授与式と願い
温泉騒動の後、授与式の日がやって来た。
本来はもうちょっと早かったはずだが、俺の怪我とかもあって
時間がずれたんだよな、迷惑掛けちまったよ。
「リオ、前へ」
「はい」
授与式で俺に勲章を渡してくれるのは国王様だ。
普通の授与式では国王様では無く軍団長が行なうはずだが
俺の場合は国の再建に関わる色々な事に協力したためか
国王様直々に勲章を与えてくれるそうだ。
別に再建に関わる色んな仕事なんてしてないんだけどな。
まぁ、国は救ったけど、そこは認めるには認めるんだが
やっぱり俺1人の力じゃ無いし、自分1人に賞が与えられるのは
何だか違う気がするんだよな…
でも、軍団長曰く少数部隊の隊長が賞を貰うと言うことは
実質的に部下全員に勲章が与えられたのと等価らしい。
「君はミストラル王国の危機を救い、国を救っただけでは無く
多数の制圧作戦においても筆頭となる活躍を見せた
先の制圧戦においては両国無血の勝利を成し遂げた
その行動は兵士としても人道的にも高く評価する」
無血の勝利と言っているが
実を言うと、俺が少しだけ血を流したんだよな。
ま、国王様が言ってることはそう言う事じゃ無いと言うのは分かっているが。
でもまぁ、俺は無血とは言えないとは思うけどな。
「その他にも複数の功績を成し遂げた、よって君にこの勲章を与えよう」
国王様は俺に金色の鷹が力強く羽ばたいている
デザインの勲章を渡してくれた。
鷹は鳥の中で1番好きだ、格好いいし
鷹は舞い降りたとか、鷹の目だとか、色んな方面で言われてる。
国王様はそんな俺の趣味は知らないだろうに鷹の勲章を渡してくれた
何だか運命という物を感じるな。
「身に余る光栄です」
「…メア、付けておやりなさい」
「はい、お父様」
メア姫、あぁ、授与式だしここまで戻ってきてたのか。
そう言えば、少し遅れて戻るって言ってたっけ。
「リオ、おめでとう御座います、あなたの活躍は
この程度の勲章では表せないほどの物ではありますが
これが今の我らに出来る最大の事です」
メア姫はそう言い、俺の胸ポケットにゆっくりと勲章を付けてくれた。
ちょっと手こずって、服貫いて針が胸に当ったりして痛かったが
そこはほら、こう言う場で痛がるのはちょっとあれだから
無理矢理我慢して、何とか耐え抜いた。
メア姫、意外と不器用なのかもしれない。
「え、えぇ、似合っていますわ」
どうやら向こうにも刺した感覚はあったらしく
少し焦っている様だが、何とか取り繕っている。
でも、笑顔が引きつっているからどうしてこんな風に
笑っているか分からない人が見たら、勲章が似合ってないけど
無理矢理似合ってると言ってるように見えるかもしれない。
ま、そう見えても別に良いけどな、勲章なんぞ飾りだし。
でも、やっぱり喜んだ方が良いのだろうか。
「ありがとうございます」
「では、次に君達小さな戦士達の願いを聞こう」
「ね、願いですか?」
「あぁ、だが、それは後ほど個々に聞こうと思う故
授与式はここで終了とする」
国王様の口から授与式が終わったという言葉の後
俺達小さな戦士達は全員で国王様の元に移動した。
だが、俺はその道中メア姫に呼ばれた。
「あ、あの、リオ…その…だ、大丈夫ですの?」
「えっと…」
「どうかしたんですか?」
「実はその…勲章を付けるときに、謝ってリオに針が」
「えぇ!?」
「えっと、だ、大丈夫ですよ、多分」
少し不安になりながら軍服を少しずらして
刺さったと思われる場所を見てみた。
まぁ、ちょっとだけ血が滲んでる程度だな、地味に痛い。
「血が出ていますわ! す、すぐに治療を!」
「だ、大丈夫ですよ、これ位唾でも付けときゃ治りますって」
「駄目ですわ! 汚い! すぐに治療させますの!」
「えぇ!?」
何か結局メア姫に結構強引に手当てされた。
まぁ、ちょっと消毒して包帯巻いただけだから良いんだけども。
「はい、これでよろしいですわ」
「はぁ」
何だか締め付けられる感覚が窮屈だな。
「まぁ、これでも良いんですけども」
「では、リオ願いを聞くのですわ!」
「え? ここで!?」
「当然ですわ!」
メア姫しか居ないけど…まぁ、良いか、メア姫も王族だし。
と言うか、願いか…願い、願いねぇ、願い…うーん。
どうしよう、全然出てこない。
「何だか全然願いが出て来ないんですけど」
「願いが無いとは結構変わっていますわね
それはつまり、現状に満足しているという事ですの?」
「えぇ、まぁ」
「では、多額の報酬を国に求めれば良いのでは?
