お泊まり
「…すまない、私のわがままで」
「別に気にしちゃ居ないさ、しかし、何でまた泊って欲しいなんて」
「…ずっと、寝るときは1人だったんだ、今まではそれで良かった
だけど…その…1日くらい、誰かと一緒に過したいと思って
…昔みたいに」
「……そうか、じゃ、一緒にのんびり行くか」
「うん」
きっと、昔の話をしたから、昔、母親と過していた時間を思い出して
少しだけ、寂しくなっちまったんだろうな。
気丈に振る舞おうと、中身は子供、寂しくなる日もあるだろう。
そのさみしさを俺と過すことで紛らわす事が出来るなら
相手をするのが年上の努めってね、見た目は同い年だが。
「それで? 何をする?」
「う、うーむ、何をするか…何をする? う、うーん、うーん…えっと」
マオは俺の質問で激しく頭を抱え、悩み始めた。
何となくなんで悩んでいるのか、理由は分かったぞ。
「……何を…そ、そうだ!」
「お?」
「て、敵の戦力の分析を!」
「……それ、休みの間にするのか? 俺達だけで?」
「え? ち、違うのか? 子供同士の会話とかはこう言う…」
「どんな風に過してきたんだ? 今まで」
「そ、そうだな、私の部下である子供達にはそういう話をしてる
どうすれば敵を倒すことが出来るのかを考えて」
「その間、部下の子供達は?」
「……は、半分以上…寝てた」
まぁ、子供に難しい戦術の話とかしても退屈で寝るよな。
大人が相手なら普通に聞いてくれるだろうが、相手は子供だ。
難しい話をひたすらにしても、絶対に飽きる。
「まぁ、会議はそうかもだが、普段はどうだ?」
「……」
「なんで黙る?」
「…えっと」
「友達との会話とかは…」
「……と、友達は…い、いない」
……何か、悪い事を聞いてしまったな、いや、うん、まぁ…その…
何となく分かってたけどさ。
「じゃあ、普段は」
「へ、部屋で1人休んでる」
「遊んでないのか?」
「あ、遊ぶなんて事、指揮官たる物、常に上に立っていると言う自覚を持ち
常に気を引き締めていないといけないんだ!」
「…流石レギンス軍団長に育てられただけはあるな
ただな…常に気張るのは良いが、近寄りがたい指揮官は駄目だろ
会議とかするときに、ろくに周りが意見を言いにくいし」
「そ、そうなのか!?」
「下手な事を言ったら怒られると思って言えなくなるだろ?
特に子供はそうだ、怒られるのは嫌だろうし黙りこくるぞ」
「そ、それでは…会議では無く…」
「あぁ、ただお前が喋ってるだけだ」
まぁ、俺達小さな戦士達もろくに作戦会議とかしてないし
フレイ達が何か言う事もあまり無いんだけどな。
トラは積極的に意見を出してくれるけど、フレイとかは何も言わないし。
「くぅ…」
「だから、少しは遊んでた方が良いんじゃねーの?
ほれ、あのぬいぐるみとかで」
俺はちょっとだけ考えたが、ひとまずベットの下に
マオが隠してるぬいぐるみを指差してみた。
「こ、これは! ち、違う! これで遊んでたりはしてない!
あ、あれだ、ぶ、部下の子供のぬいぐるみで!」
「いや、恥ずかしがらんでも」
「わ、わわ、私が、あ、あんな、な、軟弱な物で遊ぶわけが無い!
クマのぬいぐるみなんかで遊ぶわけ無いじゃないか!
別に抱き枕にしてるとかも無いし!」
マオってあれだな、興奮したり、焦ったりすると
ボロが出てくるタイプだな、必死に隠そうとしているけど
自分から暴露していくスタイル…何かトラに似てるかも知れない。
「まぁ、何にせよ、そういう軟弱な物で
お前の部下も遊んでるんだろ? だったら、お前も遊んでみろよ
そうすれば、部下の気持ちとかも分かるし、仕事の話以外で
お前の部下と会話をするチャンスになるだろうし」
「…ふ、ふーむ、そうか? そうだよな! うん! これは仕事なんだ!
