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◇3 タイミ




「頭痛がするわ…………」

「…………そうだろうな。水でも飲むか?水なら直ぐに出せるぞ」


 タイミは掌の上でくるくると水を出して見せた。本人曰く、少ししか出来ない魔法は曲芸と呼んでいる。


「グラスが無い…ってよりも、さっきのでそんな気分じゃないから遠慮致します………とにかく、私はホロに戻る前にタナの顔を見て………」

「お供しよう」

「お供は父上から頼まれたのでしょう?」

「まあ、確認に時間が掛かるだろうからな」

「そうでしょうとも…あぁ頭痛がするわ」

「うむ、水でも飲むか?」

「薬を用意してもらうのが面倒だから良いわ、ああ……でもタナの家に行ってから移動の準備をしなくては……」

「お供しよう」

「……………………頭が痛いわ」


 先程からこの会話がエンドレスである。


 リューララン王とサエス公は苦笑混じりで若い二人を見詰めながらお茶を飲んでいた。

 本当は彼等を笑う処では無かった。老獪な二人でさえ考える時間が欲しかったのもあったからだ。


 二人の掛け合いは途中途中で話は変わるのだが結局『お供しよう』で元に戻るのだから、問題を持って婿入りしようとしているタイミ王子はともかく、カラウィーンは老獪な二人より未だに混乱しているのが良く現れている。


「分かったわ話を整理しましょう。父上、叔父上、そして婚約者殿」


 美しいカラウィーンの顔が歪み、こめかみを揉みながら手を振るのを、『大変そうだなぁ』といった表情を浮かべたタイミ王子の顔を二人は感慨深く思いながらも溜め息を吐きたい気分で眺めた。





 婚約の話はどちらの国から始まったのかタイミは聞かされていない。


 但し国の利益としては『没落するのでは?』という噂のあるフォーリールフナー国は小さな辺境の国ながら豊かなリューララン国と繋がりが欲しかったし、リューラランはフォーリールフナーの強大な歴史…つまり知識が欲しかったと聞いている。


 当人達の思惑も何も無く秘密理の如く婚約は進められ、当人達が知った時には両国間で調印が交わし終わっていたのは冗談の様な本当の話だ。


 勿論、タイミは常々『リューラランに行ってみたいなぁ』とは呟いていたので、王や妃はそれを優先にして話を進めたのであろうが、この時点ではタイミは別に復讐の考えがあった訳ではなく『記憶のある土地に旅行したいなぁ』程度の事。


 しかし、そういった思惑等が重なって『さて婚約の相手は誰ですか』となった時、その相手がリューララン国の前々世の妹であるというのは寝耳に水であった。



 世界をもう一度確認し、歴史の隅々を見直す為に市街の国会図書館だけでなくフォーリールフナーの城内の閲覧には王の許可がいる特別な図書室にまで通い詰め、国を渡る商人にも話を求めた。


 その行動が『タイミ王子はこの結婚に乗り気である』という噂を呼び、更にはたかだか二歳上なのに歳上趣味という副産物まで付けるのだが、あくまでも好意的な噂なので本人達の耳に入っていない。



 話を戻すが、タイミ達が調べた限り世界と歴史は同じ、数年進んでいた位で良く考えれば魂は同じ場所に二つあった事にもなる時期もあるのだが、そこは考えない事にした。


 同じ時期に居たとしても三歳の自分は当時十八歳の自分…リューラランの王子を助ける事は出来なかったろうし、国がどうなっているのか子供に情報は少ないのもそうだが、子供は子供らしく……悪戯に興じていた頃だったのも確かで、ぶっちゃけ時間を戻す方法など、この世界でもまだ発見されてないからだ。



 ともかく。

 婚約者殿に会う前に集めた情報は詰まるところ、ちょっとだけ燻っていた復讐という火種を煽った様な結果になった訳である。


 噂に寄れば前々世の自分…………リューラランの第一王子カラムは未だに世間では行方不明で、自分の記憶が確かならば心の友一号二号と共に山の中の瓦礫に下敷き中の筈である。