そうすればあなたは戦う必要が無くなり、命の危機に瀕することも」
「そんなお願いするように見えます? 戦うのが嫌だと言うなら
あそこまで積極的には動かない、もっと後ろから指示してます」
「それは分かっていますが
しかしリオ…あなたは何度も死にかけていますわよね?
それなのに戦場に出るのに恐怖など無いと言うのですか?」
まぁ、確かに何度も死にかけてるな、痛い目にも何度もあってる。
ただ、その程度でへこたれるようなら、もうすでにここには居ない。
1回死にかけた地点で、もうすでに戦意は無くなってるはずだからだ。
ただ恐怖を感じないわけじゃ無い。
「…恐怖を感じない、と言う訳ではありませんね
当然戦うとなれば、恐怖は感じますよ? 痛い思いなんてしたくない
それに目の前で大事な友人が死ぬのも怖いと感じて戦ってますとも」
「それなのにあなたは戦わずに済む選択をしないと?」
「そうですね、ただ単に自分が居ないと怖いだけですよ
もし自分が居ない所であいつらが死んだらどうしようとかね
それに、平和にならなきゃ、どう頑張っても死の危機は隣に合わせ
まぁ、それは平和になってもそうなのでしょうけどね」
ま、色々と戦う理由は考えていはある、そうじゃないと戦えないしな。
「……ですが」
「それに戦える奴は戦うのが1番でしょ?
求められているから、とか、そんな風には言いませんが
ただ自分が行けば犠牲は減ると、自惚れでしょうがそう思ってます」
何処かに自惚れが無けりゃ、自分の意見を押し通すことは出来ない。
自分に自分が惚れてなけりゃ、自分の意見を疑うからな。
強引に生きたいなら、自惚れは絶対に必要。
確かINWの主人公が所属する部隊の隊長が言った台詞だったかな。
あぁ、あの台詞を聞いたとき、格好いいと思った物だ。
あんなの自分に絶対の自信が無いと言えない台詞。
絶対に俺はこんな事を思う事なんて無いと思ったが
まさか異世界のこの地で、そんな事を思える日が来るとはね。
じゃあ、最後は仲間庇って死んだりして、はは、あり得そうだ。
でも、あの最後にも惚れてたし、それはそれで良いかも知れない
最後に主人公に希望を託して死んだシーンは格好良かった。
「本当に心配になりますわ、私はあなたの事が」
「何でですか?」
「その内、私達の前から消えてしまうと、そう感じてしまいます
あなたの能力を疑っているわけではありませんが
あなたの様な方は…どうしても、何かのために死にそうで」
「……それはそれで格好いい最後でしょうね」
「格好いい? あなたは残された人達に悲しみを与えて死ぬことが
格好いいと思っているのですか? 残される人の気も知らないで」
……残される人の気持ちか、そんな事を考えたくも無いな。
でも、自分から死にに行く様な真似はもうしないと思う。
一応散々な目に遭って、色々と学習したしな。
「大丈夫ですよ、死ぬ気はありませんから」
「…そうですか」
「あ、そうだメア姫、お願い聞いてくれるんでしたっけ?」
「えぇ」
「だったら、ひまわりを支援して下さいよ
俺達が生まれ育ったあの場所、失いたくありませんから
あそこは俺達が帰るべき場所ですからね、道しるべでもありますし」
「……大きな願いも他人の為と?」
「他人の為じゃ無いですよ、自分の帰る場所を失いたくないからです
それにあそこに居る人達は全員俺の大事な家族なんで」
「……そうですか」
ま、願いなんてこれ位しか思いつかないんだよな。
あそこを守ることが俺が戦う理由、それは変わらないんだから。
「さて、フレイ達はどんな願いをしていると思いますか?」
「私の予想ではあの3人はリオと同じ願いですわ」
「俺もそう思いますよ」
俺達2人の予想は当っていて、3人ともひまわりに関する事だった。
自分達を育ててくれた大事な場所だからな。
「私はリオさんとの結婚を!」
「それは本人に言いなさい、無駄でしょうけど」
「私にはリオをください」
「それも無理よ」
「私はウィングさん達に美味しい物を食べて貰いたいかな」
「それなら用意できるわ、でも、それで良いの?」
「それだけで満足ですよ」
「私は……この内気な性格を変えて欲しいです」
「自力で変えて頂戴よ」
「私は…もう誰も失いたくないから
皆を守って貰うことをお願いしたいです」
「分かったわ、力の限り守りましょう」
「私はそうだなぁ、怨恨をチャラにして欲しいです」
「それはもう無いと思うけど、まだ兵士達に反感を持つ人が居るかもだし
全力で調査して怨恨を無くすよう動いてみるわ」
全員色々な願いを言っているが、やはり殆ど周りのためだな。
まぁ、アルルとフランの願いは酷すぎるけども。
ただシルバーだけはまだ願いを言ってないようだ。
「さて、シルバー、あなたは自分の家の再興かしら?
