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泥んこ遊び

「お姉ちゃん!」


何だかウィンが来てからと言う物、毎日の様にやってくる。

多分今日もクッキーを持ってきたとかそういう感じだろう。

結構この毎日のクッキーも楽しみに感じてきてるんだよな

少しずつ美味しくなって来ているクッキー

まだまだ安定はしないが、それでも必死に頑張ってくれてるのがな。

何だか自分の為にここまでしてくれる妹がいるというのも良いもんだな。


「今日もクッキーか?」


ドアの外からの声かけに応え、扉をゆっくりと開くと

そこには泥だらけで服も汚くなっているウィンが立っていた。


「あ、お姉ちゃん、フレイさんがお姉ちゃん呼んで来てって!」

「え?……な、なんか嫌な予感するから俺は居なかったって言ってくれ」

「嘘は駄目だよ」

「えーっと、な、なんで俺を探してるか聞いたか?」

「あ、うん、一緒に遊ぼうって!」


こ、この感じだとウィンも一緒に遊んでたんだろうな。

そうじゃないとここまで服が汚れたりしないって。

でも、俺は正直そう言う泥まみれになるような遊びは好きじゃ無いし

昨日雨降ってたから外で遊んだら汚れるだろう。

出来れば服は汚したくない…まぁ、今着てる服は

別に大事な服というわけじゃ無いんだけども。


「ねぇ、私も一緒に遊んでるんだ、だから、一緒に…あ、遊んで欲しいんだ」

「うぅ」


ウィンの上目遣い…何だか目からキラキラした物が出てるような感じだ。

や、ヤバい、ど、どうしよう…な、なんか断るのは忍びない。


「……わ、分かったよ、あ、遊べば良いんだろ? 遊べば」

「本当!? やった! お姉ちゃんと遊べる!」


う、うぅ…何だかフレイが来る時とは違う意味で断りにくい。

フレイの場合は強制だから断ることとか出来ないんだけど

ウィンの場合はなんか良心に攻撃されるというか、なんというか

なんか、断るのは可哀想とか感じてしまう…断るなんて、出来ない。


「じゃあ、こっちだよ!」

「あー、そ、その前に今書いてた紙の後片付けさせてくれ」

「うん!」


はぁ、フレイ達にどんな訓練が良いとか考えていたんだけど

仕方ない、別に書類ではないし、絶対にやらなきゃいけない事でも無いし

後で考えるかな…姉で部隊長で友達ってのは大変だ。

間違いなく振り回されてしまう…特に部下は癖が強い連中が多いしな。


「よし、片付けたぞ」

「じゃあ、行こうよ!」

「分かった」


渋々とウィンに付いていき、フレイが待っているという場所に移動した。

そこではフレイ達が泥だらけになりながら遊んでいる姿がある。

ウィングは分かるんだけど、まさかトラやフラン達までいるとは思わなかった。


「おぉ! リオちゃん来た! ありがとうね! ウィンちゃん!」

「あ、はい!」

「今更だけどウィングとウィンって名前似てる、ウィンも私の妹になる?」



まぁ、意味は大分違うけどな、ウィングはそのまま翼

ウィンは多分勝利の意味だろうな、なんでそんな名前にしたのか

もしかしたら、あんな親だし名前に大した意味は無いのかもしれないがな。


「私はお姉ちゃんの妹です!」


フランの誘いを速攻で断ったな、なんか少し嬉しい。


「…じゃあ、リオが私の妹になったら、ウィンも私の妹に」

「お前の妹はまっぴらごめんだ、と言うか、潜入の時も

 俺が姉で、お前は妹って感じだったろ?

