不運と無茶
あの騒動の後、俺は病室で目を覚ました…
どうやら意識が飛んでいたようだ。
あの騒ぎの後、何があったかはさっぱり覚えていない。
しかしまぁ、大変な1日だったな
トラももう少し感情の制御が出来れば良いのにな。
まぁ、そんな小言をうだうだ言ったところで一切の意味は無いが。
「あー、頭痛い」
後頭部がまだまだ痛む、すごい勢いでぶつかったんだし、当然なんだけどよ。
それにしてもだ、こう言うときは大体周りに誰かが居るもんだろうが。
っと、思ったら、俺が気が付いてないだけでトラたちが居た。
「あぁ、皆居たのか、って、トラ?」
トラの方を見てみると、ベットが濡れていることに気が付いた。
位置的に涙だろう、顔の真下だし、それにトラの目にも涙が光っている。
この涙の量は尋常じゃない、きっと、俺に怪我をさせたことを後悔して
散々泣いていたんだろうな。
衝動的に行動してしまって、後から死ぬほど後悔する、トラはそう言う奴だ。
「それにしても、あいつらも素直じゃないな、布団を掛けるだけってさ」
アルル達の姿は見えないのだが、その代わり3人に上着が掛けてあった。
確実にあいつらの物だ、布団でも良いだろうが、ここには無かったようだな。
と言うか、トラに掛ってる上着、若干歪んでるな、直すか。
「うぅ……ごめん、なさい……リオ、ごめん、なさい」
上着を直すために近寄ったとき
寝言で何度も何度もトラが俺に謝っているのに気が付いた。
かなり小さくて聞えなかったけど
どうやらその夢のせいでまだ泣いているようだ。
「お願い、だから……1人に、しないで……」
もしかして、謝っても俺が許してくれていない悪夢か?
トラならそう言う夢を見そうだな。
全く、たかが後頭部に瓦礫をぶつけただけなのによ。
そもそも、悪いのはフレイだと思うが……
フレイが目を覚ましたときに、軽く叱っとこ。
「ごめんなさ! あ、リオ……」
「あぁ、起きたか?」
「リオ! ごめんなさい! ごめんなさい!
私を嫌いにならないで! 何でもするから!」
トラは目を覚ますと同時に、泣きながらすごい勢いで俺に抱きついてきた。
ものすごく大きな泣き声だな、それに、涙の量も凄い。
「トラ、落ち着け、大丈夫だって、嫌いになんてならないって」
「えっぐ、ひっぐ、あぁああ!!」
「大丈夫だって、許すからさ、ほら、泣かないでくれよ」
俺は抱きついてきたトラの背中をさすりながら
トラを軽くなだめることにした。
あくまで軽くだ、こう言う時は盛大に泣かせてやっても良いだろう
その方がスッキリするだろうしな。
「安心してくれ、俺はお前を嫌いにはならないさ
すぐに暴走しちゃうけど、本当は優しい子だって知ってるからな」
「うわぁぁああ!」
「まぁ、今は泣いていろ、お前が泣き止むまで、こうしてやるからさ」
俺はしばらくの間、涙を流しているトラの背中をさすった。
ある程度の時間が経ち、トラはゆっくりと落ち着きを取り戻し始めた。
「うぅ・・ヒック、あ、ありが、ありがとう……さずって、くれて」
「落ち着いたか?」
「うん、だから、もう一度、謝る……ほ、本当に、ごめんなさい!」
「よしよし、よく言えました、それが言えれば良い、許すよ」
「あ、ありがとう! ありがとう!」
あぁ、また泣き出しやがった……やれやれ、涙もろいな。
とりあえず、もう一度、なだめてやるかな。
「ありがとう……ごめんなさい、こんなに泣いたりして……」
「それだけ反省してるって事だろう? 気にすんな」
まぁ、俺の服はびちゃびちゃになったがな、鼻水も付いたし。
いや、この程度は大したことないか、俺が我慢すれば良いことだ。
「トラちゃん、やっと泣き止んだね」
「フレイ……起きてたの?」
「そりゃあね、あんなに大きな声で泣いてたら
誰でも起きるよ、ねー、ウィングちゃん」
「うん、トラちゃんが泣き出して、すぐ目が覚めた」
「うふふ~、トラちゃんがリオちゃんに泣きついてるところ
可愛かったなぁ~」
「そうなんだ……情けないところを見せちゃった」
「あ、怒らないんだ」
「反省してるから……怒ったら、またすぐに暴走しちゃうし」
おぉ、ちゃんと感情の制御が出来てるのか、流石は頭が良いな。
「流石トラだ、だが、フレイ、お前はな
なんですぐにトラをからかおうとするんだよ」
「だって、その、こんなチャンスは中々無いからね!
