休む暇無し
敵軍の大都市の制圧、敵最高クラスの戦力である騎士団の副団長の撃破。
大量の奴隷達の解放により、リ・アース国はどう考えても状況が悪化した。
それに対し、ミストラル王国は大都市の制圧により
人口の増加、奴隷達の話が都市全体へ、すぐに広がってくれたお陰で
ケビンを賞讃していた国民達は激減、反乱の火種は消えた。
もしも俺達が奴隷達を救うという選択をしなければ
恐らく国民全体による、大反乱が起こってたと予想されている。
予想を出したのはミストラル王国、支援部隊隊長リンダの予想だった。
彼女の予想はかなりの確率で的中しているらしく、結構信憑性がある。
それだけでは無く、この選択は人道的にもかなり評価された。
別に評価が欲しくてやったわけじゃ無いが、まぁ、褒められて悪い気はしない。
その影響か知らないが、奴隷達の殆どは俺達へ絶対の信頼を向けている。
それにだ、彼らは奴隷として長らくやって来た人達だ。
土木等に関してはかなりの能力を示し、ミストラル王国の財政は
正確な数字は出ていないが、安定に向っているはずだ。
それに、新しい建物の建築等もドンドン計画されている。
着実に勢力を拡大してきているミストラル王国。
問題はこの現状でリ・アース国がどう動くかと、もう一つ…内通者だ。
「失礼します」
俺が病室で色々と考え事をしていると、扉が開かれ
そこからリンダさんが入ってきた。
「リンダさん? 何でここに?」
俺の病室に何でこの人が? 一応は最高幹部の一角、のんきは出来ないだろう。
何せ、内通者の捜索にリ・アース国の動向の監視。
支援部隊という立場だから、そう言った仕事が多いだろう。
つまり、今、彼女はミストラル王国最高幹部の中で最も忙しいはずだ。
それなのにわざわざ俺の病室まで来るか?
まぁ、制圧してすぐのあの都市で看病受けてるからここでも仕事は出来そうだが。
「…リオさん、今回私がここに来た理由…ただのお見舞いというだけじゃ無いのは
あなたも重々承知の上ですよね?」
「…まぁ、あなたの立場上、のんびりお見舞い何て出来る状態じゃ無いでしょうし」
「では…単刀直入に言いましょう」
どうも物々しい雰囲気だな…何だ? 何か分かったことがあるのか?
「…リオさん、あなた…このままでは死にますよ?」
「は? 何でですか?」
「あくまで私の予想、何度か言おうとは思ってましたが言えませんでした
ですが今、この状況…そろそろ本当に言わないと不味いと思いまして」
「…何で俺が死ぬと?」
「あなたは今、リ・アース国から最もマークされています
理由などは百も承知でしょう、ここまでリ・アース国を追い込んだ理由
それがあなただからです…あなたを殺せばミストラル王国の勢いは停滞
そうなれば、リ・アース国が巻き返してくる可能性も高くなる」
「…でも、俺はそんなに」
「自覚を持ってください、今回はそれを伝えるために来ました」
「……」
「それともう一つ、私の予想では恐らく敵、最強の部隊が動きます」
「……ミロルの部隊か」
確かにそろそろ動いても良い頃だろうな、この重要拠点を取られたんだ。
そろそろリ・アース国の王も放置は出来ないだろう。
となると、ミロルを動かし、ここの奪還を狙ってくると思われる。
だが、1つ不安要素がある…果たしてここに攻め込んでくるか?
来るならここが1番可能性があるだろう。
だが、さっきのリンダさんの予想…俺を狙っているという予想が
もしも当たっているとすれば、恐らく敵が潰しに来るのはサンズ地方だ。
理由は単純だ、俺がこの場所に居ると想定し、背後を潰す。
その状態で両方向からの総攻撃を仕掛ければ俺は退路を失い
逃げ道が無いから命を取れる、ウィンの存在を知らない向こう側なら
そう考えるだろう、少なくとも、俺ならその手を取る。
あの戦闘からまだ数日、推測重傷を負ったであろう俺という存在が
休んでいるとすれば、この都市だと予想する……不味いな。
あくまで予想でしかないが…しかしだ、もしもミロルが動けば
止められるのは多分俺くらいだぞ…俺くらいしか
あの現代兵器に対しての立ち振る舞いなんて出来ない。
しかしなぁ、現代兵器なんだよな、何処までのレベルかは知らないけど
案外潜水艦とか使えたりして…ん!? 潜水艦!?
