あいつらの為に
俺が完全に姿を現したことで、敵達の狙いは完全に俺の方に向いた。
この状態じゃ、間違いなく集中砲火を受けることだろうが
そんなのどうだって良い、大した問題じゃないんだ。
ただあいつらが殺されることだけは絶対に避ける!
「撃て!」
敵兵達が一斉に銃火器をこちらに向けて引き金を引こうとした。
そのすぐに超集中状態を発動、正面の敵兵2人の銃口に向けて
弾丸をぶち込み、すぐに移動した。
「な!」
正面2人の銃は腔発、撃ち手とその周りにいた1人が巻込まれ怪我をした。
結構な重傷だが、流石にこんな状況下で相手に慈悲を掛けるほど
俺に余裕は無い、そんな事をしていたら、最悪こっちが死ぬからな。
「く! な、何をした!」
「…良くは分からなかったけど、あいつ、あの距離から
2人の銃口を撃った? その可能性がある、そうじゃないと
いきなり私の銃が爆発するなんて事…」
……ふぅ、ま、先制打としては、結構なインパクトだっただろう。
だが、あまり超集中状態は使いたくないな。
何かウィンチェスターで発動したときと比べて
魔力の消耗が激しい気がする、出来ればこれ以上使わずに
この場を切り抜けたいところだ…使いすぎると動けなくなるし。
「ど、どうすれば!」
「撃て! 撃て! どんなに凄かろうと相手は1人!
それに姿を見せられなければ何も出来ない!」
「は!」
ち、乱発して俺の動きを押さえるつもりか。
やはり銃を使った戦いになれていないのか、かなりの愚手だな。
どんなに乱発してもリロードは必要なはずだ
リロードいらずで銃をぶっぱ出来るのはミロル位だろう。
「く! 弾が出ない!」
「弾切れ! 装弾急げ!」
「攻撃が最大の防御なんて考えは攻撃がずっと出来る状況でしか通用しない!」
すぐに木の陰から姿を出し、M21の弾丸を敵2人に再び撃ち込む。
「クソ! 2人やられた!」
「なら、追い込め! 近寄れ!」
良い判断ではある、だけども、そう言うのは弾を装弾してからにすれば良いのに。
「こっちに来るんじゃねーよ!」
M21の2挺は意外な事にかなり効果的だった。
攻めてくる兵士達を素早く狙い、1発1発で確実に仕留める。
連射性能はそこまで高いわけでは無いが
この魔法で出した狙撃銃の反動は意外と少なく
1発撃った後、殆ど時間を掛けることなくすぐに敵を狙える。
2挺で、反動はほぼ関係無しだから殲滅力は1挺の時のおおよそ2倍
だが、まだ足りないか、しかし、フルオートでの2挺乱射は流石に辛いだろう。
「駄目です! 近寄れません!」
「最も近づいた奴が正確に倒されている! なんて奴!」
何発も銃を撃っていると、一瞬奥の方が光ったように見え
その方向に目をやった、そこにはギリースーツを着ている
兵士が狙撃銃を構えてこちらを狙っていたのに気が付いた。
面倒だな、まぁ、狙撃銃を使える奴が居てもおかしくはないだろう。
だが、狙いを定めるのが遅すぎる!
「少しは速く狙え!」
「うぐ!」
狙撃銃のスコープで覗いていたからだろう、スナイパーの弱い悲鳴が聞えた。
「スナイパーがやられたぞ! なんて観察眼と狙撃能力!