あなたの武勲なら、私達が力を働かせて
サーシャ家を復活させる事が出来るけど」
そう言えばシルバーが兵士になった目的って
廃れた自分の家を貴族として復活させる事だったか。
「……」
「悩んでるの? 何で?」
「…いえ」
「もしかして家が復活したら、シルバーは」
もしもシルバーの家が復活すれば、シルバーは戦う理由がなくなる。
そうなれば、このまま小さな戦士達に所属している必要は無い。
それに悩んでいると言う事は多分、復活させた場合
家に戻ってこいと言われると考えているからだろう。
そうじゃなけりゃ、即決だろうからな。
「もしかして、復活させた場合戻ってこいと言われるのか?」
「…貴族の娘が兵士では家はすぐに再び廃れるでしょう
ですから、復活となれば、私は恐らくお父様お母様に呼び戻される
ただ…分かっているでしょう? 私はここに居ることが非常に楽しい
ですが、私のわがままで折角のチャンスを無下にするのは…」
……俺達としては、このままシルバーにここに居て欲しい。
だが、シルバーの為を考えれば…。
「ふーむ、何を悩む必要があるの?
英雄率いる小さな戦士達に所属して居る娘を持つ貴族家
肩書きとしては十分すぎるほどの物よ?
そこから廃れるとは思えないのだけど」
「ですが、貴族は優雅に過ごす事
それが選ばれた物の使命と教わってきましたので」
「正直ね、私とかメアとか王族なのにめちゃくちゃ働いてるわよ?
優雅に過ごせた経験なんて殆ど無いわ
それにね、今の状況で優雅に紅茶を啜ってるだけの貴族なんて無価値よ
貴族は非常時には率先して動かないと行けないわ
でも、見本を見せないと駄目でしょ?
そこで、その見本をサーシャ家にして貰おうって事よ
貴族の身でありながら、第一線で率先して戦うサーシャ家の次期当主
それを見た他の貴族は危機感を感じ、同じく率先して戦うよう動く
とまぁ、こんなシナリオよ? 私としては出来れば協力して欲しいわ」
そんなシナリオを考えていたのか? でも、即席で考えたように感じる。
だって、今はそんなに切羽詰まった状況では無いから
別に貴族連中が優雅に紅茶を啜ってても問題は無い。
何せ、役立たずが役立たずのままでもここまで領土を広げたんだ
だから、このまま貴族が動かなかったとしても問題は無いだろう。
多分ああ言ったのは、シルバーが家を復活させた後に
小さな戦士達に残る口実を作るためだと思う。
確かにあの口実ならシルバーの両親も納得するだろうしな。
「……そこまでして貰わなくても」
シルバーもリサ姫の意図には気が付いたようだ。
シルバーはかなり勘が鋭いからすぐ分かるんだろうな。
「別に何もしてないわよ? ただちょっとあなたを利用させてと言ってるの
その為に私達はあなたの家が復活させてあげるわ
別にあなたが変な事を考える必要は無いのよ」
シルバーの為では無く、あくまで自分達の目的のためだとメア姫は言い張る。
しかし、それが口実だと言う事はすぐに分かることだった。
リサ姫とそれなりに長い間一緒に居たんだ、性格くらい把握してるからな。
「……ありがとうございます」
「利用させてくれと言ってるのにお礼言うかしら?」
「…いえ、リサ姫様に利用していただけるなんて光栄ですので」
「そ、じゃ、その忠臣っぷりで頑張ってちょうだいな」
「分かりましたわ!」
その後、メア姫、リサ姫は俺達の願いを国王様に告げ
国王様はその願いをあっさりと受入れてくれた。
ただ、アルルとフランの願いは却下され、渋々変えた願いは
俺達の部屋を広くして欲しいと言うことだった。
理由はマル達も一緒に眠れるようにと
自分達も一緒に寝たいからだそう、それなら問題無いと言う事で
俺達の寝室は広くなった、トロピカル地方の寝床も
広くするようにするらしい。
で、マナの願いは極力協力するという形で落ち着いた。
マルの願いは国で最大の援護をするという形で成立だ。
そう言えば国王様、終始驚いていたな
理由は確か、誰1人ただの金に関する願いをしてないからだっけ。
国王様は多額の金を欲しいという願いが多いと予想してたらしいから
その予想が外れて少し動揺しながらも嬉しかったそうだ。




