防衛線
トラたちを探して色んな所を見た結果、ようやく発見した。
トラたちは戦車との戦闘を極力避けるためなのか
森の中で走っている、背後からは敵兵の姿。
普通なら大分不味いこの状況…あの2人は大丈夫か?
「こっち来てる! 何か飛んできてるし!」
「どうする? 木を背にして動いてるわけだけど、その内うたれそうだ」
「…大丈夫、私が守るから、リオにこう言うときの対策は習った
ウィング、沢山の武器を」
「わ、分かった!」
トラは自分達の背後にウィングが出した剣を展開し
傘のように突きだした状態に変化させている、これなら問題は無いはず。
現に敵兵が撃ってきている弾丸はその剣に弾かれ、あらぬ方向に飛んでいる。
「ガキの癖に頭が良い! まるで銃の対策が分かってるみたいだ!」
よしっと、とりあえずあいつらの援護をしないといけないな。
俺はウィンチェスターを召喚し、走っている敵兵に狙いを定めた。
そして、ゆっくりと引き金に指を掛け、一息吐いた後、引き金を引いた。
「うぎ!」
「な! か、隠れろ! 恐らくリオだ!」
「リオ!? 馬鹿な、あり得ない! 隊長の話では奴は奇襲部隊の方に!」
「じゃあ、この攻撃は何だって言うんだ!? あり得ないだろ!?」
「だが!」
やはりウィンの情報までは掴めていないようだな、敵兵の動揺がすごいぞ。
ウィンの魔法は本当に利便性が高いからな、テレポート魔法。
多少の制限はあるが、十分優秀な魔法だ。
むしろ、あの制限が無いと強すぎて怖いからな。
それ程までの魔法だ、あいつのテレポート魔法は。
「クソ! クソ! 警戒を最大限まで強化しろ! リオが居る可能性を考えて動け!」
「あり得ないとは言え、絶対に無いと言い切れるわけじゃありませんからね」
「そう言う事だ、さぁ、警戒を強化!」
一応銃火器に精通しているからか、中々に良い判断をしてくる。
だが、まだまだ読みが甘いな、その場所ならいける。
俺は微調整をして、ゆっくりと引き金を引いた。
俺の弾丸は上手く木々を跳ね返り、隠れている兵士を撃ち抜く。
「何!? 馬鹿な! 正面からだと!?」
「そんな! 正面にはあの子供達しか!」
「く…と、とにかく左右と正面を警戒して」
「ぐが!」
今度は上手く跳弾を狙い、敵の背後から弾丸を撃ち込んだ。
「背後からもだと!? 馬鹿な! 仲間しか居ないはず!」
「クソ! 訳が分からない! ど、どうすれば良いですか!?」
「く…しかし、この状況…俺には何が正解なのか…」
「か、完全に包囲されているであろうこの状況では、何も…」
「……く、撤退しか無い! 大金星を前にして撤退は悔しいが
命あっての物種だ、逃げるぞ! 素早く動けば当てられないはずだ!」
「分かりました!」
兵士達はトラたちを前にして、大人しく撤退してくれた。
まぁ、向こうは当てられないと思っているようだが
正直撃ち抜こうとすれば簡単に撃ち抜ける、だが無駄に追う必要は無いだろう。
下手に攻撃して俺の攻撃だと確信されたら面倒だからな。
この状態なら俺がここに来ているとバレずに攻撃を加えることが出来るしな。
「…攻撃が止まった?」
「なんで?」
「……分からないけど、気を付けていこう」
「う、うん」
トラたちは周囲を警戒しながらゆっくりとその場から移動を始めた。
しかし、あのメンバーの中にシルバーは居なかったな。
