不要な殺人鬼
食事も終わり、気が付けば夜だ、普通に考えれば
女の子と2人きりなんて結構良いシチュエーション何だろうが
相手は子供、あげく自分も幼女…何だか虚しいもんだよ。
「なぁ、リオ…」
「何だ?」
「…答えにくい質問かも知れないけど、聞いて良いか?」
「ん? 別に良いぞ?」
何だ? 少し改まって、マオが改まるのは結構よくある気がするが。
今回はかなり真剣だな…一体、何を聞こうとしているんだ?
「…リオは…何で戦うんだ? 最初の理由は分かるんだ。
何で兵士何かになったのか、それは分かるんだ…
でも、止めるチャンスはあったはず…リオみたいに頭も良くて
兵士になって間もない子供なら…まだ、戻ることは出来た筈なのに
それともう一つ…リオは…母親を恨んでるのか?」
まぁ、チャンスはあったな、戻ることが出来るチャンスは。
だが、戻らなかった…ま、自分の中では出ている答えだが。
その答えを知ってるのは自分達だけだし、マオが疑問に思うのは普通か。
で、もう一つ、母親を恨んでいるか…ねぇ。
「そうだな、じゃぁ、戦う理由を最初は話そう
ま、単純だ、力があるから戦うだけだ」
「その力は望んで手に入れた物じゃ無いだろう?
その力のせいで、お前はここに来て、何度も死にかけて…」
「別に死にかける分はまだ良いのさ、死んで無いんだから
そう、死んで無い、だがよ、俺が戦わなきゃさ
死ぬ奴もいるだろ? 戦う術も無い奴らの中に」
「……」
「ただの自惚れかも知れないが、自分が戦う事で
そういう奴を減らしたいとも思ってる…と言うのは、ま、聞こえの良い建前だ」
「理由じゃ無いのか?」
「理由ではあるが、メインじゃ無いな、おまけ程度の考えさ。
残念ながら、俺は赤の他人の為に無償で命を差し出すアホじゃ無いんだ」
名前も知らない、ただ同じ国に住んでいると言うだけの人間の為に
自分の命を差し出す、そんな崇高で事故犠牲の激しい発想はしないし、出来ない。
そんな曖昧な理由じゃ、絶対に何処かで迷いが出てしまうだろう。
理由が壮大すぎて、自分が本当にやりたいことを見失うだろう。
だから、俺はそんな壮大で崇高な理由で戦う事は無い。
「俺が戦う事を選んだ本当の理由は、ま、大事な居場所を守る為だ
これ、そこそこ色んな奴に言ってるんだがな」
「大事な…居場所?」
「そうだ、大は小を兼ねるってか? ついでに国を守ってるだけだ」
「ついでだと? 国を守ることが?」
「あぁ、その国の中に俺の居場所がある、だから守ってるんだ
本当にそれだけさ、それだけの理由で俺は命を賭ける
だが、出来れば命は捨てたくないかな、場合によっては捨てるけど」
「平然とそんな事を言うな!」
うぉ! マオの奴がいきなり間合いを詰めてきて、胸ぐら掴んできた。
ここまで怒りの表情を露わにしたのは初めてじゃないか?
「前も言ったが、お前はお前の命の尊さを知れと! お前が死んでしまえば
一体、誰が悲しむと思ってるんだ!? お前が大事にしてる
お前の…大事な友達が悲しむんだぞ! お前を育ててくれた母親も!
それなのに、お前は平然と命を捨てるという! 軽んじるんじゃ無い!」
「ば、場合によってはだって」
「場合によってでも捨てることを選ぶな! 選択肢に入れるんじゃ無い!
