確かめてみる!俺がどれだけ強いか!
・2015/12/11
この話の内容を、主に魔技に関する部分を中心に
少し編集しました。
確認作業は大事だ。
どれほど高い性能、強力な能力を持っていようと、それらの使い方が解
らず使いこなせなければ意味が無い。宝の持ち腐れだ。
車やバイクを運転するのと同じ、能力と根性のないウスラボケはどんなモ
ンスターマシンに乗ってもビビってしまってみみっちい運転をしてしまう
と、とある家の兄貴も言っている。
自らの力の使い方を知り、いざという時に迷いなくそれの使えるようにし
ておくのはとても大切なことだ。
「先ずは魔法からいってみるか!」
イナバは期待に満ち溢れた顔で呟く。
ファンタジーな世界に来たなら、とにもかくにも先ずは魔法だろう。
そんなよく分からない理由で、取り敢えず最初に魔法が使用できるか確
認することにした。
キャラメイク時、『魔法』の選択画面にあった、いくつかの説明文を思
い出す。
『これからあなたが転生する異世界では、空気中に『マナ』と言うものが
満ちており、その異世界の全ての生物は、基本的にはその『マナ』を自ら
の体内に取り込み『魔力』と言うのものに変えることができます。(種族
によって得意、不得意があります) その『魔力』を消費することで、魔
法を発動させることができます』
『その異世界では、魔法は習得難易度によって『一つ星』から『八星』ま
での階級のようなもので分けられています。
『星』の数が多い魔法ほど習得難易度が高く、習得できている者は少ない
です。
また、基本的に『星』の数が少ない魔法の方が、発動に必要となる『魔力』
も少なく済みますが、その分大きな力は発揮できません。
そして『星』の数が多い魔法ほど、基本的には発動に必要な『魔力』は多
くなりますが、その分大きな力を発揮してくれます』
『また魔法の発動のさせ方には魔法の名前を口に出して行う、通常の『詠
唱発動』と魔法の名前を口に出す必要が無く、即座に発動が可能な『無詠
唱発動』があります。『無詠唱発動』は『詠唱発動』よりも速く魔法を発
動できますが、その分通常よりも多くの『魔力』を消費し、効果も若干弱
まります』
(どの魔法にしようか……)
イナバは習得した魔法を思い返す。
あんまり『星』の多い魔法を使って、魔力を多く消費するのは避けたい。
いざという時に魔力が足りなくなって、使いたい魔法が使えないなんて
事になったら目も当てられない。
といあえず真ん中くらいの『四つ星』魔法あたりにすることにした。
(……【召喚魔法】でいくか!召喚魔法……いいねぇ!いかにもだ!!)
召喚魔法という言葉の響きに酔いしれながら、イナバはゲームや漫画の
キャラが魔法を使う時の様子を思い浮かべ、とりあえず人差し指をビシッ
と前に突き出す。
(普通に詠唱発動で良いよな。戦闘中でも無いのに無詠唱にして、わざ
わざ余計に魔力を消費する必要もあるまい、数は……4体くらいでいくか)
すぅ~~と息を吸い込み……意を決して、発動させる魔法の名前を叫ぶ。
「【召喚魔法】!氷の精霊・スノウマン!!」
魔法を詠唱した瞬間、自分の中から何か、目には見えない何かがほんの
少し、抜けていくような感覚があった。おそらくこれが魔力なのだろう。
イナバの詠唱に応じ、空中に青白い小さな光が4つ、蝋燭の灯りの様に
ポツリと灯る。
4つの光は膨れ上がるように大きくなり、150cmほどの身長を持つ
雪ダルマのような形の精霊に変化した。
雪でできた大きな玉の上に、それより少し小さい雪玉が載っている。
上に載った玉には、人間でいうと目のある位置にそれを思わせる2つの
浅い窪みがあり、鼻がある位置にはニンジンのようなものが生えている。
赤いバケツを帽子の様に被り、首?にあたるであろう2つの玉の接合部
分には、これまた赤いマフラーを巻いている。
下の大きな雪玉からは2本の腕は生えているが脚は無く、地面から30
cmくらいの高さでフワフワと浮いている。
まさに浮遊する雪ダルマ、と言った感じの姿の精霊だった。
「おおおぉぉぉぉおおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉ!!」
無事、魔法の発動に成功し、感動の雄叫びを上げる。
魔法が使える。
ゲームや漫画、ラノベなどが好きな人ならば、大体の人が今の自分の感
動を理解してくれるのではないかとイナバは思う。
なんだろう、このえも言われぬ高揚感は……。
(え~と……召喚した精霊は召喚者が自由に操れたハズだよな。よし……)
「せ、整列!」
イナバがそう叫ぶと、4体のスノウマンは空中を滑るような機敏な動き
で移動し、イナバの正面――2mほど離れた位置に横一列になって整列す
る。
「き、気をつけぇ!」
スノウマン達は両腕を身体の横に付け、地面に向かってピンと伸ばし、
ビシッと気をつけの姿勢をとる。
「おお~~!!」
素直に命令に従うスノウマン達に再び感動しつつ、満足気な声を上げる。
(召喚した精霊は特別な方法を使わない限り、一定の時間が経過すると消
えちゃうんだったよな……タイムリミットの前に消しちゃうのは何となく
勿体ないし……そうだ!この子達にスキルの確認作業の手伝いをしてもら
おう!)