あれがリオ…ミストラル王国の見えない死神か」
「んあ? 何だよ、2つ名別にもあるのかよ、統一しろよな」
「怯えるな! 脅威なのは見えない間のみ! 見えてしまえば俺達の勝利だ!」
…実際その通りだ、俺は姿が見えない状態ならかなり能力は高いと思う。
見えない場所から距離関係無しの即死攻撃、それが俺の本来の戦い方。
だが、今現在は完全に位置もバレ、複数の兵士と同時交戦、距離も近い
この状況はかなり危機的状況であるのは間違いない。
こんな状況の打破はフレイ達がやってくれる事だが
銃火器との相手となればそれも不可能…自分の力だけで突破する必要がある。
……多分それはほぼ不可能だ、逃げ回っても体力が尽きるだろう。
向こうにはランチャーもあるだろうし、隠れている場所も
その内かなり削られる、もし隠れる場所がなくなってしまえば
俺は間違いなく死ぬ…まぁ、それはそれで構わない。
俺の狙いはあくまであいつらが逃げるまでの時間稼ぎ
その為に死ぬんなら、それはそれで本望だ。
「進め!」
「馬鹿正直に突っ込むなよ!」
何発も敵兵達に弾丸を撃ち込んでいると、向こう側も学習したらしく
流石に木陰に隠れるようになった、これで時間は稼げるはずだ。
俺はいつでも狙撃が出来るように、両手のM21を正面に構え
敵が動いたら速攻で狙撃する体勢になった。
「……おい、奇襲を掛けるぞ、周囲の木を伝って移動だ、バレないようにな」
残念ながら俺のスコープの効果でそういう内密な話は筒抜けだ。
まぁ、この効果がなかろうともその作戦は機能しない。
理由は簡単だ、木の陰から移動しようとした瞬間
俺の狙撃銃がそいつを撃ち抜く。
「行け」
「逃がすかよ」
1人の兵士が木から移動しようと一瞬足を出した瞬間
その足を狙撃、その兵士はバランスを崩し木から姿を見せた。
「何!」
「引っ張れ! 急いでそいつを引っ張れ!」
バランスを崩した兵士をさっさと戻そうとしている様だから
その兵士を引っ張ってる男の腕を狙撃する。
「うが!」
「腕を少しでも出したら撃たれるだと!?」
「一瞬だった筈!」
一瞬でも何処から手が出てくるかが予想できれば狙撃は容易だからな。
だが、向こう側からして見ればこの狙撃でかなり驚くことだろう。
そうすれば敵の戦意を削れるし、狙撃したことによって戦力も奪える。
木に隠れたのはこちらにとってはむしろ好都合だ。
「急げ! 速くあいつを引っ張れ!」
「は、はい!」
…ち、今度は腕が見えなかったか、戦力を奪えると思ったが残念だ。
「何なんだよ、あれは…どうすれば良いんだ?」
「何か手を考えろ!」
「左の兵士達を動かせば! 流石に左右は警戒してないはず!」
「よし、じゃあ、お前ら、行け!」
「はい!」
今度は左の方の兵士を動かすのか、筒抜けだから何の意味も無い。
「いだ!」
「駄目です! 左も見られてます!」
向こうはこの狙撃にかなり怯えてきたらしく、声が震えてきている。
良いぞ、良い調子だ、このまま時間を稼げばあいつらの撤退が可能!
あ、左の方で人が動いた…あのシルエットはシルバーか。
ようやく動いたか、じゃあ、このまま足止めをしておこう。
「…お、怯えるな! 今度は同時に動く! 流石に2箇所同時は不可能だろう!
相手は所詮1人だ! 2人以上ならともかく1人で同時に対応出来るわけが無い」
「そうですね! じゃあ、同時に!」
普段なら無理だろうが、今回の俺は2挺の狙撃銃を召喚している。
例え同時に動いたとしても、狙撃は出来る!
「が!」
「あぐ!」
「ど、同時に…倒された」
兵士の声に更に動揺の色が見えた、よし、このまま撤退しろ
そうすれば俺も生き残る事が出来るし、あいつらも全員逃げられるはず。
「あ…あぁ…」
「どうすれば…どうすれば良いんだ…」
「ミロルさん! な、何か手を!」
「……じゃあ、そうね」
ん!? 何かバイクっぽい物が出て来たぞ!?
「これで一気に」
「はい!」
兵士達が妙な動きをしたと思ったら、けたたましいエンジン音。
……やっぱりあれはバイク!? 何だってそんな物が!
まさか、ミロルか!? あいつが出したのか!?
