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雪獣人の里

ルビを振るのに、毎回地味に時間が掛かるので

今回から雪獣人➡イエティと、最初から書くこ

とにしました。

「イナバ様、里まではもう少しです!」


 カグヤは、まるで初めて友達を家に招き、お泊り会をする子供のような

ウキウキとしている様子でそう言った。


「先に急いで帰らせた者達が、里に状況を説明しているはずですから、既

に歓迎の準備を整えてくれているでしょう」

「ありがとうございます。恐縮です」


 現在、イナバはカグヤ達に案内されながら、カグヤ達『白の賢者』族の

里に向かっていた。

 『命を救っていただいたお礼をさせて下さい!!』とカグヤ達に言われ

里でもてなしをうける事になったのだ。

 そう言えば腹が減っていたし、野宿をしなくて済みそうなので、渡りに

船と言わんばかりに、喜んでその申し出を受けた。

 ちなみにカグヤ達にも『様付けなんてしないで、気楽に呼び捨てにして

下さい』と言ったが、揃って『それはできません!!』と言われてしまっ

た。


 なんでも彼女達の話では、イエティ・ロードというのはイエティ達に栄

光と繁栄をもたらす者として伝承で語られているらしく、彼女達……イエ

ティ達にとっては尊ぶべき存在なのだとかなんとか……。

 そんな理由でカグヤ達は、イナバを呼び捨てにする事を断固として拒否

した。その瞳の中に、リッカの時と同じく強固な鋼の意志が宿っていたの

でイナバはまたしても、その辺は諦めることにした。


「……重くないか?大丈夫か?」


 イナバはふと、自分が乗っている者に対してそう言う。


「ガウッ!!」


 イナバを乗せている者は、それに『大丈夫!!』といった様子で、はつ

らつと答える。

 その声に反応して、カグヤ達がビクッと微かに震える。……いや、正確

には、震えたのはカグヤ達を乗せている者達だ。


 この辺りでは『リブー』と呼ばれている、トナカイによく似た動物だ。

 モンスターと呼ばれるような獣達と比べると、戦闘能力はほぼ皆無と言

ってよく、知能もあまり高くない。特別なスキルなども持っていないが、

寒さに強く、水分さえ取っていれば10日くらいなら食事をしなくとも問題

無い。

 さらに見た目以上に重い荷物を乗せて、長い距離を移動できる事から、

この辺りでは昔から騎乗動物として重宝されているらしい。


 そのカグヤ達を乗せたリブー達が、イナバを自らの背中の上に乗せてい

る者――純白のマンティコアの出した声に怯えて、体を震わせたのだ。カ

グヤ達が『どう!どう!』とリブー達をなだめる。


 現在、リブー達はやや遠巻きながら、イナバを乗せたマンティコアと並

んで歩いている。

 だが、最初にマンティコアと会った時……カグヤ達がマンティコアと戦

っていた場所から少し離れた場所にあった木に繋いでおいたリブー達の元

に、イナバ達を連れて戻った時は大変だった。

 イナバ達の後ろに付いて来ていたマンティコアを見た途端、狂った様に

怯え始め、木と繋いである綱を引きちぎらんばかりに暴れて逃げようとし

ていた。カグヤ達がなだめて落ち着かせるのに、体感で30~40分くら

いはかかったのではなかろうか、とイナバは思う。無理もないが。

 今もまだ、完全に警戒している。無理もないが。


 ちなみにイナバがマンティコアに乗っているのは、マンティコア本人が

乗ってほしそうにしていたからだ。

 巨大な獅子の背中に乗る、巨大な兎……中々にシュールな画である。

 おそらく、カグヤ達がリブー達に乗るのを見て、『それなら、ご主人は

ぜひ自分にお乗り下さい!』みたいなことを考えたのだろう。輝く眼で懸

命に訴えかけてきていた様に見えた。


 カグヤ達も、自分達は騎乗動物に乗って、イナバ達を歩かせるのはどう

なんだろう?みたいな空気になっていたので(流石のリブー達でもイナバ

を乗せて歩くのは無理なので、譲ることもできない)イナバも彼女達に気

を使わせない為、マンティコアの厚意を素直に受け取ることにしたのだ。

 ちなみに、当然だがリッカも一緒に乗っている。イナバの前に、椅子に

腰掛ける様に優雅に座っており、イナバの腹に僅かに寄り掛かり、身を預

けている。

