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◇2 タイミ

 




 俺の名前はタイム・ミッドラン・ミルドラト・セス・ファウント・フォーリールフナー。普段はタイム・ミッドランを縮めてタイミと呼ばれている。家名のフォーリールフナーもフォルフナーと短くされる事が多い。


 簡単に言うとフォーリールフナー家のファウントさんの奥さんミルドラトさんがミッドランで生んだ五番目の男の子タイム君と言うことなのだが、まあ別にどうでも良い事である。



 目の前の金髪の美少女…………というより年上の筈の女性…………にしては若い女の子が、自分の記憶にある妹には感じられないし微妙に納得出来ない。


 こんなに可愛かったっけ?


 と、記憶が薄ら呆けっとしているのもまあ、仕方無いとも思う。

 会ったのも彼女がまだ産まれたばかりの赤ん坊の時か五歳の祝いの時だけ。更にその後は全く会わなかったし、会ったとしても彼女だけでなく俺自身も今とは全く掛け離れた姿であったのだから。




「お兄様?」


 俺は、目の前の美少女が疑問のままにマジマジと自分を見回す事に久し振りに大変な居心地悪さを感じた。


 普段は自己陶酔と迄はいかないが、自分の容姿が大体の女性を虜にする程には整っている事も自覚している為、見詰められる事はよくある事で最近は全く気にもしなかったのだが。


 そして、彼女の視線は好奇なものを見る視線では無かった。自分の記憶を辿る様な奇異な訝し気な視線である。


「お兄様は御父様と同じ黒髪の筈ですわ」


 そうだろうとも、と納得の吐息さえ落ちそうになる。


「これでもそう思われますか。カラーウィレストホーン・レレナンホロン・アスト・リューン・ララン様」


 カラウィーンの本名は特に諸外国には流れていない筈だ。国の一人の王女の名など外の国に嫁げばその時だけ広まる位で殆ど流通しない筈だから。


 彼女が驚きに目を見張る。


 名を呼ばれた事に驚いていない事は明らかだ。視線は俺の前髪を分けて退かした額に注がれ微動だにしない。



 別に大した事ではなく、角が有る訳でも禿げている訳でもない。

 俺の額の左右の生え際には一つづつ魔方陣が書かれているのだ。

 長い銀髪を下ろせば殆ど見る事も見られる事もない。


 魔方陣はリューンとラランの国の紋……つまり組合わされたこの国の紋(王家の家紋と言って良い)と、右には水竜と左には風竜の加護等が組合わさり複雑な紋様となっている。


 一見した所で分かるのは、太く色濃い水竜と風竜の加護の紋で、その他の紋様がこの国の王家が秘匿するものだとは誰もが思うまい。


 それは、長い歴史と知識だけはあると思っていた俺の実家フォルフナー王家でさえ首を傾げたものだったからだ。



 では何故俺が知っているかというと、俺は前世と前々世、そしてここからあやふやだが前々々世の記憶を持っている。


 もしかしたら他にも思い出せないだけで記憶は有るかもしれない。


 記憶は、あやふやとはいえ基本の性格は前々々世から同じ様でもあったから、何かの導きの様な運命は一貫してあるのではなかろうかと思いたくなる。


 輪廻転生の様な考えが魔力と共に良く根付いているこの世界では、俺の記憶がもたらす、ある意味鮮明となっている前世と前々世は生きるのに多少問題であった。




 因みに、俺の前世と前々々世は日本人で前々世はこの世界の者である。


 この世界ではない一つ前と三つ前の世界は時空間だってどうなっちゃいるか分かった事ではないが、俺はとにかく日本に住んでいた男であり会社員であり、呑むことが好きな料理好きな普通の男だった。

 

 だから日本にいても記憶が各々あっても、あぁまたこの異世界にいるのだから交互に来ているのかな?と位しか思った事がない冴えない人間である。


 科学の発達した日本であろうとこの魔力溢れる世界であろうと、交通事故でとか心筋梗塞でだろうが裏切りにあっただろうが、死んでしまったなら直ぐに生き返る訳でも元に戻れるって訳ではない事も納得していたのも覚えている。


 だから、今まで戦争を経験したとか月旅行が出来る為の低価格なロケット技術を生み出したとしてもこの国で作るのは大変骨が折れるし、反対に魔法によって惚れ薬を作り出す技術と知識があってもその植物やらがなければ日本の製薬会社に売るとか知識を使うとか出来る筈もなく、特にこの魔力もオッケーな世界で科学を有効利用しようだなんて……面倒な事もあり……思いもしなかった程大きな欲がなかったのが今までの人生の各々まったり生きていたつもりだった訳で。


