会議
高台から戻ると、城内にいた兵士達の伝令で、俺達は会議室に移動することになった。
何で俺達は招集されたんだ? 前はそんな事無かった気がするんだが。
「なんで呼ばれたんだ?」
「分かりませんね、最初は戦闘後に呼ばれなかったのに」
どうやら、アルルもどうして呼ばれたのかを知らないらしい。
何か、こう、不安だな、理由が分からないのが1番怖い。
だが、招集を受けたのに行かない何て出来ないな、その方が怖いし。
俺とアルルは少しビクつきながら、会議室に入った。
「招集を受けて参りました、狙撃偵察部隊、部隊長ののリオです」
「同じく、狙撃偵察部隊所属のアルル・フィートです」
「うむ、来たか、席に座ってくれ」
会議室の中には、各々の部隊長達も来ている、中でも1番目を引いたのは
顔面蒼白でレギンス軍団長の近くに居る、トラ達前線部隊を見捨てた男だ。
「今回、君達部隊長を召集したのは今回の戦争の件に付いてだ」
あぁ、やっぱり今回のあの戦争のことか、一体何を話し合うって言うんだ?
「此度の戦争、君達の活躍もあり、辛うじて迎撃することが出来た
まずはそれについて礼を言おう、尽力、感謝する」
軍団長は俺達に向けて、軽く一礼をした。
そして、すぐに頭を上げ、鋭い目つきに変わる。
「だが、今回の戦争において、いくつか不明瞭なことが多い、それを会議するために呼んだ」
「不明瞭なところとは?」
「それは、何故襲撃を受けたのかだ、我々は当然奇襲に関してはかなりの警戒していたはずだった
2方向からの襲撃など、そう無いはずだ、見張りがしっかりと機能していれば
しかし、襲撃を受けた、ここで出てくる可能性、それは相手軍に優秀な斥候がいる可能性
もう一つは、我々の中に裏切り者がいる可能性だ」
そんな事を、誰かが行っていた気がするな。
確かにどちらも可能性はあるが、1番可能性が高いのは後者だな。
なんせ、優秀な斥候がいるとすれば、戦闘時に介入してくるだろうし。
裏切り者がいる場合なら、状況次第で寝返り、攻撃をしてこようとした可能性がある。
だが、それが出来なかった為、攻撃を行なう事は出来なかったと。
なら、この部隊長の中に裏切り者がいる可能性が高い。
「私は後者の可能性が高いと睨んでいる、介入が無い為だ」
「・・・・・・」
レギンス軍団長の言葉で、全員に妙な沈黙が生じた。
全員、周囲の部隊長を睨んでいる、疑心暗鬼状態だろう。
だが、その視線は俺達4人には向けられていなかった。
理由は簡単だ、子供だからだ、部隊の規模も少なく、子供だからだろう。
俺達4人の内、誰かが裏切り者だったとしても、軍全体に及ぼすほどの影響はないだろうからな。
「私は最も被害が少なかった部隊が怪しいと思います」
そんな沈黙の中で、1人の男が口を開き、意見を述べた。
「最も被害が少ない部隊か、あり得るな」
そして、その言葉で全員の視線が集中したのは・・・・あのトラ達を見捨てた男だ。
なんせ、あいつの部隊は8割は無傷だ、後衛に集中させて、見捨てたからな。
「な、何故私をみるんだ!?」
「部隊の8割以上が無事、前線部隊を見捨てた、この中で、最も怪しいのはお前だからだ」
「く! だが! 私は裏切りなどしていない! 裏切りをしたというのなら!
戦力が手薄になっている国に総攻撃を仕掛けていたはずだ! だから、違う!