 イナバの体がでかい為、巨大なマンティコアの上といえど、2人乗りで

は多少狭くなってしまうので、これは仕方のない事だ。


「リッカ、暑苦しくないか?」

「いえ、全く!」


 リッカの声にはイナバに気を使って我慢をしている様な感じは無く、そ

れどころか、心なしか少し上機嫌そうな印象を受けたので、イナバはとり

あえずホッとする。


 イナバは気付いていないが、カグヤが度々リッカのことを羨ましそうな

眼差しでチラチラと見ていた。


 マンティコアはイナバとリッカの2人を上に乗せても全く辛そうな様子

も無く、平然と歩いている。流石はレベル60台でイナバ以上の巨躯を誇

るだけのことはある。(イナバが殴って与えたダメージはちゃんと回復さ

せた)


 カグヤ達の里に向かって森の中を進んでいる途中、イナバのスキル

【脅威感知】にはちらほらと、大分離れた所からイナバ達に向かって警戒

しているかのような小さな敵意を放っている者達の反応があった。

 森の動物達やモンスター達がマンティコアを恐れ、遠巻きに様子を窺っ

ているのだろう。警戒してはいるものの、近づいて来ようとする気配は皆

無だった。


 それを知る由も無いカグヤ達は周囲を警戒しながら進んでいた為、里に

向かっている間、会話は他愛もないものを少々しただけで、ほとんど無か

った。

 脅威感知のことはリッカはともかく、同族とは言え、合って間も無いカ

グヤ達にまでは、まだ話す気にはなれない。


 その僅かな他愛もない会話をしている際に、イナバはある事に今更、本

当に今更になって気付いた。


(……あれ?そう言えば日本語で会話してるな……)


 という事に。

 本来ならリッカと会話をした時に、気付くべき事だったはずだ。

 イナバはもちろん、リッカやカグヤ達も普通に日本語を喋り、会話が成

立している。もしかして、この異世界では日本語が標準語なのか?などと

まずあり得ないようなことを一瞬考え、いや!そうではないとすぐに気付

く。

 これはあるスキルのおかげだと。


【万能翻訳】というスキル。

 その効果は、自分の喋る言葉、書いた文字などが聞いた相手、見た相手

が理解できる言語に自動的に翻訳され、自分以外の者が喋る言葉、書いた

文字などもまた、自分が理解できる言語に自動的に翻訳されるというもの

だ。

 ただし、このスキルは言語を言語として理解している者の言葉や書いた

文字にしか効果を発揮しない。なので、知能の低い獣等と会話をしたりす

る事はできない。


 このスキルの説明を『転生の門』で見た時は、『このゲームには外国語

で話すキャラが登場するようだな……ならば、これは必須だ!』と思い、

習得しておいた。イナバは日本語以外はからっきしなので即決だった。(

もしかしたら日本語も怪しいかもしれないが)


(習得しておいて良かったな……)


 イナバはしみじみそう思う。

 里に向かい始めてから、1時間程たった頃だろうか、


「イナバ様、里が見えて来ました」


 カグヤが前方にある岩山を指差しながら言う。

 イナバが元居た世界にあった、エアーズロックと呼ばれる岩を彷彿させ

る、遠目に見ると平べったいような形をした巨大な岩山だ。


 その岩山までの距離が200~300m程になると、岩山の中に通じて

いるであろう洞窟の入口が見えてくる。イナバやマンティコアでも余裕で

通れそうな巨大な洞窟だ。入口には木で作られた、それなりに頑丈そうな

門が築かれているが、今は開かれている。

 そして、その入口の前には約30人程のイエティ達が居た。

 その先頭には、壮年の渋い雰囲気を漂わせるソーサラの男性が立ってい

た。やはりローブの様な物を身に纏い、スタッフを持った、いかにも魔法職とい

った感じの恰好をしている。

 そのイエティ達の前まで来ると、カグヤ達はリブーから降りる。イナバ

もマンティコアから降り、リッカもヒラリと華麗に下に降りた。

 カグヤは、壮年の渋いソーサラの男性に話しかける。


「父様。ただいま戻りました!」

「……うむ。よくぞ戻った」

「イナバ様、紹介致します。この人が……」


 カグヤの言葉を、『父様』と呼ばれた男性が軽く手を上げ、遮る。


「良い、カグヤ。……初めまして、イエティ・ロード……イナバ様!