ナイスアイディアと言わんばかりに、イナバは手をポンッと叩く。
(確か習得したスキルの中に、見た者のレベルを知ることができるスキル
があったはずだ。この子達で試してみよう!)
『スキル』とは、選択した種族や職業によって、習得できるものの種類
が変わる特殊能力である。
『転生の門』の中では、種族や職業を決めると最初から付いてくる『基
本スキル』と言うものや、自分で選んで後から習得するものもあった。
『実際に目で見た者のレベルを知ることができます!
このスキルを使用すると、あなたの視界内にいる者の体から色の付いたオ
ーラが出て見えます。その色によって大まかにレベルを判別できます!
レベル1から9の場合は、オーラが出ません。
レベル10から19の場合は、白。
レベル20から29の場合は、灰色。
レベル30から39の場合は、黒。
レベル40から49の場合は、青。
レベル50から59の場合は、黄。
レベル60から69の場合は、赤。
レベル70から79の場合は、紫。
レベル80から89の場合は、銅。
レベル90から99の場合は、銀。
そしてレベル100以上の場合は、金といった具合です!』
という説明文が付いていたスキル。
これを見た時は(ん?このゲームでは基本的には、敵のレベルが表示さ
れない仕様になってるのか?なら、これは習得しといた方が良いかな?)
と思い、習得しておいたスキルである。
(たしか……【強度測定】だったよな。ええとスキルの発動の仕方は……)
イナバは考えを巡らせる。
スキルも魔法のように、名前を口に出しても出さなくても、どちらでも
発動できるのだろうか?
スキルは魔法と違い、発動に魔力を消費しないので(消費するスキルも
あるが)口に出さずに発動すると追加で余計な魔力を消費したり、効果が
弱まったりするという事も無い。
なので、口に出さずとも発動できるならそれに越したことはない。
とりあえず試してみるか、と考え、発動させたいスキルの名前を頭に思
い浮かべる。
(【強度測定】!)
すると、目の前に並んでいるスノウマン達の体から、揺らめく湯気のよ
うなオーラが立ち上った。
どうやら、『使用したい』という明確な意思を持ってスキルを思い浮か
べることで発動できるようだ。
(ええと……たしかこの魔法で召喚できるスノウマンはレベル40から4
5……だったハズだから……)
スノウマン達からはちゃんと青いオーラが出ている。
どの色がどのレベル帯を表すかは、バッチリ記憶している。
英語のスペルや歴史の年号などは全然憶えられないのに、ゲームに関す
る知識や単語などはスルスルと頭に入る。不思議なものだなとイナバは思
う。
(よしよし!……ん?)
