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犯罪録

2010年の拙作。

「というわけなので、どうかお願いします、警察には言わないでください。信じても、信じなくても、よいですが」


 ある少年が強盗の罪で自首をした。十八のフリーターで、母子家庭にあった。兄弟は十二歳になる妹が一人、現在入院中である。

 少年Aは捕まるまでに約四百万の金を集めていた。全部で三十六店舗のコンビニやファミレスから金を奪った。犯行時刻は全て深夜で、客の居る時には絶対に襲撃しなかった。そして必ずレジ係が女性の時を狙った。

 警察署での自供によると、少年Aが脅しに使ったのは火薬により音の出るタイプのモデルガンで、それを撃つつもりはただの一度もなかったと言っている。ただ犯行時警報スイッチから店員を離すためだけに使用し、離れてしまえば人には向けずただ見せるだけに終始していた。そもそも暴発防止のための安全装置は常にかかっていたし、撃ったところで音が鳴るだけなのだから、脅し以外に大した意味はない。少年Aはそうした後、金を要求するとそれを持っていた肩掛けタイプのバッグにしまい、逃げるのかと思いきやそのまま店員に話をする。内容はこうだ。

「自分の妹が脳に障害を持って入院している。手術をするのに大量のお金がいる。母子家庭で、母も自分も働いているが余裕はない。自分は捕まっても良いのだが妹だけは助けたい。どうかこのことは金が集まりきるまで言わないでほしい」

 このような訴えをしたところで店員としても通報しないわけにもいかない。いかないのだが、少年Aの家はその地域においてはあまりにも有名だったので、どうにも通報にも気が引けた、というのが店員たちの話だった。

 少年Aの家は、俗的に言えば、呪われていた。少年Aの母は、少年Aもその妹も、強姦による妊娠から産んだ。二度目の強姦において言えば、子宮も破壊され、体中をナイフで傷つけられ、発見されなければ命も危ういところまで被害を受けた。PTSDも抱え、精神科への入院の経験もある。もっと言えば彼の祖父母は強盗殺人により少年A出生以前に他界していたし、少年Aに関して言えば義務教育も修了せぬまま働いている。誰が見ても、「可哀想な家族」であった。

 同情心が通報を躊躇わせたのは明白だし、少年Aがそれを踏まえたうえで犯行に及んでいたことも、彼の自供によって明らかになっている。

 悪質、と言えば悪質な犯罪である。良心をくすぐり犯行を続けた彼の行為は、法的に見て、確かに悪質な犯罪なのである。

 だがその境遇から、刑がどの程度のものになるのかは分からない。今日がその裁判の初日なのである。

 少年Aが集めた四百万は、すでに妹の治療のために使われてしまっていた。妹の手術は後遺症も残らぬ成功、入院はしばらく続くが、退院もそう遠くはないし、今後は普通の生活を送れる。不謹慎であるが、それだけが救いだった。

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