苦肉の策
「はぁ、はぁ、ケホ! あぁ、クソ! ケホ!」
「正確な熱は測れませんが、少なくとも一時的には
40℃を越える熱、幻覚が見える熱がそれ位だと言われていますし」
幼子は40℃を越える高熱を発することはありますわ
理由は不明ですが、幼い子供は何故かかなりの高熱を発しますし
今回のリオさんの熱も恐らくこれだと想像できますわね。
「お姉ちゃん…」
「リオちゃん! ごめんなさい! 私が無理させるから!」
「わ、悪いのはウィングちゃんじゃないよ…私だよ…うぅ…」
皆様もリオさんの体調不良でかなり動揺していますわね。
無理もありませんか、皆様にとってリオさんは大事な存在
精神的主柱となる存在なのですから。
そのリオさんが高熱で倒れているとなればこうもなりますわね。
「シルバー、どうするの? ここで切り上げる?」
「あの、わ、私は…その方が良いと思います
幻覚を見るほどの高熱となると、流石に…」
「…私もその方がよいとは思いますわ
ですが、リオさんはトラさん達の為にもこのままやって欲しいと言いましたわ
それなら、私はリオさんの意見を聞きたいですの」
「でも、私達は3人だけ…リオさんの看病と同時にウィングさん達の安全確保は
難しいと思うよ、狩りは人数も多くて、2人は欲しい
いや、1人で面倒を見たとしても、漁の方に1人は欲しいし
野菜の確保も1人は絶対に必要だ、食料が少なくて
狩りをしないといけないこの状況だとそれは不味いよ」
「リオさんだけ城に帰すという手もありますわ
トロピカル地方におられるリサ姫様にお願いすれば」
「それが1番かもしれないけど…」
ですが、リオさんだけ特別扱いは良いのでしょうか…
いえ、皆様なら納得はしてくれるでしょうし、問題は無いと思いますが。
「…なら、私達が交代交代でリオの面倒を見れば良い」
「フランさん? 何故ですの?」
「リオが居なくなると皆のやる気が激減するのは明白
私達が敵基地に潜入したとき、周りはやる気がまるで無く
修行の効果がろくに見えなかったと言ってた」
「…確かに、その通りですが」
「今のサバイバル、リオが姿を消したら皆は今以上にやる気を無くす
食料が少なくて、集めないといけない状況でやる気を失うのは大変
特にトラ、トラが居ないと狩りが出来ない
集中出来なくなると狩りをするとき、狙いを定めることが出来なくなる」
「…確かにトラさんはリオさんが居ないとかなり不安定になりますわね
表面上はいつも通りに振る舞っていても、内面は子供なのでしょう」
「それに、交代交代で看病すれば私達の訓練にもなる、でも、問題はやっぱり
少ない大人の人数…1人はリオを看病している子を見ないと」
訓練になると言うのは確かにその通り、リオさんが居なくなると
皆様が余計心配し、集中力が切れるというのも事実。
ですが、やはり問題は私達の人数が3人しか居ないという事ですわね。
「ただいま…戻りました」
「マナさん! そうですわね、交代の時間ですわね」
「えっと、どうしたんですか? なにやら騒がしいみたいですけど」
「それは」
私はマナさんに今現在の状況を事細かに話した。
マナさんは話を聞くと、すぐにリオさんの寝室に向い
状況を確認した後に戻ってきた。
「…確かにリオさん…かなり」
「えぇ、ですから、今はかなり危険だと判断しているのですわ」
「その通りですね…」
「あの、アルル先輩は…アルル先輩、医療関係が得意だったと思うんですけど」
「まぁ、確かにその通りなのですが」
アルルさんは私達の中で1番医療に関する事が得意ですわ
栄養管理も私たちの中では随一、私は大体医療に関する事は
アルルさんに次いで2位、たまにマナさんに負けて3位。
手当の速度もリオさんを担当するようになって、かなり早くなってきていますし
こう言う場面では、アルルさんの力をお借りしたいところですが…
「…私は良いと思うよ、アルルを呼ぶのは」