 やっぱ、俺がお前の妹ってのは違うだろう」

「……諦めない」


諦めて欲しいが、フランの執念は恐ろしいんだよなぁ。

変な風にならないことを祈ろう。


「いやぁ、ウィングちゃんの事をウィンちゃんって言おうと思ってたけど

 これじゃあ、分からなくなるから言えなくなるね」

「そうだね」


俺達の会話をよそに、2人はさっきまでの会話の続きをしていた。


「じゃあ、新しいあだ名を考えないと」

「あ、フレイちゃん、私、このまま呼んでくれた方が良いの」

「なんで?」

「先生が付けてくれた名前だし、大好きなんだ、この名前」

「おぉ! じゃあ、普通に呼ぶよ!」

「うん、お願い」


やっぱりカナン先生は俺達に良く懐かれてる。

そりゃそうだ、俺達の恩人で俺達を色んな意味で救ってくれた人だ

懐かれないわけが無い。


「よーし! それじゃあ、リオちゃん!」

「な、なんだ?」

「遊ぼ!」


フレイの奴が泥だらけの手をこちらに向けてきた…き、汚ぇ

絶対に触りたくない、なんか手を取って欲しげにしてるが

こんなにも汚らしい手に触れたいとは思わない。


「…ふ、フレイ、悪いけどその泥だらけの手に触れるのはちょっと」

「じゃあ、私から触っちゃおう!」

「ま、待て! 触るな! と、特に服は!」

「えいやー!」


めちゃくちゃ楽しそうに服に手を! あぁ! 服が汚れたぁ!


「お、おま! 服は駄目だって言っただろうが!」

「服が駄目なら、ここ!」

「うわぁ! 馬鹿! 手を触るなぁ!」

「あはは!」

「後、ひ、引っ張るんじゃ無い!」


泥の上を引っ張って連れ回されるのはマジで勘弁して欲しい!

こ、転けたらどうすんだよ! 大変な事になる、あ!


「おぉ?」

「……」


最悪だ、なんでピンポイントで水たまりに転けてしまうのだろうか。

もう服がドロドロだ…なんか気持ち悪い。


「だ、大丈夫?」

「ふ、フレイ! お、お前のせいで転けただろうがぁ!」


何だかイラついたからフレイの両頬を泥だらけになった手で押さえた。

結構地味な仕返しだが、顔がそこまで汚れてなかったフレイには

結構強烈だったはずだ。


「むにゅぅ! じゃあ、わたひも!」

「うわぁ! な、何を!」

「えへへ、仕返しー!」


……誤算だった、まさか嫌がるどころかむしろ嬉しそうにするとは。

普通ならあまり汚れていない頬を汚されたら嫌そうな顔をするだろうに

なんでこいつはむしろ嬉しそうな顔をしているんだよ!


「くぅ、なんで嫌がらないんだ」

「フレイだからね」

「そうだった」


考えてみれば当たり前の様に泥だらけになって遊んでる奴が

今更顔に泥が付いたからと言って嫌がるわけが無かった。


「ほらー、仕返しー!」

「こ、この! 来るな!」

「本当にフレイはリオの事が好きだね」

「うん! 大好きだよ!」

「こう言う面倒な好かれ方は嫌いだ」


追いかけ回してくる好かれ方とか嫌すぎるだろう。

それも泥だらけの手で追いかけ回されるとか最悪だ。

なんでこんな面倒極まりない感じで追われなきゃ行けないんだか。

マジで勘弁して欲しい…いや、もうすでに俺も泥だらけだし

今更感は否めないんだけどさ。


「所でトラ、なんでお前がここに居るんだよ」

「フレイに連れてこられて、同じ様に転かされたから

 もう吹っ切ろうと思って」

「あー、ま、それが1番か」

「隙ありー!」

「ぬわ! おま、あ」

「お? おぉ?」


いきなりフレイが飛びついてきたせいで

今度は後頭部から一緒に転けてしまった。

しかも最悪なことにまた最初に転けた水たまりに転けた。


「……フレイ、マジでお前は俺になんの怨みがあるんだ?」


馬乗りになって泥だらけの顔をかなり近付け

楽しそうにしてるフレイに向けて少々呆れた風に聞いてみた。


「怨み? そんなのないよ? 楽しいだけ!」

「あのさ、楽しいのは分かったから俺の上で体を動かすな

 なんかさっきっから楽しそうにぴょんぴょんしてるけど

 下に居る俺にはかなりキツいぞ? その衝撃」

「あはは! リオちゃんの上に乗るのって久し振りな気がする!

