2度目の実戦
昨日、意識を失い、次に目を覚ました時、周囲は妙に慌ただしい状態だった。
周囲からはけたたましく警告の鐘の音が響き渡っている。
「何だ!? どういう状況だ!?」
「あ! リオさん! 大変です! 敵軍が攻めてきたんですよ!」
はぁ!? ちょっと前に迎撃して、撤退させたはずだぞ!?
まさか、すぐに軍を整えて、もう一回せめてきたとでも言うのか!?
「ど、どういう状況なんだ!?」
「夜間のうちに接近されていたようで、現状、かなり接近されています!
国は完全に包囲されている状況で、このままでは!」
ちぃ! 全方位からの襲撃とは、また最悪な状態だな!
見張りはもうちょっとマシにしていて欲しい!
「俺達の部隊への指示は?」
「ありません、自由に行動して欲しいとのことです!」
「じゃあ、この城の高台に移動する! 案内してくれ!」
「はい!」
俺達は結構な早足で城の高台という場所に移動した。
ここは、国で1番高い場所、といえるだろう。
広さも結構あり、小さいながらも柵がある。
「ここなら意外と」
その高台から周囲を見渡してみると、かなり絶望的な状況だと言う事が分かる。
正面と左右からの同時攻撃、相手の一陣一陣の数は少ないのだが
人数的には相手の方が有利、このままだと防衛しきれない。
「ちぃ、3方向か・・・・何処を攻撃するべきだ?」
「私が周囲を警戒しますので、私が優先撃破すべきと判断した方向を狙って下さい」
「・・・・よし、分かった、じゃあ、狙撃対象はお前に任せよう」
さて、狙撃銃は召喚した、最初は情報収集をしてみる方が良いだろう。
最初は味方軍の会話を聞き、各方向の味方軍のメンタルを調べないとな。
まずは、一番近い、左方向か、俺は左方向で布陣を敷いている味方軍にスコープを合わせた。
「まさか奇襲を食らうとは、見張りは何をしているんだ!」
「それが一切の伝達は無し、相手方によほど優秀な潜行部隊がいるのかも知れません」
「もしくは見張り部隊が裏切った可能性があるか・・・・いや、今はそんな事を考えてる暇は無い」
「そうそう! そんな事を考えても意味は無い! 私達は敵を倒せば良いの!」
「フレイさん、良いですか? 先に進みすぎるのは良くありませんので、指示に従ってくださいね」
「あぁ、君はすぐに暴走すると聞く、だから、私の指示を聞くように、死にたくなければな」
左方向はフレイが配備されているのか、だが、あそこにはハウル教官が指揮官だし
フレイの暴走を押えてくれることだろう、しかし、あの人も戦場に出ていたんだな。
まぁ、向こう側は比較的有利だし、少しは放置で良いだろう、次は正面だな。
「くく、くくく! くはははは! 良いぞ! 最高の状況だ! 敵は群れ! 殲滅しがいがある!」
「な、なんでこの人は、こんなに楽しそうなんですか?」
「この人は、ミストラル国最高戦力の1人、クリークさんです」
正面には、ウィングがいて、大量の敵軍、大軍を前にして最前線で最高に笑っている1人の男がいる。
どうにも、あいつは異質だ、明らかにこう、何か違う。
どことなく、狂気を感じる様な、狂った声・・・・何だ、あいつは。
状況が一番悪いのは、正面なのだが、あいつの存在のせいで、ハッキリとそう言えない。
最優先で警戒すべきだろうが、常に狙いを定める必要は無さそうだ。
それじゃあ、次は右側だな、この流れからしてみれば、右方向にトラか。
「敵がそろそろ接触してくるね、どうしよう」
