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暗黒の魔女  作者: kuma383
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~暗黒の魔女~ 一章・王国の危機 「6.傷のカラス」

イザベルの薬屋の地下にある『隠れ家』にチュンフェイとヨウフェイが来たため、中が少し手狭に感じられるようになりました。また、人通りも増えてきたため人がいない隙を見て外に出るのも一苦労です。

オリバーたちがシーガルンの調査(ちょうさ)から帰ってきてから数日、リバー王国はだんだんと落ち着いてきました。人々も街中(まちなか)を普通に歩くようになりました。



「うーん、人が増えるとやっぱり少し(せま)く感じるようになってしまったなぁ…。それに、いつまでもこの『(かく)()』にいると街の人から不審に思われるかもしれないな…。」



少し心配そうにオリバーがつぶやくと、ヴォルフが言いました。



「だったら昔の俺の宿を自由に使っていいぜ。」



「本当か?」



「ああ。あれ以来一度も行っていないから中は()れている可能性もあるがな。大掃除(おおそうじ)が必要だぞ。」



「助かるよ。掃除(そうじ)なんてハンスとペーターにやらせるさ。」



「え、ええーっ!?」



「では緊急時(きんきゅうじ)にはここに集まるようにしましょうか。」



イザベルが提案(ていあん)します。



「うん、そうだな。毎日一回、誰かをここに来させて情報交換(じょうほうこうかん)をすることにしよう。まあ、ハンスとペーターにやらせればいいか。」



「え、ええーっ!?」



「あたしはここに残るよ。もともと居候(いそうろう)してたしね。」



ビアンカが言いました。



(むね)()って言うことではありませんね…。」



()るほど無いよっ!むー、失礼だなー。」



「はいはい…。パトリックさんとレオンさんはまだ治療(ちりょう)が残っていますので、終わるまでここにいてくださいね。二、三日で完治(かんち)すると思いますから。



…それと、時々ローズさんとモニカさんをこちらによこしてください。魔術(まじゅつ)訓練(くんれん)を続けなければなりませんので。」



ローズとモニカはビクッと体を(ふる)わせました。イザベルは(やさ)しいように見えますが、魔術(まじゅつ)特訓(とっくん)の時はとても(きび)しいのです。



「あ、あの、(わたし)、たまにはオリバーさんに教えてもらってもいいかな、なんて…。」



「それはいけない…。先生は(わたし)のもの…。モニカには早い…。モニカがイザベルに…、」



「そ、そんなあ!」



「はいはい、お二人とも落ち着いてくださいね。ローズさんの問題発言(もんだいはつげん)無視(むし)するとしましょう。



…そうですね、オリバーさんに習うのも悪くないかもしれません。オリバーさんは攻撃魔術(こうげきまじゅつ)のプロですからね。でも実用魔術(じつようまじゅつ)だって必要なことには(ちが)いありません。そうですね、オリバーさん?」



「ああ、もちろん。イザベルの言うとおりだよ。」



「ではこうしましょう。オリバーさんと(わたし)が一人ずつ交代(こうたい)担当(たんとう)するんです。明日はローズさんはオリバーさん、モニカさんは(わたし)。その次の日はローズさんは(わたし)、モニカさんはオリバーさんといった具合(ぐあい)です。どうですか?」



「うん、いい考えだな。未熟(みじゅく)魔術師(まじゅつし)をいっぺんに二人も訓練(くんれん)するなんていうのはお(たが)(ほね)()れるからな。」



「決まりです。ではローズさんはこの後(わたし)のところに残ってくださいね。」



モニカは一瞬(いっしゅん)だけ表情を明るくしました。ローズは少し残念そうな顔をしました。



「…ヨウフェイとチュンフェイはどうするの?」



ハンスがヨウフェイたちにたずねました。



「そろそろ穴倉(あなぐら)にも()きたネ。外行くヨ。」



「ところでさ、チュンフェイは大きな(かたな)を持っているけど、ヨウフェイは武器を持っていないね。まさか素手(すで)で戦うの?」



ペーターが言うと、ヨウフェイはニヤリと笑いました。



「チッチッ、わかってないネ。…いいネ、絶対にそこから動くなヨ。」



「あ、ああ…うわっ!」



ヨウフェイの袖口(そでぐち)から(はり)のようなものがペーター目掛(めが)けて飛んできました。(はり)はペーターの(ほほ)をかすめ、後ろの(かべ)に突き刺さりました。