 前は沢山こんな事してた気がするんだけどなぁ」

「いや、この体勢はやったこと無いような気がするんだが

 この体勢で俺が下でお前が上なのはさ」


よく乗られたりはしていたが、大体は背中だったような気がする。

で、この体勢ではいつも俺が上でフレイが下だった。

何かやらかしたときに怒ったりすると俺が上でフレイが下だ。

こんな風になるときは、大体俺は逃げてるから背中に乗られるんだよな。


「おぉ! じゃあ、新鮮だね!」

「そうだな…まぁ、それは良いからさっさとどけ」

「嫌だ-、このままで遊ぶの-!」

「何でだよ! 離れろ!」

「えいえい!」

「ほ、頬を触るな! 汚い!」

「今更だよ-、リオちゃんももうとっくに泥だらけだよ?」


そうかもしれないけど、やっぱり頬を触られるのはどうも嫌だ。


「この! お前そんな事すると! 狙撃銃で殴るぞ!」

「い、痛いの嫌だ…でも、ふっふっふ、リオちゃん甘いね!

 この体勢なら、リオちゃんがそんな事を出来なくすることは

 簡単に出来るんだ! 両腕を押さえればね!」

「くぅ!」


や、ヤバい…両腕押さえられた、これじゃあ狙撃銃出せない。

単純な力で俺が勝てる可能性は皆無、この地点で反撃は出来なくなった。

だが、こんな体勢ならフレイは俺を泥だらけの手で触れる事は出来ないはず。

そう言う意味では安全になったと言える。


「はん! だが、これでお前は俺を泥だらけの手で触れなくなっただろう?」

「むぅ、でも、泥だらけのほっぺで触ることは出来るもんね!

 スリスリしてリオちゃんに泥を付けちゃうよ!」

「いや、俺ももう結構ドロドロだし、そんな事しても意味な、うぉ!」

「あはは! スリスリー!」

「止め!」


こ、声出せないじゃん! 下手に声を出したら泥が口に入る!


「いやぁ、面白いね! リオちゃん!」

「ぜ、全然面白かねぇよ!」


体中ドロドロ、服だってめちゃくちゃ汚れてしまった。

こんな状態じゃ、城に入れそうに無いんだけど。


「うぅ」

「フレイさんばかりお姉ちゃんと遊んでズルい! 私も!」

「え?」


…こ、今度はウィンが上に乗っかってきた、え? どうしよう、これ。


「お姉ちゃん、遊ぼう!」

「いや、この体勢でどうやって遊ぶってんだ? と言うかどいてくれ」

「じゃあ、私もお姉ちゃんのほっぺたに手を!」


…また頬が汚れてしまった、いや、今更なんだけどさ。

何? こいつらって頬を触るの好きなの?

確かにぷにっとしてるから触ったら面白いのかもしれないが

触られる方はとてもじゃないけど面倒なんだが。

しかも泥だらけの手で触られるとか嫌すぎるんだけど。


「柔らかいね、お姉ちゃんのほっぺ!」

「そりゃあ、頬だし、お前だって自分で触ったらそうだろ?」

「やっぱり誰かの頬を触る方が嬉しい」


何だか面倒な思考に目覚めているな、なんだってそんな。


「…フレイ、まさかお前」

「教えたんだ-、やっぱりね自分のほっぺたを触るよりも

 誰かのほっぺたを触る方が、面白いし!」

「余計なことを教える…ん?」


フレイの方を見ていると、その奥の方でめちゃくちゃ気色の悪い

笑顔を見せているアルルの姿が映った。


「…アルル! お前!」

「あ、気が付かれちゃいました」

「見てるなら助けろよ!}

「リオさんがフレイさんとウィンさんに襲われている所を見るのに

 忙しくて、助ける事を忘れてましたー」

「お前! マジでいい加減にしろよ! さっさと助けに来ないから

 もう体中泥だらけなんだよ!」


俺だけじゃ無いんだけどな、ここに居るメンバー全員だ。

さっさと止めてくれれば、こんな事にはならずに済んだのに。


「ふっふっふ、リオさん達8人が全員泥だらけ、服もドロドロ

 こうなったら、どうするかなんて一択ですよね!