「明らかに、状況は最悪ですわね」
「貴様らは俺の指示に従って貰う、分かっているな? 小娘」
「よりにもよって、この人の指揮下ですのね」
「不服か? いや、そんな話をしている暇は無いな、時間が無い、良いか? 手柄を優先的に立てろ」
「良かったね、シルバー、手柄を立てることを優先するみたいだよ」
「今の私は、手柄など・・・・しかし、我が一族を立て直すためですわ、手柄を立てます」
右方向の戦力差はほぼ無い、となると、各々の兵士のポテンシャルと指示の精度で勝負が付くだろう。
だが、明らかにこの3方向の中では、1番不安だ・・・・指揮官が、あの男だからな。
あの男、確実に自分の手柄を優先する男だ、その為には卑怯な手も使う。
それは、前回の戦いで、よく分かった、何せ、俺が仕留めた敵兵を自分達が倒したと
平気で言っちゃうようなクズだし、まぁ、良いんだけどさ、実に自分の欲望に正直で。
俺も、あれ位欲に忠実なら、昨日、意識を失うこと何て無かっただろうに・・・・はぁ。
いやいや、そんな事を考えている場合じゃ無いか、命が掛ってるんだし、集中集中っと。
「俺の方は大まかな位置把握は出来たぞ、お前の見解では何処を最優先に支援するべきだと思う?」
「正面です」
「正面? 俺は右方向が重要だと思うが、なんで正面なんだ?」
「あの最前線で笑ってるの人の通称、知ってますか?」
「知らん、顔も初めて見たし」
「あの兵士の方は、通称、幸運を吸い取る悪魔」
幸運を吸い取る悪魔? 随分と、中二臭い通称だな。
「どういう意味なんだ? どうしてそんな通称が?」
「あの人は、私の調べですと、今まで最も戦果を上げています
ミストラル国最大戦力の1人と数えられるほどですからね」
「はぁ、そうなのか? じゃあ、正面は問題無さそうだが」
「問題なのは、クリークさんの指揮系統に入った部隊は、今まで、例外なく全滅しています」
れ、例外なく全滅だと!? ど、どういうことだよ!
「ど、どういうことだ!?」
「優秀すぎるんですよ、あの人は、常に最前線に指揮下の部隊と突進して
とんでもなく、圧倒的な実力を見せます、しかし、帰ってくるのはいつも1人だけです
なので、彼に付いた通称は幸運を吸い取る悪魔、しかし、当然、うらで有名なだけです
実際はとんでもなく優秀な兵士と言う事で、兵士達に伝わってます」
なる程、だからメルトはあんなに嬉しそうなんだな。
もしも、アルルが言ったことを知っていたとすれば、あんなに嬉しそうでは無いだろうしな。
「じゃあ、正面だな」
「はい、ウィングさん達を守りましょう」
「じゃ、俺は正面を見るから、お前は周りの警戒を頼む、状況次第で動かないといけないからな。
「分かりました、では、私は他の2方向を捜索しながら、状況に応じて指示を行ないます」
「それで頼む、さて、始まったぞ、戦争が!」
俺はスコープをのぞき込み、正面の味方部隊を瞬時に支援できるように構えた。
「くははぁ! さぁ! 暴れてやるってな!」
「あぐあ!」
「な!」
斬りかかってきた複数の兵士を一瞬のうちに真っ二つにしやがった。
それも、一切の躊躇いも無し更に、少しだけ笑っているように見える。
「はん!」
「うがぁ!」
こ、今度は1人の兵士を投げつけて何十の兵士を仕留めた。
とんでもない奴だ、敵の兵士達を容赦なく殺して言ってる。
相手の鎧ごと胴体を貫いたり、剣で真っ二つにしたりと、人間業じゃ無い!
それも恐ろしい速度でとんでもない速さだ!