うん、部下と交流するための仕事! だから、別に恥ずべき事では無い!」
何故かマオは嬉しそうな笑顔を見せた。
やっぱり分かりやすい奴だな。
「それじゃあ、他の部下と遊ぶ時の為に、俺と遊んでみるか?」
「そ、そ、そうだな! そうしよう!」
マオがそそくさとベットの下にあるぬいぐるみを引っ張り出す。
ぬいぐるみは結構な量が隠れていたようで
6体のぬいぐるみが姿を見せた。
「えっと、この子はクマのアーちゃん、女の子だ
女の子だけど、凄く力が強くて、1番の力持ちだ」
「で、この子は犬のドン君、男の子だぞ
この子は食いしん坊で、すぐにご飯を食べちゃうんだ」
「この子は猫のニャーちゃんで、女の子だぞ
この子はドン君の事が大好きなんだけど、なんて話せば良いか
分からないから、悪戯をよくしてドン君を困らせてるんだ
たまにお話ししても、何を話して良いか分からないから
ドン君が興味無いことばかり話して、お話しできずにいるんだ」
「で、この子は母親で猫のキャキャさんだ
家族の事が大好きで、娘であるニャーちゃんを心配そうに見てるんだ」
「この子はドン君の母親で、シバさんだぞ
ドン君のことをニャーちゃんが大好きだって知ってて
色々とニャーちゃんにチャンスを作ってあげようとしてるけど
ニャーちゃんが素直になれないで話が出来ない所を見ては
行け、行け! って、心の中で思ってるお母さんだ!」
「で、この子がクマのベン君だぞ! アーちゃんの事が大好きなんだけど
アーちゃんは自分より強くない人とは結婚しないって言っるけど
ベン君はまだ弱い、だけど、アーちゃんと結婚するために
毎日鍛えてる、健気な男の子だ!」
せ、設定がぽろぽろ出てくるな、きっとあのぬいぐるみの事大事なんだろうよ。
そうじゃないと、設定とか考えないし、覚えてすらいないだろう。
しかし、ぬいぐるみの事を話してる間のマオは自然と笑みをこぼし
楽しんでいるという事を特に意識しないでも分かるほどだ。
全く、そんなに好きなら堂々と楽しめば良いのにな。
楽しくない趣味とか趣味じゃ無いだろう。
「さ、さぁ、リオはどの子が良いんだ? どの子を使う?」
「んぇ? そ、そうだな…じゃあ…」
「こ、このドン君が良いんじゃ無いか? リオは犬好きだろ?」
「え? いや…ま、まぁ、好きだな」
言えない! 嫌いだなんて言えない!
あんなキラキラした目で勧めてきた奴に対して
犬は大っ嫌いなんだ、とか言えるわけが無い!
まぁ、どうせぬいぐるみだし、犬嫌いとかどうとかどうでも良いが。
「じゃ、じゃあ」
「あ、あぁ、分かった」
仕方ない、自分で言い出したんだし、最後まで付き合ってやろう。
「よ、よし、じゃあ、私はニャーちゃんだ!」
「そ、そうか」
「にゃ、にゃー!」
そう言って、少し嬉しそうに俺が持っている犬のぬいぐるみに
自分が手に持っている猫のぬいぐるみを優しくぶつけて来た。
え? 動物の言葉なの? 会話とかどうするの?
「わ、わぅん」
ひとまず、俺も合わせることにして、動物語を話した後
ゆっくりと後方にドン君を動かしてみた。
吹き飛ばす感じでも無かったし、設定的に考えてみても
ニャーちゃんは全力で攻撃はしてこないんじゃ無いかなと言う予想だ。
「ふ、ふんだ、ドンののろま~」
あ、人間の言葉を発するんだ、なる程ね
まぁ、そうじゃないと話できないし。
「何するんだよ、ニャーちゃん」
「違う、ドン君はもっと荒い口調でニャーちゃんの事は
馬鹿猫って言うんだ」
「え? あ、そ、そうなのか?」
「うん」
「と言うか、荒い口調ってどんな口調だ?」
「リオの口調と同じ感じ」
あぁ、だからこの犬を俺に渡してきた訳ね、口調似てるから。
「分かった」
「何するんだよ、馬鹿猫!」
「にゃーはは! ドンが怒った~!」
「待て! 馬鹿猫! 今度こそ取っ捕まえてやる!」
「にゃははー! のろまのドンに捕まるわけ無いよー!」
「待てやぁー!」
…こ、こんな感じか? こんな感じで良いのか?