生き残る事を考えろ!」
「なんでお前はそんなにも」
「……何度…何度私が…そんな辛い経験をしてきたか…お前には分からないだろうな!」
…そうか、考えてみれば、こいつは良く命を落としてしまう幼子の中の生き残り。
きっと、他のどの子供よりも、長く兵士として生きてきている。
魔法の力が開花するよりも前に、レギンス軍団長と共に戦場を見てきた筈だしな。
「皆…良い子だったんだ、優しい子だったんだ、でも、魔法が目覚めたせいで
兵士になって…その魔法のせいで死んだ…私はただ無力だと感じるしか無かった。
私の魔法は回復魔法…戦場に姿は出さない、だから生き残ってるんだ。
それが悔しくて、辛くて何度も泣いたことがある、自分が安全な場所で
生きてる間にも、自分と同じくらいの子供が命を失う戦場に赴いている
そう考えると…悔しくて、辛くて…私はこの力を恨んだ」
「……案外、俺の魔法とお前の魔法、似てるかもな」
俺の魔法も安全地帯からの支援位しか出来ないからな。
だが、俺の魔法とは違う、俺の魔法は使い方次第で危険地帯でも戦えるが
マオの魔法はどう扱っても攻撃に転用できない。
でも、こいつの魔法にはこいつにしか出来ないことが多い。
「…まさか、お前の魔法は私の魔法と違って…大事な物を守れるじゃ無いか」
「それはお前の魔法も同じだろ? 何度俺がお前の力に救われてると思ってる?」
「……だが、所詮は回復の魔法、戦う事は出来ない、ただ傷付いた仲間を治し
すぐに命を失う危険性のある戦場に送るだけだ」
「傷付いたままじゃ死ぬしか無い、例え本来死ぬような怪我をしても
お前の魔法はそいつを救える、それにさ、俺の魔法とかは
戦争が無くなりゃ用済みだ、殺す力だ、殺す必要が無くなれば必要ない
だが、お前の場合は違うだろ? お前の魔法は救う力だ」
「…戦争が無くなるとでも?」
「そのつもりで戦ってるんだ、これ以上、血を流さないためにな
戦争が終わらなきゃ、今まで流れた血は無駄なままだからよ」
戦争を終わらせる、それが今、俺達の最大の目標だ。
リ・アース国を倒すことが出来れば戦争は終わるからな。
もう、目の前まで来ている長い戦争の終着地点。
ここまで来たら、意地でも止めないとな。
「……」
「でまぁ、戦争が終わったら、俺は兵士を止めるさ
戦争が終われば、俺は必要ないからな」
「何を馬鹿な事を言ってる? お前が必要ないだと?」
「あぁ、殺すことしか出来ない殺人鬼、戦争以外にゃ不要だろ?」
「この馬鹿が! 何処まで…何処までお前は自分を軽んじる!
お前は…戦争が終わろうと、必要な人間じゃないか…
兵士を止めるのは構わない…だけど、自分をいらない人間と考えるのは
止めてくれ…お願いだから…」
涙? 何で俺の為に涙なんか流すんだよ…
「……お前は、その言葉で、生き方で…何人もの人を救ったと思ってるんだ?
本来流れるはずだった大量の血を一滴も流させず勝利に導いたこともある!
本来助かるはずも無かった奴隷を、その手で救った事だってある!
本来滅んでいた国を、その手で救い出したこともある!
それなのに、お前は自分を殺人鬼と罵り! 自分を不要と言う!
何でだよ…何でお前はそこまで自分を貶す…自分を殺そうとする…」
何処まで行こうと俺は殺人鬼だ、犯した罪を実績で上塗りすることは出来ない。
俺はただの殺人鬼、理由は何であれ、やってはいけないことをした殺人鬼だ。
「私だって救われたんだ…何度も友を失い、私は孤独に生きると決めた
だが、お前達を見ていて…自分の考えは変わった。
勇気を出して、声を掛けて…それが今だ…私は嬉しい…
長く同じ子供と話していなかったのに、今、話せていて。
一緒に楽しく遊んで、食事をして、色々と話もした。
だから、私はお前に死んで欲しくない…自分を貶して欲しくない…
お前が自分なんて不要だと言っているのも、聞きたくないんだ
私にはお前が必要なんだ、それはお前と共に居る小さな戦士達全員そうだ
誰もお前を不要とは思って無い、皆、お前が必要だと思ってる。
だから、自分は不要なんて言わないでくれ…そんな事を考えていれば
いつか…本当にお前は死んでしまう…頼む、もう、私にあんな思いをさせないでくれ」
…ただ恥ずかしかっただけじゃ無いのか…馬鹿だな、俺は。
こいつの辛かった記憶を考えもしないで答えていた。
こいつの優しさも考えないで、馬鹿な事を言った。