そもそもだ! 一切被害を受けていない4部隊がいるではないか!」
「そんな部隊があったか?」
「あの子供4人だ」
あぁ、あいつは俺達に疑いを向けようとしているわけだ、おーおー、責任転換がお上手だ。
「何を言っている? 子供だぞ?」
「子供だからこそだ、あの子供達が敵軍が送った偵察の可能性もある
子供だからこそ、疑われる事も無く、忍び込むことが出来るだろうからな」
「確かに、一理あるな」
・・・・あぁ、俺達の方に疑いの目が来た。
「どうなのだ?」
「違うよ! そんなはず無い!」
「そうです、裏切りって何なのか知りませんが、違います」
「そうだよ、違う!」
「そもそもですよ、俺達の動向は、俺達のお守り役が常に見ている、聞けば良いじゃないか」
アルル達は俺達の動向を常に見守っているからな、証拠は十分ある。
「そ、そんなの! そのお守り共も共犯に決まってる!」
「そうだ! そうに決まってる!」
「それは無いだろう、彼女達は我々がしっかりと選別し、身分もハッキリ分かっており
優秀な部隊員を選んだんだ」
「く!」
やっぱり、ちゃんと選別していたんだな、まぁ、そうだよな大切な戦力を
身分も分からない奴に任せるわけも無いか、魔法はこの国に取ってかなり重要だからな。
「左様、では聞こう、彼女達は裏切り者か?」
「いいえ、トラさんに不審な動きはありませんでしたわ」
「フレイさんにもありませんでした、暴走は良くしていましたが」
「ウィングにもありませんでした」
「リオさんにもありません、そもそも、リオさんが裏切り者であれば、ミストラル国は終わってます」
アルル、なんで少し余計なことを行っちゃうんだ? ドヤ顔だし。
自慢か? 自慢なのか? 変な波風が立つ可能性があることを言わないで欲しい。
「どうやら、彼女達では無いようだな」
「じゃあ、やはり」
「違う! 私じゃ無い! 私じゃ無い!」
・・・・あのクソ野郎がしょっ引かれるのは構わない、だが、恐らくあいつじゃ無いだろう。
もしも、あいつが裏切り者ならあの時、味方の兵士があんな会話をするわけが無い。
裏切るつもりなら、味方部隊も手懐けないといけないからな、チクられたら一巻の終わりだし。
だが、あの様子だと手懐けてはいないようだった、つまり、あいつじゃ無い。
「・・・・正直、仲間を裏切るような畜生を庇うつもりは無いが、そいつじゃ無いと思う」
「どういうことだ?」
「さっきもそいつが言ってたとおり、そいつが裏切りなら国に攻撃をした方が効果的だ
ついでに、信頼されていたというなら、自分が声を上げて、城内の警備に移して貰えば良かった」
「確かにその方が効果的か」
「だが、それをしなかった、その口振りだと、レギンス軍団長も聞いていないのでしょう?」
「うむ、セイルから、その様な話は聞いていない」
「なら、こいつが裏切り者とは考えにくい、部下からも反感を受けていたようだし」
「確かに、反感を受けているとすれば、裏切りを感知され、私に報告に来ていただろうからな」
裏切りという行為は、結構部下から信頼されている奴がするんだよな。
なんせ、信頼されていなかったりすれば、その動向を部下に感知され、失敗するからな。
そもそも、部下と共に裏切るんだしな、よっぽどじゃ無いと反感を食らう。
「つまり、ここで俺は斥候の可能性をあげておく」
「何故だ? 介入が無かったのだぞ?」
「簡単ですよ、斥候が道を開いて、せめてきた連中はそもそもの囮
その間に城に侵入、機を見てレギンス軍団長の暗殺か、国王様達の暗殺
あるいは、それを同時に行なうか、優秀なら兵士に化けることも出来ますしね」
