強化合宿初日
とりあえず自己紹介は終わったな。
この新人、ノエだったっけ、この子は最初の感じ
先輩達に振り回されている後輩という感じだな。
この第一印象が何処まで会っているかは分からないが
大体あってると思う、予想では強く言葉を言えないタイプだ。
だが、芯はしっかりとしていて、言う事は言うタイプ。
マナと同じタイプだと予想できる。
でもなぁ、1つ気になることはあるんだよな。
オッドアイは生まれつき、髪色も同じく、服装はメルトに騙されて
そんでもう一つの違和感、こう言うタイプがしそうに無い事。
「なぁ、ノエ…何でツインテールなんだ?」
ツインテールはアニメの見過ぎかもしれないが、ツンデレ系がしてる気がする。
理由は知らん、まぁ、その方がしっくりくるからなんだろう。
だが、まぁ、この子はどう考えてもツンデレ系では無いだろうな。
いやさ、所詮先入観なんだろうけど、やっぱり気になるんだよな。
「この髪型ですか? えっと、子供っぽいでしょうか
小さな頃からお姉様達に髪型を色々と変えて貰っていたんですけど
この髪型が少し気に入りまして」
「はぁ、それでツインテール」
「はい、あ、この髪の毛を結んでる髪留めの色を見てください!
ちゃんと左は青、右は赤なんですよ! お姉様達がくれたんです!
目の色と同じ髪留めにって! 可愛いですよね!」
「そ、そうだな」
髪留めの色なんて気にしてなかったが、確かに目の色と同じだ。
意外なところにこだわりを見付けた。
これも姉達のお陰か、かなり姉達に可愛がられているようだな。
だが、依存状態になる前に軍に入って正解だったか。
ここまで可愛がられていると、最悪依存状態になるかもしれない。
そうなると中々に姉離れや妹離れが出来なくなって
大変な事になるからな。
「まぁ、よかったな、姉から可愛い髪留め貰って」
「はい!」
「…な、なぁ、妹って、姉から何貰うと嬉しいんだ?」
「え? 何故それを…」
「いや、参考までにだな」
「えっと、そうですね、何でも貰えると嬉しいと思いますよ
髪留めでも何でも、心がこもっていれば私は嬉しいです」
「そ、そうか」
……一応覚えておこう、そうか、何でも嬉しいんだな。
でも、やっぱり可愛い系の方が嬉しいはずだろうし。
いや、何考えてるんだ俺は、そんな事しねーし
プレゼントとか選ぶの面倒だからしねーし!
俺がそんな事を考えていると、不意に凄い力で腕を引っ張られた。
「うお!」
「さぁ! リオちゃん海に行こうよ! 海!」
「何言って!」
引っ張ってきたのは予想通りフレイだった
だが、フレイの姿は流石に予想できていなかった。
いつの間にかこいつは水着を着ている!
何かフレイに似合わないくらいのフリフリした可愛い水着!
スクール水着とかじゃ無いんだな、容姿的にそれ位しか無いと思ったが
子ども用の水着って、スクール水着以外にもあるんだな。
いや、感心してる場合じゃ無いか、この状況不味い!
「待てフレイ! ちょ! たん!」
「ヒャッホー!」
「待ってっていっただろ! 何飛び込んでるんだよ!」
あの馬鹿! 俺を引っ張ったまま海に飛び込みやがったぁ!
馬鹿なのか!? 俺は水着着てないし! そもそもだ!
こ、こんな時期に海とかふざけんじゃねーぞこら!
「あぁあぁああ!!」
「リオ!」
「いやっはぁー!」
「うぐぁあぁあ!」
目の前が一瞬にして水中に変わった。
つ、冷てぇ-! 超冷てー!
入れないほどでは無いが冷たいんだけど! こ、凍える!
「つめてえっぇぇぇ!」
「やっふー! 気持ちいいね! これが海なんだ!
思ってた以上に冷たいけど、たのしぃー!!」
「ばっか! 離せ! 離しやがれぇぇ!!
そもそも何で人の腕引っ張った状態で泳げるんだよ!