私は『白の賢者』の現族長を務めております、アマラオと申します……そ

この娘、カグヤの父でございます」


 族長を名乗る男性――アマラオは胸に手を当て、ゆっくりと丁寧に、敬

意を感じさせる動きで頭を下げる。


「先に帰還した者達から話は聞いております。……我が娘、そして我が里

の精鋭達の命を救っていただきました事、心の底から感謝致します!」

「初めまして、イナバです。いえいえ、娘さん達にも言いましたが、本当

にたまたま通りかかっただけなので……どうか頭を上げてください」


 カグヤって族長の娘だったのか、などと考えながらイナバがそう言うと、


「例えそうであったとしても、救っていただいたという事は事実。本当に

ありがとうございました!」


 と言って。アマラオは繰り返し深い感謝の意を示してきた。

 その姿からは、娘や里の仲間達のことを深く思っていることが感じられ

イナバは『良い上司だなぁ』と、好印象を抱いた。


 ふとイナバは、アマラオの後ろにいる者達がヒソヒソと話しているのに

気が付く。


「あれが、伝説のイエティ・ロード……」

「た、確かに……ウォーリアとソーサラの特徴を兼ね備えているようには

見えるが……」

「何と言うか……想像と少し違うな……」

「……お前達!」


 アマラオが、ヒソヒソと話す後ろの者達に猛禽類を思わせる様な鋭い目

つきを、怒気と共に向ける。


「「「!も、申し訳ありません!!」」」


 頭を下げてアマラオ、そしてイナバに向かって謝罪をする者達を見て、


(ついさっき、全く同じシーン見たなぁ……)


 と、イナバが思っていると、マンティコアが低く唸りながら、先程まで

ヒソヒソと話していた目の前のイエティ達を睨み付ける。強大なマンティ

コアに怒気を向けられたイエティ達は「ひぃ!」と小さな声を上げて震え

上がる。


 もしかして……自分の主人が馬鹿にされていると思って、怒ってくれて

いるのだろうか?とイナバは考える。リッカも、先程の様に顔をしかめ

てはいないものの、やはり不機嫌そうだ。


「おい、気にするな!俺は全然気にしてないぞ」


 イナバはマンティコアの頭に手を当て、優しく撫でながらそう言う。

 マンティコアは、「ご主人がそう言うなら……」といった様子で唸るの

を止める。どうやらイナバの為に怒ってくれていた、という考えは当たっ

ていた様だ。


(案外、可愛いところあるじゃないか……こいつめ!)