結構、そう言う事がある、兵士達の数は多いからな、多すぎれば部隊長でも
部下の顔を把握しきっていないこともあり得るし。
「ふむ、そうだな、そう言う手段があると言う事を忘れていた」
「ですので、出来るだけ国王様達をお部屋にお連れして、兵を集中させた方がよろしいのでは?」
「それが1番ですよ! はい!」
「だが、裏切り者がいる可能性が0という訳では無い、その警戒も怠らない方がよろしいのでは?」
「そうだな、それが良いだろう、では、今回はこの手段で警戒をする、解散してくれ」
「は!」
レギンス軍団長の言葉で、部隊長達は一斉に解散をした。
そして、すぐに俺の周りにフレイ達がやってきた。
「おぉ! リオちゃん、格好良かったよ!」
「そ、そうか? 本当は結構緊張していたんだがな」
「緊張してたのに、偉い人にあんな乱暴に話しかけてたの?」
「緊張したり、イラついたりするとああなるんだよ」
「何か、格好いい」
格好いいとかなんか恥ずかしい・・・・言われたこと無いし。
「やはり、リオさんは性格が良く変わりますわよね」
「そうですよね、ワイルドな時と、可愛いときと、格好いいときと・・・・うふふ~」
「アルルもやっぱりしょっちゅう性格が変わるよね」
「そうだね、特にリオさんの事になると」
「は! いけない、いけない」
あいつはマナ達が周りにいると、暴走しないんだな。
「リオよ」
「へ?」
俺達が会話をしていると、後ろからゴツい声が聞えてきた。
俺は少しビクつきながら、後ろを振り返ってみると、そこにはレギンス軍団長がいた!
「ぐ、軍団長!?」
「来てくれ、アルルもだ」
「え、あ、はい、しかし、その、何故?」
「君達の口振り、どうしても叱っておきたくてな、礼儀を教えてやる」
「へ!? あ、す、すみません!」
「とにかく来るんだ!」
うそぉ! いや、確かにさ! 乱暴な言葉を使ったけど!
な、なんでその程度の事で多忙な軍団長がぁ!
やばい! 絶対に怒られる、だが、振り切って逃げるわけにはいかないし。
俺はかなり焦りながらもレギンス軍団長の後に付いていった。
そして、軍団長の部屋にまで連れて行かれてしまった。
「あ、あの」
軍団長は部屋に戻り、周囲をキョロキョロと見渡した後ゆっくりと扉を閉めた。
「驚かせてすまなかったなリオ、怒るわけではない」
「え? あの、どういう?」
「実はだな、君達に頼みたいことがあるんだ」
「た、頼みたいこと・・・・ですか? その、お説教は?」
「礼儀がなってないとは思っているが、個性として受け取っている
あの言葉は、裏切り者、あるいは斥候が近くに居た場合、疑われないためだ」
「どういうことですか?」
「少し待っていてくれ」
軍団長はそう言って、部屋の奥の方に移動し、1人の少女を連れてきた。
俺と同じくらいの年齢で茶色い髪の毛に赤い瞳と顔つきは俺にそっくりだ。
顔立ちは俺より少しだけ大人っぽいが、本当に少し程度の差しかないだろう。
しかし服装はかなり違い、青いドレスに長いスカート、長い袖で肩辺りは少し丸っこい。
胸元には緑色の大きな宝石のような物があり、頭には銀色っぽい感じの王冠?
いや、ティアラって奴かな、それに宝石がいくつも付いてる、まるで姫様みたいな感じだな、
「あれ? り、リオさんがもう1人?」
「いいや、このお方はミストラル王国の姫君、メア姫だ」
「「ひ、姫様!?」」
な、何だってお姫様が!? どうしてレギンス軍団長は俺達に姫様を会わせたんだ!?
どういうことだ!? 訳が分からないぞ! 新兵の俺なんかが会える方じゃ無いのに!