トラちゃんが弱ってる今がからかうチャンス!」
「フレイ、少し躾するよ」
「へ? わあぁあ! 浮いたぁあ! あべしゅ!」
フレイはちょっとだけ怒ったトラにより
少しだけ浮かされ、地面に軽く落とされた。
あぁ、こんな事も出来るのか
そりゃそうか、考えてみれば、二段ベットを浮かせるぐらいだしな。
重さ的には、圧倒的にフレイの方が軽いし……子供だし。
「あいったぁ、もう! 酷いよ!」
「私をからかったのが悪いんだよ」
「何さ何さ! ちょっとだけからかっただけじゃん」
「フレイはすぐに調子に乗るから」
「むー!」
まぁ、うん、フレイは実際、すぐに暴走するから
こうやって定期的に躾けた方が良いんだよな。
今度から俺もそうしてみようかな
いや、俺の魔法だと距離が近いし、結構不利かも。
「どうやら、起きたようですね、リオさん」
「あぁ、アルルか、何処から出て来たんだ?」
「それは、べ・・えっと、待合室です」
「おい、今さっきベって言ったが、どういうことだ?
まさか、ベットの下に居たとか!?」
「ま、まっさか~、あ、あれは、その、あ、そうそう!
別室って言おうとしたんですよ」
絶対に嘘だ、完全にそっぽ向いてるし、もうこいつ怖いわ! 色んな意味で怖いわ!
「絶対嘘だろう」
「嘘じゃありませんよ!? 私のこの純粋無垢な瞳を見てくださいよ!」
「そっぽ向きながら言うなよ、この変態」
「ありがとうございます! じゃない! 本当ですよ〜!?」
「あぁ! もう良い! そう言うことにしとくから!
とりあえず、状況教えろ!」
あんなに大騒ぎになったんだし、絶対にお偉いさんから、何かあるよな。
その事を聞いておかないと、落ち着けないし!
「状況を教えろとは?」
「だから、軍の偉い人に何か言われなかったか?」
「あぁ、はい、別に何も言われていませんね
ただ室内での魔法の使用は極力避けろと」
「やっぱりね、そりゃそうだ、で、部屋とかは変わらないのか?」
「はい、お部屋は変わり無しで、4人の相部屋です
ベットも補充は出来てますし、あー、でも
壁に開いた穴は、まだ仮にしか直ってませんね」
結構大きな穴が開いていたしな、仕方ないだろう。
……と言うか、あれ? そう言えば、壁を壊したのって。
「あ! 思い出したぞ!」
「え? 何を?」
「俺が怪我をした原因だ!