 だが、この現世になってから人生が一気に慌ただしくなった。


 一に、没落しそうな王家の人間に紋章入りで生まれてしまった事。


 二に、前々世の記憶が紋章の主、リューラランの第一王子であった事。


 そして一番の原因は、その記憶にあった時代と場所が近く重なっていたという事。


 時代が五十や三十と離れていて、距離でさえかなり離れていたら全く気にしないで生きていただろう。


 こんな刺青みたいな魔法陣だって、見なかった振り知らなかった振りをしていたかも知れない。


 なまじ記憶があるだけに、第五王子で王位継承権が(出来る姉君を入れなければ)第四位の自分は特にフォルフナー国を出る事はなかった……筈だ。

 同盟とは国が近いから…………起こるとは限らない事を今の俺は身に染みて知っている。


 だがしかし、そう、だがしかし。

 俺の記憶が裏切りによって暗殺された事を覚えていたら?


 結局、俺はこの世で復讐を考えてしまったのだ。



 記憶とは面白いものである。

 この世界、いや日本だったとしても、血の繋がりがある近い者同士は結婚出来ない所に俺は生まれたが、面白いことに魂が近かったからといって結婚出来ない訳では無いらしい。


 そういや、必ず自分の敵みたいに反りの合わない人間は上司だったり親だったり同級生だったりいつでもいたし、自分の人生をじっと見守る人間だって父親や母親だったり守役や親友や好敵手であったり顔かたちや性でさえ違うのだから『魂は同じなのだろうか?』と時々嫌に成る程もしくは良かった発見もして大変複雑になる瞬間はあったりもしたが、転生を幾度かして俺は『結婚は魂の契約ではないらしい』と勝手に結果付けた。


 だが、もしかしたら、反りの合わない奴とか見守る人間とかそういった変わらない人間は近く周りにいる訳だから、既に魂の契約はされているのかも知れない。


 そう考えると恐ろしいものである。


 前々世の俺は、その考えによれば魂の近い者に裏切られ殺されているからだ。


 記憶は確かに歳と共に思い出し難くなるらしいが、魂は刻み込まれているのか、まあ朧気でも忘れる事はない。流石に四つ前ぐらいの前々々々世はある意味霞がかかった様なものであるが、『こんな感じの事があった様な気がするなぁ』程度である。


 記憶はあっても歳がそれなりで体力が発達しなければ剣も上手くは振れないし、今度は年相応の事をしなければ変な癖がついたり、周りからも変な目で…………まあ見られる事や隠す事は慣れたけど。


 剣に例えると、今まで正段構えしかしなかった小学生が擦り上げ面や擦り上げ小手を覚え、下段を覚え上段を覚え…上下どっちが先だったか忘れたが。とにかく小さな子供はただ素直に剣を振る。

 

 それがだんだん歳をとると経験が剣を鋭くもし鈍くもする。人付き合いや自分の体型や生活等、精神的なものを考えて、ただ単にスポーツとして行う者さえ出て来るし、そういった者には基本的に上手くなろうとか強くなろうと思わない限り、技は一辺倒であり心も身体も磨かれない。


 魂も同様に同じ事をしていたら光彩が鈍いらしい。

 故に、魂とは経験値に似ている、と勝手に思う。



 俺は、今は第五王子で近くには騎士団もいる訳だが、これもまた面白いことに幼なじみ達も一緒に生まれ変わっている。今回ばかりは上下関係や性別も変わっているかとも思ったが、彼等は変わらず俺の乳兄弟(幼馴染み)として生まれ変わっていた。


 前々世も裏切りに巻き込まれ一緒に死んでるし、前世も一緒に登下校中に事故っているから…………どうもこいつ等は悪友とかすっ飛ばして心の友である。


 本人達にはこっ恥ずかしくて言った事はないが。


 彼等に記憶があろうと無かろうと、裏切りはないのは良く分かっているし、毎回信じるに足りる人間だ。生まれ変わっている中で結婚さえしていないのが不思議で…………ある。


 話を元に戻す。

 詰まるところ、もし俺が彼に今までの事を言うも良し、若しくは剣の手合わせ中に自分の中で考えた事もない技をこの心友に出したとする、すると自分も相手も今までの行動とは全く違う事を行ったという事で俺も相手も経験値がプラスされた様に魂にも刻まれるらしく光が変わるとも言われている。


 先程から俺は、『らしい』とか『言われている』とか、他人から聞いた話をしているが、実はこれは悪友とかすっ飛ばした心の友の内である二号が話していた事であった。


 二号はさっぱり記憶の無い一号とは違い、俺と同じく記憶を持っているばかりに俺よりさらに沈着冷静である。因みに俺は魔力とかはあまり得意ではない。二号は使えるので、毎回頭が上がらない事が多い。



 記憶は兎も角も彼等も俺に賛同した。


 詰まる所、俺達はリューラランへ結婚にかこつけた復讐に来たのである。



 二度もいうけれども。



 そしてそれは意外に難しい事が分かったのも、またこの時であった。






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