「私もです、今の様な状況なら、アルルさんは問題無いと思います」
「そう…ですわね」
私たちは意を決して、アルルさんを合宿場に連れていくことを決意した。
「アルルさん」
「あれ? 今日は3人全員なんですね、いや、流石に3人全員で
私を止めようとしなくても、ほら、私、力は余り無いじゃないですか
皆さんの中では1番…2番? 位に力ありませんし」
「いえ、今回は見張りでは無く…あの、アルルさん」
「何ですか?」
「リオさんに何かあったって聞いたら、どうする?」
「リオさんに無いかあったんですか!? 行かせてください!」
さっきまで、いや、今までのアルルさんとはかなり違う表情。
何処か間の抜けた表情が一変、真剣な表情に変わる。
リオさんに何かあった時、アルルさんはいつもこの表情になる。
普段の素行からは考えられない程に頼りになりそうな表情ですわね。
「…実は風邪ですの」
「風邪!? もしかして、フレイさんに振り回されて今の時期の
海で泳がされたり! 誰かを庇って海に落ちたりしたんですか!?」
「驚いたね、あってる」
「やっぱり、リオさん、絶対にフレイさんに引っ張られて海で泳がされると
そう思ってたんですよ、それで? 状況はどうなんですか?」
「40℃を越える高熱、今は分かりませんが一時的に」
「40℃!? かなりの重体じゃないですか!?
海に落ちた程度でそこまで…いえ、寒いですし、可能性は」
「それだけでは無くて、フレイさんに裸の状態で外に連れ出されたようで」
「えぇ!? この時期にですか!? それに、裸って事は
お風呂から出た直後ですね! 後、リオさんがお風呂に入るのは
大体夜間…この時期に風呂上がり直後、夜間に外に引っ張られる
それにフレイさんに引っ張られてと言う事はかなりの速度
裸だというなら、何カ所も怪我をしているはず…かなり不味いじゃないですか!」
何であれだけの情報でここまで推測を当ててくるかは分かりませんが
リオさんに関する知識が凄まじいと言う事は改めて分かりましたわ。
「早く私を連れて行ってください!」
「わ、分かってますわ、そのつもりで来たのです
しかし…そのですね、1つ条件が」
「条件?」
「はい」
私は極力自分でリオさんの看病をするのでは無く
リオさんの看病を担当する子供達に指示を出すことで
看病をさせて欲しいと言うことを告げた。
「…あぁ、リオさん…そう言う事ですか、なんで合宿を中止しないのか
その理由も分かりました、やっぱり、皆さんのため…ですか」
「その通りですわ、リオさんの意思です、看病はフランさんの判断ですわ」
「なる程、分かりました
なんでウィンさんの力でリオさんだけ別の場所に移さず
このまま合宿場で治療をしようとしているのかと思いましたが
そういう…ですが、リオさんの許可は?
流石に体調不良の自分を訓練の道具にされるとなると…
まぁ、リオさんなら2つ返事で許可しそうですが」
「その通りですわ、別に良いよ、役に立てない俺が…あいつらの役に立てるなら
と、いってましたわ…本当に自己犠牲型ですわ、怖くなるほどに…」
「リオさん…やっぱり」
リオさんはどんな状況だろうと、あのままなのでしょうね。
何でそこまで自分を軽んじることが出来るのか分かりませんが。
「本当に、どうしてあんな感じなんだろうね」
「リオさんは多分、役に立てないのが嫌なんだと思います
いや、違う…必要とされなくなるのが怖いのかもしれません
もしくは孤独が嫌なのか、リオさんの行動基準はいつも周りです
リオさん自身は自分が自分の居場所を失うのが嫌だからやってると
そう言ってますし、孤独が怖い可能性が高いと思います」
「孤独…もうリオさんは孤独になりたくてもなれないと思いますわ」
「それは私もそう思いますよ、リオさんは色んな物を救ってきました
国も、人も、家族も、友達も、嫌いなはずの犬も、部下である私達も
いがみ合い、殺し合った敵だって、ここまで救っちゃってるんですから