やはり指揮官として行動しているのだろう。
だが、指揮官という立場なら狙われるかも知れないな。
「なぁ、ウィン、シルバーは何処だ?」
「あ、こっちだよ」
俺はウィンに案内して貰い、シルバーの場所に移動した。
シルバーには結構な数の兵士が集まっており、かなり厳重部隊となっている。
「リオさん! 随分と早いですね!」
「まぁ、総指揮官が居ない部隊なんぞ烏合の衆だ」
俺の魔法はかなりのイレギュラーだからな、歴戦の部隊だろうと対応には困るだろう。
狙撃魔法にはタイムラグも無く、瞬間狙撃、対物も可能でカスタム自由
集中すれば周囲の時間が遅く見え、その中で通常道理に動ける超集中状態が発動。
更には跳弾も赤い線の軌道として見えて、死角はほぼ無いといえる。
超集中状態では弾丸もゆっくりと見えるほどに遅く、その弾丸にどう当てれば
どう反射するかも超集中状態で見えるわけだから、結構な物だ。
それにこの魔法で召還できる銃は狙撃魔法限定とはいえ、対人ライフルから対物ライフルまで
狙撃銃なら召喚することが出来るし、生半可な部隊では勝算は薄い。
ただ、俺は1人だから、数で来られると不味いのだけど
相手が単体であるなら、ヘリだろうと墜とせるからな。
場所の条件さえ揃えばそれ以上の数を墜とすことが出来る。
戦車とかは結構厳しいが、相手がヘリや戦闘機なら墜とすのは容易だ。
「しかし、向こうはさぞ驚いたことでしょうね、自分達の作戦は露見
並の実力では対処できないであろう部隊を瞬時に撃破されるとは
間違いなく士気の低下は必至、流石はリオさんですわ」
「どうかな、案外ミロル辺りはあまり動揺してないかも知れない」
ミロルはかなり俺の能力を警戒しているようだし、この数がやられるのも
案外想定の内…とかだったりして、だったら結構怖いな。
あの殲滅が想定内だとすれば、あの殲滅を受けてもなお
俺達を巻き返す作戦を考えていると言う事だし。
「まぁ、警戒するに越したことは無い、ミロルの力は侮れないからな」
あの時は辛うじて俺が勝つことが出来たが、最悪負けていたからな。
あれほどの実力者が馬鹿だとかそんな可能性は低いはず。
必ず予想も出来ないような一手を隠し持っているだろう。
何処まで召喚できるかも分からないし、油断してたら今現在の優勢程度はすぐに覆してくる。
だから、一切の油断は出来ない、最大限に警戒をして行動しなくてはならない。
「それと、後1つ…不安なことがあるんだ」
「不安なこと…ですか?」
「あぁ、騎士団の動向だ、あの男は結構追い込まれているはずだからな。
なにぶん、任されていた大都市を敗走し選挙されてしまったわけだから
もしもあいつが今現在から挽回しようとするなら、都市を奪い返すことを考えるはずだ」
「私もその可能性が高いと思い、独断ながらメルさん、フランさん、マルさん、ノエに
あの地方の警戒を任せるために、ウィンさんに運んで貰いました」
「まぁ、良い判断だな、でも、伝達が滞るのが厄介だ」
「はい、ですので定期的にウィンさんに頼み、情報を聞いてきて貰うつもりです」
やっぱり長距離移動となるとウィンの魔法が大活躍だな。
「うん、でも、なんで私は戦えない能力なのかな…私もお姉ちゃんと戦いたいのに」
「情報伝達は戦場において、かなり重要な部分なんだぞ?