「な! つ、強い!?」
「凄いです、わ、私達も後れを取らないようにしましょう!」
「あ、う、うん」
ウィングも負けじと武器を取り出し、兵士達と戦闘を始めたわけだが
流石に力が無いウィングに、敵兵を一撃で倒せるわけは無い。
「ガキが!」
「うぅ!」
兵士の攻撃をウィングは辛うじて防いだが、力の差は歴然、明らかに押されている。
「させない!」
「がふ」
メルトの支援は流石だ、ウィングの攻撃で仕留めきれなかった相手を的確に倒したり。
ウィングを追い込んでいる兵士を倒し、あいつの支援をしてくれている。
戦闘経験が浅いし、身長も無い、筋力も無いと、フレイみたいな例外を除けば
あいつみたいな子供は戦闘では圧倒的に不利だ。
だから、あいつみたいな的確な支援をくれる存在はかなりありがたいだろう。
「ごめんなさい、役に立たなくて」
「気にしないで、ウィングはまだ軍に入って浅いんだ、訓練も満足にしてないのに
実戦で戦えるわけが無い、だから、戦いは私に任せて」
「でも、私も・・・・指揮官だし」
「指揮官だからだよ、体を壊しちゃったら大変だし、死んだりしたらもっと大変だから
そうなったら私は他の3人に合わす顔が無いからね、それに指揮官を守るのは部下の役目さ」
メルトはそう言って、敵兵に再び武器を構えた、いやぁ、凜々しい背中だな。
だが、敵軍の方を見てみると、あのクリークという男が敵兵を虐殺している」
「くはは! もっとだ! もっとだ! こんなんじゃ、満足できねぇ!」
「な、何だよ! この男は!」
「雑魚が戦闘中に喋ってんじゃねぇよ! カスが!」
「あが、かふぁ・・・・」
喋っていた兵士の首を剣で軽く切りやがった・・・・そのせいで
さっきまで喋っていた兵士は首から大量の血を流し、地面に倒れ込んだ。
「はん! 虫けらが喋ってる暇があるなら俺に噛み付いてきやがれよ」
「く、クソ! 矢だ! 矢を撃て!」
「指示だ! 撃ち込め!」
後方の敵兵士達が、一斉に矢を構え、同時にはなった。
その矢はまさに雨のように降り注いできている!
その範囲にはウィング達もいる! このままじゃヤバい!
「そ、そんな!」
「こんなとき、私に出来ることは・・・・お願い、リオちゃん、私に名案を・・・・」
こんな状況、狙撃銃1本でどうにか出来るわけが無い!
いや、正確には手段はある、狙撃銃の最高火力をぶっ放す!
そうすれば弾の風圧で結構な勢いを出せる!
瞬間的にあの細い木の棒を狙えるかと言えば、難しいが、可能だ。
だが、この手段を取れば、俺は動けなくなるだろう。
そうなったら、誰も援護が出来ない・・・・いや、考えてる暇は無い!
とにかく、急いで対物にして、最高火力を念じてみるか、これが魔法なら、これで!
「・・・・だめ、私には、駄目・・・・無理だ、私みたいな駄目な子、皆がいないと、何も」
「ウィング!」
「定まった! 撃ち抜け!」
俺は落下している矢に狙いを定め、最高火力を念じて弾丸を放った。
その弾丸は、強烈な反動と共に射出され、つい手を離してしまった、最初の時と同じだな。
まぁ、ウィンチェスターで撃ったらそうなる、だが、ウィング達の周りの矢を弾くことは出来た。
しかし、どうやら、念じただけで最高火力は出ないようで、はじき飛ばせたのは、ほんの一部だった。
「うわあぁ!」
その矢の雨で前線部隊のうち、生き残ったのはウィング達とその周りにいた数百人の兵士のみだ。
他の兵士達は殆どがかなりの重症状態にい陥り、かなり追い込まれている。
「うわぁあ! 痛ぇ! 痛ぇよぉ!」
「あれ? 私達、怪我をしていない?」
「はぁあ、全く、矢なんてクソつまらねぇ真似ばかりしやがってよ」
「クリーク様! み、味方部隊の被害が!」
「あ? 知るか、そんな役立たず共、トドメでも刺してろ、俺は今忙しいんだよ」
クソ! あの男! 味方にトドメを刺せだと!? どんな精神してるんだよ!