「……ウィン! ウィンを呼んでくれ!」
「どうしたんですか?」
「良いから、ちょっとトロピカル地方に行きたいんだ!」
「何を…?」
「良いから!」
俺はリンダさんに頼んでウィンを読んで貰い
ウィンの力でトロピカル地方の方まで飛んだ。
考えてみれば決定打を与える方法はまだあった!
ミロルの魔法で出来る範囲は知らないけど、もしも!
もしもだ…もし、潜水艦とかを召喚できるとすれば!
攻撃が出来るのは海中に隣接してるトロピカル地方だ!
「…お姉ちゃん、何だか焦ってるみたいだけど…」
「あぁ、大分焦ってる、大丈夫なら良いんだが…」
杞憂ならそれで良い、ちょっと無駄に急いで少し疲れるだけ。
だが、もしも予想が当たっているとすれば、致命打は間違いない。
しかしだ、もう一つ不安要素はある、それはミストラル王国本国だ。
あそこは山奥だから背後からの攻撃は無いと錯覚している。
だがよ、もしもだ、もしも潜水艦を召喚できるとすれば
背後からの奇襲も出来る、ミストラル王国本国の背後は絶壁。
だが、その絶壁を登る方法として、ヘリの召喚がある。
潜水母艦なり何なり作って、背後から空襲なんて食らえばひとたまりも無い。
クソ…何処だ? この場所なら本国の方も一応は見える。
本当に米粒以下、ギリギリ見えてる程度だがな。
でも、視界に入っているなら狙撃は出来る…ヘリのパイロットを撃てば良い。
もしくはウィンに頼んで本国の方まで連れて行って貰えばそれで。
「ね、ねぇ、お姉ちゃん、変な音が…」
「……予想通り、いや、予想よりヤバいかもな」
「え?」
「ウィン、ミストラル王国本国へ頼む」
「え? う、うん」
ウィンに頼んでミストラル王国の本国に戻り
自分の部屋に置いてあったS&W M500を手に取り
すぐに本国、背後の海面を見てみた…予想は的中という形だ。
まさかの本国とトロピカル地方への同時攻勢!
「アルルを連れてこい」
「わ、分かった!」
ウィンは急いで姿を消して、アルルをこの場所に連れてきてくれた。
「リオさん? どうしたんですか?」
「最悪の事態になった、お前は俺と一緒に戦闘を頼む」
「え!? 戦闘はもう! それに、リオさんはまだ戦えるような体じゃ!」
「だからお前を呼んだ…俺の足になってくれ、派手に動かないと不味い」
「でも…そんな状態じゃ!」
「…今回ばかりは俺が動かないと確実に負けるんだ」
「うぅ!」
「ウィン、お前はシルバーを読んできてくれ」
「分かった!」
すぐにシルバーがこちらにやって来て、今回の作戦を話す事にした。
「シルバー、お前はトロピカル地方の潜水艦の攻撃を頼む」
「せんすいかんとは?」
「海中を浮き沈み出来る兵器…音はちゃんと聞こえたし間違いない
多分今は身を潜めている状態だ、きっと本国を攻めようとしてる連中
つまり、あいつらの準備が出来るまでは滞在してるだろう
で、俺の推測ではそっちは陽動、大した兵器は動員しないだろう
本命はあいつら…多分、速攻で仕掛けるつもりだ」
「……」
「だが、トロピカル地方を捨て置くわけには行かない
だから、お前らに防衛を頼む、国王達には
ゆっくりとバレないよう、静かに迎撃の準備を整えるように言う」
「…リオさん、まさか、その怪我で…」
「アルルにも言われたよ、でも、俺が動かないと今回は間違いなく負ける
相手はミロル…あいつを止めることが出来るのは、多分俺だけだ」
「…リオさん」
「ほら」
俺は部屋から持ってきたS&W M500をシルバーに渡した。
「これは?」
「威力は折り紙付き、弾数は5発、全長は380mm程、重量は2000グラムちょっと
反動は凄まじく下手に乱射は出来ない
