぐにSVDを消し、扉を開くと。
そこにはレギンス軍団長が立っていた。
「軍団長!? な、何故トロピカル地方に!?」
レギンス軍団長は本来本国にいるはずなのに、何故こっちに来たんだ!?
「あぁ、実は調査したいことがあって来たんだが、どうも私には分からなかった。
そこで、君なら分かるかと思い、君の部屋に来たんだ、休憩中すまないな」
「いえ、自分はいつでも大丈夫ですけど…その、調査したい事とは?」
「あぁ、先の襲撃で敵軍が扱っていた鉄の馬車の事だ」
あぁ、戦車のことか、そう言えば鹵獲してたっけ。
なる程、それを調査しにここに来たわけだ。
そう言えば、俺もその戦車に乗ったこと無かったな。
「あぁ、あの」
「君なら何か分かるのでは無いか?」
「一応は、詳細などは見ないと分かりませんけど」
「では、一緒に来てくれ、敵国の武器を解析するのも重要だからな」
「はい」
レギンス軍団長に連れられ、戦車が確保されている場所に移動した。
確かフレイの怪力で城の方まで移動させたんだったな。
あいつも押すだけとは言え、かなり苦労してた。
あの怪力馬鹿でも動かすのに苦労する、戦車だし当然だけどな。
「これだが」
「ほぅ」
城に鹵獲されていたのはM1A2SEP、アメリカが現在作っていた主力戦車だ。
こんな物まで召喚できるのか、流石はミロル。
「では、色々と調べてみますね」
「あぁ、頼む」
俺はその戦車を少しワクワクしながら色々と調べることにした。
最初は外観等を調べてみたわけだけど、どうも地味に違うな。
全長も違う、重量は量れないから分からないが
全長が違うのは間違いなかった、デザインはM1A2SEPで間違いないが。
全長は本来は9.83mだが、こいつは9m程度だった。
「ん?」
少し違和感を覚えた、まぁ、ミロルの魔法でも完璧な物は出せない。
そう考えれば全長が変化していても何も不思議は無いか。
で、次は戦車の内部を調べることにしてみた。
「…は?」
戦車の内部…それを見たとき、俺は呆気にとられてしまう。
戦車の内部にあったのは…ゲームのリモコンのような物だった。
何で…戦車の内部にこんな物が!?
「…んな、馬鹿な」
リモコンの前には画面がある、不自然だ、明らかにあり得ない!
何で戦車を操縦するのをゲームの様な感覚で!?
「リオ、どうだ? 何か分かったか? 操縦する方法などは」
「あ、は、はい、少し試してみます」
「分かった」
俺はそのリモコンを取り、ゲームの感覚で操縦してみた。
確か前進はR2…すると、戦車は前進する。
「おぉ!」
L1を押すと、画面が拡大し、より正確に狙えるようになって。
L2を押すと、バック、この感じだとR1を押すと主砲を発射するのだろう。
とりあえずレギンス軍団長に許可を貰い、安全な場所で砲撃をした。
やはりR1で発射だ、そして、主砲は一定時間で勝手に再装填。
もう一度撃ってみると、やはり撃てた、再装填中には撃てない。
「……マジかよ」
なる程…これで分かった気がする、何故戦車から1人しか出て来なかったのか。
1人で十分だからだ、本来戦車の操縦には4人ほど人がいる。
指示を出す車長、戦車を操る操縦士、敵を狙い、攻撃をする砲手
1発はなった砲弾を再装填する為の装填手の4人だ。
車長がいなけりゃ指示が出せず、全員の意思疎通も難しくなる。
戦車は本来チームプレーだ、だからトップの車長がいなきゃ混乱する。
操縦士がいなけりゃ、戦車を動かすのが難しくなる。
別の奴が兼用する場合だと、別の機能が使えなくなるからな。
装填手がいないと弾丸を1発しか放てない。
砲手が仮に装填手をした場合は敵を見失うのは間違いない。
その間に攻撃をされて戦車は潰れる。
砲手がいなけりゃ攻撃が出来ない、狙いを定めることも出来ない。
こんな風に、1人でも欠けると戦車は一気に弱体化する。
だが、このようなタイプだと、装填も自動…砲手、操縦手も自分で出来て
まとめる必要が無いゲームなら1人で十分だ。
「…問題は、何で戦車の内部がゲーム風になってるかだな」
理由は少し想像が付く…この光景を見て、ある程度は分かった。
多分、ミロルの魔法は自分が思った物を召喚する魔法だ。
で、その思ったことには正確な情報は必要ない、大まかな情報で良い。
となると、ヘリとかの操縦もゲーム感覚で可能なのだろう。
…何というか、とんでもなくインチキな能力だよな。
「……」