 さぁ! 行きましょう! 温泉! 我が桃源郷!

 もしくは泥だらけの服を今すぐここで脱いで

 お城のお風呂に入る! さぁ、どっちですか!?」

「…ひ、1人で風呂にはい」

「おぉ! 温泉! 温泉良いね!」

「お、お姉ちゃんと一緒にお風呂、お姉ちゃんと…洗いっこ出来る」

「……うん、良い、アルルにしては良い事言う」

「2年ぶりだし、面白そうだね」

「少し楽しみかな」

「楽しみだね、温泉、私入ったこと無いし」

「一緒にって、楽しみ」


……何て事だ、俺以外全員乗り気じゃないか。


「ふっふっふ、リオさん、この状況であなたは意見を通せますかね?」

「く、くぅ、アルルめ、馬鹿なくせにこう言うときだけ頭がキレる

 まさか周りを利用するとは…」

「そして! 当然皆さんがお風呂に入るときは、私も入れる!

 ぐふふ、待っててくださいね! 私の桃源郷! リオさんと温泉!」 

「…じゃ、じゃあ、シルバーも呼ぼうぜ、どうせなら全員で行こうや」

「な! ま、まさか!」


どうだアルル、お前の思い通りには行かないぞ、正直言って

温泉に行くというのはもはや決定事項、もしも1人だけ行かないと言っても

間違いなくフレイに引っ張られて連れて行かれるはめになるだろう。

だから、行くというのは変えられない、だが、行く人数を増やすことは出来る。

このままだとアルルの奴が1人で俺達の面倒を見る、とか言いそうだが

それは許さん、お前1人じゃ、俺がどんな目に遭うか分からないからな。

だから、シルバー達も来るように仕向ける。

シルバーは今じゃ、あいつの抑止力だ、居ないと困る。


「そうだね! 折角なら皆で行きたいね!」

「うん!」


俺の言葉に全員は賛同してくれた、向こうが俺を温泉に向わせるために

こいつらを利用したというなら、俺は俺の身を守るためにこいつらを利用する。

最初、多数決で決定してしまったのが失敗だったな、アルル

この状況でこの決定を覆し、無理矢理押し切る事は出来ない。


「…どうだ、アルル、完全にお前の思い通りにはならないぞ」

「く、くぅ、保護者が私1人だけでリオさん達とイチャイチャすると言う

 私の最高にして完璧な計画が…」

「押し切りたいなら押し切ると良い、だが、そんな事をすれば」

「…わ、分かってますよ、ここで私が多数決を押し切れば

 リオさんも多数決を押し切れる可能性が出てくる」

「そう言う事だ、ほら! シルバー達を呼んで来いや!」

「く、くぅ! で、ですが、この戦いはどちらかと言えば私の勝利!

 シルバーさん達が居たとしても、私が桃源郷の中に入れるという事実は

 変わらないのです! ただ、お触りが出来なくなるだけなんです!」

「このまま話しても良いんだぞ? だが、その場合は飽き性なフレイの事だ」

「く! わ、分かりました!」


あのまま話を続けていればフレイが痺れを切らして遊び出すかもしれない。

そうなれば、温泉に行くという話は無くなる。

だったらあのままアルルと無駄な会話をするというのも良かったが

フレイの行動は予想できない、最悪の場合もうシルバー達は良いから

私達だけで行こうよ、とか発現してくる可能性がある。

そうなるとアルルがそうですね、とかいって、あいつの思い通りだ。

だから、ここは安全な方を選んだ、勝負をするには危険すぎるからな。

それから、しばらくしてアルルがシルバー達を呼んできた。

シルバーは泥だらけの俺達を見て少しだけ驚いていたが

仕方ないという感じで文句は言わなかった。

それと理由を伝えたからなんだろうが

シルバーは俺達の着替えを用意している様だった。

相変わらず準備が良いな、流石はシルバーだ。

さて、それじゃ、2年ぶりの温泉だな、妥協して楽しむか。

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