何だ!? 才能か!? お前の才能かぁ!?」
「ドンドン泳ぐぞー!!」
「止めろ! 戻せ! 俺を陸に戻せやぁぁ!!」
しかし、フレイは俺の言葉など聞かずにひたすらに泳ぎ続けた。
もう、人を1人引っ張っているとは思えないほどの速度で
海を当たり前の様に泳ぎ続ける、こいつマジでこれで初めて泳いだのか!?
嘘だ! 絶対に嘘だ! あり得ない! 初めて泳いで人を1人引っ張ってる状況で
ここまでの速さで泳げるわけが無い! あり得ない!
と言うか、寒い! 寒いんだけど! 服が濡れて余計に!
「今の私なら、何処までも泳げそうな気がするよ!」
「止めろ! 戻って! 今すぐ戻ってくれ! 俺が凍えるぞ!
いや、溺れるから! 多分もう足届かない場所だぞここ!
もう砂浜があんなに遠くに見えるんだけど!?」
ほんの短期間で砂浜がかなり遠くに見えるほどに泳いでいる。
間違いなく今俺達は足が届かない、フレイは良いかも知れない
こいつは持ち前の運動センスで泳ぐことは出来るんだから。
だが、俺は違う! ろくに運動もしてなかったし
泳ぐのは苦手! ここでもしフレイから手が離れたりしたら
ほぼ間違いなく溺れる! 遠いからマナ達も間に合わない!
絶対死ぬ! 絶対におぼれ死ぬ!
「あ」
「げぇ!」
最悪だぁ! あの馬鹿! お、俺から手を離しやがった!
溺れる! マジ溺れる!
「うぶぶぅ!」
「あぁ! リオちゃんが溺れちゃう!」
あ、ヤバい、死んだかもしれない、これはマジで死んだかもしれない。
い、いや、お、落ち着け俺、死にそうになることはよくあったじゃないか。
その度に冷静に対処すれば一命を取り留めてきたんだ、きっと今回もそう!
お、落ち着け! 落ち着いて色々と考えろ! ど、どうすればこの絶望的な
状況で生き残れる? あ、そうだ! 服だ! 服を脱ぐんだ!
服を着ていると重くなって溺れる! だが、服を脱げば!
だが! 今着てるこの服は先生から貰った服、軍服なら脱ぎ捨てられるけど
今回は私服で着たから…ど、どうしよう、脱げない!
この服は脱げない! ズボンは脱げるけど服は無理だ!
じゃ、じゃあ、ひとまずはズボンを脱ごう、まずはそれからだ。
「っと、っと」
何とかズボンは脱げた、少しだけ軽くなった気がするが、服は脱げない!
なら、次はどうする? パンツ? パンツを脱ぐのか?
いや、それは大した効果は無いだろう、だったら落ち着くんだ!
良く聞くぞ、力を抜けば体は浮くって! やるしか無い!
あ! いや! あそこに木の板がある! 浮いてる板だ!
あそこまで泳ぐことが出来れば助かる…はず!
あまり不慣れな泳ぎだが、進むことは出来た。
「は、はぁ」
何とか浮いている木の板にしがみつくことが出来た。
これで辛うじて一命は取り留めた。
問題はどうやって砂浜に戻るかだな、泳げるか?
「リオちゃーん!」
「え! おわぁあ!」
今度は不意に背後から誰かに引っ張られる!
間違いなくフレイだフレイ! 絶対そうだ!
「リオちゃん! 生きてる!? 大丈夫!?」
「大丈夫じゃ無い」
フレイは泳ぐのを止めていても平然と浮いている。
こいつ、感覚で水泳をマスターしてやがる!
「でも、生きてるよね? ね!?」
「ま、まーな…死にかけだけど」
「ごめんね! 今すぐ皆の所に戻るから!」
「あ、いや、ゆっく」
「うおぉぉおーー!」
「ゆっくり泳げやぁ!!!」
やはりフレイは俺の言葉など聞えていないようで
異常な程の速度で砂浜まで泳ぎ切った。
だが、その圧倒的な速度に俺は付いていけなかったようで
非常にダメージが大きい…死んでしまいそうだ。
「よいしょ! リオちゃん! 大丈夫!?」
「……」
「白目剥いてない!?」
「リオ! リオーー!!」
「べ、別に…死んじゃいねーよ」
けほ、けほ、口から海水出て来たわ、しょっぺー
「リオちゃん! よかったぁ!!」
「止め! あ、あー! 死ぬ! 絞め殺される!」
今度はフレイの全力の抱き付きで意識が…し、死んでしまう。
「ちょっとフレイさん! 駄目です! そんなに強く抱擁しては!