【強度測定】が正確に発動していることを確認し、満足気に頷いている
と自分の体からもオーラが出ていることに気付く。
オーラの色は金色だ。
イナバが…いや稲葉浩が子供の頃よく読んでいた(というか大人になっ
てからも普通によく読んでる)とある漫画の主人公、穏やか心を持ちなが
らも激しい怒りによって目覚めた伝説の戦士を彷彿させる。
これで自分がレベル100以上……レベル150が再現されているのは、
まあ確定したと思っても良いだろう、とイナバは考える。
(スキルの発動の確認作業はOKっと!……いや、待てよ!?もしかして……)
イナバはふと気付く。
もしかしたら、スキルはさっきからとっくに発動していたのではないか
……と。
実はその通りである。
イナバはさっきから、いくつかのスキルをすでに発動させている。
例えばイナバが先程、これは夢だ!と思い、目を覚ますた為に自分の顔
を何度も殴ったにもかかわらず、痛みを全く感じなかったのは【衝撃吸収】
というスキルの効果である。
その効果は『殴打ダメージの完全無効』。【吸収】という名前ではある
ものの、限界無くいくらでも殴打攻撃によるダメージを完全に無効化して
くれるスキルだ。
また、その後にイナバが視界にすら入っていない『狼の怪物達』の気配
のようなものを察知できたのも、別に勘とかそういうものではなくスキル
の効果によるものだ。
【脅威感知】という名のスキル。その効果は自分の周囲、半径1km内
に存在する『自分』及び『自分が仲間』と認識している者に対して害を与
えそうなものを感知できるというものだ。
このスキルは、『害意』や『敵意』、『殺意』といった様々な『意』を
放つ生物は勿論、死角から飛んでくる矢や砲弾、地中に埋められた地雷や
巧妙に仕掛けられたトラップ、さらにはアンデットモンスターやゴーレム
といった生命を持たない脅威をも感知することができる、
超便利スキルである。
数あるイナバのスキルの中でも、これからイナバが1、2を争うくらい
お世話になるであろう(というか、なる)スキルだ。
さらにもう1つ。
今イナバがいる平野は一面雪に覆われ、どんよりと曇った空からはぽつ
ぽつと雪が降ってきている。しかし、イナバは全く肌寒さを感じていなか
った。
それどころか、まるで日差しの良い秋の日の昼間のような心地良い気温
にすら感じている。
これはイナバの体が肥えていて、ふわふわの体毛に覆われているからと
いう理由では無く、スキル【冷気無効】のおかげだ。
『雪獣人』という種族が皆、生まれつき身に付けている基本スキルの1
つに【冷気耐性】というスキルがある。
名前の通り、冷気に対しての耐性を得るスキルであり、このスキルの効
果で『雪獣人』達は皆総じて『氷属性』の攻撃に強く、また極寒の環境で
あっても体温を奪われることが無い。
【冷気無効】はその強化版だ。これによってイナバは『氷属性』の攻撃
に強いどころの話ではなく、完全にダメージを無効化できる。
勿論、体温を保つ効果はそのままだ。
スキルには、自らの意志で一時的に効果を発動させる『任意発動型』の
スキルと、意識して発動を止めない限り、常時自動的に発動しっぱなしの
『常時発動型』スキルがある。
【強度測定】は前者、後の3つは後者だ。
(……スキルは確認作業するまでも無かったのか……い、いや!俺は
『任意発動型』スキルの発動確認をしたんだ!無駄なんかでは決して無い!)
自らを納得させるように、うんうんと頷く。
続いてイナバは『魔技』の確認作業に入ることにした。
魔技とは『転生の門』の中では、戦士職に分類される職業を持つ者のみ
が習得できる特殊な技だ。
魔力を使い、己の肉体や武器、技を強化する事ができる。
魔技は使い手の力量によって、同じ魔技でもその効果の程に大きな差が
出る。
戦士にとって必要な物理攻撃力等のステータスや技量の低い戦士……要
するにレベルの低い戦士の使う魔技は大した効果を発揮してくれない。
当然、魔法も使い手によって威力に多少の差は出る。しかし、ある程度
一定の威力は保障されている。
魔技は使い手のステータス、技量に左右される効果の幅が大きすぎるのだ。
例えば、高レベルの熟練戦士と凡庸な才能の駆け出し戦士が居て、その
2人が同じ魔技を発動させたとしよう。
熟練戦士はその魔技を使った攻撃で、強固な金属の鎧を着こんだ敵をも
両断できた。
しかし、駆け出し戦士は同じ魔技を使った攻撃にも関わらず、安い素材