それも瞬間的に距離があろうと伝達を行なう事が出来て
更には運搬も可能、正直言ってただ戦う能力よりも大活躍だ
お前はもっと自分の魔法を誇れ、お前のお陰で助かった場面は多いぞ
今もそうだしな」
ウィンのお陰で運送も伝達もすぐに出来るから、かなり助かっている。
正直、ウィンはもう少し自分の力に自信を持って欲しいな。
マルもそうだが、基本サポート系の魔法を使う子供は
少し自分の魔法の重要性に気が付けていないのかも知れない。
戦うだけが能じゃ無いと言うことを、ゆっくりとでも教えていってやるか。
それが姉としても、指揮官としても大事な行動だろうからよ。
「私、ちゃんと役に立ってるの?」
「そうだ、だから、自信を持てよ」
「…うん、じゃあ、行ってくる! 頑張って情報伝達って奴をしてくるよ!」
少し元気を取り戻したウィンが、すぐに姿を消した。
「…本当、子供は感情の起伏が激しいですわね」
「大人みたくため込むよりは断然マシさ、ハッキリとしてくれてる方がケアしやすいしな」
「リオさんはあまり感情の起伏は激しく…いえ、十分激しかったですね」
「ま、まぁ…そ、そうだな」
う、うん、確かにすぐ感情的になって行動することが多いからな。
それで何度か失敗した記憶が…まぁ、結果的に良かったんだけどさ。
「まぁ、ストレスは溜まらないかな、大体アルルにぶつけてるし」
「いやぁ、毎度の如く私はリオさんの怒りの沸点をぶち抜きますからね」
「分かってるなら直せ、殴られると分かっててやるとか、マゾかよ」
「違いますね、私はリオさん限定でマゾになれるのです
つまり、全ての基準はリオさんなのです!」
「…はぁ、本当、完全に元のアルルさんに戻ってしまっていますわね
1ヶ月間も色々と叩き込んだというのに」
「私のリオさん愛の前では無駄なのですよ、あのにゃーのインパクトには」
「止めろ! 言うんじゃ無い!」
「ふ、にゃー、うふふ、思い出すだけでも鼻血が…ティッシュあります?」
「クソ! からかうな!」
「でも、リオさんって絶対に頼まれたら断れないタイプですよね、そうじゃないとあれは」
「言うんじゃ無い! 殴るぞ!?」
「いつでもウェルカムなのです!」
あぁ、もう駄目だ…何てこった、くそう、精神的にそこそこキツいぞ…
「はぁ、もう少し中途半端に戻っていれば、極端なのは駄目ですね」
「俺もそう思う」
「お姉ちゃん! 大変だよ!」
「ん?」
俺達がのんきに話をしていると、かなり焦った表情のウィンが走ってきた。
顔は真っ青で冷や汗も少々かいている、これはただ事じゃ無いな。
「どうした!? まさか!」
「うん…敵の騎士団が攻めて来たみたい」
「く!」
不味いな、トロピカル地方、本国、更にあの都市の同時攻撃。
ミロル率いる部隊は最強の部隊。
その部隊を敵の腹に向わせ、元の都市を奪う。
多分、騎士団の方が陽動部隊なんだろうが、作戦が狂ったのか
先にミロル達が襲撃を仕掛け、騎士団が攻め込むという形となり
本来の陽動作戦は成功していない。
恐らくだが、ケビンの奴が本来の作戦を無視した。
理由は単純に自分の功績のためだろう、今、奴はかなりの汚名を背負っている
その汚名を返上するために、敵基地奪還という功績を狙っての行動だろう。
でも、無警戒だったって訳じゃ無い、ミストラル王国は敵の攻撃を警戒するために
あの都市にクリークを配置している、あいつはかなりの実力者だ。
上司にしたくない幹部第1位だけど、実力は凄まじい。
あいつがいるから、それなりの時間は稼げるだろうが。
「早く行った方が良いと思われますが…」
「いや、あの都市にはクリークが居る」
「あの人なら問題は無いかも知れませんが…犠牲が」
「あぁ、だが、こっちの防衛を疎かにするわけには行かないだろう。
トロピカル地方、海岸都市が制圧された場合、あいつらは進軍を進める
そうなれば、防衛が非常に難しくなり、被害が拡大する。
ここを突破されるわけには行かない、向こうはクリークを信じて任せるしかない」
「…分かりましたわ」
かなり不安だが、仕方がないことだ、ここを突破されるわけには行かないからな。




