各々の射撃能力
「さて、今度はシルバーにやって貰おうか」
「分かりましたわ」
ベレッタを受け取ると、シルバーは俺がやったようにスライドを引き
銃をゆっくりと構えたが、弾が詰っている。
それにシルバーは気が付いていないらしい、超危ない!
「シルバー! 弾が詰ってるぞ! 気を付けろ馬鹿!」
「え!? あ、あぁ! ほ、本当ですわ!」
弾詰まりに気が付いたらしく、スライドを何度か引き
詰った弾を何とか排出した。
「はぁ…全く心臓に悪いな」
「も、申し訳ありません」
「あのな、スライドを引く必要があるのは最初だけだぞ
後は自動で装弾してくれるんだ、下手にスライドすると
さっきみたいに弾が詰る、気を付けろ
腕が1本使えなくなっても知らないぞ?」
「すみません、以後気を付けますわ」
初めて会ったとき以降シルバーに対して怒った事は無かった気がするが
今回は久々に怒ってしまった、何でもそつなくこなせても
些細なミスは当然するだろうから、優しく言うのが良いのかも知れないが
こればかりは優しくは言えない、下手すりゃ死ぬからな。
「本当に注意しろよ、最悪死ぬんだから焦るな
焦って長い一生を全部捨てたくは無いだろう?」
「はい…そうですわね」
少しだけシュンとしながらもこっちの言葉にちゃんと耳を傾け
しっかりと反省している。
こう言う反省が出来るのだから、結構良いよな。
中にはこんな当たり前の事も出来ない大人がいるんだ
そいつらと比べりゃ、シルバーはかなり優秀な方だ。
「反省してるようだし、まぁ、ここまでにしておこう
だが、最初だし失敗して当然なのに怒るな、とか思うなよ?
その失敗で死ぬからな」
「分かっていますわ、リオさんが私を心配して怒ってくださっていることは」
「……別に心配したわけじゃ無い、目の前でエグい姿を見せて欲しくないだけだ」
「リオさんはたまに変なツンデレ入りますよね?
可愛いくて、襲いたくなり、あだぁ!」
「黙ってろ、この変態」
「うぅ、銃で殴るのは痛いですよ…」
「殴られたくなけりゃ面倒くせぇ口を開くな」
「相変わらず容赦ありませんね…おー、痛た…絶対デカいたんこぶ出来ましたよ」
結構マジに殴ったのに、割と平然としてるな、まさかもう慣れたとか?
だとすりゃ、こいつの順応力凄いな…無駄な才能ばかりだ。
それなら、銃の才能があれば良いのに。
「あれれ-、何だかリオさんの目線が凄く痛いです
まるで役立たずを見るような目つきなんですけど」
「あぁ、お前、無駄な所ばかり成長してるなと思って」
「あ、胸ですか? 確かに意外と大きく」
「そこじゃねぇよ、中身だよ、中身」
「私、まだ母乳は出ませんよ?」
「……」
「こ、今度はゴミを見るような目つきなんですけど! でも、良い!
何だかリオさんに貶されていると分かって興奮します!
もっとその目で見てください! 私を心の底から罵って!」
「お前のピーマン並にスカスカな脳髄ぶちまけてやるよ」
今度もS&W M500をアルルのこめかみに突き付けた。
「ピーマンは! 確かにスカスカですけど! 栄養たっぷりなのです!
あれですよ、少数精鋭なのですよ!
だから、その銃を私のこめかみに付けるの止めてくれませんかね!?」
「何、どうせ中身もスカスカだ、大してグロくは無いだろ?
どうせテメェの頭から、ちんけなカスが落ちてくるだけなんだから」
「いや! ぶちまけます! 私の濃密なリオさん愛に包まれた
とてもとても美味しい、スイートな愛情の塊が出て来ますよ!?
多分、ハートとかありますから!