「あなたがリオ様ですか、レギンスから話は聞いていますわ、本当に私そっくりですわね」
「え、あ、はい、そうですね」
「それでは、何故君と姫様を会わせたかというとだな、かなり危険な頼みだが
しばらくの間、姫様の振りをして貰いたい」
俺に姫様の振りをしろだって? ど、どういうことだ? 何でまたそんな。
「ど、どういうことですか?」
「斥候か裏切りかの攻撃の可能性がある、故に王家の皆様方をお守りしたいのだが
優秀な部隊を配備しても不意を突かれる可能性がある、その保険だ」
「要するに、リオさんに姫様の振りをして貰い、奇襲、裏切りがあった場合
王家の方々を守って欲しい、と言う事でしょうか?」
「そう言う事だ、その間、姫様にはリオの代わりをして貰う
その間はアルル、君が姫を守ってくれ」
「え!? し、しかし! 私は!」
「君しかいないんだ、他言はしないでくれ」
また、なんでこんな事に・・・・俺は姫様の振りをして王家を守って。
アルルは俺の振りをしている姫様の護衛、救助を求めることは出来ないと。
「そんな無茶を本気でするつもりですか? もしもバレたら」
「それでもこの手がかなり効果的なんだ、分かってくれ」
「しかし、それはリオさんがものすごく危険な状況になります!」
「分かっている、だが、姫様と容姿が似ていて、代わりになれそうなのはリオしかいないんだ」
「ですが、俺のそこまで強くないし、口調もかなり違います」
「君の能力は把握している隠しているつもりだろうが隠せていないからな
少なくとも私は君の能力は十分高いと評価している、口調は何とか真似て欲しい」
俺の能力が高いと判断しているのか? しかし、この人の前で能力を見せたことは無い。
「俺はあなたの前で自分の能力を見せた記憶は無いんですが?」
「君が参加し、自由に動いた戦闘、今は2つだけだがその2つが容易に勝利している
今までの敵軍の勢力に変化はなかったのにだ、2回目に至っては状況は最悪だった
だが、君に自由行動の許可を降ろしたら、そんな状況でも打開、被害はかなり少ない
こうなってくると君の能力がかなり高いと言う事は容易に想像できる」
・・・・まさか、俺の事をここまで評価してくれているとはな。
自由行動の許可をくれているから、評価をしてくれているのは分かっていたが。
「アルルもだ、君の能力を考えれば姫様を守ることは可能だろう」
「しかし軍団長、私はリオさんほど能力が高いわけでは」
「君はもう少し自分の能力を自覚するべきだ」
「・・・・・・」
「頼む、この通りだ、かなり無茶な願いなのは分かっている、だが、これが最善の手なのだ」
レギンス軍団長が俺達に対して深々と頭を下げてくれた。
仮にも軍部の最高権力者が部隊の末席の俺達に対してだ。
「レギンス、何故頭を下げるのですの? あなたが命じればこの者達は従うしか無いのでは?」
「そうでしょう、確かに私が指示をすれば彼女達は従うしか無いでしょう
しかし、最も危険で重大な任を子供に与えるのです、それでは礼を失しますし
私が自分で決めた道にも外れてしまうのです」
「あなたはたまによく分からぬ事を言うのですわね、力を持っているというのに」
「いかなる時でも人の上に立つ者は自分の道を外れてはならないのですよ
流水の清濁はその源に在る、上に立つ者が濁れば下の者も濁るのです」
おぉ、格好いいことを言う、それも権力が高く、位の高い人が言う分説得力も十分だ。
「…‥分かりました、レギンス軍団長、その任、やらせていただきます、良いよな? アルル」
「はい、リオさんが任を請けると言うのなら、私もその任を請けましょう」
「本当か! ありがたい! 本当に頼むぞ、リオ! アルル!」
「はい、お任せください」
「では、リオには姫様の口調を覚えていただきたい、姫様にはリオの口調を」
「分かりました」
俺と姫様はしばらくの間、口調の練習をすることにした。
その練習は2時間ほど続き、俺はようやく姫様の口調を覚えることが出来た。
シルバーに似た口調だったお陰か、比較的楽だったな、2時間かかったけど。