で作られた皮鎧すら貫け無かった……ということもある。
その為(これはまだイナバは知り得ない事だが)この世界では魔技を過
信して、未熟な戦士が無謀な戦いに身を投じないよう、自分の弟子達があ
る程度の力量に達するまで、決して魔技の伝授をしないようにしている戦
士も少なくない。
また、魔技は使い手の『戦意』というものが効果の程に大きく影響する。
戦意が大いに高まっている時、即ち戦闘時に使うのと比べて、非戦闘時
に使う魔技はこれまた大した効果を発揮してくれないのだ。
どうしてかは分からないが、とにかくそういうものらしい。
魔法も精神状態が効果に影響を与える事はあるが、魔技に比べると影響
は大分少ない。そして魔法は、戦闘時以外でも活躍することが多い(と言
うかそっちの方が多い)為、この世界では戦闘用の攻撃魔法というものは
意外と種類は少なく、日々の暮らしを助けてくれるような魔法の方が多く
研究されており、また人々にも求められている。
イナバは『魔法使い』の職業と戦士系の職業である『修行僧』や『|拳闘
士』等
複数の職業を組み合わせて選択した……所謂、魔法戦士といった
感じのキャラだった。
しかし、どっちつかずの器用貧乏なキャラにならない様、選んだアバタ
ーの基礎ステータスが戦士職よりだった事もあり、魔法はおまけ程度に考
え、ステータスのポイント振りやスキルの選択等はかなり戦士職側に比重
を置いたものにし、魔法はあくまでも補助、と割り切ったキャラメイクを
行ったのだ。
つまり、イナバの戦闘においてメインとなるのは魔技であり、自分の身
の安全を考えるなら魔法よりも魔技の発動確認こそ、優先して行うべき作
業だったのだが……『ファンタジーな世界に来たら先ずは魔法!』という
しょうもない欲求に逆らえなかったのである。
まあ、イナバは元々、ただのゲーム好きの冴えないパンピーだったので
常に最も効率的で合理的な道を選択し続けるなど、どだい無理な話ではあ
るが……。
(【闘気拳】……だったっけな?あれでいいか)
『【闘気拳】―― 己が拳に魔力を集め拳を振るうことで、拳圧に『無属
性』の破壊エネルギーとなった魔力の塊に変え、遠くに飛ばすことができ
ます!
攻撃にも防御にも使える、便利な魔技です!』
と説明されていた魔技。
魔技は魔法と同じく魔力を消費して発動するものの、瞬きすら命取りと
なる近接戦闘で使用されるものが多い為、いちいち名前を詠唱しなくても
発動でき、かつ魔法とは違い余計な追加魔力は必要無く、効果が弱まるペ
ナルティも無い……ということも説明されていたのをイナバは思い出す。
発動したい魔技を思い浮かべ、少し離れた所に在る巨大な水晶の方を向
きながら、正拳突きの構えを取る。
イナバは格闘技を習った経験など皆無な為、構え方はイメージによるも
のだが。
すると、右の拳がボォっと金色のほのかな光を放ち、右拳が僅かに熱く
なる。発動の準備が整ったことを直感で理解したイナバは、思い切り拳を
突き出した。
「闘気拳!!」
別に叫ばなくても良いのに、思わず叫んでしまった。
魔法を使った時と同じく、自分の中から(おそらく)魔力がほんの少し
抜けていくのを感じる。
右拳から拳大の大きさの、黄金の光弾が放たれ、少し離れた所に在った
巨大な水晶に向かって一直線に正確に、疾風の如き速さで飛んでいく。
着弾すると、轟音を立てて巨大な水晶が光弾と共に弾け、砕け散った。
「おお!思ったより凄い!」
イナバは驚きの声を上げる。というのも、この【闘気拳】という魔技は
使い勝手が良く便利ではあるが、余り破壊力の高い技では無い、との説明
もあったからだ。
(せいぜい水晶に少し穴が空くくらいかな?)と思っていたが、そんな
ものではなかった。
レベル150のイナバが使えば、低級の魔技でもこれほどの威力になる
のだ。
後ろで整列しているスノウマン達が揃った動きで、パチパチと拍手を送
ってくれている。
雪でできている(ように見える)手でどうやってあの音を出しているの
かは不思議だが。
(魔技もOK!そんじゃあ最後は……アイテムだな)
魔法、スキル、魔技。全てが無事発動できたことに胸を撫で下ろしつつ
イナバは最後に大量に持ち込んだはずの、武具や消耗品などのマジックア
イテムの確認作業に入ることにした。
遅くても一週間置き位のぺースで更新して
…………いけたらいいなぁって思っています。