リオさん相合傘(♡)アルルみたいなのが!」
「訳が分からねぇ事を口走ってんじゃねーぞゴラ!」
「ひぃ! ヘルプ! ヘルミー!」
「分かった、お望み通り地獄に送ってやるよ!」
「ち、違います! 混ざっただけ! 混ざってこんな風になったんです!」
「ま、まぁまぁ、リオさん、怒る気持ちは分かりますが、その辺で」
……はぁ、こう言われたらここまでにしておこうか。
「まぁ、良いか、もう変な事言うなよ?」
「はい、うぅ、どうせ制裁されるなら銃じゃ無くて
直接殴って欲しいです…その方が、私的には」
「OK、直接殴るんだな、じゃあ、ふ」
「いえ! 何でもありません!」
俺が次に何を言おうとしたのかをすぐに理解したのか
少しだけ言っただけで全力の土下座をしてきた。
何か、プライドとか無いんだろうか、まぁ、無いだろうな。
「そんなに全力で拒否する位ならはなからやるな間抜け」
「はい、申し訳ありませんでした」
はぁ、こいつのせいで激しく脱線してしまったわけだが
今はシルバーの射撃訓練だったな。
「あー、よし、シルバ-、アルルのせいで色々と話が脱線したが
そろそろ始めてくれ、やり方は分かってるな?」
「はい、もうあんなヘマはしませんわ」
今度はちゃんと銃を確認した後、ゆっくりと的に向けて構えた。
格好はアルル同様、様にはなっているんだがどうだろうな。
この状態で的を撃ち抜けるか、はたまたそれちまうか。
こいつの実力なら多分大丈夫だとは思うがちょっと緊張するな。
「行きますわよ」
ゆっくりと深呼吸をして、自分を落ち着かせて
引き金に指をあて、正面を睨み付けて引き金を強く引いた。
そうなると、当然反動が襲ってくる訳だが
シルバーはこれを何とか押さえ、すぐに次を撃てる体勢になっている。
うん、反動に結構持って行かれていた様だが、これならすぐに次が撃てるな。
「ふぅ、上手く言ったとは思いますが」
「あぁ、さて、どうなってるかな」
シルバーが撃った弾丸はちゃんと的に当っている。
真ん中の赤い部分を10点とするなら、当った場所は6点だ。
かなり良い感じだな、初心者でこれだけ正確に撃てれば上等だろう。
「やるじゃ無いか、結構良いぞ」
「ありがとうございます、ですが、あの場所は精々5点、まだまだですわね」
「初心者でこれだけ出来れば大した物だ、アルルなんて的にすら当ってないからな」
「は、ハートの弓矢だったら正確なんですけどね、正確にリオさんのハートを」
「お前が撃つハートの矢なんて擦りもしねぇよ、何をするにしても的外れだ馬鹿」
「うぅ…事実故に何も言えません」
もう少し位自重してくれれば、ちったぁマシになるだろうにな。
こいつの場合は全てにおいて的外れ、何をしても無駄だ。
「さてまぁ、シルバーの射撃の腕が結構な物なのは分かったな」
「あれで結構な物なのですね、リオさんは当たり前の様にど真ん中でしたのに」
「それで命を守ってるし、それだけで今まで生きてきたんだ
それなのに今まで銃に触ったことも無い奴程度の能力とかあり得ないし
俺のプライドが許さん」
「確かにその通りですわね、申し訳ありません、出過ぎた事を言いましたわ」
「分かれば良いんだ」
今まで狙撃の魔法で何度も自分の命を守ってきたし
何度も他人の命を奪い、そして、守ってきたんだ。
それなのに今まで銃を持ったことが無かった奴と同じ狙撃能力とか
何か色々と申し訳ないし、自分が情けないことになる。
こんななりでも一応は歴戦の兵士、プライドだってあるからな。
「じゃ、次はメルトだな、ほれ、やってみろ」
「分かったよ」
メルトはシルバーからベレッタを受け取り、シルバーと一緒に
銃をしっかりと見て、扱えると言う事を確認した後に
棒立ちの状態で銃を構えた、いやまぁ、それでも良いんだけどさ。
やっぱり何か構える時って、無意識に足が後ろに下がると思うけどな。
「うーん」
ただ、やっぱりその体勢では違和感があったのか、色々と立ち方を変え
最終的には両足を広く開けた仁王立ちの格好に変わった。
何で仁王立ち? 普通そんな体勢、女の子がして言いものじゃ無いぞ?