今更孤独にはなろうとしてもなれないと思います
でも、リオさんはそう思ってないんでしょうね」
もし、リオさんがその事に気が付いたとしても
自己犠牲の生き方が変わるとは思いませんわ。
あれがリオさんの生き方…もう、私たちがどうこう言える事ではありませんわね
私たちがやることは最初から1つだけ…そんな人達を守ること…ですわ。
「…アルルさん、ひとまずは安心しましたわ
あなたは弱っているリオさんを襲うようなマネ…しないでしょう」
「しませんよ、弱ってるリオさんを襲ったことは1度もありません」
「襲ったことがあると言う点は否定しないのですわね」
「まぁ、事実ですし」
「…リオさんの体調が回復したら、もう一度ここに連れていきますわ」
「うぅ、元気になったリオさんとお話しできないのは残念ですが
それでも構いませんよ、今大事なのは体調不良のリオさんを助けること
それだけです、その後がどうなろうと今はどうでも良いですから」
「分かりましたわ、では、目隠ししますわね」
「分かってますよぅ」
私達はアルルさんに目隠しをして、急いで合宿場に戻り
アルルさんの目隠しを外した。
「アルル先輩!」
「あ、ノエちゃん、元気でしたか?」
「あ、はい、げ、元気です! でも、今は」
「分かってます、リオさんですよね! 急いでお部屋に!」
「こっちですわ!」
私達は急いでリオさんが眠っている部屋にアルルさんを連れて行った。
「ん…あ? アルル? 何だ…また…幻覚か?」
「幻覚じゃないですよ、本物のアルルです、アルル・フィートです」
「誰だっけ? フィート…」
「お、覚えていませんか?」
「…や、冗談…ケホ、だ、覚えてるよ…1回位しか、聞いた記憶…ないけど」
少しだけリオさんの表情が安らかになった気がしますわ。
普段喧嘩ばかりしていますが、きっとアルルさんに信頼を置いているのでしょう。
「では、熱を測ります」
「うぅ…」
「……正確な熱は分かりませんが、大雑把に考えて39℃
推測を言えば39.7℃ かなりの高熱ですね」
「マジで?」
「はい、あ、背中見せてください…動けますか?」
「あ、あぁ…」
少し辛そうにしながらも、リオさんは言われたとおり寝返りをうった。
「では、失礼して」
それを確認した後、アルルさんはリオさんの服をあげて
背中の状況を確認した。
「かすり傷…ですか、これなら大丈夫でしょうね、次は足を見たいので
ズボンをおろします、大丈夫ですか?」
「ケホ…お前に任せる…」
「はい、では」
アルルさんは少しぎこちない感じにリオさんのズボンをおろした。
「えっと、太ももに切り傷、少し大きいですね、石にぶつかった感じでしょうか」
「あぁ…かも、ケホ!」
「膿は出てない、そこは大丈夫ですね、しかし、左足だけですか」
普段は変態的な行動をよく取っているアルルさんですが
今の状況ではそこまでと言う感じですね。
「アルル、普段ならリオのパンツを凝視しそうなのに
いや、脱がそうとするかもしれない」
「アルルさんはこう言う状況ではそう言った行動はしないのですわ
それが分かっているから、リオさんもアルルさんに任せると言ったのでしょう」
「ふーむ、怪我の具合は問題無さそうですね、問題は風邪…ですか」
「ケホ…」
「医療箱に風邪薬は持ってきています、リオさんの状況から考えて
咳止めと熱冷ましが必要でしょうが、熱を下げるのは
出来れば外から、冷えたタオルで冷ました方が良いと私は思ってます
内側から下げたら一時的には楽になりますが、治るのが遅くなります
ですから、リオさんに判断して貰います、早く治すのが良いのか
時間が掛かってでも楽に治したいのか」
「早く治してくれ…あまり、足引っ張る訳には…ケホ!」
「分かりました、それでは早く治す方法を取ります」
アルルさんがテキパキとリオさんの身の回りを整えた。
流石の手際ですわ、やはり医療関係では私はアルルさんに勝てませんわね。




