マオの話
自分達の異常性に改めて気が付いた俺達は
トロピカル地方でマオが住んでいる部屋に移動することにした。
今回、マオはトロピカル地方の方にやって来ている。
理由としては、負傷者の量が圧倒的に多いからだ。
マオのような回復系の魔法使いが動員されていないわけが無い。
中には俺よりも酷い怪我の兵士も居るし、マオが居るのは自然だ。
「マオ、いるか?」
「…何だ?」
マオが少し不機嫌そうな表情で顔を出してきた。
何だろう、何かあったのか?
「あぁ、リオ達か、どうした?」
だが、俺達であるという事を認識した後、少しだけ表情が軽くなる。
もしかしたら、かなりしんどいのかも知れないな。
「あっと、聞きたいことがあって来たんだけど、大変なら後でも」
「いや、大丈夫だ、とりあえず入ってくれ、汚い部屋だけど」
「お邪魔します」
自分の部屋のことを汚いと言っていたが、そんな事は無かった。
結構綺麗に整っていて、非常に過ごしやすそうだ。
もしもこの部屋を知らない人が見たら
真面目な大人が住んでると勘違いしそうだよな。
だが、ベットの下に隠してるつもりで隠れていない
子供が遊ぶような可愛らしいクマのぬいぐるみが見えていて
やはり、マオも子供なんだなと確認することが出来た。
「それで? 聞きたいことと言うのは何だ?」
「あぁ、実は…その…身長についてだ」
「……普通なら怒る所なんだが」
あ、やっぱり気にしてたんだ…そりゃあ、気にするよな。
年下よりも背が低い年上とか気にしないわけが無い。
俺とかそうだし、妹よりも背が低い姉…威厳の欠片もねぇ。
「まぁ、お前達も同じ境遇みたいだし、別に怒ることはない」
「じゃあ、やっぱりお前も俺達の背が伸びてないのは分かってたのか?」
「もちろんだ、何度か会ったときに、初めて姿を見たときから変わっていない
だから、私はお前達も同じ境遇だと言う事に気が付いた」
子供の段階で時間が経っても、全く背が伸びないのはおかしいからな。
大人なら普通だと思うが、俺達は子供だ、背が伸びるのが普通。
「それなら話が早いかもな
早速質問なんだが、俺達の背が伸びない事に何か心当たりとかはあるか?」
「無い、そんな物があったら、もうすでに行動してる」
まぁ、何となく分かっていたけど…ゴミ箱に沢山牛乳のパックがあるし。
マオの涙ぐましい努力の結晶か…
「マオちゃん、何でこんなに牛乳のゴミが? 牛乳好きなの?」
「く、くぅ!」
フレイの全く相手の気持ちを考えない質問がマオを貫いた。
相変わらずアホすぎて目も当てられない、何という質問だ。
大体さっきの反応とかで察しろよ。
まぁ、相手の心境を察するなんて、7歳でアホなフレイには無理か。
「そ、そうだ! 好きなんだ! 牛乳大好きなんだ!
け、決して! 牛乳を飲んで背を伸ばそうとしたわけじゃ無い!」
マオもやっぱり子供なんだなぁ、性格とか口調は大人びてるが
根本的には子供、何だか微笑ましいと感じた。
何というか、妹に強く見て貰うために、無理やりな見栄を張ってる
負けず嫌いのお姉ちゃんという感じだなぁ。
「…うぅ、な、なぁ、リオ、こっちに」
「ん?」
フレイの目の前からゴミ箱を取り上げた後
マオが奥の部屋に入り、少しだけ顔を出し
俺を手招きして呼んできた。
何だ? 何で俺を指名した?
「何だ?」
まぁ、呼ばれた以上は行かないといけないから
少し疑問を抱きながらも、俺は奥の部屋に入った。
その後、マオは部屋の扉を閉め、こちら側から鍵を掛けた。
「どうしたんだ? 俺だけ呼び出して」
「…な、なぁ、リオは…その…自分の身長を、ど、どう思ってる?」
自分の身長のことか、案外便利な物だとは思ってるな。
「んー、そうだな、せめて妹であるウィンには勝ちたかったな」
ただ、やはりウィンに負けているのは悔しいんだよなぁ。
そこさえ無ければこの身長は便利なところが多いし。
「そ、それだけか?」
「それだけだな、背が低い方が何かと便利なんだ。
背が低けりゃ、草むらに隠れやすいし、木の陰にも隠れやすい
木の上に居ても背が低いからあまり目立たないし
背が低いと体重も軽くなるから、それだけ静かに移動できる。
後、触れる事が出来る箇所が大分下だから攻撃に苦労するし。
小さいと暗闇に紛れる事が比較的楽に出来る、良いことしか無い」
背が低い方が色々と便利は良い、高いところに手が届かないのは怠いが
まぁ、アルル馬鹿がどうせいつも近くに居るし、あいつに取らせりゃ良いし。
案外デメリットは少ないんだよな。
「ぽ、ポジティブだな…」
「どうしようも出来ないコンプレックスなら
それを個性にする為に、何が良いかを考える
そうすりゃあ、精神的にも楽になるし、良いところを理解できるから
どう動けば良い結果になるかを考えることが出来る。」
「……」
「ま、先生の受け売りだが、良い言葉だろ?」
病気ばかりしてて、体力が無くて、周りに心配ばかり掛けていた。
内面的には年上なのにと、何度も惨めな思いをして
落ち込んでいた俺に先生が言ってくれた言葉だ。
いやぁ、今でもよく覚えてる、本当俺はあの人に会えて良かったよ。
「…そうだな、ふふ、私も会ってみたい物だ」
「あぁ、その内会わせてやる、あの人の近くは安心出来るぞ?」
「…本物の母親のように?」