まぁ、俺だって普段は仁王立ちで腕を組んで立ってたり
イスに座るとき大股開いて座ったり、席に足乗せたりしてるけどさ。
でも、精神的には男だから問題は無いんだけど
メルトの場合は肉体的にも精神的にも純粋な女の子だろう?
それなのに仁王立ちって…何だかなぁ。
でもまぁ、構えやすい体勢がそれなら、別に何も言わないんだけど。
「で、狙いを定めて、この出てる部分を引く」
口に出しながら銃を放つ手順を確認しているのだろうか。
まぁ、こう言う確認は意外と大事だったりするしな。
「…よし」
少しだけ間を開けた後、すぐに引き金に指を掛け、ほぼ同時に引いた。
メルトは銃の反動には殆ど負けずにほぼ押さえ込んでいたな。
これなら、結構な乱発が出来るかもしれない。
さてさて、問題は的だな…あー、2点か、あまり良いとは言えないな。
接近戦が得意な訳だし、これは結構仕方ないことだとも思えるが。
「…結構ズレちゃったみたいだね」
「最初はそんなもんだ、どういう風に狙えば良いかもよく分からないだろうし
銃の反動もある、何度もみているからそれに対する恐怖だってあるんだ
だから、この結果は仕方ない、何、何度もやってたら正確になるさ」
「だと良いんだけどね」
きっと大丈夫だろうな、的に当ってるわけだし、外れるよりはマシだ。
…うん、擦りもしない奴と比べれば雲泥の差だ。
「何だかリオさんから冷たい所か凍えるように寒い視線が」
「……」
「そのゴキブリを見るような目、止めてくれません?」
「そんな風にはみてないぞ? お前をそんな風に見てたら、ゴキブリに失礼だ」
「あれ!? まさかのゴキブリ以下!?」
「ゴキブリ未満だ間抜け」
「ぐは! け、貶されるのは問題ありませんが、こ、ここまで来たら!
こうなれば、挽回するしかありませんね!」
「もう無理だろ」
「厳しい一言!」
アルルが珍しくシクシクと泣き始めた、言い過ぎたか?
いや、でもなぁ、普段の行動があれだし、近寄りたくないな。
これ、多分慰めようと近寄ったら襲われるだろう。
ここでみとこ、近くに寄るなんてとんでもない。
「……チラ」
アルルがチラチラこっちを見てる…やっぱり近寄らなくて正解だな。
「さて、じゃ、次はマナだな」
「あれ!? 私スルー!?」
「ほれ、ベレッタ」
「り、リオさーん! 泣いてますよ? あなたの大事な部下が泣いてるんですよ!?」
「狙い方は分かるな? ほれ、やってみろ、あ、銃を撃つときは
ちゃんと確認忘れるなよ?」
「あ、は、はい」
「まさかの無視ですか!? 虫以下だし! なんて!」
「ゆっくりやれよ、焦るな」
「む、無視は止めてくださいよリオさん! 何か殴られるよりキツいですから!」
「んだよ! 抱きつくなよこの馬鹿!」
いきなり抱きつかれたからアルル顔を殴って蹴った。
「あ、答えてくれた! 私、良かった」
殴られたあげく蹴られたというのにアルルは幸せそうに鼻血を出し
にこにこと笑いながら地面に倒れた。
「鼻血なんて出すなよ、変態」
「いや! 確かに普段は自前ですが! 今回はリオさんのせいですよこれ!?」
「何か気持ち悪いからこっちみんな」
「何という理不尽! でも、それでも私は大好きです!」
「近寄るな! 変態女! せめて鼻血を拭け!」
「うぅ、分かりましたよ」
アルルが自分の鼻血を拭って、いつも通りになった。
「はぁ、マナ、どうだ?」
「あ、は、はい、い、行きます」
マナはかなり恐る恐る銃を構えた、どうやら確認は大丈夫だったらしい。
「ふぅ」
そして、ゆっくりと引き金を引くと、少々反動に持って行かれたが
大丈夫だ、すぐに元の体勢に戻れる程度。
そして的は…お! 大したもんだ!7点だな!