何だか恥ずかしくなってきた。
どうせ2人しかいないけど、何だか恥ずかしい。
しかしまぁ、目の前で楽しそうに演技してるマオを見て。
この恥ずかしい気持ちも少しは落ち着いた。
その後、しばらくの間、俺とマオはぬいぐるみで遊び
それなりに楽しい時間を過すことが出来た。
で、遊んで疲れたのか、マオが眠り出した。
眠る演技の時だったかな、本当に寝るんだな。
「……マジで寝てるな」
しかも、本当に眠るという遊びに全力って感じだな。
しかしまぁ、幸せそうな寝顔を見てると、ま、良いかって気持ちになる。
とりあえず、俺はマオをベットに寝かせ、布団を掛けようとしたが。
「…重い」
結構非力な俺ではマオを抱き上げるのに苦労した。
しかしなぁ、普段はマオの体重に近い程重たいはずの武器を持って
走り回ってるって言うのに、鍛えられてないな。
まぁ、俺の魔法、銃にそこまで重量無いから当然なのかね。
「……」
「ふぅ、やっと運べた」
「……」
マオは寝息を殆どたてず、静かに眠っている。
もう少し寝息は大きいはずだが、大分小さいな。
まぁ、人によりけりなのかね。
「…とりあえず、飯でも作って待ってみようか」
あまり難しい料理とかは出来ないんだけど、ちょっとした物なら作れる。
たまーにフレイ達の料理を作ってたからな。
と言っても、本当にたまーにだ、1ヶ月に1回か?
もしかしたら、もっと少なかったかも知れない。
だから、殆ど料理は出来ないけど、簡単な物なら一応は出来るはずだ。
「…焦げなきゃ良いがな」
しかも、マオは1人で過してるわけだから、絶対俺よりも料理出来るよな。
…でもまぁ、一応作っておこう、どんな物が出来るかは分からないけどさ。
ひとまず…そうだな、肉じゃがとか出来るんじゃ無いか?
何とか材料もあるみたいだし…でも、勝手に使って良いのだろうか。
「肉じゃが作ろうにも、使って良いのか分からん」
…卵ならたっぷりあるから、こいつを使った料理なら何か出来そうだな。
ひとまず卵焼きを作ってみよう、それ位なら出来るはずだ。
だが、卵焼きだけで腹膨れるか? 無理だよな。
少ねーもん…だが、それ位しか出来ないから作ってみる。
「……よ、よし、な、何とか」
しょ、少々形は崩れたが、何とか焦げること無く出来たぞ。
卵は半熟、結構好きなんだよな、半熟の卵。
「…リオ」
「あ、マオ、丁度良いタイミングに起きたな、ほれ、ダブル目玉焼き
まぁ、お前の料理と比べると、かなり不味いかも知れないが」
「…ありがとう、私、普段は外で食べるから」
「そうなのか? でも、卵とか材料沢山あったぞ?」
「たまにここのメイドさんが来てくれて料理を作ってくれるんだ」
「し、城のメイドが来るのか、そりゃあ、重宝されてるな」
「リオもメイドさんみたいなのがいるだろ?」
「あいつらはメイドじゃないな、仲間…いや、ちょっとした家族か」
メイドも仲間だからな、そこで差別化しちゃいけない。
「そうなのか、私も…欲しいな、そんな家族が」
「お前なら出来るって、自分を信じな、まぁ、ほれ
かなり汚いけど、一応は目玉焼きだ、ご飯はどれ位入れる?」
「じゃあ、その茶碗1杯分で」
「そこそこ入る奴だな、案外食うな」
「…まぁね」
その後、俺達は2人で目玉焼きを食べて、夜まで会話をした。
少し新鮮な体験だな、こう言うのは。