だが、人なら一撃で仕留める事は出来る…持っておいてくれ
お前らの方は火力が足りない、これでも大した火力にはならないが
無いよりはマシ、少なくとも1挺は銃が増えるんだからな」
「……分かりました」
「向こうの指示は俺が居ない間は任せる。
銃器との戦闘での基本は敵の正面に立たないことだ。
極力敵の前には立たず、壁や木を利用して立ち回れ。
あの場所は建造物が少ないが、近くは森、そこで戦う事をお勧めする。
最悪建造物が無いときはメルの魔道兵を障害物にして立ち回れ。
だが、向こうも高火力の武器があるだろうから、過信はするな。
あくまでその場しのぎにしかならないだろうから、すぐに移動すると良い。
…良いか? お前は向こうでは指揮官として立ち回ってくれ
そして、誰も死なせるな…そんで、お前も死ぬなよ?」
「では、リオさんも…お願いします、死なないでください」
「……さぁな、死ぬかもしれんな、今回ばかりは」
体はボロボロ、だと言うのに敵は最高戦力。
更に何処かにはミロルが待機している可能性がある。
このなりであいつと正面からやって勝てるか…自信が無いな。
あいつは強い…凄まじく強い、前は何とか勝てたが
今回、万全の状態ですら無いのに勝つのは全く自信が無い。
「リオさん、約束してください…
もしも破れば私はあなたを地獄の底まで追いかけ、お説教しますので」
「……はぁ、お前まで地獄巡りに付き合わせるわけには行かないな
良いぞ、死なないように全力で努力する」
「約束…ですわよ、ウィンさん」
「お姉ちゃん…」
「ウィン、お前はそうだな…姫様達の所に居てくれ
状況が悪化したり、不味くなったら、すぐにこっちに来られるようにな
後、ウィングとトラの2人はメア姫達の護衛を頼むと伝えておいてくれ」
「わ、分かった…でも、お姉ちゃん……あれ? 何で私…泣いてるの?」
何も悲しい事なんて無いはずなのに、ウィンが不意に涙を流し出した。
「ウィン?」
「お、おかしいな…お姉ちゃんが……何で…し、死ぬわけ無い…もん…
わ、私の…お姉ちゃんが、し、死ぬわけ…無いもん…何で泣くの?」
「縁起でも無いことを言うなよ、何か俺がもうすでに死んでる感じじゃ無いか」
「…お姉ちゃん、私、いや…だからね! お、お姉ちゃんと会えなくなるのは…
だから、お願い…死なないでよ…ちゃんと…頼ってね」
俺の手を握るウィンの手はガクガクと震え、手汗も酷かった。
何でここまで怯えているのか……死ねないな、当然だけど。
ここでもし、俺が死ねばミストラル王国は一環の終わりだ。
「大丈夫だ、大事なもんのためにも…俺は死なない」
「…約束…だよ?」
「あぁ、約束してやるよ」
「ゆ、指切り」
「…はぁ、分かったよ、ほら」
「指切り…げんまん…嘘付いたら針千本飲ます…指切った
……約束、破らないでね」
やれやれ、指切りなんてこの世界にもあったんだな。
まぁ、今更って感じだな、やっぱり指を切るほどの誓いって意味なのかねぇ?
まぁいいや、やることは決まった…やるしか無い。
「よし、アルル、とりあえず今回の事を国王様に報告しよう」
「はい」
俺とアルルはひとまず国王様に今回の件について報告することにした。
国王様はあと少しでこの場が戦場になると言うことを知り、少し慌てふためいた。
「国王様、すぐに安全な場所へ!」
「……」
「国王様!」
国王様は俺の報告を聞いて、しばらくあたふたした後に
何かを決心したように地面を強く睨んでいる。
「…駄目だ」
「何を!」
意外な反応だった、まさか逃げるという選択を放棄するとは。
まぁ、この状態で逃げるというのは愚策でしか無いが。
「私がこの場を離れてしまえば、兵士達の統率にも支障を来す!