「行け! 速く動いている的は狙えまい!」
「は!?」
「バイクで突撃とか! 馬鹿か!」
「撃て!」
こっちに突撃してくるバイクの運転手を仕留めたは良いが
木の陰に隠れていた兵士達が一気に姿を現し
銃を乱射してきた、射線上には仲間もいるのに!
「ク! 無茶苦茶しやがる! い! うぐ!」
クソ! 足の怪我が痛んで、隠れるのがおくれた!
更にバイクが爆発してしたせいで、更にダメージが!
クソ! 左肩と右足と横腹に食らうとか…かなりキツい…
あの弾幕は何か反則だろう!? こちとらハンデが凄いのにさ。
しかし、本当に無茶しやがる、突撃してきたあの兵士死んだぞ!
何発も味方の弾丸を浴びて蜂の巣…その後爆発、最悪な最後だ。
「ちょっあんたら! 何で仲間もぶち抜いてるのよ! 馬鹿なの!?
そもそも何で撃ったのよ! そんな指示はしてない!」
「これで殺し切れれば、被害は減るでしょう?」
「そうでしょうけど! そもそもあのバイクを出した理由は
あのバイクに乗ってさっさと逃げて救援呼べって事よ!
仕留めたいならその方が確実でしょうが!」
「我々の手で始末しなければ行けません」
「勝てなきゃ意味がないのよ!」
「確かにそうでしょうが、あの攻撃で恐らく奴は負傷したはず
状況は私達に有利に働いているのです」
「…く」
あの指示はミロルの指示じゃなかったのか
まぁ、あれはどう考えても味方の早合点だったしな。
ミロルが命令しきる前に突撃の指示を出してたし。
「…本当、キツい」
…しかし、マジにそろそろヤバくなってきた
横腹、足、左肩…はぁ、そろそろマジで腹を括るしか無いか。
まぁ、あいつらの為に死んだと考えれば悪くない最後か?
…なんて、変な所で強がってもあまり意味は無いか。
正直、死にたくないな…仲間の為の名誉の死
あ、そう言えば、メア姫にも心配されてたっけ
その時、INWの主人公が所属する部隊の隊長が主人公庇って死んで
その最後に感動したとか、そんな事も思ってたっけ。
そんな風に死ねるなら別に良いとも考えていたが
この土壇場に来て、やっぱり死ぬのは怖い。
……もし、死んだら何処に行くんだろうな
また異世界か? その時、同じ様に俺は居場所を作れるのか?
そもそも、この世界の記憶…今みたいに覚えてるんだろうか。
「……はぁ」
……まだ死ぬと決まったわけじゃないか、最後を格好良く締めるのも良いが
やっぱ馬鹿みたいに泥だらけになってでも生きる手を考える。
死を覚悟するな、最後を受入れるな、最後まで抗え。
こんな所でくたばってたまるかよ、ここで俺が死ぬわけにはいかない。
もし死ねばミストラル王国はどうやってリ・アース国に勝つんだ?
ただの魔法の使い方ではとてもじゃないが太刀打ちできない道具を使う国によ。
攻略法を知ってるのは多分俺くらいだ
現代兵器の弱点をある程度知ってるのは、ミストラル王国では俺くらい。
立ち回り方だってあいつらは知らないんだ
それなのにそいつらをおいて死ねるか、そんなことしたら
結局あいつらを守れないじゃないか、死なねぇぞ、俺は。
もう最後を綺麗に飾り付ける事は考えない!
みっともなく生きてやる! それが、あいつらの為だろ!
痛みが何だよ、まだ動かせる! 敵の数が何だよまだ勝てる!
勝負は…諦めるまで分からない、諦めればそこまでだ!
「……はぁ、ふぅ…死ぬわけには、行かないよな」
多分あいつらはゆっくりとこっちに近寄ってきていることだろう。
なら、あいつが使えるはずだ、VSS…M21の2挺が出来たなら
こいつの2挺も出来るはず、もしキツくても距離が近ければ当てられる。
相手の正確な数は知らないが、恐らくは50、まだ倒しきれるはずだ。
…ここは勝負に出るしか無い、生き残るには…それしかない!