「…暗器(あんき)か。」



様子を見ていたオリバーがつぶやきました。



「そうネ。バネの力で飛ばすヨ。(はり)の先には(どく)が仕込んであるネ。」



「すごいんだな。」



ハンスも感心したようです。



「でも欠点(けってん)も多いヨ。まず攻撃威力(こうげきりょく)が低いネ。それに獣相手(けものあいて)にはあまり()かないヨ。かといって姉さんみたいに大きな武器はヨウフェイ、力ないから(あつか)えないヨ。」



「じゃあローズちゃんみたいに短剣(たんけん)(あつか)いを(おぼ)えたらいいんじゃないのかなあ?それなら軽くて(あつか)いやすいし、的確(てきかく)急所(きゅうしょ)(ねら)えば(けもの)相手にも通用(つうよう)するし。」



ラルフが言うと、ヨウフェイは目を丸くしました。



「…オマエ、頭いいネ。考えたこともなかったヨ。」



短剣(たんけん)ならあたいだって使えるぜー?」



マチルドが得意げに言いましたが、ヨウフェイはしらけた目で言いました。



「バカには教わりたくないネ。」



「な、何だってーっ!?」



(あば)れ出しそうなマチルドをエミリーが苦笑いしながら押しとどめました。ヨウフェイは(あらた)めてローズに向き直りました。



「…というわけネ。ラオシー、これからよろしくヨ。」



「ラオ、シー…?」



ローズは不思議そうな顔をして首をかしげました。



老師(ラオシー)ネ。先生ってことヨ。」



「ハハッ、ローズ。俺の弟子(でし)から卒業(そつぎょう)してないってのに弟子(でし)をとるなんて、生意気(なまいき)になったなぁ。」



オリバーがおかしそうに笑うと、ローズは緊張(きんちょう)したような表情をしました。



「…頑張る。」



「それより、これまでイザベルに任せきりであった食物(しょくもつ)確保(かくほ)もしばらくは()れらの手でやらねばならぬな。…エミリー、久し振りに()りにでも()くとするか。」



アリスが提案(ていあん)すると、エミリーもそれに賛成(さんせい)しました。



「わかりました、お姉さま。」



「というわけだ、オリバー。()れらは宿に着いたらすぐに()りに出かけるとする。」



「ああ、わかった。じゃあ俺たちはその間に街で野菜なんかの食料を買っておくよ。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