それよりも国民の避難を優先しろ!」
「しかし! もうすぐここが戦場になるというのなら!」
「だからこそだ…それに、ここ以上に安全な場所など無い」
今から戦火が広がるであろうとされる城。
そこが1番安全な場所だというのは不思議かも知れない。
だけど、国王様の言っている事は正しい。
まぁ、国王様がその事を分かってたのは驚いたが。
「何を言ってるんですか!?」
「どの都市に向おうとも、襲撃を食らう可能性がある
だからこそ、この場所に止まるのだ、この場所ならお主達
精鋭達によって守られているのだからな」
何故ここが最も安全か、国王様はまだハッキリと理解はしてなかったようだ。
「……そうですね」
「お前何を!」
とりあえず、混乱してるマーギルのためにも理由を説明しないとな。
「…国王様の言うとおりなんだよ、内通者は不明、この状況下で
絶対的に信頼が置ける俺達最高幹部のメンバー達である
俺達が守るこの場所以外に…国王様の安全を確保できる場所は無い」
「く!」
この状況で下手に国王様が動けばそこを内通者に狙われるかも知れない。
ましてや護衛部隊に内通者が居た場合、国王様は守れない。
だから、ここは身の潔白が証明されている最高幹部のメンバー複数が守る
この城内が最も安全だと言う事だ。
それと理由はもう一つ、それは、俺がこの場にいると言うことだ。
俺なら爆撃を迎撃することも出来るしヘリも墜とすことも出来る。
だから、今回の現代兵器が介入する戦闘では俺の近くが最も安全だ。
「…リオの言うとおりだな、俺達は身の潔白は証明されている」
「何言ってるんだ!? このガキは敵側という可能性はあるだろ!?
あれだけの戦果、内通者とかじゃ無い限り不可能だろうよ!」
ふーむ、なる程、そういう考えも出来るのか。
だけど、もう少し冷静になった方が良いな。
「…もし俺が内通者なら、なんでお前らに内通者の可能性があると言う必要がある?
メリットは無い、むしろデメリットしか無い行動だ、言わないで潜伏してりゃあ
いつでも国王様の首は取れたはずなのに」
「……クソ! 何でこんなガキに言いくるめられてるんだよ、俺!」
マーギルはかなり悔しそうに地面を強く蹴りつけた。
恐らくかなり動揺していて、冷静な判断が出来ていないのだろう。
「焦ってるんだよ、無理も無い」
「クソ!」
「恥じるなマーギル、それよりも今は時間が無い、急がねば」
「どうするんですか?」
「国王様を地下へ移動させる、護衛は貴様らの仕事だ」
「分かった、国王様達の安全は間違いなく守る」
「では、私達は君の指示に従うとしよう、君はあの部隊を1度撃破した実績がある」
「…悪いけど、今回の迎撃…多分俺くらいしか何も出来ない」
「どういうことだ?」
「そのままの意味だ…今回ばかりは分が悪すぎる」
「その話が本当だとすれば、つまり、君を失うと言う事は
私達の敗北…と言う事になるのか?」
「ハッキリ言うとそうなる…」
満足に戦えるのは俺1人、最悪の状況下…いや、倒すことは出来る。
俺はそれ位の真似は出来るからだ…問題はそこじゃ無い。
問題は…俺の魔力だ、俺の魔力は無尽蔵じゃ無い、むしろ少ない。
超集中状態を使わなければ可能性は十分あるだろうが
果たして、超集中状態を使わないで切り抜けることが出来るのか?
「…では、私達は君を守ることに全力を尽くそう」
「…いや、その前に国民の避難を先にしておいてくれ」
「分かっている、最優先事項はそこだな」
「あぁ、頼むぞ、ジーク」
2連戦…最悪だよな、せめてもう少し休ませて欲しいもんだぜ。
まだ傷も塞がってないのに…最悪だ。




