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森の賢者さま  作者: 山原望
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俺、家を買う。

 赤森良仁は今年32歳になる。

 元妻と結婚したのは二年前、陸上自衛隊に在職しており、二等陸曹の階級にあった。完全に文系であった彼がなぜ選んだのかは自分でもわからないが、中学卒業後陸上自衛隊少年工科学校を受験し15歳にして自衛隊の世界に入った。卒業後三等陸曹に任官、昔からパソコンが程々に使えたので適正を見込まれたのか実戦部隊ではなくて後方支援部隊に配属され、年上の部下の扱いに困りながらも淡々と仕事をしていたら上から重宝されるようになっていた。あれ、と思っているうちに昇任試験を受けさせられ無事二等陸曹に昇進してしまった。

 任官後長らく事務系の仕事をしていた為雰囲気的には軍人というより文官で、勤め先が自衛隊と言うと初対面の人には大いに驚かれたものだ。そしてとある合コンで元妻に出会い、女性に免疫の無かった彼がコロッと惚れてしまったのも無理からぬところであろう。元妻からは暫く都合のいいキープにされていたが、さすがに30が近づいてきて焦ったのか公務員の安定さを求められ結婚となったわけである。

 さて、離婚のごたごたで心身ともに疲れ切った良仁は職場に辞表を提出した。

 事情を知っている上司からかなり慰留されたものの、決意が固いとわかると辞表を受け取ってくれた。

「次の仕事は決まっているのか?」

強面ながら部下の面倒見の良さで知られる上司に聞かれ、良仁は「いやあ、しばらくは俗世間から離れて暮らそうかと思いまして」と答える。

「まあ君の人生だし、それなりの貯金はあるだろうから何も言わないが。世間は厳しいぞ?」

若干うざいと思いながらも本当に心配してくれているのがわかるので嬉しく思う。自分はいい職場に恵まれたと実感する。

「はい。ご心配ありがとうございます。」

 上司のもとを辞し、自席に戻ると今度は部下たちが話しかけてくる。

「赤森班長、本当に辞めちゃうんですか?」

「あんなクソ女の事なんか忘れましょうよ。自分が女紹介します」

「そうよそうよ。何ならパンピーの友達紹介するわよ?人生まだ長いですって」

 部下たちの言葉がじんわりと心に染みてくる。本当にいい職場だったなあ。

「ありがとう。でも自分を見つめなおしたいんだ。みんなには迷惑かけるけど」

 迷惑だなんてそんなことないっすよと、部下たちは笑顔で言ってくれる。

「ちらっと聞きましたけど、どこか田舎に引っ込むんですか?」

 部下の紅一点、永津陸士長が聞いてきた。彼女はOLからの転職組で、民間の事もよく知っている。新卒でそのまま自衛隊に入隊した組は民間会社を知らず、良くも悪くも自衛隊の常識から離れられない。その点、民間会社からの転職組は世間の厳しさを知っている。良仁の部署は自衛隊外との折衝も多いので非常に助かっていた。

「うん、山奥の一軒家とか最高」

「や、山奥ですか…」若干笑顔が引きつる永津。「や、知り合いが不動産会社にいますんで紹介しましょうか?山奥の物件があるかはわかりませんけど」

「それはぜひお願いしたいね」

「了解です。じゃあ後で話しておきますんで」

「ありがとう」

 にこっとお礼を言うと若干頬を赤く染めた永津が何かごにょごにょ言いながら自席に戻って行く。

 良仁はその様子に首を傾げながらも、退職に向けて引き継ぎをするため資料をまとめ始めたのであった。


 2か月が過ぎ、無事退職した良仁は北海道にいた。

 永津の紹介してくれた不動産屋は残念ながら田舎の物件には疎く、それでも「永津姐さんのご紹介ですから!!」と別の不動産屋を紹介してくれた。てか永津姐さんとは何ぞや。

 紹介された不動産屋は北海道にあり、問い合わせてみると山ではないけれど、森の奥にあるバンガローが丁度売りに出ているとの事であった。メールで写真を送ってもらうと、二階建てのバンガローで5LDK。一人暮らしには広すぎる位だ。しかも売主が何を思ったのか太陽光発電のシステムを組んでおり、大量に電気を消費しない限り普通に電気を賄えるとの事。そういったことで電気は来ていないが、水道も基本的には地下水をポンプでくみ上げるので通っていない。インフラについては自給自足が可能である。

 土地は森を切り開いた500坪。畑もあるがここ1年は放置されているらしい。なので畑を再開するためには少し耕す必要はあるが、それでもゼロから始めるよりはよい。

 そして、驚くことにお値段は50万円。不動産屋によると、最寄りのスーパーまで約100キロもあり半径15キロ圏内に民家も無いので、まったくと言っていいほど買い手が付かないそうで。

 これはかなり希望に合っているかもしれない。早速内見をお願いし、同行できないという不動産屋から鍵だけ渡され、レンタカーでかなりの距離をドライブした結果一目で気に入り、速攻で購入を決めたのであった。


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