メンバーの中で最高点!
「やった!」
「大した物だな、マナ、アルルの代わりに俺の方について」
「ストップストップ! リオさんの隣は私の特等席ですよ!?
リオさんも! 何当たり前の様にマナさんに鞍替えしようとしてるんですか!?
2年間以上一緒に頑張ってきたじゃ無いですかぁ!」
「うっさいな、クビになりたくなけりゃ、精々今までの行動を改めろ
何度俺に変態的な行動をすれば気が済むんだ」
「そ、それは…す、すみませんでした! だからお願いします!
クビにはしないでください! 私にはリオさんしか居ないんです!
リオさんから離れちゃったら、私はどうすれば良いんですか!?
リオさんと既成事実を作って結婚するしか無いじゃないですか!」
「馬鹿な事を言ってんな! 何が既成事実だ!」
いつも通りアルルの腹を殴ってみる。
「うん! 幸せです!」
「この!」
「アルルさん、クビになりたくないのなら直さねばなりませんわ
私達としても、アルルさんにいなくなられては困りますので」
「み、皆さん、そこまで私の事を」
「えぇ、ですので」
シルバーが周りをチラリと見渡すと、他の2人も頷いた。
「これから、私達3人であなたのその性格、矯正いたしますわ」
「さ、3人!?」
「寝る間も惜しんで矯正作業をしてあげるよ、毎日ね」
「私達もあまり長いこと相手するのは大変ですから、すぐにやります」
「えぇ、頑張ってその性格直しましょうね? クビはいやでしょう?」
「さ、3人って、いや! でも、3人はちょっと無理がありますよ!
その間、リオさん達のお世話はどうするんですか!?
ほら、リオさん達も毎日お腹をすかせて大変な事に!」
「その点は大丈夫ですわ、ちょっと新入りが入るらしいので
その方にお願いいたしますし、交代交代でやりますから」
「新人が!?」
そんな話あったっけ…あ、そう言えば手紙に書いてあったかも知れない。
長かったから読めてなかったけど、そこに書いてあったのかもな。
「その人にはフランさんの面倒を見て貰う予定らしいですわ
ですので、安心してください、強化合宿と思っていただいて結構です」
「強化合宿!?」
「はい、リオさん達にも聞く予定ですわ
あ、強化合宿についてお話ししましょう、してませんでしたし
でも、軍団長が手紙に…いえ、リオさんは読んでいないかもしれませんわね
文字を読むのは苦手だと聞きましたし」
「そ、そうだな…よ、読めてない」
シルバーから強化合宿の話を聞いた。
強化合宿の目的は戦力強化が主な目的だが、その実、もう一つの目的は
新人に早くこの部隊に慣れて貰うための計画らしい。
だから、基本的には遊ぶことが多い、場所はトロピカル地方の海辺。
そこに建てたという小さな家を拠点に行なうそうだ。
サバイバル技術の向上も狙いであり、食料も水も少ないそうだ。
だが、この過酷な環境で過ごすことによって、精神力の向上も狙いらしい。
当然、身体能力も上がることだろう、サバイバルするわけだし。
魔力増加、身体強化、友好関係の強化、息抜き、この4つが狙いらしい。
まぁ、そこに今回、アルルの性格面をまともにするという目標が出たと。
面白い事になりそうだな、ま、悪くない息抜きだ。