戦車の操縦は1人で可能、これは相当便利だぞ。
あまり人員を割かないで良いし、簡単に操縦できる。
でも、そうだな、もし思った物を召喚できる魔法だとするなら
案外詳しい情報を集めていないミロルだ。
戦車の砲塔に弾丸を撃ち込むと爆発した理由も少し分かった。
多分ミロルは砲塔に弾丸が入ると爆発すると認識しているんだ。
つまり、認識している事が召喚した物に実際に反映される。
なる程、だからかなりの距離がある筈の本国から起爆できたのか。
あれがC4の欠片だというのは間違いなかった。
ただ距離が異常な程にあって、普通は起爆できない。
でも起爆した、あの状態ではあのC4で爆発させたとしか思えなかったから
ほぼ確信的にあのC4が原因だと考えていたけど。
冷静に考えるとそれはあり得ないとも思い出していた。
だが、今回のこれでもう確信的になったな。
あのC4の起爆距離は無限だ、ミロルがそう認識しているからだ。
あの魔法は思った物を召喚できる魔法、認識次第で効果が変わる。
「つまり詳しくなければ詳しくないほど強力なのか」
詳しいとその道具の弱点も認識してしまう。
だから、その弱点を有したまま召喚してしまう。
だが、詳しくなければ弱点は分からないからその弱点が無い兵器が召喚できる。
でも、フィクション等で弱点を見ている場合、その弱点がある兵器を召喚する。
認識次第では強力兵器も弱い兵器も召喚できてしまう魔法か。
で、ミロルの知識は恐らく殆どがゲームで得た知識なんだろう。
だから、ゲームで扱う操縦方法、ゲームで出た弱点。
ゲームであった射程距離、ゲームで出て来た兵器のロゴ。
ゲーム限定の武器等を召喚していると言う事だ。
ようやく、ようやくお前の魔法が見えてきたぞ、ミロル。
「リオ、そろそろ聞かせてくれないか? この兵器のことを」
「はい、分かりました」
さっさと戦車から降りて、レギンス軍団長に今回、分かったことを告げた。
「戦車か、そういう物もあるのだな」
「はい、操縦方法は簡単です、これなら大した訓練が無くても
殆どの人間が操ることが出来ます」
「だから、このような未知の道具をあそこまで操れる者がいたのか」
「そうなりますね、簡単に操縦できる未知の最強兵器、これは強いわけだ」
「あぁ…君がいなければあの戦いは間違いなく敗北していたと言う事だな」
「何故?」
「君くらいしかいないからな、この兵器の扱いを知り、対処できる者は」
「フレイとかがいますよ」
「彼女は確かに強い、現にこの兵器をいくつか破壊した。
だが、彼女は近寄らねば攻撃は出来ない。
それと君と比べると頭が良いわけではない
当然なのだがな、彼女は7歳、本来君の知識量が異常なのだから」
まぁ、俺の知識量は7歳にしてはあり得ないよな、中身は高校生だし。
「だが、君の場合は勘も恐ろしく鋭く、接近しなくとも倒すことが出来る。
それも何機も連続でだ、この戦車を撃破した部隊は小さな戦士達しかいないからな」
「こちらがあの兵器に対抗するには、強力な魔法しかあり得ませんからね。
今現在、破壊が出来るのは強力な一撃を放てるフレイか自分か
ただ弱点はありますよ、砲塔、つまりこの飛び出してる部分です」
「ここが弱点だと?」
「はい、ここに異物が入ると、この戦車は爆発するようです
つまり、ここに矢を撃ち込むと爆発する可能性がある。
しかし、実験したわけでは無いので断定は出来ませんが」
「うーむ…試してみたいが、戦車とやらはこれだけだ、試すのは無理か」
「そうですね」
今度の実戦で試すとなると、相当危険だが、こちらの戦力で倒すには
もはやそれしか無いのも現実だ、やるしか無いと言うことだ。
次の攻撃がいつか分からない以上、多少の危険は仕方ないだろう。
「ハッキリと分からないのは恐ろしいが
可能性を見付けることが出来たのは大きな進展と言えるだろう
すまないな、リオ、休みに手を貸して貰って」
「構いません、自分なんかが役に立てるなら」
「…君は本当に自分を過小評価しているな、少しは自覚を持て
君は英雄だ、自分なんか、等と言わない方が良い」
「……」
「まぁ良い、きっといつか君も気付けるだろうからな
今は休んでくれ」
「はい」
俺は自分の部屋に戻り、再びゆっくりと休む事にした。
…しかし、俺なんかが英雄ね、はは、あり得ない。
俺はただの殺人鬼…ただそれだけだろう。
……殺人鬼でしか…無いだろうに。