 そして自分を罠に嵌めたであろう相手はのうのうと生きているらしい……事も知った。


 復讐相手と思っている人間が、確かに復讐すべき相手か微妙に自信が持てなかったのもあり、改めて確認して確かならば復讐すると決めたのは、ちょっと間抜けな感が否めなかったのもあるが。



 だがしかし、そう、しかし良く考えると復讐とは大変な事だった。


 まず、ごく普通に、そのまま当たり前の様に復讐した場合、フォーリールフナーの人間がリューララン国の者を殺すといった話になる訳である。

 タイミが前世の記憶が有る無しを伝えたとして誰が信じるのか。


 では別にタイミが行方不明の(もう死んでいる筈の)リューララン第一王子に繋がりがあると言ったとして、それも誰が信じるのだろうか。


 タイミとリューララン第一王子には接点がまるでなかったのである。



 言わずもがな、リューララン第一王子カラムと姫カラウィーンさえ、五歳以上の歳の格差はあれど確かに兄妹であったが、それでも会ったのは二度程しか無かった。

 それが国を二つ三つ離れていた上に留学さえ無かったにも関わらず繋がりがある理由を強引に考え出そうとしても嘘臭さは倍増である。


 たとえ信じられたとして、いや信じる以前に、復讐相手を殺す理由の大義名分が必要であった。


 タイミの心の友一号ハイルは前世、前々世の記憶がないので、日本に居た時と変わらぬ明るい髪と笑顔を浮かべ、


「話は聞いた! 俺は若に何処までも着いて行くんで安心してくれ!」


 と鼻息も荒かったが、心の友二号ナディールは艶やかな黒髪を耳にかけ直し美人なその顔を眉を顰め、お茶を淹れながら渋い顔をずっと続けている。



「タイミ……殿下。下手すると命狙われますよ?」


「何をいきなり物騒な……それより復讐を考えてる時点で命狙われたとしても可笑しくないだろう?今更じゃないか?」


「良く考えて下さい。行方不明の第一継承権であるカラム王子が貴方の前々世であろうと、今結婚するのは第二継承権の持っているカラウィーン姫です。リューララン国ではカラム王子が存命である事を希望の拠り所にしているでしょう。ですが、貴方も私もそれはあり得ない事を知っている」


「……だから復讐するんじゃないか」


「では、何故知っているのかという話になる筈です。タイミ殿下はカラム王子との親交がある訳でもありませんし………………ぷふ」


 心の友二号ナディールが思わずといった様に吹き出した。


「何が可笑しい」


「いやいや何だか魂が同じで親交が実際あったら一人二役の演劇みたいで滑稽だな、と」


「復讐だってある意味滑稽だぞ」


「まあ、それはそうですが……ともかく、復讐はすると決めたのでしょう?」


「ああ、決めた」


「ならばリューラランで先ずは味方を探さねばなりません。変に動けば貴方もしくは此方フォルフナーの国が暗殺したのではと受け取られかねませんし、ましてや第二継承権の姫と結婚する訳ですから、国を乗っとるのではと只でさえ戦々恐々としているかも知れないでしょう?変に疑いを持たれても面倒ですし、それに何よりリューラランを統べる王に伺わなければならないでしょう」


「何を?復讐するのに許可がいるのか?良いに決まっているだろう?王子が殺されてるんだぞ?つか俺ってカラムの時に、殺されてもしょうがない様な事をやったか?」


「そんな事を申し上げているのではありません。王が王子の行方を探さぬ訳が無い筈。あの頃カラウィーン姫より甘やかし放題だったのですよ?では何故、未だに一国の王子の死体が見つからないのか、問題はそこです」