宿の大掃除(おおそうじ)をハンスとペーターに任せたオリバーは、ラルフと二人で街の(いち)に食材を買いに行きました。



「かなり活気(かっき)が戻ってきたみたいですね。」



「ああ、そうだな。さて、何を買うか…。」



「あれ?そこを行くのは魔術師(まじゅつし)のオリバー・ローゼンハイン様では?」



不意(ふい)背後(はいご)から聞こえた声に、オリバーは振り返りました。一人の青年(せいねん)がこちらに向かって走ってきます。



「君は?」



「僕はここの(いち)に店を出しているロジェという者です。オーベルクを(すく)ってくださった救世主(きゅうせいしゅ)のオリバー・ローゼンハイン様ですね?」



「そんな大業(たいぎょう)なものではないけど…確かに俺はオリバー・ローゼンハインだよ。」



「やっぱり!ここで何をしているんですか?」



「ああ、いい食材はないかと探しているんだが…。」



「あ!じゃあちょっと待っていてください!」



ロジェといった青年は走っていきました。オリバーとラルフは顔を見合わせました。



「…ハンスくんと同じくらいの年でしょうかね。」



「ああ、それくらいだろう。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



やがてロジェは大きな赤カブを持ってきました。



「これを差しあげます!ずっと北の国から来た隊商(たいしょう)が置いて行ったものです。持っていってください。」



「ええっ?いいのか?こんなに大きなカブを。」



「どうぞどうぞ!足りないようでしたらもっと持ってきますよ!」



「え?いや、そんなにはいらないよ。ありがとう。次からは君の店でものを買うことにするよ。」



「ありがとうございます!」



ロジェは何度も振り返りながら走って行きました。



「…思わぬものが手に入りましたね。」



「ああ、これがあればハンスがうまいスープを作ってくれそうだな。」



「…オリバーさん、ハンスくんとペーターくんに(きび)しいですね…。」



弟子(でし)なんだからそれくらいはさせて当然さ。よし、帰ろうか。」



「そうですね。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



オリバーとラルフが元のヴォルフの宿に帰ると、中はきれいに片づけられていました。



「おお、きれいになったな。ハンス、ペーター、ご苦労さん。」



「うおぅ!でっかいカブだなぁ!」



マチルドがびっくりして叫びました。



「ハンス、こいつでスープをつくってくれないか?」



「はい、わかりました。」



ハンスが奥に入って行くと、オリバーはモニカにたずねました。



「アリスとエミリーはまだ帰ってないのか?」



「ええ、まだですね。…いつもならこんなに時間もかからない気がするのですが…。」



「そうだな…。心配だな。」



その時、外から馬のいななきが聞こえました。



「お、帰ってきたみたいだな。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



しかし宿の中に入って来たのは血相(けっそう)を変えて飛び込んできたアリス一人だけでした。アリスはオリバーにしがみついて言いました。



「オリバー!大変だ!エミリーが魔獣(まじゅう)(おそ)われて大怪我(おおけが)をしてしまったのだ!」



アリスの言葉にオリバーはびっくりしました。



「な、何だって!?エミリーはどこだ!?」



「まだ森の中だ。来てくれぬか!?」



「ああ、もちろんだ。カトリーヌに乗せてくれ。」



「あたいも行くよっ!ペーター、馬を借りるぜ!」



マチルドが叫びました。



「だがそんな大人数で行っても…、」



「バーカ、イザベルを連れて行くんだよ!それともお前がエミリーの怪我(けが)(なお)せるって言うのか?」



マチルドは(あき)れたようにオリバーに言いました。



「そういうことか。よし、じゃあすぐに馬を連れてきてくれ。」



「あいよっ!」



マチルドは入り口を飛び出していきました。



「気をつけて行ってこいヨ!」



ヨウフェイはオリバーたちを見送ると、姉のチュンフェイの方を見ました。チュンフェイは何だか不安そうな顔をしています。モニカもそれに気づきました。



「チュンフェイさん、大丈夫ですか?」



チュンフェイは(おどろ)いた顔をしましたが、プイッと横を向いてしまいました。ヨウフェイが笑いました。



「…姉さんは意地(いじ)を張ってるだけネ。本当はオマエたちと仲良くしたいネ。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



薬屋(くすりや)でイザベルを乗せ、オリバーたちは森の中へ入っていきました。はたして、森の中の()()にある大きな()(かぶ)の上でエミリーが(あし)から血を流して横たわっていました。エミリーの愛馬(あいば)、アンヌが心配そうに主人を見ています。



「エミリー!オリバーたちを連れてきたぞ!」



アリスを先頭に、四人はエミリーに()()りました。



「申し訳ありません、お姉さま…。ご迷惑(めいわく)をおかけしました。」



「何があったか教えてくれるか?」



オリバーがエミリーにたずねます。



「はい…。ここで大きな鹿(しか)を見つけ、それを仕留(しと)めたまではよかったのですが…。カトリーヌに乗せようとしたとき、突然魔獣(まじゅう)(おそ)ってきたのです。あまりの速さにお姉さまの()(はず)れ、こうして(あし)()まれてしまったわけなのです…。うっ…。」



その時です、エミリーは突然顔をゆがめると、奇声(きせい)をあげました。



「ぐっ、ぐぎゃあああっ!」



まるで魔獣(まじゅう)が倒されるときに出す断末魔(だんまつま)のような声です。オリバーたちは(おどろ)いて思わず後ずさりしました。アリスが絶叫(ぜっきょう)しました。