「俺からして見りゃ、あの人が本物の母親だ、生みの親は知らん
どうせ金の為に俺を生んだクソ親だ、そんなのを親とは呼ばない」
「……そうか」
マオの奴、なんであんな質問をしてきたのだろうか。
相手の事を考えないような奴とは思えないのに
あの質問は場合によっては相手を傷付けてしまう質問だ。
俺は別に気にも留めないが、案がウィングとかだと傷付くだろう。
「なぁ、なんでそんな質問を?」
「…話す必要は無い…と、お前以外には言うだろう
だけど…リオになら…話しても良いか」
「ん?」
「私は…母親が居ないんだ、少ししか覚えてない……だけど
少ししか覚えていないのが…嫌なんだ」
「どういうことだ?」
「どうせなら、綺麗さっぱり忘れてた方が良かった。
何も覚えて無くて…その方が良かった、でも、覚えてるんだ、少しだけ」
「そうなのか?」
「…うん、少しだけ覚えてる、優しかったのも、リオの様に強かったのも
性格もよく似てた、口調は違ったけど、私の為に必死に頑張ってて
だけど、怒るときは怒ってくれた、最初は嫌だった。
でも、今はあの怒声が…聞きたくて、怒って欲しくて…」
マオは少しだけ涙を目に溜めて、絞り出すように話している。
そこまで涙しながら言うくらいなら、言わない方が良いんじゃ無いかと思う。
だが、そこまでしても話したい母親の話、止めるのは良くないか。
「…何で、死んだの…ママ…」
「……」
「…お、お母さんは、私を庇って死んだらしいんだ…
私は覚えてない、その瞬間を、どうしてそんな事になったか知らない
だが、お父さ…父上であるレギンス軍団長の話によるとそうらしい」
「な!」
「…あぁ、言ってなかったな、レギンス軍団長は私の育ての親だ」
「そ、そうだったのか」
あぁ、だからあの時隣に居たのか? そう言う事かも知れない。
だが、レギンス軍団長が死者が出るほどの激戦区であったであろう
マオの故郷にいたんだ?
「また不思議そうな表情だな、レギンス軍団長が激戦区にいたのが不思議か?」
「あ、あぁ、レギンス軍団長は前線には」
「その理由は私を助けた日、前線に立てない怪我を負ったからだ」
「そうなのか?」
「あぁ、激しく動くことが出来ないんだ」
そんな怪我を負って居たのか、知らなかった。
「……そうなのか」
「あぁ、お陰で私は助かった、運良くか運悪くかは分からないが。
本当に…何で忘れられないんだろう、大分昔の事なのに」
「そりゃあ、忘れちゃいけない記憶だからだろう?
忘れても良い様などうでも言い記憶はすぐに消える物だが
忘れちゃいけない大事な記憶は消えないからな」
「…それも、先生の言葉か?」
「いや、これは俺の言葉だ」
未だに消えない元の世界の記憶、こっちの世界も良いんだけど
俺はまだ、あの世界に少し未練を残している。
家族はどうして居るだろうかとかな。
友達はいなかったから、別に良いが……
いや、1人居た、唯一の友達…顔も見たこともない。
ただチャットで少し会話したり、競争したりした仲間。
…その仲間が、ミロルである可能性が出て来てしまった。
俺は今、大事な仲間と戦っているという状況下。
まぁ、逃げる気は無い、もう、こっちに捨てられないのが出来すぎた。
「……」
「過去とケリを付けるのも大事だが、忘れないのも大事な事だ。
だが、忘れることが出来ず、後悔しか出来ないなら不要かもな
でも、お前なら大丈夫だろ? お前は自分が何をすべきか分かってる筈だ
そうじゃないと、必死に戦ってはいないし、そもそもここには居ないだろ?」
「…そうだな、私は私を守ってくれた母の為にも、必死に生きる!」
「お、良い事言うじゃ無いか」
「ふふ、父上の受け売りだがな」
「軍団長か、流石だな」
「ふふ、ありがとう、リオお陰で少し元気が出た」
「そうか、そりゃあ良かった、所でマオ」
「何だ?」
「なんで身長の話からこんな話しになったんだろうな?」
「…確かに不思議だ」
ただ身長の話をしていただけなのに、いつの間にか
マオの過去の話を聞いていた、やっぱり会話ってのはよく分からん。
でも、いい話が聞けた気がする、マオも元気になったし、良いか。
「えっと、確か…リオの育ての親である先生の言葉からこうなったのか」
「だな」
「えっと、元は何の話で…あ、そうだ、思い出した!
リオは背をどうやって伸ばそうと努力しているのかを聞こうとしてたんだ!」
「ん? 俺か? 俺は…そうだな、よく寝て、よく食べるようにしてたぞ
後は…アルルが小さな食べられる程度の骨が良く入ってる魚料理を出してくれたり
飲み物を頼んだら牛乳を持ってきてたりしてたっけ」
「アルルは確か、リオのサポートの」
「あぁ、あいつ、地味だけど俺の背を伸ばそうとしてたんだな」
小さいままが良いとか言ってたけど、影ながらサポートはしてくれてたのか。
こう思い返さないと分からない程の些細なサポートだが。
「大事にされてるんだな」
「方向性がおかしいがな」
「そうなのか?」
「あぁ、ま、詳しくは言わないけど」
「ふーむ…そうか」
その後、俺達は部屋から出て、全員に合流した。
で、何故かその日、俺はマオに誘われ、部屋に泊ることになった。
まさか、あいつら意外の子供と一緒に過すことになるとは思わなかった。
しかも2人きり、まぁ、相手は子供だから問題は無いがな。