「・・・・メルト、怪我をした人達を救おう!」
「そうだね、分かってるよ! 私達は救助に当たろう!」
「何を言っているんだ? クリーク様に付いていかねば」
2人の意見に賛同する兵士達は少ないようだった。
理由は分からないが、恐らくクリークを恐れているのだろう。
もしも、変に指示に反すれば、機嫌を損ねてしまうかも知れない。
そうなれば、自分達が生き残る術は無い、それは、あの戦いっぷりと狂気染みたところを見れば明らかだ。
「あなた達は行けば良い、その間、私達は仲間の救助をする
無傷な私達が救助をしなかったら、誰が怪我をした人を助けるの!?」
「そうだ! 同じ怪我人同士で救助出来るわけが無い! 動ける私達が助けないといけないんだ!」
「だが、しかし」
2人の説得で明らかに無傷の部隊に動揺が見えた。
あの2人が言っている事が正しいのはハッキリと分かっているからだろう。
「はん、勝手にさせてろや、俺も自由に暴れるだけだしよ!」
「クリーク様、では、私達は付いていきます」
「俺達は救助に当たるぞ!」
2人の説得の影響か、生存していた兵士達の半数は救助に当たることになった。
「はぁ、ふぅ、よし! 正面は大丈夫そうだな」
「リオさん、表情が優れていない様子ですが?」
「あぁ、そのな、やり過ぎただけだ、でも、休む暇は無い、次、他の方角の状況は!?」
「左方向は依然、安定しております、ハウル指揮官のお陰でしょうね」
「流石は教官様だ、指揮系統も優秀なんだな」
「ですが、右方向は明らかに部隊が分断している状況です」
俺はその報告を受け、右方向のトラたちが配備されている方向を見てみた。
確かに、その状況は明らかに異質と言える、最前線に向っているメンバーと
後方で一切動いていないメンバーが確実に別れている。
先行しているメンバーの中にはトラがいる。
後方でふんぞり返ってるメンバーはあのクソ男だった。
あいつ、トラたちを捨て駒にする気か!? 何で後方メンバーの方が数が多いんだよ!
俺は急いであのクソ男の方に照準を合わせてみた。
「バンク様、その、前線部隊が少なすぎでは? あのままでは全滅も」
「構わないさ、所詮は捨て駒だ、どうせ長生きしない幼子が指揮官だ
精々、俺の為に犠牲になって貰うさ」
「しかし、彼女は確実に未来ある子供ですよ? もしも、失ったとあってわ」
「だから良いのではないか、俺の邪魔になる危険分子だ、今のうちに潰せればそれで良い
さて、もしもの場合、分かっているな?」
「・・・・はい」
あのクソ男! 性根が腐ってやがるぞ! 何だよ、そのカスみたいな精神!
もう、あんな奴はここで鉛玉をぶち込んだ方が、国の為になる気がする!
だが、この状況で味方軍の指揮官の狙撃とか、絶対に混乱を招くし、我慢するしか無いか。
そもそも、そんな奴に攻撃する位なら、トラを助けるために使うか。
俺はトラたちの支援をするために、狙撃銃をトラの方に移動させ、狙いやすいように2脚を立て、伏せた。
「はぁ、はぁ、この!」
あいつは、周囲の武器を浮かせて、相手に攻撃を仕掛けているようだったが。
まだ精度が足りていないようで、攻撃を防ぎほどの技量は無いらしい。
「はぁ、はぁ、はぁ、み、味方が少なすぎない?」
「私も、そうおいますわ・・・・それに、私達前線部隊と、後衛部隊の人数差がおかしいですわよ、これは」
「うん、明らかに防衛部隊の方が多いよ」
「推測としては、私達は2割、後衛部隊は8割ですわね・・・・普通は逆じゃないのでしょうか?」
「そう思う、うぐぅ!」
確実に、トラたちは追い込まれている・・・・このままだと、ヤバい。
予想はしていたが、指揮官がクソだと、どうしても味方の被害が甚大だな。
そんな事を考えても仕方ないか・・・・今は、2人の支援を優先して・・・・あれ?
おかしいぞ、敵部隊の動きが、明らかに変だ。
「な、何ですの? 下がってますわ」
「ど、どういう、え!? な、何か来た!」
敵部隊が撤退したと思ったら、今度は正面からロボットの様な大きめの機械が姿を現した。
明らかに普通じゃ無い! あんなロボットが、この世界にはあったのか!?