フレイ! お前だ! お前! お前が木くずを思いっきり弾いたから!」
「え? そ、そうだったかなぁ、わ、私は覚えてないんだけど」
「そもそも、フレイちゃんがトラちゃんをからかったのが原因だよ?」
「……あは、ごめん」
「ご、ごめんですむかボケぇ!」
「ギャーーム!」
よし、フレイの頭を殴って、スッキリした。
「うぅ…痛い」
「小さなたんこぶが出来ただけですよ、大丈夫ですって、血は出てませんよ」
「血が出る訳ないじゃん」
「リオさんは少し頭から血を流してましたけどね」
「え? そうだっけ?」
「はい、あの時は驚きましたよ……
本当に大きな音で目が覚めたら部屋が違うし
急いで隣に移動したらフレイさん以外は倒れてましたし
驚愕の一言でした」
まぁ、無事で良かったんだがな
最悪あれは死んでもおかしくなかった気がするし。
「あぁ、そうだそうだ、伝達がありました」
「伝達? 無いんじゃないのか?」
「いえ、これは私達の仕事です、えっとですね、戦闘訓練をですね」
「あぁ、戦闘訓練とかあるんだ」
「はい、魔法を鍛える訓練です、最初は魔力の増強が主な目的ですよ」
「なんで魔力の増強?」
「魔力が増えれば魔法は使いやすくなりますし、強化すれば強力です
ですが、あなた達は適性がSとSSなので
強化よりも魔力の増加が優先でしょうね」
ふーん、魔力の増加か、確かに必須だよな。
今のままだと、あまり長期戦には向かないし。
病み上がりでやるのはどうかと思うが
最弱の国だし、切羽詰まってるんだろうな。
「それじゃあ、練習と行こうか」
「そうですね、それでは付いてきてください」
「はーい」
俺達はとりあえずアルルに着いていくことにした。
その道中でシルバー達と合流、そのまま城の外に出て行き
訓練場にまで来た。
その時にメンバーは各々のチームに分かれて特訓を始めることになった。
俺は安定のアルルだ、こいつと2人っきりってちょっと怖いな。
「それでなにするんだ?」
「練習課題は色々とあるんですが、まずは最初、精神統一です」
「精神統一? どうしてそんな事をする必要があるんだ?」
「精神統一をすることによって魔力が増えていくんですよ
ついでに魔力は常に手元に集中、そうすれば体への負担は高くなりますが
その分、魔力の増加が効果的になりますので」
ふーん、精神統一って奴は魔力を集めるのに必要なんだな。
とりあえずこいつの言ったとおりに精神集中して
魔力を手元に集中させてみるか。
「はい、それでは最初は10分ですので、合図するまでそのままですよ」
「あー、はいはい」
俺はアルルの指示通りに精神統一を始めた。
こう、魔力も手元に移動させての集中はやっぱり結構難しい。
それに何だ…何か、目を瞑って集中しているせいなのか知らないが
誰かの鼻息が良く聞える
もう目の前に誰か居るんじゃないかってレベルに聞える。
もしかしてアルルの奴、目を瞑ってる俺の顔を見てたりしてないよな?
してないよな!?
ちょっと気になるし、目を開けてみるか…いや、でも、訓練中だし。
だが、この近くで聞える鼻息を無視して集中とか
そんな高度な真似は俺には出来ない!
す、少しくらいなら……俺は、ゆっくりと目を開けてみた。
「あー、開けてはいけませんよ?」
「のわぁああ!!」
目の前にアルルがいた、それはもう、本当に目の前だった!
「なな、なんでそんな目の前に!?」
「目を開けないか見ていたのです
もし細目を開けていたら、距離があっては見えませんから」
「そうだな、多少は理に叶ってる
だがな! 近すぎなんだよ! あと、鼻息も荒い!」
「いやぁ、リオさんの可愛らしい顔を見ていたらつい興奮しちゃって」
「自重しやがれ! この変態女がぁ!」
「無理です!」
「断言すんなやコラァ!」
くそう! この女! 相も変わらず変態だ!
もう、こいつと2人っきりとかマジ勘弁だ!