……戦争が終わったとしても、自分は不要じゃ無い…か。
「…そうか、俺は不要じゃ無いか」
「そうだ、だから…軽んじないでくれ」
……こうは言っても、やっぱり俺はいらないんじゃ無いかと思う。
でも、これ以上そんな事を言って、マオを泣かせるわけにはいかない。
「……分かったよ、自分を軽んじたりはしない、泣かせるわけにはいかないしな」
「…軽んじない理由は結局他人の為か…本当にお前は何処まで自己を犠牲にするんだ」
「してないっての、ま、あいつらが泣いてる所見たら、こっちも楽しくないのさ」
「…そうか」
「さて、話も終わったところだし、風呂入ってくるよ」
「じゃあ、わ、私も一緒に入ろう」
「いや、1人1人で良いだろ? 今すぐ入りたいなら俺は待つぞ?」
「良いから」
何だかなぁ、ま、良いか、フレイ達とも結構一緒に入ってるし。
さて、風呂も良い感じの温かさだ。
「っと」
「ん」
「で、なんで一緒に入ろうなんて言ったんだ?」
「折角なんだ…1度くらい良いじゃ無いか…何だかリオといると
危なっかしい兄の様で…放っておけないというか」
「一応性別は女だがな、ほれ、無いじゃん…あ、無いな、マジで無い」
何だろう、もうなれたと思ってたんだが、やっぱり無いと落ち着かない。
はぁ~…久し振りにこんな気分になったし。
「何で落ち込んでいるんだ?」
「いや、何でも無い、何でも無いんだ…
ちょっと大事な武器を失った気分になっただけだ」
「何を言ってるんだ?」
「いや、分からないで良いから」
しかしあれだな、やっぱりこの体になって良く拝めるようになって
…でもなぁ、自分の体だし、小さいし、何だかなぁ…
やっぱりこの姿になった利点とか見付からねぇ。
面倒なのには目を付けられるし、振り回されるし
良いこと無くね? いや、この体だから周りは女が多いのか?
でもなぁ、そうは言っても、小さい子ばかりだしなぁ。
「……ん」
「あ?」
俺がちょっと色々と考えていると、後ろから抱きしめられた。
マオだろうけど、何だ? 何だかグイグイ来るな。
「どうした?」
「…い、いや、誰かと一緒に風呂に入ったとき、何をすれば良いか分からず
とりあえず、昔、お母さんがやってくれてた様に抱きしめてみようかと」
「お母さん以外と一緒にはいるのは初めてだったんだな」
「うん…父上と一緒に入ったことは無いからな」
「何でだ?」
「距離感があったからだと思う、嫌われてるとも思っていただろうし」
「何で嫌われると思ってたんだ?」
「すぐに怒っていたからだと思うけど」
「ま、心配だと怒るよな、心配してなきゃ怒りゃしないし」
「…うん」
しかし、流石軍団長、子供相手でも紳士だな。
案外子供だろうと女の子だし、一緒に入るのはあり得ないと考えてたりな。
あの人ならあり得そうだ、結構そこら辺、厳しいからなぁ。
「しかし、抱きしめると…何だか落ち着く気がする」
「何でだ?」
「やっぱり…リオが兄の様だからか?」
「何で兄、ま、俺としちゃあ、そっちの方が嬉しいがな」
うん、やっぱ姉とか言われるよりも、兄とかの方が良いね。
まぁ、もう最近、姉と言われても違和感なくなってきたんだけどな。
ウィンにしょっちゅうお姉ちゃんって呼ばれてるからだろう。
俺はウィンより身長低いけど、後、マオより身長低いし。
「でもよ、身長的にはお前の方が高くね?」
「身長なんて、今更気にはしないさ」
「牛乳毎日飲んでるのに?」
「…あ、あれは美味しいからだ!」
「はは、そうかい、そう言う事にしといてやるよ」
「く!」
「にゅわー!頬をひっぱりゅなー!!」
「この! この!」
「いででで! いでぇ!」
う、うぅ、頬超痛い…強く引っ張りすぎだろう
どんだけ身長のこと気にしてるんだよ…。
その後、俺達は風呂から上がり、一緒のベットで寝る事になった。
俺は眠っている間、何故かマオの抱き枕になった。
ぬいぐるみで良いじゃん、大好きなぬいぐるみで良いじゃん。
何で俺? しかし、マオは1日やそこらで結構打ち解けたな。
やっぱり子供はすぐに打ち解けることが出来るのだろう。
あまり気負いしなくて良いからな、まぁ、楽で良いよ。
しかし、大して話してないのにお泊まりすることになるとは思わなかった。
そんなに俺の事を気に掛けてくれていたのか? …何か、ありがたいな。
ま、いいや、ちゃっちゃと寝ちまおう、今日はいびきがうるさくないから
楽に寝られるぞ、普段より窮屈じゃないしな。