「死体は見つかっている?」


「或いは敵に利用価値があり泳がせているか…………」


「うへぇ、何か面倒臭くなってきたな」


「やると決めたのでしょう?どうせなら私達の死体も一緒にある筈ですから宜しく頼みますよ王子」


「あぁ…………そうだ、リューラランでのお前ん所はばぁちゃんしかいなかったっけ」


「まあ、まだまだ元気に王宮で働いているでしょうから心配はしてませんが…………ね」



「………なぁなぁ」


 そこで今まで黙っていたハイルが、不思議そうに考えている顔で口を開いて、ナディールが軽く眉を顰めた。


 ハイルが口を開く時は必ず問題事(悪戯だったり)を思い付いたか空腹さを訴えるか……とにかくマイペースなのを知っているので、とんちんかんな事を言って話が混乱する事が多々あり、時に生真面目過ぎるナディールがそれを怒る悪循環があるからだ。



 故にタイミは内心、ハイルに黙る様に願いを込めて相槌を打った。


「あぁ、ハイルお前はいつも能天気そうで羨ましいよ」


「本当に記憶が無いのは羨ましいですね。ま、無いからこその良さにいつも救われているのですが」


 いつもはこの位で直ぐハイルは話すのを諦めたりもするのだが、今回ばかりは黙ってられなかったらしい。


「いや話聞けって」


 と尚も言い募るのでタイミは内心珍しいと驚嘆した。彼は温厚な性格なので敢えて和を乱す事はしないのに、と。


 しかし、真面目なナディールは気にしなかったのか、そのまま嫌そうな顔で先程淹れたお茶を弄ぶ。まだ熱いらしい。飲みたいのに飲めないその苛々も募っているのだろう。


「なんですか、さっきから。ハイル貴方はリューラランではなく現実に……」


「だからさ、その現実の今をしっかり生きてる俺から言わせて貰いたいんだけど、何を悩んでるんだ?」


「ですから王子がカラム王子の死体を見付け、復讐する為に出来るだけ敵を作らず……」


「だから、タイミが見せれば良いだけの話だろ?」


「「?」」


 さも不思議そうな瞳がタイミとナディールを交互に移動し、最終的にはタイミの顔に止まった。



「………額」



「「あっ……」」


「お前等が言ったんじゃないか…………これはリューラランの家紋だから俺達の他は王と王妃以外には内緒だよって…………」


「……私とした事が………」


「いや俺もすっかり忘れてた」


「殿下が銀髪で隠しているから、余計に。この世界が前の世界より輪廻転世論が強いのもさっぱりと忘れてましたね」


「輪廻転世より魔力の方が楽しいもんな」


「ハイル。お前は楽天的で体力馬鹿でいつも能天気で考え無しだから私とは違ってこういうのが真っ直ぐ出てくるんですね」


「…………ナディール…それ貶されてんの?馬鹿にしてんの?褒めてんの?」


 温厚なハイルも少しだけ眉を顰めたが、直ぐに嬉しそうな表情になる。ナディールが褒める時は大抵こんな感じだからだ。


「ま、本当にハイル良くやった。これで俺達の肩の荷が少しは下ろせるだろう」



 タイミがほっと息を吐けばナディールも心底人心地着いたように、温くなったお茶を口にした。


 ナディールは王と王妃から連絡を受けてから細々タイミの世話も行いつつのこの復讐話であったから、猫舌であるとかは理由の一部であろうと…やっと落ち着いたのだろう。いつものからかい混じりの言葉が続く。


「そうですね、少しは殿下の新婚生活が甘くなるでしょう」


「あ?」


「要約すれば、姫の新婚生活を私達が邪魔する様で申し訳ないですからね、という話です」


「「え、そうだったの!?」」


「そうだったの…………ってそうでしょう?向こうからすれば結婚相手は国の誰かを殺す事が前提で結婚しに来るんですから」


「……まあそうか」


 少しだけタイミが納得仕掛けた所でハイルが全く何も考えてませんといった様な声を出した。


「え、そうなの?これから妹だったらしい姫とのラブラブロマンスがあるんじゃないの?」


「「…………ハイル…………」」


 タイミとナディールはあまりの能天気さに肩を落とした。









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