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森の賢者さま  作者: 山原望
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俺、途方に暮れる。

 何故かイリーガルなブツをロシア人から頂くことになってしまった。

 中身は確認していないので言葉通りカニ缶かもしれないが、あれはどう見ても平和的なモノを入れた梱包ではない。自衛隊に居る時も同じような梱包は沢山見たのだから。かと言って今中身を確認する気にはならず、その辺に破棄するわけにもいかず、仕方がないので良仁は旅行を切り上げて帰ることにした。我が家の裏ならブツを埋めてしまえば露見する事はなかろう。

 ドキドキしながらパトカーに目を付けられないように法定速度で走っていると、古本屋の全国チェーン店の看板が目に入った。

「そういや本を買いたかったんだった」

 自給自足生活を送る上で知識は多い方がいい。勿論ネットで調べる事は可能だが、本を読むのが好きなのだ。それに昔から書斎というものに憧れていて、実際自宅の一室に本棚だけは運び入れてある。まだスカスカなので何か本を入れたいと思っていた。この古本屋ならちょっと古い本は1冊100円だったりするし大量に買うのに向いている。古いと言っても自給自足に必要な情報は載っているし。

 良仁はジープを駐車場に入れた。

 ジープという車は天井がなく、幌が貼られている。ついでに言えばドアに鍵なんて気の利いたものは存在しない。車上荒らしウェルカムな車である。普段は貴重品を持って降りるので気にしないのだが、今回は荷物が多い。と言うか見られては困るものもある。どうしようと10秒ほど悩んで、結局どうしようもないと結論付けた。せめてもの防犯対策で駐車場をちょっと移動し、店内から見える場所に置く。気休めだが。

 久しぶりの本屋にワクワクしながら店内に入った。

 まず100円コーナーに行き、自給自足生活に必要そうな本を探す。園芸、庭造り、DIY、手作り、その他諸々。何やら変なスイッチが入ったのか、タイトルを見て少しでも気になると中身を確かめず籠の中に入れていく。大量になってきたのでレジにお願いして置いてもらう事にした。同じことを数回繰り返し、ちょっとした山ができたところでようやく冷静になった。

「合計で7290円になります」

 意外と安く済んだ。さすがは古本屋である。

 店員が気を利かせて段ボールに詰めてくれたので、台車を借りてジープに積み込んだ。さすがに車内荷物で満杯である。

「むむ、後ろが見えない」

 73式小型トラックは後部座席が対面式で4人座れるが、畳むことでカーゴスペースになる。そこには昨日買い物した大量の調味料とか米とか今日もらったカニ缶とかたった今買った本が入った段ボールで天井までぎっちり埋まっている。当然バックミラーを見ても見えるのは荷物だけである。帰りは更に気を付けよう。勿論安全運転とパトカーにである。


 行と違ってかなり精神的に来るドライブを8時間。慎重に法定速度を厳守して走ったおかげで行きより時間がかかってしまった。途中、最寄り(といっても自宅から15キロ)のガソリンスタンドに寄りジープの給油をする。ちなみにジープは軽油で走るが、排ガス規制で首都圏で登録ができない。

「買い出しかい?ずいぶんと買い込んだねえ」

 顔見知りになった店長が給油しながら話しかけてくる。

「え、ええ。久しぶりの都会で買い過ぎました」冷や汗をかきながら答える。

「そうかいそうかい。あ、そうだ携行缶いらないかい?20リットルのやつが2つあってね、売れ残りというか売れないのさ。よかったらあげるけど」

 携行缶とはガソリン携行缶の事である。

 法律上個人がガソリンを持ち歩く事に制限があるが、20リットルまでなら消防法に適合している携行缶であれば車で運ぶことも可能である。ちなみに良仁のジープの後ろにもガソリン携行缶が付けられているが、これは飾りである。さすがに数十年経過したものを使う勇気はない。

「何だか悪いですけどいいんですか?」

「構わないよ。どうせ倉庫で埃被るだけだからさ。先に一個にガス入れてあげるから、もう一個は今度取りにおいで」

 普段あまり車を乗り回す事は無いが、気軽にスタンドに行ける距離でもないので緊急用にはいいかもしれない。良仁は好意に甘えることにした。

「ありがとうございます。じゃあ先にガソリンお願いします」

「はいよ。ガソリンはXLR用だね。半年以内に使い切りなよ」

 ガソリンは実は長期保存に向かない。空気中の酸素と徐々に化学反応を起こす為だ。そして劣化したガソリンを使うとエンジン部分にダメージを与える可能性がある。

 店長がガソリンを入れた携行缶を助手席に積んでくれ、お金を払い自宅に向けて出発した。


「さて、このパンドラの箱をどうしよう」

 自宅に着いてすぐに本と調味料その他諸々を運び込み、残ったカニ缶を前に良仁は悩んでいた。この箱を開けてしまうと様々な意味で後戻りできないような気がする。ロシア人が積んでくれた木箱は8箱もあり、良仁は意を決してひと箱を開けた。

 中には予想通りのシロモノが詰め込まれている。武骨な印象を受けるライフルが2丁。

 1丁はロシアが生んだ傑作突撃銃AK47。適当なメンテナンスでも作動してしまう気軽さが受け世界各地の紛争地帯にばらまかれている。自衛隊在職中に土浦の武器学校に展示されているのを見たことがある。

 もう1丁はSKSカービン。AK47と同時期に当時のソ連軍に採用されたものの、セミオートしか撃てないとか今のライフルのように弾倉を交換するのではなく、クリップでまとめられた弾丸を銃の上から装填するという旧時代的な仕様により短命に終わっている。しかしこれもまた大量の余剰品が全世界にばらまかれているし、意外と儀礼用に使われていたりもする。ある意味現役品だ。後は予備の弾倉やらクリップやらが箱の隙間に大量に入っていた。

 試しにAK47を手に取ってみる。新品ではないが、十分手入れをされている印象である。まあ販売目的で持ってきたのだろうから当然なのだろうが。

 AK47を戻し、次の箱を開けてみる。そこには小型拳銃が20丁ほど入っていた。ロシア軍正式のマカロフだ。予備弾倉もたっぷりとある。持ってみると自衛隊で使われている拳銃に比べて小さく、非常に持ちやすい。

 残りの箱はまさかロケット砲でも入っておるまいなと危惧したが、全て弾丸だった。4箱はライフル用、残り2箱には拳銃用の弾丸がびっしり詰められていてライフル用はコンビーフ缶のおばけのような緑の缶に、拳銃用は紙の箱に入っていた。俺は一体何と戦うのであろう。

 小一時間ほど悩み、マカロフ1丁と弾丸100発ほど抜いて残りは納屋に隠しておくことにした。合法的に所持している散弾銃はあるものの、あれはあれで使用には様々な制限がつきまとう。こんな人里離れた森の奥なので何があるかわからないからなあと無理やり自分を納得させた。

 しかし良仁とて男の子、要は新しい武器が増えたことに結構ワクワクしていたのである。

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