 そんなことを考えながら、イナバはマンティコアの頭をさらに撫でる。

 マンティコアは、主人が何故だか上機嫌になっているのを感じ取り、自

分もなんだか嬉しい気持ちになって、ゴロゴロゴロと猫の様に喉を鳴らす。


その様子を見ていたアマラオが、静かに口を開く。


「……見よ、お前達!先に帰還した者達の言っていた通り、この強大なマ

ンティコアを完全に服従させている。これだけでイナバ様のお力を疑う余

地は無かろう」

「は、はい!本当に申し訳ありませんでした!」

「イナバ様、大変失礼を致しました」


 アマラオは深く頭を下げる。アマラオの後ろの者達も、同じ様に再び頭

を下げる。


「いえ、本当に全く気にしていませんので、そちらも気になさらないで下

さい」

「……寛大なお言葉、感謝致します。

さて、いつまでもこのような所で立ち話もなんでございましょう。さあ、

里の中へどうぞ!歓迎の用意をしております」

「恐縮です。お邪魔します!」

「ささ!イナバ様、こちらへ!」


 イナバ達はアマラオ、カグヤ達に先導され、洞窟の中へと歩を進める。

 洞窟の中に入ると、後ろで入口の門が重量感を感じさせる音を立てなが

ら、ゆっくりと閉じていく。

洞窟の長さはそれほどでもなく、入り口から50m程先に既に出口が見え

ている。真っ直ぐな1本道の洞窟は、壁に等間隔で松明が取り付けられて

おり、意外に明るかった。また、地面はそれなりに平らに整地されていた

為、足元を気にする必要は無かった。



 洞窟を抜け、外に出ると30~40m程の高さの岩壁に囲まれた、それ

なりに広い場所に出る。頭上には曇った空が広がっていた。

 どうやらこの岩山は上空から見ると、ドーナツの様な形をしていて、中

心部が空洞になっていたようだ。

 『白の賢者』族はその空洞の中に村を築いていた。高く分厚い岩壁に囲

まれた村里、出入口はたった今通って来た洞窟1つしか無く、あれを通ら

ずにこの里に入るには岩壁をよじ登るか、空を飛んで上から入るか、あと

は地面を掘って地下から侵入するかだ。


 中々良い場所を見つけたものだなぁ、とイナバは思う。守り易く、攻め

難い、ここは言わば天然の要塞だ。


 里の様子はというと、煉瓦の様な物を積み重ねて作られた石造りの家が

建ち並んでおり、畑や牧場の様な場所も見受けられる。牧場らしき場所で

は木の柵で仕切られた敷地内にリブー達が何十頭も放牧されていた。


「あれが私どもの家です」


 里の中心辺りにある広場の様な所まで来ると、その広場の近くにある一

際大きくて立派な家を指差しながら、アマラオがそう言った。


「じゃあ、お前はしばらくここで待っていてくれ」


 イナバはマンティコアに広場で待機しているよう指示を出す。

 マンティコアはコクリと頷くと、その場に伏せた。

 ふと周りを見渡すと、大勢のイエティ達が広場に集まり、イナバとマン

ティコアを遠巻きに見ている。

 「あれがロード……」「なんか想像と……」といった話声がそこかしこ

から聞こえてくるが、いいかげんそろそろ慣れてきたので、イナバは努め

てスルーした。アマラオやカグヤ、ガディア達が無言で申し訳なさそうに

軽く頭を下げてきたので、いえいえ、といった感じで軽く手を振る。

 小さなイエティの子供達は、イナバよりもマンティコアの方に興味津々

な子が多いらしく、ビクビクしながらもソロリソロリとマンティコアに近

づいて行き、マンティコアに視線を向けられると「きゃ~~!」と叫んで

笑いながら離れて行く。そしてまたソロリソロリと近づく、を繰り返して

いる。


「里の人達が攻撃でもしてこない限り、絶対に暴れちゃダメだぞ!分かっ

たか?」


 イナバがマンティコアの頭を撫でながら、言い聞かせる様に言うとマン

ティコアは再びコクリと頷く。


「よしよし!……あ~…そういえば、いつまでも『お前』とか『マンティ

コア』っていう種族名のまんまじゃ、ナンだな……お前にも名前を付けて

もいいか?」


 マンティコアは、嬉しそうにブンブンブンと首を何度も縦に振る。


「そうか!それなら…………あ!念の為聞くけど、お前オスだよな?」


このマンティコアは立派な鬣を持っているので、わざわざ聞くまでもない

かとも思ったが、イナバは一応確認しておいた。もしかしたらこの異世界

では雄雌の特徴が、イナバの元居た世界とは逆だったりする可能性も無い

わけでは無いからだ。……もっとも、マンティコアはあくまでライオンっ

ぽい見た目をしているだけで、ライオンではないので、ライオンの雄雌の

特徴を当てはめるのは間違っているのかもしれないが。


イナバの質問に、マンティコアは『その通り』といった感じでコクっと頷

く。


(ふむ……ライオン……ホワイトライオン……大帝……レオ……良し!)

「レオニダスっていうのはどうだ?」

「ガウッ!!」


 マンティコア――改め、レオニダスは3本の尻尾を降りまくりながら、

主人に向かって感謝の意を込めた声を上げた。

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