「何処に行こうと言うんですかね?」
「お前と2人っきりで訓練とか嫌なんだよ!」
「と言ってもですね、他の皆さんは皆さんで、別の課題をしているんですよ?」
「え? 同じじゃないの?」
「はい、私達があなた達を見て、どんな訓練が重要かを観察して
課題を作ってるんですよ」
へぇ、上から渡された課題をやってる訳じゃないのか。
「じゃあ、なんで俺はこの課題なんだ?」
「魔力が足りないのが丸分かりでした、魔法を使う度
あなたは確実に調子を悪そうにしていました、微々たる物でしたが
観察が得意な私には分かったんですよね
で、帰るときに寝ちゃった所から考えて
あなたには圧倒的に魔力が足りません」
「そ、そうなのか!?」
マジかよ、そこまで見ていたのか、この変態女。
意外と侮れないぞ、こいつは。
「はい、正直、弱っているリオさんを見るのは嬉しいんですけど
戦場で動けなくなったら大変です
私の大切な上司なんですし、死んで欲しくありません
そもそも、あなたは戦場で無くてはならない存在
あなたが参加したことで、味方軍の損害はほぼ皆無に等しかったですし
実質あれだけの数をあなたが1人で倒したような物ですからね」
結構な評価だな、まぁ、こんな風に俺を評価してくれる奴はこいつくらいか。
戦争時には俺は誰かの前に姿を現していないんだからな。
だから、ハッキリ褒められてちょっと嬉しいかも知れない。
「ですので、あなたがもっと多数の魔力を得れば
ミストラル国は強くなります
だから、私はあなたを本気で指導しますよ」
「そうかよ、分かったよ
だったら大人しく俺はお前の指導とやらを受けてやろう」
「本当ですか!?」
「あぁ、だが! 顔を寄せるんじゃないぞ!? 集中できなくなるからな!」
「分かりました、それでは、もう一度お願いします」
俺は再びアルルの指示通りに精神統一を行なう事にした
……その時間は、恐らく1時間だ。
この訓練、俺には1時間が限界だったんだ
魔力が足りないのがハッキリ分かる。
「はぁ、はぁ、はぁ、うぐぅ」
「ここまでですか、やはり、魔力量が致命的ですね」
「はぁ、はぁ、おい、これ、普通はどれ位耐えるんだ?」
「魔法を扱える方が少ないので良くは分かりませんが、
ミストラル国の魔法の使い手は、これを10時間はこなせるらしいです
それもこなせなくなる理由は飽きたからやお腹空いた等です
つまり、それ以上はこなせます」
「じゅ、10時間!? じょ、冗談だろ? 俺なんか、い、1時間が限界だぞ?」
「いえ、30分ですよ、リオさんの記録は30分です」
マジかよ! 俺、30分程度でこんなに息切れしてるのか!?
あぁ、畜生、やっぱり魔力量ってのが足りないんだな。
「マジかよ、30分かよ」
「はい、恐らくですが魔力量は最低ですね」
「マジか、これは本格的に鍛えないとな」
「そうですね、この程度の魔力量では
長期戦なんかになったら、戦場で尽きて動けなくなります」
はぁ、魔法の能力は高いが、魔力量は非常に低いのか。
でも、鍛えることが出来るみたいだし、何とか鍛え上げるしかないか。
「よし、分かった、それじゃあ、頼む」
「分かってますよ、それではもう一度やってみてください」
「あぁ」
しかし、今度はほんの1分足らずで集中が解けた。
「あ、はぁ、う、うぐぅ」
「どうやら、これ以上は無理みたいですね」
「ま、まだまだ、いけるって!」
だが、アルルの忠告を無視して続けようとすると、体中から力が抜け始めた。
「あ、れ?」
「っとと、大丈夫ですか? 無理はいけませんよ」
「うぅ、なんで……力が抜けたんだ?」
「魔力の使いすぎですね、どうやら、空っぽみたいです、これ以上やったら
魔力の代わりに生命力が消費されます、はい」
「どういう事だ?」
「これ以上やったら、死にます」
マジかよ……ま、魔力ってのは、結構怖いね。
でも、仕方ない、死ぬわけにはいかないしな。
今日はここまでにしておくか、な。
「リオさん? あぁ、また意識を失っていますね
幼いのに無理ばかりするからです
でも、安心してくださいね、私が居る限り、あなたは死なせませんよ」