「どっ、どうしたのだエミリー!」



「ちょっと傷口(きずぐち)を見せてください!」



イザベルが(ひざまず)き、エミリーの(あし)傷口(きずぐち)()ました。すると、一瞬(いっしゅん)だけイザベルの顔が(こお)りつきました。が、すぐにいつもの笑顔に戻り、回復魔術(かいふくまじゅつ)をかけました。



「リカバリー!」



エミリーは苦痛(くつう)に顔をゆがめていましたが、少しだけ落ち着いたようです。



「うっ…、ふう…。何かが()(うつ)ってきたようでした…。」



「…危ない所でした、エミリーさん。もう少し(おく)れていたら、()まれたところから魔力(まりょく)が流れ込んで魔獣(まじゅう)変性(へんせい)してしまうところでした。」



「うっ…。笑顔で(おそ)ろしいことを言いますね、イザベルさん。」



「…イザベル、それは本当の話か?」



オリバーが信じられない、と言ったような顔でイザベルに聞きました。



「ええ、本当です。(じつ)はビアンカさんが実家(じっか)書庫(しょこ)にあったという東方世界(とうほうせかい)のことを書いている本を何冊(なんさつ)か持って来てくれたんです。その中に古代(こだい)魔女(まじょ)についての記述(きじゅつ)があったんです。」



魔女(まじょ)の?」



「名前はヤオミン(妖冥)というらしいのですが…、いわゆる(わたし)たちでいうところの『(やみ)魔術師(まじゅつし)』です。



その魔女(まじょ)と戦った者はカラスの形をした(きず)がつく。そしてその傷口(きずぐち)のカラスが口を開いたらその戦った相手は(とら)(おおかみ)魔獣(まじゅう)に変えられてしまったそうです。」



「じゃあ、エミリーの(きず)は…、」



「ええ、カラスの形をしていました。そして口も開きかけていました。間一髪(かんいっぱつ)でしたね。しかし、しっかりとした処置(しょち)が必要なことには変わりありません。ここでは応急手当(おうきゅうてあて)しか出来ませんからね。」



オリバーは(ひたい)(あせ)()きました。



「ふう…。もう少しで大切な仲間を(うしな)ってしまうところだったな。それどころか…最悪の場合、(あや)めてしまう可能性もあった…。ともかく街に帰ろう。」



エミリーがアンヌに乗ろうとしました。が、まだフラフラしているようです。



「無理するなよっ、エミリー!」



「ごめんね…。」



マチルドに力を()してもらい、ようやくエミリーはアンヌの背中に乗ることができました。



「では…()くとするか。」



アリスがゆっくりとカトリーヌを歩かせ、後ろの二頭もゆっくりとそれに続きました。エミリーは手綱(たづな)(にぎ)ってはいますが、時々アンヌの背で体をよろめかせます。



「…オリバー、すまぬがカトリーヌをよろしく(たの)む。」



エミリーの様子を見るに見かねたアリスはそう言うと地面に飛び降り、アンヌに乗りました。



「大丈夫か、エミリー。ほら、手綱(たづな)()すのだ。」



「申し訳ありません、お姉さま…。宿に帰ったらゆっくりと休むこととしましょう…。お姉さまにも心配をかけてしまいました…。」



「そのようなことはない。安心するのだ。」



いたわりあう二人を見て、オリバーは思わず笑みをこぼしたのでした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



*ロジェについては後のお話で紹介(しょうかい)します。

ヴォルフの宿に戻り、息をついたのもつかの間、エミリーが魔獣に変性しかけるという大事件が起こりました。その背後には闇の魔術の気配も見え隠れしています。



次話ではオリバーたちが何とか宿に帰ってきます。エミリーは体が回復するまでの間、ものすごい苦痛を味わい続けることになります。そして、ほんの少しずつですがチュンフェイの心にも変化があらわれてくるようです。どうぞお楽しみに!



ちなみにオリバーとラルフが訪れたオーベルクの市は、シャロンのキンフィールド襲撃から中止されていましたが、ちょうどこの日に再開したのです。おかげでカブの他にもオリバーたちは特売でかなり安く物を買うことができました。



では次話をお楽しみに!

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