リオさん見てください! 顔が真っ青! 白目剥きそうですから!」
「え? あぁあー!! リオちゃーん!」
「う、うぐぅ……」
し、死なないでよかった…あと少しで意識が吹き飛ぶところだった。
「と言うか、リオさん、どうしてパンツだけなの? ズボンは?」
「…あ、あの状況で助かるにはこうするしか無かったんだよ」
「はぁ、まぁ、そうだけど、それならズボンじゃ無くて服を脱げばよかったのに」
「この服は大事な人から貰った大切な服だ…海に捨てるわけにはいかない」
「大事な人…ですか?」
「あぁ、そうだ、フレイ達も今日着てただろ? あの服だ」
今日はフレイ達もあの服でここまで来ている。
と言うか、全員お気に入りなのだろう、殆どその服を着てる。
綺麗なフリフリの服は結構買ってるだろうに
それなのに、手作りであまり形も整っていない
先生が丹精込めて作ってくれた服を着ている、スカートも
まぁ、俺は流石にスカートは恥ずかしいから外出時は履いてない。
たまに城の中で履くくらいかな、周りにそそのかされて。
「リオさんが普段は男の子の様な服を着てるというのに
最近はその服を着ている理由は、そういう」
「大事なんだ、まぁ、1度何カ所か破れたけど、アルルに頼んで
直して貰ったんだ、あ、ほらこの肩の場所だ」
ウィンを探して山に入ったとき、この服だったからな。
焦っていたとは言え、あの時は失敗したよ。
「あの時ですか…」
「まぁ、だから、服だけは脱げなかったんだよ」
「そうですか、ですが、その…リオさん…1つ言っておきますけど」
「何だ?」
「パンツ、かなりズレてます」
「…あ」
そうか、あんな速度で引っ張られていりゃあズレるよな。
本当にアルルがいなくて助かったよ、あいつがいたらヤバかった。
俺はさっさとパンツを戻して、服を洗濯物に入れる事にした。
「はぁ、なぁ、着替えって何処だっけ?」
「あ、待っててよ、確かここに…うん、あった、これだ」
「ん、ありがとよ」
はぁ、初日から散々な目に遭った、くそう、フレイの奴め。
とりあえず風呂入って服着替えて…はぁ、面倒くさいな。
さっさと体を洗うか…そう言えば、アルルのアホは今どうなってるかな。
「ぐぬぬぅぅ! シルバーさん! 離して下さい!
何だかリオさんが凄いことになってる気がするんです!」
「大人しくこの小屋で反省して下さいませ!」
「あ! て、手錠は卑怯ですよ! この! このぉー!!」
柱に手錠…これなら流石のアルルさんでも脱出は不可能ですわね。
本当にリオさんの事になるとすぐに暴走するのですから。
確かに魅力的な方ではありますが、これは異常ですわ。
「くぅ! こ、こんな柱くらい破壊して見せます!」
「諦めて下さいませ、そんな真似が出来るのはフレイさんくらいですわ」
「くぅ! 諦めません! 諦めませんよ!
1ヶ月もリオさんお預けとか死にます!」
「大丈夫ですわ、1ヵ月後にはきっとまともになっていますので」
「ぬぉぉお!! 諦めませんよー! 私はー!」
その後も何度も何度も脱出しようと頑張っていたようですが
流石に破壊など不可能と理解したのか、ようやく大人しくなりました。
全く本当に恐ろしい程の執念ですわ、軽く怖いですわね。
「うぅ、わ、私は…諦めませんよ、絶対に私のエデンを取り戻します」
「変な事を言ってないで、ほら、食事ですわ」
「片手で食えというのはかなり無理が」
「その手錠、そこそこ距離がありますし、大丈夫ですわ」
「あ、本当ですね、意外と届く」
はぁ、落ち着くまではしばらくこのままで良いでしょうね。




